抹消ヴォイスのヒーローアカデミア   作:M.T.

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開催文化祭!

 ひなたがジェントルの動画を確認した翌日、雄英の会議室では。

 何やら会議に警察も参加しているらしく、会議室の前を通り過ぎた普通科の生徒はただならぬ空気を感じていた。

 

「何だよ、ヒーロー科また何かやらかしたのか?」

 

「ケッ、あいつらどうせ、人に迷惑かける為にヒーロー科来てんだろ」

 

 普通科の生徒達は、またヒーロー科が何かをやらかしたのかと思い、露骨に嫌そうな顔をしながら悪態をついた。

 未だに、普通科の生徒からのヒーロー科への不信感は拭えていなかった。

 すると、いつの間にか二人の生徒の後ろにいた影山がいきなり肩を叩いた。

 

「「ひっ!?」」

 

「どいて下さい。邪魔です」

 

 影山が笑顔を浮かべて殺気を漏らしながら言うと、二人の生徒は顔を真っ青にして震え上がる。

 二人の生徒が尻餅をつくと、影山はクスッと笑って二人を追い越していった。

 

「ビックリした…いつの間に…!?」

 

「何なんだ、影山の奴…! 体育祭までは、ヒーロー科を目の敵にしてたくせに…!」

 

 影山に脅かされた二人の生徒は、自分達には目もくれずに歩いていく影山に慄いていた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その頃、職員室では。

 ひなたの報告を受けた教師陣が、警察と共に作戦会議をしていた。

 ジェントルの情報提供をしたひなたも、重要参考人として会議に呼ばれていた。

 

「資料にある通り、(ヴィラン)『ジェントル・クリミナル』が雄英文化祭を次の襲撃対象にする可能性が高いです。あなた方教師陣には、文化祭当日の警備を強化していただきたい」

 

 今回作戦に協力してくれる事になった、エジプト壁画のような目が特徴的な刑事は、今回の文化祭の警備の強化について教師陣に指示を出していた。

 すると、資料を読んでいたプレゼントマイクが怪訝そうに片眉を上げながら口を挟んだ。

 

『アレだろ? 逃げ足だけは速いってんで有名な小悪党ダロォ? 確かに傍迷惑な事ばっかりやってるが、動画見た限りじゃ小せえ事しかやってねえしよ。ホントに奴が文化祭襲撃なんて大それた事するかァ?』

 

「事件に大きいも小さいもありません。それにこれは、重要参考人である相澤ひなたさんが提供してくれた情報から導き出した、限りなく可能性の高い予測です」

 

『ひなたが言ってんなら来るんだろう! 警備は万全にしとかねーとな!』

 

(パパ……)

 

 最初は警察の予測に対して半信半疑だったプレゼントマイクが、ひなたが絡んだ途端に先程まで疑っていたのが嘘のようにやる気を出しているのを見たひなたは、思わず苦笑いを浮かべた。

 すると、腕を組みながら話を聞いていたスナイプとエクトプラズムも、警備の強化に賛成した。

 

「マスコミの時も、相澤が報告してなきゃ『たかがマスコミ』ってやり過ごすところだったからな」

 

「思イ過ゴシナラソレデヨシ、ドノミチ警戒ヲ強メルニ越シタ事ハナイ」

 

 二人が言うと、他の教師陣も頷いた。

 以前マスコミにセキュリティを破られた際は、ひなたが死柄木と黒霧の存在を感知していたおかげで最悪の事態は免れたが、もし『たかがマスコミ』と侮っていたらと思うと、いくらでも悪い想像ができた。

 すると、資料を読んだミッドナイトが他の教師陣に尋ねる。

 

「ねえ、これ…囮って可能性は無い? 奴を裏で動かして…もしくは、奴の悪戯に便乗して雄英に奇襲を仕掛けようとしている輩がいないって言い切れるのかしら?」

 

 ミッドナイトが言うと、ひなたは僅かに目を見開く。

 マスコミの時も、マスコミを囮に(ヴィラン)連合という強大な敵の侵入を許してしまった。

 今回起こると予測される襲撃も、(ヴィラン)連合、もしくはそれに準ずる組織が関係している可能性はゼロではなかった。

 だが警察は、その事も既に想定済みだった。

 

「もしそうなら、尚更奴に侵入を許してはなりません。万が一に備えて、我々警察も雄英近辺の市街地の警戒を行います」

 

 刑事が言うと、ひなたは思い出したように目を見開く。

 

「あのっ…! それについてなんですけど、考えがあります」

 

 ひなたは、昨晩徹夜で作成した資料をもとに思いついた作戦を話した。

 ひなたの考えた作戦を聞いた警察や教師陣は、その作戦に納得した。

 

「なるほど、確かにそれなら奴をその場で捕らえられる可能性は高い…!」

 

「本来なら奴のアジトを特定してその場で捕らえるのが理想的だが、動画まで出しておいて未だに捕らえられずにいる(ヴィラン)だ。この方法の方が確実だろうね」

 

「犯行予告まで出したんだから、奴が来ないはずがありません。この方法で、確実に奴を叩きます」

 

 刑事と校長がひなたの考えた作戦に賛成すると、ひなたもグッと拳を握りしめながら言った。

 すると、犯行予告の動画からジェントルをほぼ確実に叩ける作戦を思いついたひなたに対し、オールマイトが感心する。

 

「しかし…これだけの情報からよくこんな作戦思いついたな、相澤少女」

 

「いえ…僕だけならここまで辿り着けなかったと思います。僕には、頼れる友達がいるんで」

 

 オールマイトが言うと、ひなたは照れ臭そうに頭を掻きながら言った。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そして時は流れ、文化祭前日。

 A組は、体育館でリハーサルをしていた。

 

「もう閉まっちまう、最終確認通しで行くぞ」

 

「ツートントン」

 

「ツートントン」

 

「パッ」

 

「で、青山中央、常闇スタンバイ」

 

「ウィ☆」

 

「了解した」

 

「緑谷!! 動きがまだヌルいからグッ!! グッ!! 意識!!」

 

 芦戸が指示を出すと、緑谷は芦戸の指示通り動いた。

 それを見ていた瀬呂と切島は、ダンス隊の上達ぶりに感心していた。

 

「始める前は素人芸が…って不安だったけど、バンド隊もダンス隊も素人以上のモンになっちまったなァ。芦戸も意外と鬼コーチだったもんな」

 

「好きだからこそガチでやれるんだろうな…! 『音で殺る』宣言で昂ったんはバンド隊だけじゃねー」

 

 一方バンド隊も、初めは素人同然だった上鳴、八百万、心操の三人も驚く程上達していた。

 

「緊張して参りました」

 

「本番で変なアドリブしないでね?」

 

「あ?」

 

「混乱しちゃう奴いるから」

 

「言い方トゲあンな!」

 

「上鳴、俺も一緒だから」

 

 爆豪に注意する耳郎に上鳴が反応すると、心操が上鳴をフォローする。

 

「そんで常闇が青山をセットして、ロープで吊り上げる」

 

 芦戸が指示を出したその時、体育館の扉が勢いよく開いた。

 そしてハウンドドッグが吠えながら注意してくる。

 

「モウ、ガルルル、9時ダロ!? 生徒はァア゛ア゛ア゛9時まデダロォ」

 

「やっべ帰りまーす」

 

 ハウンドドッグに怒鳴られたA組は、急いで撤収し寮へ戻っていった。

 そして11時35分。

 

「「寝れねー!!」」

 

 上鳴と峰田は、寮の談話スペースではしゃいでいた。

 すると芦戸が二人を注意する。

 

「静かに! 寝てる人もいるから」

 

「皆盛り上がってくれるだろうか」

 

「そういうのはもう考えない方がいいよ。恥ずかしがったりおっかなびっくりやんのが一番良くない。舞台に上がったらあとはもう楽しむ!」

 

 飯田が心配すると、耳郎は胸を叩きながら気分を落ち着かせた。

 すると上鳴が耳郎を指差す。

 

「お前メッチャ照れ照れだったじゃねぇか」

 

「あれはまた違う話でしょ」

 

 上鳴と耳郎が話していると、緑谷と青山は感心しながら聞いていた。

 

「耳郎さんの話、色んな事に通じるね」

 

「ウィ☆誰が為を考えると結局己が為に行き着くのさ」

 

「なるほど」

 

 ふと時計を見ると、もうすぐ日付が変わりそうになっていた。

 芦戸は、伸びをしながらソファーから立ち上がる。

 

「そろそろガチで寝なきゃ」

 

 すると他の夜更かしメンバーも立ち上がり、切島は拳を打ち合わせて鳴らした。

 

「そんじゃ…! また明日やると思うけど…夜更かし組!! 一足お先に…絶対成功させるぞ!!」

 

「「「「オ━━━!!」」」」

 

 夜更かしメンバーは、一斉に拳を上げて士気を高めた。

 すると、緑谷がひなたに話しかける。

 

「相澤さん。ちょっといいかな」

 

「おん?」

 

 緑谷は、コソッとひなたに話しかけた。

 緑谷の話を聞いたひなたは、触角をピンと立てて笑顔を浮かべながら答える。

 

「あー、アレね! はいはい! あるよ! 厨房に置いといたから好きに使っていいよ!」

 

「本当!?」

 

「うん! …っていうか、実は僕も同じ事考えてて、この前材料買っておいたんだよね。当日の朝作ろうと思って」

 

「すごい行動力…!」

 

 ひなたが笑顔で言うと、緑谷がひなたの行動力に驚く。

 するとその時、心操がひなたの肩に手を置く。

 

「ひなた」

 

「うひゃあ!?」

 

 心操にいきなり肩を叩かれたひなたは、ビックリして叫び声を上げ、反射的に手に持っていたメモを隠した。

 すると心操は、失望と蔑みの目をひなたに向ける。

 

「ひなたお前…俺というものがありながら…」

 

「ち、ちゃうちゃう!! デッくんとはそういうんじゃないから!! ねっ!?」

 

「う、うん!」

 

 心操がひなたの浮気を疑うようなそぶりを見せると、ひなたは全力で否定して緑谷に同意を求める。

 ひなたが同意を求めてくると、緑谷は空気を読んで慌てて頷いた。

 すると心操は、あっさり疑いの目をやめてひなたの頭に手を置く。

 

「冗談だよ。夜更かしは喉に悪いぞ。早く寝な」

 

「あ、うん…」

 

 心操が言うと、ひなたは目を点にして頷く。

 全員が寝静まった後、ひなたは自分の携帯を確認する。

 携帯には、『翌日午前6時30分 ホームセンター裏の喫茶店に集合』と書かれたメールが送られていた。

 メールを見たひなたは、携帯をテーブルの上に置くと、明日に備えて眠りについた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そして翌朝、午前7時。

 見るからに下手くそな変装をした男女が、雄英の近くのホームセンターの陰にある古びた一軒家に訪れた。

 その一軒家は、雄英の近辺では唯一幻の紅茶『ゴールドティップスインペリアル』を取り扱っている、隠れ家的な喫茶店だった。

 この下手くそな変装をしている二人組こそ、今回雄英にちょっかいをかけようとしているジェントル・クリミナルとその相棒だった。

 雄英襲撃の前にゴールドティップスインペリアルを嗜むため、開店前から近くの公園で待機していたのだ。

 

「いよいよね、ジェントル…!」

 

「ああ。私達の名が歴史に刻まれる、今日はその記念すべき日だ」

 

 ジェントルとラブラバは、一週間かけて作った計画を胸に、店内に入った。

 店の扉を開けると、チリンチリンとドアベルが鳴り、古びた外見とは裏腹に味のある洒落た内装が二人を出迎る。

 …はずだった。

 

「ご注文は?」

 

 突然、見ない顔の若いバーテンダーが二人の前に立って注文を尋ねる。

 ここは70代のマスターが一人で経営している店のはずだ、とジェントルは動揺する。

 そしてよく見ると、まだ開店直後だというのに、客が何組かカウンター席やテーブルに座っていた。

 明らかにおかしい店の様子を見て、何かを察したラブラバは動揺した様子でジェントルの方を見る。

 

(ジェントル、これは…!)

 

(大丈夫だ、ラブラバ。私達はただの客だ。自然に振る舞えば、何も疑われるような事はない)

 

 二人は、普段の喫茶店の状況とは似つかない賑やかさに、警察に自分達の目的がバレて先回りされた事を悟る。

 ラブラバがここは退散すべきだとジェントルにアイコンタクトで伝えたが、ジェントルは心臓をバクバク鳴らして動揺しつつも、ただの客として自然に振る舞えば(下手くそな変装が既に不自然だが)警察も一旦はやり過ごすはずだと考え、作戦を強行する事にした。

 

「…ゴールドティップスインペリアルを」

 

 ジェントルは、ただの客のフリをしてゴールドティップスインペリアルを注文した。

 すると、それを聞いたバーテンダーの目の色が見るからに変わる。

 

「へぇ…()()()()()()ってヤツですかい?」

 

「「……!!」」

 

 バーテンダーが二人を疑うような目で見ながら尋ねると、図星を突かれた二人は見るからに動揺する。

 二人は、目の前のバーテンダーの正体は自分達の事を調べて捕らえに来た警官だと確信する。

 ジェントルは、せめて逃げ切るまでの時間稼ぎをしようと、咄嗟に思いついた言い訳を口にする。

 

「は、はは…何の事かね? 私はただ、ハニーと極上の紅茶を嗜みに来ただけなのだが」

 

「え、ええそうよ! 私はハニー! ダーリンと紅茶を楽しみに来たのよ!」

 

「ああそうかい。だったら存分に楽しむんだな。()()()ティータイムをよ」

 

 そう言って変装した刑事が腕を振り下ろすと、後ろで客に扮していた私服警官が一斉に立ち上がり、二人に銃口を向けた。

 一斉に立ち上がった警官を見て、二人は大きく目を見開く。

 

「なっ…!?」

 

「悪いね。この店は、今日一日我々が貸し切った。近隣の皆さんにも既にそう伝えた。チェックメイトだ」

 

 刑事は変装を解くと、淡々と逮捕状を突きつけながら告げる。

 実のところ、近辺でジェントルとラブラバを探していたひなたが二人の波長を見つけてそれを警察隊に報告していたので、店に入ってきた時点で目標の二人だと確信していたのだ。

 ひなたが事前に伝えた作戦とは、店のマスターや近隣の住民に協力してもらい、店で二人を待ち伏せするというものだった。

 ひなたは、調査に調査を重ねて二人の行動パターンを予測し、雄英を襲撃する前に一息つく気なら高級なブランドの紅茶も扱っているこの店は外せないだろうと読んでいたのだ。

 相手がどんな手段で攻めてくるかわからない以上、相手が確実に来る場所で待ち伏せするのが最善の策だった。

 

「飛田弾柔郎及び相場愛美。貴様らを業務妨害及び器物損壊、傷害の容疑で逮捕する」

 

 二人を逮捕する為に召集された警察は、少しずつ、確実に距離を詰めてくる。

 もう言い逃れはできないと悟ったジェントルは、サングラスとマスクを外しながらラブラバに言った。

 

「…ラブラバ。カメラを回せ」

 

 ジェントルが言うと、ラブラバは鞄からカメラを取り出して構えた。

 警察隊が銃口を向けてくるのも気に留めず、ジェントルはいつものお決まりの()()をした。

 

諸君(リスナー)!! これより始まる怪傑浪漫!! 目眩からず見届けよ。私は救世たる義賊の紳士ジェントル・クリミナル!! 予定がズレた! 只今いつもの窮地にて手短にいこう。今回は『雄英!! 入ってみた!!』」

 

(((俗っぽ!!)))

 

 ジェントルが今回の企画のタイトルを自慢げに発表すると、警察隊のほとんどが心の中でツッコミを入れる。

 あまりの馬鹿馬鹿しさに警察隊が呆れていると、ジェントルはバッとマントを翻す。

 

「それではさらばだ警察諸君!!」

 

 ジェントルは、警察隊の前でマントを翻したかと思うと、そのままラブラバを連れて店を飛び出した。

 

「逃がすか!! 撃て!!」

 

「バカ、やめろ!」

 

 後ろの警察隊が二人目掛けて特殊弾を発砲しようとすると、刑事が制止する。

 だがコンマ数秒反応が遅れ、警官の一人が銃を発砲した。

 すると、警官が発砲した銃弾は透明な壁のようなもので阻まれ、そのまま真っ直ぐ警官の方へ跳ね返った。

 

「ぐぁあ!!」

 

 何倍もの威力で跳ね返った銃弾は、そのまま銃を発砲した警官に被弾した。

 服の中に防弾チョッキを着ていたため無傷で済んだものの、跳ね返った銃弾は衝撃波を生み、警官の身体をいとも容易く吹き飛ばした。

 すると刑事は、撃たれた警官を注意をする。

 

「だから撃つなと言ったんだ! 奴の“個性”は『弾性(エラスティシティ)』、触れたものに弾性を与える! 迂闊な物理攻撃は全て跳ね返されると思え!」

 

 刑事は、懐からトランシーバーを取り出すと、別の隊と連携を取る。

 その頃、警察を撒いたジェントルとラブラバは、ルーティーンである紅茶を諦め、そのまま真っ直ぐ雄英の方角へと走った。

 だが彼等の目の前に、“個性”を発動しながら塀の上を駆け抜けるイレイザーヘッドが現れる。

 

「行かせるか」

 

 イレイザーヘッドは、“個性”を使って二人を睨みながら距離を詰め、捕縛武器を投げつけてくる。

 間一髪捕縛武器を回避したジェントルは、態勢を立て直すとイレイザーヘッドから逃げようとする。

 

「くっ…! 掴まっていろ、ラブラバ!」

 

 ジェントルは、懐から煙玉を取り出すと、それを地面に投げつける。

 すると一気に周囲に煙が広がり、視界が遮られた事でイレイザーヘッドの“個性”が解ける。

 ジェントルはその隙に、“個性”で空気に足場を作り、ラブラバを抱えたまま足場の上を飛び跳ねながら超高速で空中を逃げた。

 

「ごめんなさい、ジェントル! ジェントルが一週間かけて考えた計画なのに! 一体どこから情報が漏れたっていうの!?」

 

「まだ終わってはいない! 必ず成功させるぞ! たとえ、この命とヒゲに替えても!!」

 

 ラブラバがジェントルにしがみつきながら泣くと、ジェントルは空中を跳ねながら雄英の方角へ向かった。

 警察とヒーローに追い詰められても、ジェントルはまだ諦めていなかった。

 だが…

 

 

 

「させねぇよ。その為に僕が来た」

 

 二人の目の前に、アコースティックシューズから放つ衝撃波で飛ぶひなたが現れる。

 ひなたは靴底から衝撃波を放ちながら爆速で二人に接近すると、髪を逆立てて両眼を光らせ“個性”を発動させる。

 そしてそのまま、二人目掛けて一切の容赦なく『滅葬劇曲(モルテアジタート)』を放った。

 極限まで収束された音波は、一瞬で二人の意識を刈り取り、その後ろにあった空気の膜をも粉々に破壊し尽くした。

 空気の膜を消され、支えを失った二人がそのまま地面に落ちそうになると、ひなたが捕縛武器で二人を捕らえた。

 

「そっちが命懸けで来るっていうなら、こっちは命懸けで阻むまでだ」

 

 ひなたは、“個性”を発動してギラギラと光る瞳で二人を睨みながら、静かに言い放った。

 こうして、義賊『ジェントル・クリミナル』の目論見は阻まれたのだった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その後、ひなたは、二人を背中合わせに捕縛して道の傍に座らせた。

 意識を取り戻したジェントルは、ひなたに“個性”を消されてもう抵抗しても無駄だと悟ったのか、思いの外大人しかった。

 

「よく練られた作戦だったよ。もし対応が遅れていたら、俺達もお前らの侵入を許すところだった。だがお前らの唯一の誤算は、隠れ家的な喫茶店の存在を知っているカフェオタクがウチの生徒の中にいた事だ」

 

「………」

 

 相澤は、抵抗をやめたジェントルに言い放った。

 皮肉にも、ジェントルとラブラバは、注意喚起をしようとした雄英生の一人の趣味に足を掬われたのだ。

 一方でラブラバは、せめてジェントルだけでも逃がそうと何度も“個性”を使おうとしたが、生憎ひなたに“個性”を消されていたため何も起こらなかった。

 

「どうして…!? どうして“個性”が出ないのよ!! お願い、ジェントルを助けてよ!! 愛してる、愛してる、愛してる!!!」

 

「ラブラバ…」

 

 ラブラバは、“個性”を使ってジェントルを逃がそうと、何度も愛を叫んだ。

 ラブラバの“個性”は『愛』、愛を口にする事で愛する者の力を引き上げ、愛が強ければ強いほどその力も強くなるというものだった。

 ラブラバのジェントルを愛する気持ちは、決して弱くなどなかった。

 だが、その力そのものを奪われた今、彼女の願いが叶う事はなかった。

 

「あんたの…あんた達のせいで!! 離してよ!! ジェントルを離して!!」

 

 ラブラバは、怒りの矛先をひなたや警察隊に向けた。

 ラブラバが泣きながら怒鳴り散らしてくるのを黙って聞いていたひなたは、沸々と怒りを募らせる。

 

「ジェントルが心に決めた企画なの! 大好きなティーブレイクも忘れて準備してきたの! 離せ! 私の光はジェントルだけよ!! ジェントルが私の全てよ、ジェントルを奪わないでよ! ジェントルを奪わないでよ!! ジェントルと離れるくらいなら死ぬ!!」

 

「いい加減にしろ!!!」

 

 ラブラバが泣きながら怒鳴り散らすと、ひなたは怒号を浴びせた。

 ひなたは、この日を楽しみにしていた壊理の笑顔や、クラスメイトや先輩の努力を踏み躙ろうとしたジェントル達に憤っていた。

 全力で挑戦していたからこそ、生半可な怒りでは収まらなかった。

 

「僕らだって、半端な想いでやってない!! 皆、今日のこの日の為に全力で挑戦してきた!! 明るい未来を作る為に、楽しみにしてくれてる人を笑顔にする為に頑張ってきた!! お前らは!! 今日の為に努力してきた皆の前でも、笑い方を知らない女の子の前でも、同じ事が言えるのか!!!」

 

 ひなたが正面から怒号を浴びせると、ラブラバはひなたの怒鳴り声と怒気に気圧される。

 ひなたは一生恨まれる覚悟で、声を張って叫んだ。

 

「皆の未来を奪う事がお前らの望みだっていうなら、僕は何度だってお前らを阻む!! そんな望み(もの)、僕が何度だってぶっ壊してやる!!」

 

 ひなたが叫ぶと、あまりの声量と気迫に空気がビリビリと揺れる。

 ひなたの本気の叫びを聞いたジェントルは、負けを認めたかのように俯きながら口を開く。

 

「………完敗だ。この通り、投降する。だから彼女に手荒なマネはよしてくれ」

 

 負けを認めたジェントルは、大人しく投降し、ラブラバには手荒な事をしないよう懇願した。

 するとイレイザーヘッドは、まだ囮の可能性が捨て切れないため、ジェントルに情報を吐かせる。

 

「他に仲間は?」

 

「いない」

 

「お前ら二人だけか」

 

「…そうだ」

 

 イレイザーヘッドが尋ねると、ジェントルは聞かれた事に正直に答える。

 

「多くの罪を犯してきたが…最大の罪は、世間知らずの女性を勾引かし洗脳していた事。だからどうか相場愛美に恩赦を…!」

 

「うっ…うわぁああああああ!!」

 

 ジェントルがラブラバを庇うと、ラブラバはその場で泣き崩れた。

 その後、他の隊も現場に駆けつけ、ジェントルとラブラバの身柄は警察に引き渡された。

 ジェントルは、連行される最中、ひなたに話しかけた。

 

「こうもあっさり捕まってしまうとはな…私では、君達が今まで戦ってきた方々には及ばなかったか」

 

 一週間もかけて練った計画がティーブレイクすらもできずに阻まれ、ジェントルは自信を喪失しているように見えた。

 それを見たひなたは、最後の言葉を告げた。

 

「逆です。強敵として警戒してたからこそ、あなた達の狙いに気付けた。礼儀を重んじるあなたなら、たとえ罠だってわかっててもここに来るって信じてた。だからこの方法が最善だって信じて、全力を注ぎ込んだ。あなたに全力で挑戦したら、結果としてあなたはそれに応えてくれた。僕はただ、ヒーローとして当然の事をしたまでです」

 

 ひなたは、自分の胸に手を当てながら、ジェントルの質問に誠意を持って答えた。

 ひなたが喫茶店を貸し切って待ち伏せするという作戦を思いついたのは、毎回仕事の前後に律儀に紅茶を飲むジェントルならこの喫茶店を訪れると確信したからだった。

 ジェントルの誠意を正面から受け止めていなければ思いつかない作戦だった。

 そもそも、彼を強敵として認識していなければ、ただのイタズラとやり過ごして終わりだった。

 今回の捕獲作戦を成功させたのは、ジェントル・クリミナルという人間へのひなたなりの敬意に他ならなかった。

 

「相澤ひなた君。私もかつてはヒーロー科にいた。『ジェントル・クリミナル』はヒーロー落伍の成れの果てだ。とても言えた義理ではないが、君の想い、届くといいな」

 

 ジェントルは、自分が全力をかけて挑んだ計画を全力で阻んできたひなたへのせめてもの礼儀として、最後にひなたの背中を押していった。

 刑事は、調子を狂わされたような表情を浮かべつつも、頬を掻きながらジェントルを連行した。

 ジェントルは、相澤ひなたという一人のヒーローに敗れた。

 しかし、彼の心境はどこか清々しかった。

 ここまで完膚なきまでに倒されて、その上心まで救われ、文句のつけようがない完敗だった。

 もし初めからラブラバの“個性”を使って挑んでいたら、とも考えたが、その答えは自分でももうわかっていた。

 

(…いや、それでも負けていただろうな。あの子は、私よりもはるかに強く、想いを馳せている)

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 午前7時10分。

 森の警備を行っていたハウンドドッグとエクトプラズムは、イレイザーヘッド率いるA班がジェントルを捕らえたという報告を受けた。

 二人は、怪我人を一人も出さずにジェントルを逮捕できた事に安堵しつつも、厳戒警備を続けていた。

 

「計画ガ成功シタヨウダナ。コチラニ戻ッテクルソウダ」

 

「こうも上手くいくもんですかね。相手は警察やヒーローが捕まえられなかった猪口才な(ヴィラン)ですよ」

 

「ソレダケアノ計画ガ的ヲ射テイタトイウ事ダロウ」

 

 エクトプラズムとハウンドドッグは、引き続き森の中を警戒しつつ、今回の作戦の成功の要因について話し合っていた。

 ひなたが考えた計画だったが、正直ここまで上手く事が運ぶとは思っていなかった。

 ジェントルが行くと思われる喫茶店で待ち伏せするという作戦だったが、そもそもその喫茶店を特定する事自体、ジェントルの過去の犯行を分析しなければ導き出す事など出来やしなかった。

 それ程までに、今回の作戦はよく考えられていた。

 二人は、ジェントルについての情報を徹底的に調べ上げ、誰も傷つけずに確保できる作戦を思いついたひなたに感心していた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 同時刻。

 任務を終えた相澤とひなたは、ちょうど雄英に戻るところだった。

 相澤は壊理を迎えに行く為に病院へ向かわなければならなかったので、一度ひなたと別行動を取る。

 

「俺はこのままエリちゃんを迎えに行く。お前は先に寮に戻ってろ。くれぐれも、今回の作戦の事は誰にも言うなよ」

 

「はい!」

 

 相澤が言うと、ひなたはビシッと敬礼をする。

 ひなたは、携帯のホーム画面で時間を確認しながら大急ぎで学校へと戻っていった。

 

(今から戻れば十分練習に時間かけられそうだね)

 

 現在時刻、午前7時10分。

 雄英文化祭開始まで、残り2時間を切っていた。

 

 

 

 

 




今回出てきた刑事さんは、塚内さんの同期という設定です。
プロフィール載せときますね。



古見(ふるみ)唯史(ただし)

身長:181cm
好きなもの:猫、子供

ホルスの目に似た目が特徴的な刑事。塚内の同期。
普段は礼儀正しく紳士的に振る舞っているが、素の態度は割とぶっきらぼう。
(ヴィラン)と対峙すると本来の性格が表に出る事もしばしば。
(ヴィラン)には徹底して厳しい態度を取るが、何だかんだで甘い性格。

“個性”:『過去視』
1日につき1時間のみ、過去に起こった出来事を見る事ができる“個性”。
犯人捜査に重宝されている。
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