抹消ヴォイスのヒーローアカデミア   作:M.T.

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10が14件9が50件…だと…!?
感謝感激雨霰。
面白いと思って頂けましたら是非ともお気に入り登録、高評価(特に9、10あたり)よろしくお願いします。

※今回はイチャイチャ要素があります。
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始まりの

ビルボードチャートJP発表から数日後、九州では。

 

「エンデヴァーさん好きな食べ物とかあります?」

 

ホークスは、羽根で露出狂を撃退しながらエンデヴァーに尋ねる。

通行人はギャーギャーと騒ぎ立てていたが、ホークスは露出狂を一瞥もせずに話を続ける。

 

「そこの水炊きスゲー旨いんですよ。鳥の味がしっかり出てて。重いですかね、腹減ってます?」

 

すると今度は、トラックの前に犬が飛び出てくる。

ホークスは、羽根で犬を助けながらエンデヴァーに話しかける。

 

「焼き鳥もいいですよ!『ヨリトミ』のレバーはクセになる」

 

すると、通行人がホークスに気が付いて騒ぎ出す。

ホークスは、ファン達に次々とファンサービスをする。

通行人はエンデヴァーにも気付くが、圧が強すぎて近寄れずにいた。

するとエンデヴァーのファンだという青年が、友人にサインを貰ってくるよう言われているのを発見する。

 

 

 

――ほら、人を和ませるのも立派なヒーロー活動だし…

 

 

 

エンデヴァーは、ひなたが轟にそう言っていたのを思い出す。

そしてエンデヴァーが近づいてくると、青年は喜びながらも遠慮した。

するとエンデヴァーが手を差し伸べる。

 

「遠慮などしなくていい」

 

すると青年は、一瞬固まったかと思うと呟く。

 

「違う」

 

「違うのか!」

 

「エンデヴァーはファンサとかせん…!!媚びん姿勢がカッコイイったい…!!変わってしもうた!!変わってしもうたよ、あーた!!」

 

青年は、エンデヴァーがファンサービスをするようになったのを悔やみながら逃げ去っていった。

 

「…違うのか」

 

せっかくのファンに振られたエンデヴァーは、キョトンとして少し考え込んでいた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

そしてホークスの行きつけの飲食店では。

 

「ハハハハ!そりゃ言われますって、キャラじゃないですもん。あ、もう食べないなら貰ってもいいですか?」

 

ホークスは、笑いながらエンデヴァーの話を聞いていた。

 

「…いやしいな。勝手に食え」

 

エンデヴァーが言うと、ホークスはエンデヴァーの分の焼き鳥を頬張りながら話す。

 

「欲しいと思ったらどうにも我慢できない性分で。体育祭の後もね、息子さん指名してたんスよ、俺。No.2の息子って肩書きがもうほしいじゃないですか。注目度的に。でもまァ、今となっちゃツクヨミが来てくれて良かった。ショートくん仮免落ちてブランドに傷いっちゃいましたからね。それでせっかく職場体験に来てくれたクレシェンドちゃんをフっちゃったんでしたっけ?」

 

「雄英出身でもないのに詳しいな」

 

「見聞が広いんです」

 

ホークスが轟が仮免試験に落ちた事とそれが理由でひなたのインターンを断った事を持ち出して煽ると、エンデヴァーは顔からゴオッと炎を出してホークスに嫌そうな表情を向ける。

するとホークスは、手をキビキビと動かしながら説明した。

エンデヴァーは、イラついた様子で話題を切り出す。

 

「いい加減にしろ。こんな話をしに九州くんだりまで来たんじゃない。そろそろ本題を話せ」

 

「“噂”ですか?」

 

「改人脳無。連合が持つ悪趣味な操り人形。神野で格納されていた数十体をオールフォーワンもろとも捕らえ、それ以降連合に動きはあれど脳無の出現は確認されていない」

 

「あれで全部だった、まだあるけどオールフォさんしか場所知らないのどちらかって見方みたいです」

 

「“噂”と言うが貴様、俺にチームアップを頼んだからには何らかしら確認は得ているんだろうな?」

 

「得てないです、ガチ噂です」

 

「会計だ!俺は帰る!!」

 

エンデヴァーの質問に対しホークスがヘラヘラしながら答えると、エンデヴァーがブチ切れて立ち上がる。

するとホークスがエンデヴァーを引き留めて話をする。

 

「待って下さいよ、聞いて下さい。つーかね、脳無の目撃談はここだけじゃないんですよ。知らないでしょ。全国でそういう噂が立ってるんです。取り立てて記事にする程でもないけれど…しかし、奥様方の井戸端会議で、或いは小中生の下校の会話の中で」

 

ホークスが言うと、帰ろうとしていたエンデヴァーが振り向く。

 

「………どういう事だ」

 

「出張に出た時地元の人から聞いたのが最初です。その時は警察とも協力して…混乱を避ける為にコッソリ捜査したんですが何も出ず。で、ちょっと気になったんで個人的に全国飛び回って調査してみたんです」

 

「調査…!?」

 

「違いはあれど似たような噂話が全く関係ない地域で湧いてました。結果的にはどれも確度ゼロの“噂”でしかなかったんですけど。抽象的な見解になっちゃうんですけど、雄英・保須・神野を経て、“改人”という(ヴィラン)以上に不気味な存在を皆知っているわけじゃないスか。どっかのアホウが不安を煽る目的でホラ吹いて、それが今全国に伝染してるんじゃないかな」

 

ホークスは、先程捕らえた露出狂を持ち出して話をする。

 

「さっきの(ヴィラン)、“異能解放万歳”叫んでたでしょ?あれも似たような事で、今大昔の犯罪者の自伝が再出版されてけっこー売れてるんですよ。社会が不安定な時ほどそういうの売れるってか、はこびるって言うじゃないですか」

 

ホークスが言うと、エンデヴァーはイライラした様子で尋ねる。

 

「…もったいつけるな。結局何がしたいんだ貴様は!結論を言え」

 

「No.1のあなたに頼れるリーダーになってほしい!立ち込める噂話をあなたが検証して、あなたが『安心してくれ』と!胸を張って伝えてほしい!俺は特に何もしない!昨日も同じような事言いましたけど、要はNo.1のプロデュースですよねー」

 

「スタンスどうなっとるんだ貴様」

 

ホークスが言うと、エンデヴァーがツッコミを入れる。

するとホークスは、ニヘラと笑みを浮かべながら言った。

 

「俺は楽したいんですよ、本当。適当にダラダラパトロールして、今日も何もなかったとくだを巻いて床に就く!これ最高の生活!ヒーローが暇を持て余す世の中にしたいんです」

 

ホークスが言ったその時、二人は何かが空を飛んで近づいてくる事に気がつく。

 

「エンデヴァーさん」

 

飛んでくる何かを目に捉えたホークスは、エンデヴァーに声をかける。

二人の方へ一直線に飛んできたのは、翼が生えた黒い脳無だった。

ホークスがそっと手を挙げると、女将が頭を下げる。

 

「はーい、お会計ですねー」

 

「下がってお姉さん!」

 

ホークスが叫んだ直後、脳無が建物に突っ込んできた。

すると突っ込んできた脳無は、二人の方を見る。

 

「どレが一番強イ?」

 

脳無は、若干カタコトで話し始める。

その脳無は何と言葉を操る事ができた。

 

「キャアアアア!!」

 

ホークスに翼で守られていた女将は、叫び声を上げる。

エンデヴァーは、ホークスに指示を出した。

 

「ホークス、避難誘導を!」

 

「了解!エンデヴァーさんは!?」

 

エンデヴァーは、女将をホークスに任せると一歩前に出た。

 

「“噂”ではなかったか。なんとも間の良い奴だ…まァいい。どのみち、そのつもりで来た!」

 

エンデヴァーは、腕から炎を出し脳無の攻撃を紙一重で避けた。

そして…

 

「赫灼熱拳『ジェットバーン』!!」

 

エンデヴァーは、腕から大量の炎を発射すると脳無を窓の外へと吹き飛ばした。

 

「来い、No.1(おれ)を見せてやる」

 

エンデヴァーは、足から炎を放出して空中に浮き上がりながら脳無を睨む。

 

「エンデヴァーさん、飛べるんですかぁ!?」

 

「落ちないだけだ! 抜かるなよ! こいつはまだ動く」

 

ホークスが尋ねると、エンデヴァーが答え指示を出す。

するとだ。

 

「こコんな火デ俺レをを…殺セるとと、思っ思っ思っったカ?」

 

脳無は、拙い言葉を発しながら再生していく。

その脳無は、『超再生』も持っていた。

他の脳無が『超再生』を使うのを見た事があるエンデヴァーは、驚きこそしなかったものの“強個性”だと考えていた。

エンデヴァーは、黒い脳無には再生能力があり白い脳無には無いのではないかと考え、そして目の前の喋る脳無はその黒い脳無の中でもさらに特別なのではないかと考えた。

 

「オ前は強いノか?」

 

「生け捕りにして情報を頂く!」

 

脳無が突進してくると、エンデヴァーは五指から細い炎を放つ。

 

「赫灼熱拳『ヘルスパイダー』!!」

 

だが脳無は、目に留まらぬスピードでヘルスパイダーを避けると、一気に距離を詰めてエンデヴァーの懐に入り込む。

そして歪に変形した右腕でエンデヴァーを掴むと、そのまま高層ビルに叩きつけた。

脳無に捕まれたエンデヴァーは、そのまま壁を壊しながら押されていき、ビルの反対側へと貫通する。

するとエンデヴァーは、即座に身体から高温の炎熱を放って脳無の腕を消し炭に変えていく。

だが脳無は、腕が炭化したそばから再生させてエンデヴァーを拘束した。

 

「オイオイ…頼みますよNo. 1…!」

 

避難誘導をしていたホークスは、脳無の強さに呆れつつエンデヴァーに声をかけた。

脳無は、そのままエンデヴァーを高層ビルの外壁に叩きつけると引きずっていく。

脳無に投げ飛ばされたエンデヴァーは、頭から血を流して顔が血まみれになっていた。

するとその直後、脳無がエンデヴァーを引きずったビルが崩れ始める。

 

「おい嘘やろ!」

 

「落ちるぞ!!!」

 

「下、大通りやぞ!!ビルにも何人、人がが入っとるか――――」

 

駆けつけたヒーロー達は驚いていたが、その直後ビルの中にいた一般人がフワリと宙を舞っている事に気がつく。

ホークスは、羽根を飛ばしてビルの中の一般人を次々と救い出していた。

 

 

 

ウィングヒーロー ホークス

“個性”『剛翼』

固くしなやかな羽!

その一枚一枚を思いのままに操れる!

 

 

 

「被害部分の76名。全員避難完了! エンデヴァーさん!!」

 

ホークスは、脳無に羽根を飛ばしてエンデヴァーを援護する。

するとエンデヴァーは、ヘルスパイダーで脳無の首を貫き脳無の身体を細切れに焼き切っていく。

 

「それがハイライトですか!?」

 

「まさか!」

 

「…面モ白い…」

 

エンデヴァーに首を貫かれた脳無は、文字通り首の皮一枚繋がった状態で笑っていた。

エンデヴァーは、ヘルスパイダーで脳無の背後にあるビルごと微塵切りにしていく。

だが脳無は、すばしっこい動きでエンデヴァーの攻撃を避けた。

一方、遠くで見ていたヒーロー達は、エンデヴァーの技に驚いていた。

 

「焼き…切ったってのか…!?」

 

「一瞬で…人間業じゃねぇ…!」

 

一方、ホークスは細かくなったビルの破片に羽根を飛ばして運びつつビルの上へ転がっていった。

 

「料理! した事!ないでしょ! エンデヴァーさん!」

 

ホークスは、ビルの破片を降ろしながらエンデヴァーに話しかける。

 

「微塵切り荒いですよ。均等に切ってもらわないと」

 

「喋るより、動きに神経を使うんだな」

 

「いや、羽減らしすぎると飛行性能下がるんですって」

 

「それは悪かった」

 

ホークスとエンデヴァーが話していると、脳無がホークスの方を向く。

 

「トリ…」

 

するとその直後、援護に来たヒーローが“個性”で脳無を攻撃する。

 

「エンデヴァー!ホークス!!加勢する!!」

 

駆けつけてきたヒーロー達は、脳無に次々と攻撃を喰らわせる。

だが駆けつけてきたヒーローでは、脳無にダメージを与えられなかった。

 

「邪じゃっ、邪魔!」

 

脳無は、身体からボコボコと白い脳無を生み出す。

エンデヴァーはそうはさせまいと脳無に炎を放つが、脳無はそれと同時に身体から生み出した白い脳無を放出した。

まんまと脳無の産出を許してしまったエンデヴァーは、舌打ちをする。

 

「チッ…」

 

黒い脳無の“個性”は最低でも6つ、

 

・肩部の『ジェット機構』による飛行

・『変容する腕』による飛行の補助及び延伸・分離攻撃

・伸びた腕での攻撃を補強する『筋肉増殖』

・鉄筋を振り払うほどの『パワー』

・炭化した身体を瞬時に元通りにする『再生』

・脳無を身体に『格納』する

 

わかっているだけでもこれだけの“個性”を持っていた。

脳無の目的は“強者との戦闘”、その目的を達成する為白い脳無を生み出しエンデヴァーから加勢にきたヒーロー達を遠ざけたのだ。

この脳無は、明らかに知性を持っていた。

 

 

 

一方、ホークスの方はというと。

 

「うわああ来るなああ!!」

 

白い脳無が手当たり次第に民間人を襲っていると、ホークスが長い羽根で脳無を斬りつけて倒し小さな羽根で民間人を救助した。

 

「ホークス! 」

 

「ハーイ、見えなくなるくらい下がっててください。何を隠そう、パワー押しには割と無力なんで。俺の背中やったら、安心させられん」

 

 

 

一方、脳無と戦闘を繰り広げていたエンデヴァーはというと。

 

「もウ…う撃たない…のカ? ね熱っっせ熱線」

 

「………」

 

「そそれとも、撃うてないない…?だだとししたら…」

 

脳無が言うと、エンデヴァーは脳無の勘の良さに心の中で舌打ちする。

赫灼熱拳は炎の超高温に圧縮し留め放つ一撃必殺で、乱発すれば体温が上昇し身体機能の低下を招く。

だが、スピード・パワー共に負けている上、いくつ“個性”を持っているかわからない以上、エンデヴァーは出し惜しみ出来なかった。

エンデヴァーは自身の熱が籠り続ける体質を解決する為に冷を娶り、3人の子供を、そして轟を生んだ。

 

「力を、あア新たナ、おっおっ俺の強ヨサを、試ためさせてテくレ!!」

 

脳無がそう言って高笑いしながら変容する腕を伸ばしていくと、エンデヴァーは炎を放つ。

 

「逃げも再生も間に合わぬ煉獄。灼けて静まれ」

 

そう言ってエンデヴァーは大量の炎熱を脳無に浴びせる。

 

「『プロミネンスバーン』!!」

 

エンデヴァーは、ジェットバーンとは比べ物にならない高温度・高威力の炎熱を脳無に浴びせ続ける。

すると脳無は、再生が追いつかずに炭化していく。

エンデヴァーは、脳無が完全に消し炭になったのを確認すると炎を解いた。

だが…

 

 

 

「残ネン」

 

首を斬り落として逃れていた脳無は、首から腕を生やしていく。

するとそれに気付いたホークスが叫んだ。

 

「エンデヴァーさん!!」

 

だが、既に遅かった。

次の瞬間には、脳無の腕がエンデヴァーの顔の左側を切り裂いていた。

 

「つっつままらん、ももっとと強いヒヒーロローはいなナい」

 

顔を切り裂かれたエンデヴァーは、脳無の前に倒れてしまった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

そしてその頃、教師寮で壊理と一緒に遊んでいた相澤はというと。

 

「エリちゃん、部屋に戻ろうか」

 

「ハイ」

 

「皆さん、エリちゃんよろしく頼む。轟のとこ行ってきます」

 

相澤は、壊理を他の教師に任せると教師寮を飛び出していった。

オールマイトは、かつてオールフォーワンに抉られた腹を抑えながら不安そうな表情を浮かべていた。

 

「エンデヴァー…!!」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

その頃、1ーAの寮では。

突然ガシャンと何かが割れる音が響き、1階のテレビでニュースを見ていた心操は後ろを振り向く。

 

「ひなた…」

 

クラスメイトの為に紅茶と手作りのスコーンを持ってきたひなたは、ニュースを見て呆然とするあまり運んでいたトレイを手放していた。

ガシャンという音と共にアンティーク調のティーポットとティーカップと取り皿が割れ、床に紅茶とスコーンが散らばった。

心操に声をかけられたひなたは、ハッとして汚れた床に目を向けた。

 

「あっ……!ごめん、手が滑って…今片付けます」

 

先程まで呆然とテレビの液晶画面を眺めていたひなただったが、正気に戻ると慌てて片付けを始めた。

だがひなたは、ショックのせいか片付ける手が覚束なかった。

クラスメイトは、エンデヴァーのニュースを見て呆然としていたひなたを見て心配していた。

 

「ひなちゃん、大丈夫かな」

 

「エンデヴァーさんの元へ職場体験に行ってらしたものね…」

 

すると最悪な事に、そこへ轟が来てしまう。

 

「轟…!」

 

「轟くん…!」

 

寮のテレビで生中継を見ていたクラスメイトは、心配そうに轟の方を見る。

轟は、ギリッと歯を食い縛って液晶画面を睨みつけていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

そしてその頃、ホークスは。

 

「なんだ、強くない」

 

ホークスは、黒い脳無が排出した白い脳無を倒していた。

すると他のヒーロー達が声をかける。

 

「ホークス!排出されたのは9体だ!まだいる!」

 

「駅ウラ4体、交番前3体です。手分けを」

 

「避難区域を拡げろ!こっちは逃げ遅れた人の救出にあたる!」

 

するとその直後、ビルが崩れる音が聞こえる。

ホークスは、ビルが崩れた方向に目を向けた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

そしてそのビルの方角では、脳無が倒れたエンデヴァーに見向きもせず四つん這いで瓦礫の上を這いずっていた。

 

「もっモッと強いヒッヒロヒー…ロ…もっト…モも、あ、も、ア」

 

カクカクと首を振っていた脳無だったが、突然ピタリと動きを止める。

その頃その真上を飛ぶヘリでは、リポーターがリポートをしていた。

 

『突如として現れた一人の敵が!!街を蹂躙しております!ハッキリと確認できませんが、“改人脳無”も多数出現しているとの情報が――現在ヒーローたちが交戦・避難誘導中!しかしいち早く応戦したエンデヴァー氏は――――…この光景、嫌でも思い出される3か月前の悪夢――…』

 

リポーターが言いかけたその時、エンデヴァーは上半身を起こして全身から炎を放ち脳無に突進する。

エンデヴァーは左拳を振りかぶって脳無の頭目掛けて炎を放つが、脳無は頭を下げて避けるとエンデヴァー目がけて触腕で攻撃を仕掛ける。

エンデヴァーは右拳から攻撃を放とうとしていたが、脳無はエンデヴァーの脇腹を掴むとそのまま振り上げた。

 

「遅」

 

脳無は、触腕でエンデヴァーを振り回しビル群に叩きつける。

土煙の中、周囲のヒーロー達は慄いていた。

 

「…今の見えたか…?」

 

「…全く…」

 

「何でこんなのがポンと出てくるんだ……街の全員逃がさねえと――…このままじゃ神野どころの話じゃなくなる!」

 

エンデヴァーを叩きつけた脳無は、仁王立ちして咆哮を上げていた。

 

「もっと…もっモ強さを――…」

 

そして脳無にビル群へと叩きつけられたエンデヴァーは、崩れたビルの中から這い出てゴパッと口から血を吐く。

その頃、街は完全にパニックに陥っていた。

 

「大丈夫!落ち着いて!押さないで下さい!!」

 

「大丈夫です案内に従って下さい!」

 

警察やヒーローが呼びかけるが、警察やヒーローの声は完全にパニックに陥っていた人々の耳には届かなかった。

脳無は、ボッと飛び上がってビルの上に降り立つ。

 

「にっ…人間ハ、あっ…あっちか」

 

人々の混乱は収まらず、親とはぐれた子供が泣き叫んでも誰も立ち止まらなかった。

すると女性リポーターは混乱に巻き込まれたままリポートをする。

 

『象徴の不在…これが象徴の不在…!!』

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

その頃、1ーAの寮のリビングでは、生徒達が中継を見ていた。

 

「パニックだ…!マズいぞ」

 

「轟さん…!」

 

「TVつけたら…エンデヴァーが!」

 

するとそこへ、相澤が駆けつけてくる。

 

「轟…もう見てたか…!」

 

テレビを見ていた轟は、悔しそうにテレビの画面を眺めていた。

床の片付けをしていたひなたも、悔しそうな表情を浮かべていた。

 

「ふざけんな…」

 

「焦ちゃん…」

 

すると、その時だった。

 

『適当な事言うなや!!どこ見て喋りよっとやテレビ!』

 

突然、人の波に揉まれていた青年が声を荒げた。

 

『あれ見ろや!まだ炎が上がっとるやろうが!見えとるやろが!!エンデヴァー生きて戦っとるやろうが!!おらんもんの尾っぽ引いて勝手に絶望すんなや!今俺らの為に身体張っとる男は誰や!!見ろや!!』

 

青年が叫ぶと、轟とひなたは真っ直ぐ画面を見つめる。

するとヘリが再びリポートを始める。

 

『再び空からの映像です!あっ!!黒の敵が……あっ!!避難先へ!!ああ!!追っています!しかし追っています、エンデヴァーーーーーー!!!!』

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

エンデヴァーが炎を放ちながら追いかけると、脳無が振り向いて尋ねる。

 

「おっオ前も再生さイせいも持ちなノか?」

 

脳無が尋ねると、エンデヴァーは炎を纏った両腕を構える。

するとその直後脳無が触腕を伸ばしてくるが、エンデヴァーはすぐさま炎で触腕を消し炭に変えた。

エンデヴァーは、動かない身体を火力で推し進め、痛みで無理矢理意識を留めていた。

 

(倒れてなるものか!霞むこの眼で勝機を見据えろ!火力を上げろ!!もっと!!更に!!)

 

エンデヴァーは、脳無の弱点である頭を消し炭にする為、脳無の反応速度を超えようとする。

するとその時、脳無の背後にホークスが現れ羽根で援護した。

 

「そーゆーとこです」

 

ホークスは、誰よりもエンデヴァーを知っていた。

誰も越えようとしなかったオールマイトをただ一人越えようと努力してきた事を、その不器用さを、そのひたむきさを誰よりも知っていた。

 

「羽、あらかじめ飛ばしときました」

 

ホークスの羽根が、エンデヴァーの背中に集まる。

するとエンデヴァーの身体が推し進められ、炎の翼を背負ったエンデヴァーが脳無の眼前に迫る。

その瞬間、脳無は目を見開いてさらに不気味な化け物へと変貌を遂げる。

脳無は、ガブリとエンデヴァーの左腕に噛み付く。

 

「ぬうぅ!!!」

 

エンデヴァーの左腕からは血が噴き出て、エンデヴァーは顔を歪める。

 

「マジかよ」

 

急にパワーアップした脳無に、ホークスも驚いていた。

すると脳無は、エンデヴァーを掴んだまま咆哮を上げながら肩からジェットを噴射する。

エンデヴァーは炎で口内を焼いていたが、脳無の再生が追いついているせいで倒せなかった。

背中の翼も燃え尽きそうになっていたその時、エンデヴァーがホークスに叫ぶ。

 

「ホークス!!」

 

エンデヴァーが炎で上を指すと、ホークスは意図を理解する。

 

「改人…脳無っ!!」

 

エンデヴァーは、死力を振り絞って脳無の身体をガシッと掴んだ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

そして、1ーAの寮では。

 

『―戦っています。身をよじり…足掻きながら!!』

 

テレビで中継を見ていた轟は、エンデヴァーに向かって叫ぶ。

 

「―――親父…っ、見てるぞ!!!」

 

すると、エンデヴァーの元に職場体験に行ったひなたも叫ぶ。

 

「っ……負けるなああ!!エンデヴァアアア!!!」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

脳無を掴んだエンデヴァーは、炎の翼を使って上空へと舞い上がる。

羽根で援護をしていたホークスは、エンデヴァーに向かって叫ぶ。

 

「もう燃えカス同然です。あまり助力できませんが!」

 

エンデヴァーは、さらに上へと昇っていき、人も建物も気にする必要がない高さまで舞い上がった。

 

「なるほど、そこなら心おきなく放てますね…!」

 

ホークスは、納得した様子で呟く。

エンデヴァーは、空中で火力を上げていく。

 

「貴様は…俺だ。過去の…或いは別の未来の…灼けて――…眠るがいい」

 

エンデヴァーは、雄叫びを上げながらさらに火力を上げる。

 

「おおおおおおおおおおおおお!!!」

 

エンデヴァーの脳裏に浮かんでいたのは、大嫌いな“校訓”だった。

 

 

 

「”PLUS ULTRAプロミネンスバーン”!!!」

 

 

 

エンデヴァーは、脳無の頭を抱えながら限界を突破した超高火力の炎熱を浴びせる。

あまりの眩しさに、それを見ていた全員が目を見開く。

炎の塊が落ちていく様子を、轟は目を見開いて見守っていた。

エンデヴァーが消し炭になった脳無を抱えたまま落下すると、他のヒーロー達が真下へと駆けていく。

 

「落ちる!!」

 

「キャッチキャッチ!!」

 

エンデヴァーが他のヒーロー達に抱えられ、その直後脳無が道路に落ちる。

生中継を見ていた全員が、煙の上がる道路を固唾を呑んで見守っていた。

煙が晴れ、そこには消し炭になったハイエンド、そしてボロボロになりながらも右拳を高々と挙げるエンデヴァーの姿があった。

 

『立っています!!スタンディング!!エンデヴァーーーーーーーーーーーーーー!!!勝利の!!いえ!!始まりのスタンディングですっ!!!』

 

エンデヴァーが見事勝利を収めると、気が抜けた轟はその場にしゃがみ込んで深くため息をついた。

ひなたも、感極まって心操にしがみついてわんわん泣いていた。

 

一方、何とか勝ったエンデヴァーだが、フラリと倒れそうになる。

するとホークスがすかさずエンデヴァーの身体を支えた。

 

「オールマイトとポーズ同じじゃないですか」

 

ホークスはそう言ってエンデヴァーを路上に座らせる。

 

「腕が…違う。奴は左…だ…!」

 

「知らんですよ、とにかく!勝ってくれてありがとうございました…!」

 

ホークスがタオルを渡すと、エンデヴァーはタオルを受け取って傷ついた目元を押さえる。

 

「……0点だ。ずいぶんと酷い”スタート”を切った」

 

エンデヴァーが不満げに言うと、ホークスは微笑みながら言った。

 

「…すみません、でもこの勝ちは絶対…絶対にデカイはずです…!まずその怪我と出血なんとかしないと…」

 

「―――…俺はもう動けんぞ。誰か呼んで来…」

 

 

 

「ちょーっと待ってくれよ、色々想定外なんだが。まァとりあえず、初めましてかな?エンデヴァー」

 

突然、二人の前に荼毘が現れた。

エンデヴァーは、ゼエゼエと息を切らしながら霞んだ目を荼毘に向ける。

 

「お前がいるとは聞いてねえ」

 

「―――…!!…あのスナッチを殺害したそうだな。(ヴィラン)連合荼毘…!」

 

エンデヴァーが言うと、荼毘はスス…と両手を出して蒼炎を放つ。

するとエンデヴァーとホークスの周りが蒼炎で囲まれる。

 

「スナ?誰だっけ?んなことより少し話そうぜ?せっかくの機会だし」

 

荼毘は、笑いながら二人に話しかける。

他のヒーロー達は、炎に阻まれてエンデヴァーの方へ行けなかった。

 

「アッチチ!!」

 

「燃える!!アッツ!!」

 

「んだァ青い炎!?エンデヴァーじゃない!」

 

「すげェ勢いだっ!」

 

他のヒーロー達は、荼毘が上げる青い炎を見て驚いていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

(ヴィラン)連合!!荼毘です!!連合メンバーが!!炎の壁を展開しエンデヴァーらを囲い込んでおります!!』

 

リポーターがリポートすると、A組と相澤は目を見開く。

 

「あ…!あいつ、連合のアジトにいた…!!」

 

「あいつか…!!堂々と…どういうつもりだ」

 

ひなたが画面を指差して言い、相澤も目を見開きながら言った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

一方、力を使い果たしたエンデヴァーは、身体の炎も消えてその場に崩れ落ちていた。

 

「ぐっ…!」

 

すると、ホークスが心配そうに止める。

 

「いや、あなたは休んでて下さい。俺やります。雨覆(ザコ羽)しかありませんけど…時間稼ぎくらいは―――…」

 

ホークスがそう言ったその時、荼毘が正面から笑いながら歩いてくる。

 

「勘弁してくれよ。そこの脳無を取りに来ただけなんだ。俺が勝てるハズねぇだろ。満身創痍のトップ2相手によ」

 

そう言って荼毘が両手から炎を出しながら二人に飛びかかった、その時だった。

突然、荼毘の目の前に地面を抉る程の威力の攻撃が放たれる。

 

「ニュース見て”跳んで”きたぜ!面白ぇ事になってんなエンデヴァー!ホークス!てめェ連合だな!蹴っ飛ばす!」

 

そう言って挑発的な笑みを浮かべながら現れたのは、現No.5ヒーロー『ミルコ』だった。

さらに、頭上から猛々しい女性の声が響く。

 

「『霹靂神(はたたがみ)』!!!」

 

突然雷鳴と共に現No.13ヒーロー『イナズマ』が金棒を振り下ろし、巻き起こした電磁の風で炎の壁を吹き飛ばす。

全身に稲光を纏ったイナズマは、エンデヴァーとホークスの方へ手を振った。

 

「何や、ミルコはんが来んねやったらうち要らんかったやんか。おーい、センパイ!生きてはるかー?」

 

突然現れたミルコとイナズマを前に、荼毘は圧倒的不利を悟る。

 

「ミルコ…!?それにイナズマまで…ったくいいとこだったのに…氏子さん」

 

荼毘がボソッと呟くと、突然荼毘の口からゴポと黒い液体が溢れる。

液体は、荼毘を包み込んでいく。

 

「また今度な、No. 1ヒーローさんよ。また話せる機会があるだろう。その時まで…精々頑張れ、死ぬんじゃねぇぞ! 轟炎司!!」

 

「今話してけ」

 

「逃がすかクソボケ!!」

 

荼毘がエンデヴァーを嘲笑いながら言うとミルコが黒い液体の方へ蹴りを放ち、イナズマが雷撃を浴びせる。

だが二人が攻撃をした時には、既に荼毘はいなくなっていた。

 

「消えた…クソ…臭ッ!これって…神野ん時のアレじゃねえか?」

 

「あちゃー、逃げられてしもた。これを機に連合を芋蔓式に叩ける思てんけど…人間欲張ると上手く行かへんもんやなぁ」

 

ミルコは液体がついた自分の足の匂いを嗅いで臭がり、イナズマは面倒臭そうに頭を掻きながらぼやく。

するとホークスは、周りをキョロキョロと見渡す。

 

「……とりあえずは……一件落着っぽいですね」

 

そして、危機が去った事に一安心する。

 

『危機は…荼毘は退き…(ヴィラン)は…消えました…!!――っ、私の声は彼らに届いておりません…しかし!言わせて下さい!!エンデヴァー!!そしてホークス!!守ってくれました!!命を賭して!勝ってくれました!!新たなる頂点がそこに!私は伝えたい!!伝えたいよ、あそこにいるヒーローに!!ありがとうと!!』

 

こうして荼毘は去り、エンデヴァーとホークス、そして駆けつけてきたミルコとイナズマによって平和は守られた。

ちなみにミルコはあの後荼毘を追いかけに行き、イナズマは現場のヒーロー達と協力して被害の確認にあたった。

テレビで生中継を見ていたA組も一安心し日常へと戻っていくのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

そして場面は変わり、深夜の工場跡地にて。

 

「色々話が違ってた」

 

「そうだっけ?」

 

ホークスが問い詰めると荼毘はとぼけたように笑うので、ホークスは羽根の剣を荼毘に突きつける。

 

「もっと仲良くできないかな、荼毘」

 

ホークスがそう言うと、荼毘は笑いながら尋ねる。

 

「ザコ羽しか残ってなかったんじゃねぇのか?」

 

「嘘つきと丸腰で会うわけにはいかなかったからな」

 

荼毘が嘲笑いながら尋ねると、ホークスも嘲笑いながら答える。

そしてホークスは荼毘を睨みながら問い詰める。

 

「予定じゃ明日、街中じゃなく海沿いの工場だったはずだ。それにあの脳無、これまでのと明らかに次元が違ってた。そういうのは予め言っといてほしいな」

 

ホークスが問い詰めると、荼毘は不気味な笑みを浮かべながら答える。

 

「気が変わったんだ。脳無の性能テストって予め言わなかったっけか。しかし違うというならそっちもそっちだぜ?“適当な強い奴”って言ったろ。No. 1じゃテストにならねえ。程度を考えろよ」

 

「No. 1に大ダメージ。喜ばれると思ったんだけどな。約束は破ってない。反故にしたのはそっちだけだ」

 

「いきなりNo.2ヒーローを信用しろって方が無茶だぜ。今回はおまえの信用テストでもあった」

 

ホークスが言うと、荼毘が答える。

そして荼毘は、ホークスが突きつけてきた羽根の剣を軽く避けて前に出ながら尋ねる。

 

「何で今日のアレが死者ゼロで済んでる?俺達に共感して協力願い出た男の行動とは思えねえや」

 

「こっちも体裁があるんだって。ヒーローとしての信用を失うわけにはいかない。信用が高い程仕入れられる情報の質も上がる。あんたらの利益だ。もうちょい長い目で見れんかな。連合の為を思うからこそだよ、荼毘」

 

「まァ…とりあえずボスにはまだ会わせらんねぇな。また連絡するよホークス」

 

荼毘は、そう言ってホークスの横を通り過ぎると工場を出ていった。

その後ホークスは、その足でエンデヴァーの入院している病院へと見舞いに行った。

ホークスは、公安から(ヴィラン)連合に取り入るよう言われた二重スパイだった。

神野の戦いでは爆豪やひなたの安否を優先して事を急ぎ、結果結果情報が足りず相手の力を見誤った。

そのため、(ヴィラン)連合を根絶する為に多くの情報が要る、連合に関する全てを丸裸にしなければ同じ過ちを繰り返す事になるというのが公安の見解だった。

公安はホークスの目聡さ耳聡さを高く評価しており、名誉名声に頓着がなくただただ”長期目標”を見据え動くホークスこそが適任と考え二重スパイを依頼したのだ。

 

 

 

 

 


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