抹消ヴォイスのヒーローアカデミア   作:M.T.

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いいぞガンバレ飯田くん

 戦闘訓練の翌日、ひなたは戦闘訓練の話をしながら心操と一緒に登校していた。

 ひなたは、頭頂部から生えた触角をウキウキさせながら話す。

 

「やぁー昨日の訓練の時のひー君凄かったねぇ。僕思わず『わー!』って言っちゃったもん」

 

 ひなたが手をパタパタさせて話すと、心操は首を掻きながら否定する。

 

「いや……あれは運が良かっただけだよ。二人を危険な目に遭わせちゃったし、俺というよりはむしろあの二人が……」

 

「ひー君だって頑張ってたさ! オールマイトから聞いたよ! 作戦は全部ひー君が考えたんでしょ? 十分お手柄じゃんか! このこのー!」

 

「痛い痛い」

 

 ひなたが心操の肩をバシバシ叩きながら励ますと、少し力が強過ぎたのか心操は痛がっていた。

 するとひなたは、ペロっと舌を出してウインクしながら「ごめーん」と手を胸の前で合わせて謝った。

 二人が雄英の校門を通ろうとすると、いつもと様子が違う事に気がつく。

 校門の前には大勢の人だかりができており、よく見ると校門付近に屯していた人々は音響やカメラなどを持っていた。

 

「……何あれ?」

 

「マスコミじゃないか? 昨日、オールマイトの活動休止と雄英の教師に就任したって話がニュースで大々的に取り上げられてたろ? それで多分こぞってインタビューに来てるんだろ」

 

 ひなたがマスコミを指差して尋ねると、心操は面倒臭そうに首を掻きながら言った。

 先日の新聞で、オールマイトの活動休止と雄英の教師に就任する事が大きく取り上げられた。

 そのため、オールマイトの授業の様子を記事にする為に雄英高校に多くの報道陣が詰めかけ、校門を通ろうとする生徒に手当たり次第にインタビューをしていたのだ。

 

「そうなの?」

 

「え、知らなかったの?」

 

「あー……僕ニュース確認すんの忘れてたからなー……ははは」

 

 ニュースのチェックを忘れていてオールマイトのニュースで日本中が大騒ぎになっている事を知らなかったひなたは、コテンと首を傾げて心操に尋ねる。

 すると心操は逆にひなたがニュースを知らなかった事に驚き、ひなたは誤魔化すように苦笑いしながら頭を掻いた。

 二人がいつも通り校門を通ろうとした、その時だった。

 

「すみません! 雄英生ですよね? オールマイトの授業に関してインタビューお願いします!!」

 

「えっ」

 

 突然、マイクを持った女性が二人に詰め寄って尋ねてくる。

 ひなたは、突然話しかけられてビックリしたせいか肩をビクッと跳ね上がらせる。

 すると女性の質問を皮切りに、次々と他の報道陣が二人に詰め寄ってきて質問をしてくる。

 

「オールマイトの授業はどんな感じです!?」

 

「教師オールマイトについてどう思ってます!?」

 

「わっ、わっ……」

 

 次々と質問をされマスコミに揉みくちゃにされるひなたは、慌てふためいてうまく言葉を紡げずにいた。

 背が低いひなたは、あっという間にマスコミに囲まれ身動きが取れなくなっていた。

 マスコミは、ひなただけでなく心操にも質問をする。

 

「オールマイトの授業について一言!」

 

「はぁ……」

 

 心操は、マスコミの質問に戸惑った様子で首を左手で押さえる。

 するとその時、ひなたがもみくちゃにされていた方向から声が聞こえる。

 

「一言! 一言だけでいいから!!」

 

 いきなり、記者の一人がずいっと身を乗り出して強引にひなたにインタビューをしてきた。

 記者が右眼を青く光らせると、ひなたの頭の中にビリッと電流が流れるような痛みが走る。

 

「痛っ……!?」

 

 ひなたが突然の頭痛に頭を押さえるのも気にせず、記者達は次々とひなたに駆け寄る。

 記者達がしつこくひなたに迫りひなたが困惑していたので、記者達の強引なインタビューにさすがに心操もイラッとする。

 

「一言くれたら帰るから!」

 

「えっ、ちょっと……わ゛!?」

 

 記者の一人がひなたの肩を掴もうとすると、すかさず心操がひなたの手を掴んでマスコミの間を縫っていき校門を通り抜けた。

 何とかマスコミから逃げ切った心操は、大きなため息をつく。

 

「ここまで来れば大丈夫だろ……」

 

 するとマスコミに揉みくちゃにされて髪が若干クシャクシャになったひなたが下の方から声をかける。

 

「……ひー君。手、痛いからそろそろ離して?」

 

「あっ、ごめん」

 

 心操はひなたとはぐれないようにかなり強めにひなたの手を握り無理矢理マスコミを押し退けて校門をくぐったので、ひなたの手は少し痕になっておりひなたは少し痛がっていた。

 校門をくぐってもまだ強く手を握り続けている心操にひなたが声をかけると、心操はハッとして慌てて手を離す。

 

「うーん……あんな無理矢理逃げてきちゃって良かったんだろうか」

 

「いいんだよ。どうせアレ学校に許可取ってないからさ。ああいうのに捕まるとある事ない事書かれるぞ」

 

「あー……それもそうだね」

 

 心操が言うと、ひなたは相澤のメディア嫌いを思い出して苦笑いを浮かべる。

 つい忘れがちだが、ひなたが外に出てからの7年間何の騒ぎもなく平穏に暮らせていたのは、相澤のメディア嫌いのお陰だった。

 これがもしラジオDJをしているプレゼントマイクに引き取られ『山田ひなた』とでも名乗っていたなら、瞬く間に有名人になってしまいマスコミからの質問攻めも今の比ではなかったであろう事は容易に想像できた。

 そのまま校舎へ向かうひなただったが、一瞬頭の中に靄がかかったように意識がぼんやりとする。

 

「…………」

 

 ひなたがぼーっと一点を見つめていると、心操が心配して声をかける。

 

「……ひなた? どうかした?」

 

「……! あ、ごめん! 何でもない! ちょっとぼぅっとしてたかも」

 

 声をかけられたひなたは、慌てて取り繕い笑顔を浮かべた。

 その頃マスコミは、他の生徒達にも手当たり次第インタビューをしていた。

 

「オールマイトの授業はどんな感じです?」

 

「え!!? あ…すみません僕保健室行かなきゃいけなくて…」

 

「“平和の象徴“が教壇に立っているという事で様子など聞かせて!」

 

「様子!? えー…と、筋骨隆々!! です!」

 

「教師オールマイトについてどう思ってます!?」

 

「最高峰の教育機関に自分は在籍しているという事実を殊更意識させられますね。威厳や風格は勿論ですが他にもユーモラスな部分等、我々学生は常にその姿を拝見できるわけですから、トップヒーローとは何をもってしてトップヒーローなのかを直に学べるまたとない…」

 

「オールマイト…あれ!? 君、『ヘドロ』の時の!!」

 

「やめろ」

 

 マスコミの質問に対し緑谷はビクッと肩を跳ね上がらせ、麗日は緊張しつつもインタビューに答え、飯田は真面目に長々と語り続け、ヘドロ事件を掘り返された爆豪は不機嫌そうに去っていった。

 

「オール…小汚っ!! 何ですかあなた!?」

 

「彼は今日非番です。授業の妨げになるんでお引き取り下さい」

 

 記者の一人が相澤にインタビューをしようとしいきなり失礼な発言をすると、相澤はしっしっと追い払う仕草をしながらはぐらかす。

 校門から去っていき校舎に戻っていく相澤に、報道陣が校門の外から質問(というか完全に悪口)を投げかける。

 すると報道陣の女性が我慢ならないとばかりに雄英の敷地内に一方足を踏み入れようとする。

 

「ちょっと!! 少しでいいのでオールマイトに…」

 

 するとその直後、校門のセンサーが反応していきなり校門から壁が迫り上がってくる。

 

「うわあああ何だあ!!!?」

 

 女性が驚いて悲鳴に近い声を上げると、別の報道陣が説明をする。

 

「雄英バリアーだよ。俺らはそう呼んでる」

 

「ダサ!! 何スかそれ」

 

「学生証とかさ、通行許可IDを身につけてない者が門をくぐるとセキュリティが働くんだ。校内の至る所にセンサーがあるらしいぜ」

 

 報道陣が門の前で屯していたのは、この雄英バリアーのせいだった。

 学校に取材の許可を取っていない記者は学校の敷地内に入れないため、門の前で待ち伏せをして門をくぐろうとする生徒達に手当たり次第にインタビューをしていたというわけだ。

 

「…………」

 

 そんな中、先程ひなたにしつこく詰め寄った記者は、カメラを懐にしまうとどこかへ去っていく。

 右眼を青く光らせた記者は、不気味な笑みを浮かべていた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 1ーAの教室では、相澤がホームルームを行っていた。

 

「昨日の戦闘訓練お疲れ。Vと成績見せてもらった。爆豪、お前もうガキみてぇなマネするな。能力あるんだから」

 

「………わかってる」

 

 相澤が爆豪に対して注意をすると、爆豪は俯いたまま返事をする。

 

「で、緑谷はまた腕ブッ壊して一件落着か」

 

 相澤に自分の事を言われた緑谷は、ビクッと肩を跳ね上がらせる。

 

「“個性”の制御…いつまでも『出来ないから仕方ない』じゃ通させねぇぞ。俺は同じ事言うのが嫌いだ。それさえクリアすればやれる事は多い。焦れよ緑谷」

 

「っはい!」

 

 相澤が睨みをきかせつつも緑谷に助言をすると、緑谷はピシッと構えて元気よく返事をする。

 

「さてHRの本題だ…急で悪いが今日は君らに…」

 

 相澤が言いかけると、生徒達はまた臨時テストかと身構える。

 

 

 

「学級委員長を決めてもらう」

 

「「「学校っぽいの来た━━━!!!」」」

 

 ホッとした生徒達は、一気にどっと湧き上がった。

 

「委員長!! やりたいですソレ俺!!」

 

「ウチもやりたいス」

 

「オイラのマニュフェストは女子全員膝上30cm!!」

 

「僕のためにあるヤツ☆」

 

「リーダー!! やるやるー!!」

 

「たはは……皆ガッツだねぇ。つか峰田、お前今何つった?」

 

 クラスメイトがハイハイ言いながら次々と手を挙げていくと、ひなたは苦笑いを浮かべて呆れ返る。

 ヒーロー科に在籍している生徒達は、どんなに大人しめの生徒も心はヒーローなので皆のリーダーになりたいと思うのは当然といえば当然だった。

 するとその時だった。

 

「静粛にしたまえ!!」

 

 いきなり飯田が声を上げ、全員が飯田に注目する。

 

「“多”を牽引する責任重大な仕事だぞ…! 『やりたい者』がやれるものではないだろう!! 周囲からの信頼あってこそ務まる聖務…! 民主主義に則り真のリーダーを皆で決めるというのなら… これは投票で決めるべき議案!!!」

 

「聳え立ってんじゃねーか!! 何故発案した!!!」

 

「そのおててが無ければ説得力抜群だったのに」

 

 投票で決めるべきと提案した飯田だったが、やはり自分もやりたいらしく手を真上にピンと挙げており、上鳴とひなたがツッコミを入れた。

 

「日も浅いのに信頼もクソも無いわ飯田ちゃん」

 

「そんなん皆自分に入れらぁ!」

 

「だからこそここで複数票を獲った者こそが、真に相応しい人間という事にならないか!? どうでしょうか先生!!!」

 

 蛙吹と切島が反論をするが、飯田はそれも踏まえて相澤に提案する。

 すると相澤は寝袋に入りながら答える。

 

「時間内に決めりゃ何でもいいよ」

 

「コラァお父さん! 学校で寝袋はやめろって何回言ったらわかるんだよ!」

 

 相澤が寝袋に入って寝ようとすると、ひなたがガタっと席から立ち上がって頬を膨らませながら注意をする。

 

「……お前こそ学校で『お父さん』はやめろと何度言えばわかる」

 

「ごめん! でも教室で寝袋はやめて! 教師云々の前に人として!」

 

「…………チッ」

 

 相澤がひなたの注意に対し不機嫌そうに舌打ちをしてカウンターを繰り出すと、ひなたは素直に謝りながらそれでも寝袋はやめろと苦情を入れる。

 すると流石の相澤も愛娘の前では頭が上がらないのか、舌打ちをしながらも寝袋を脱ぐ。

 

(((何この茶番)))

 

 一体何を見せられているんだ、それがこのやり取りを見ていたほとんど全員が抱いた感想だった。

 こうして委員長決めの投票が行われる事になった。

 ひなたは、初めから投票すると決めていた人物の名前を書こうとした。

 だが、最初の一文字を書いた時点でシャーペンを走らせる手を止めた。

 

「…………」

 

(『やりたい者』がやれるものではない、か……)

 

 そう思い直したひなたは、書きかけた名前を消しゴムで消して悩んだ挙句別の名前を書いた。

 そして紙を折り畳んで投票箱に入れる。

 結局、かなり悩んだ為投票はひなたが一番最後だった。

 集計結果は、緑谷が3票、八百万が2票、麗日、心操、轟の3人が0票、そしてその他が1票という結果になった。

 

「僕三票━━━!!!?」

 

「何でデクに…!! 誰が…!!」

 

「まーおめぇに入るよか分かるけどな!」

 

 自分に3票も入っていた事に緑谷が驚き、納得いかない様子の爆豪を瀬呂が宥める。

 一方、爆豪がキレ散らかしている後ろでは麗日が目を泳がせて口笛を吹いていた。

 

(……あれ? 僕、自分に入れなかったのに何で1票入ってるんだ? 誰が入れてくれたのかなぁ?)

 

 ひなたは、自分に投票しなかったにもかかわらず自分に1票入っていたので、不思議そうに首を傾げていた。

 一方飯田もまた、自分に1票入っていたので驚いていた。

 

「俺が…1票……!? 誰が入れてくれたんだ!?」

 

「という事は他に入れたのね………」

 

「お前もやりたがってたのに……何がしたいんだ飯田…」

 

 飯田が驚いていると、八百万と砂藤がツッコミを入れる。

 こうして三票だった緑谷が委員長に、そして次に票が多かった八百万が副委員長になった。

 

「じゃあ委員長緑谷、副委員長八百万だ」

 

「うーん悔しい…」

 

「ママママジで、マジでか…!!」

 

 八百万は少し納得いかず、緑谷はプレッシャーで震えていた。

 他のクラスメイトも、荒れに荒れまくっている約一名を除いて決定に異論はないようだった。

 ひなたも、二人に対して拍手を送っていた。

 

「緑谷なんだかんだアツいしな!」

 

「八百万は講評の時のがカッコ良かったし!」

 

「二人ともがんば!」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そして昼休み、食堂にて。

 

「んん、お米が旨い!」

 

「……それさ、金欠にならねえの?」

 

「自分の稼ぎから出してるからへーき。どうしてもおかね無い時はお弁当で調節するし……」

 

 ひなたが白米を頬張ると、心操はおしんこを口に運びながら話しかける。

 今日のひなたの昼食は、

 

 

 

 ・竜田揚げ定食(白米・味噌汁・竜田揚げ・無限キャベツ・おしんこ)15人前

 ・春野菜のそぼろ味噌炒め 10人前

 ・抹茶わらび餅 10人前

 

 

 

 という、相変わらず規格外の食事量だった。

 

「それにしても……誰だったんだろ。僕に票入れてくれたの」

 

「ああ、あれね。俺」

 

「へー、そっか。ひー君かぁ…………」

 

 ひなたが委員長決めの投票で自分に票が入っていた事を思い出してふと呟くと、心操が答える。

 それを聞いて一度は聞き流し米を口に運ぼうとしたひなただったが、上を向いて2、3回ほどパチパチと瞬きをすると驚いた表情を浮かべて心操の方を見る。

 

「えぇ━━━━━!!? 嘘でしょ!? 僕に入れてくれたの、ひー君だったの!?」

 

 ひなたは、目を丸くして大声を上げ右手に持っていた箸を落とす。

 すると心操は左手で首を掻きながら答える。

 

「……まぁね」

 

 するとひなたは、申し訳ない事をしたと思い謝る。

 

「あ━━……そうだったんだ。ごめんね、僕違う人に票入れちゃった」

 

「いいよ、俺はふさわしい奴がやってくれれば良かったから。俺は、ひなたがリーダーになってくれたらついて行きたいと思ったからひなたに入れたんだ」

 

「たはは……改めて面と向かって言われると気恥ずかしいですなぁ」

 

 心操が素直に自分の意見を言うと、ひなたはふにゃりと笑顔を浮かべながら頭を掻く。

 だがすぐに視線を下に向け、哀しそうな笑顔を浮かべながら言った。

 

「……でも、ダメだよ僕じゃ。向いてないし」

 

「?」

 

 ひなたが哀しそうな目をしながら言うと、心操は怪訝そうに片眉を上げる。

 心操は、ひなたが誰に投票したのか何となくわかっていたが、確認の為にあえて尋ねる。

 

「ちなみに誰に入れたの?」

 

「えっとね、天ちゃん」

 

「だと思った」

 

 心操の質問に対してひなたが学食を口に運びながら答えると、予想が当たっていたので心操はさほど驚かなかった。

 

「一応聞くけど何で?」

 

「メガネだから!」

 

「メガネは関係なくないか?」

 

「あはは、冗談冗談」

 

 心操が尋ねるとひなたがキリッとした表情で答えるので心操がツッコミを入れ、ひなたは笑いながら白状した。

 するとひなたは、何故飯田に入れたのかを話し始める。

 

「あのね、最初はひー君に入れるつもりだったんだよ? でも天ちゃんが『やりたい者がやれるものではない』って言ってたから、ふさわしいと思う人に入れる事にしたの。それで、ひー君に入れるか天ちゃんに入れるかですっごく迷ったの。僕はひー君に助けられてばっかりだしひー君の事が友達として一番好きだから、ひー君が委員長になってくれたらいいなって思ったんだ。でも天ちゃんが投票で決めようって言い出して、それに対して『確かにそうだな』って思ったのを思い出したの。一番リーダーに『なってほしい人』はひー君だけど、『なるべき人』は天ちゃんだと思ったから天ちゃんに入れたんだ」

 

「そういうところだよ。ちゃんと周りの事考えて投票するような奴だから、俺はお前に入れたの」

 

「えへへ……」

 

 ひなたがしっかりと自分の意見を語ると、心操は納得した。

 するとひなたは頭を掻いてわかりやすく照れた。

 投票が委員長に『なってほしい人』に票を入れるというものであれば真っ先に心操に票を入れていたであろうひなただったが、ひなたは主観的に見て『なってほしい人』と客観的に見て『なるべき人』は違うと考えていた。

 そこでそもそも飯田が投票で決めるべきだと言い出したから投票という方式を取ったのを思い出し、クラスをまとめる発案をできる彼なら委員長にふさわしいと思い票を入れたのだ。

 

「……ま、口元に米粒つけてなきゃ今の言葉ももっと説得力あったんだろうけどね」

 

「えっ、嘘、どこ? ねえ、取れた?」

 

 心操が自分の頬を指差しながら笑うと、ずっと頬に米粒をつけて話していたひなたは慌てて米粒を取ろうとする。

 するとその時だった。

 

 

 

 

 ウゥ━━━━━!!! 

 

 

 

 

 

「ぶっ!?」

 

 突然サイレンの音が鳴り響き、ひなたは音に驚くあまり口に含んでいた味噌汁を盛大に噴き出す。

 

「け、警報!?」

 

「こぼすなよ、汚いなぁ」

 

「あ、ごめ……でも何で急に警報!?」

 

 ひなたが口からボタボタ味噌汁をこぼしながら驚いていると、心操がドン引きしてツッコミを入れる。

 ひなたはとりあえず口元をペーパーナプキンで拭いて状況を整理する。

 するとアナウンスが校内に響き渡る。

 

『セキュリティ3が突破されました』

 

「3!?」

 

『生徒の皆さんは速やかに屋外へ避難して下さい』

 

 アナウンスされた『セキュリティ3』という言葉に、ひなたは疑問符を浮かべる。

 

「え、セキュリティ3って何!?」

 

「校舎内に誰か侵入してきたって事だよ! 三年間でこんなの初めてだ!! 君らも早く!!」

 

 ひなたの疑問に、隣の席にいた普通科の3年生が答え急いで逃げる準備をする。

 どうやら3年生ですらこの異常事態は今まで経験した事が無かったらしく、完全にパニックに陥っていた。

 するとその直後、二人の方へ大量の生徒が押し寄せてきた。

 

「いてえいてえ!!」

 

「押すなって!」

 

「ちょっと待って倒れる!」

 

「押ーすなって!!」

 

 二人は、あっという間にパニックに陥った生徒達の波に揉まれる。

 

「ぎゃっ、ちょっと! 急に何!?」

 

「マズいぞこれ、皆パニックになってる!!」

 

 二人は、波に揉まれながらも状況を整理しようとする。

 だが、ひなたが生徒の波に巻き込まれて心操とはぐれてしまった。

 

「ふぎゃ━━━!!」

 

「ひなた!!」

 

 心操とはぐれたひなたは、そのまま窓際へと追いやられる。

 

「もぉお、何が侵入してきたっていうんだよ……」

 

 ひなたがベタッと窓に頬を張り付けて外の様子を確認すると、校舎の前で大勢の報道陣が教師陣に押し寄せていた。

 

「オールマイト出して下さいよ!! いるんでしょう!?」

 

『非番だっての!!』

 

「一言コメント頂けたら帰りますよ!!」

 

「一言録ったら二言欲しがるのがあんたらだ」

 

 報道陣は、オールマイトを取材するため山田と相澤に詰め寄って質問攻めする。

 

『不法侵入だぜ。これもう(ヴィラン)だ。ブッ飛ばしていいかな』

 

「やめろマイク、ある事ない事書かれるぞ。警察を待とう」

 

 山田が流石に頭に来たのか物騒な事を言い出すと、相澤が冷静に山田を止める。

 

「お、お父さん!? パパ!? それにあいつら今朝のマスコミじゃん! 早く通報しなきゃ……」

 

 相澤と山田が報道陣に囲まれているのを目の当たりにしたひなたは警察に通報しようとするが、押し寄せてくる生徒達に揉まれて上へと追いやられ生徒達の頭上を勢いよく転がっていく。

 

「ぎゃ━━━━━!!」

 

『ひな……って!! そうはならねぇだろ!!』

 

 愛娘の身の危険を察した山田が窓の方を振り向くと、そこに映っていたのは生徒達の頭上をローリングしていく愛娘の姿だった。

 見るからにありえない動きをしているひなたに、山田はついツッコミを入れる。

 

(ううううううう……ずっとグルグル回っててそろそろ気持ち悪くなってきた)

 

 ひなたは、生徒達の頭上をずっと転がり続けて気分が悪くなっていた。

 すると、その時だった。

 

「相澤くん!!」

 

 麗日の“個性”で宙に浮いた飯田は、ひなたを助け出すとエンジンを作動させて回転しながら人の波の上を進む。

 そして非常口に到着した飯田は、非常口のピクトグラムのようなポーズをしながら叫ぶ。

 

「皆さん…大丈ー夫!! ただのマスコミです! なにもパニックになる事はありません! 大丈ー夫!! ここは雄英!! 最高峰に相応しい行動を取りましょう!!」

 

 飯田が叫ぶと、パニックに陥っていた生徒達も冷静さを取り戻す。

 飯田に助け出されたひなたは、壁に張り付いて難を逃れていたが生徒達が落ち着きを取り戻すとゆっくりと床へ降りる。

 

「た、助かったぁ……」

 

 すると、真っ先に心操がひなたの方へ駆け寄ってくる。

 

「ひなた! 大丈夫か!?」

 

「うん、危うく食べた物全部口から飛び出るところだったけど……天ちゃんのおかげで助かったよ」

 

 ひなたは、非常口のピクトグラムのポーズをしている飯田の方を見てため息をつく。

 だがその直後、不安そうに口を開く。

 

「……でも、本当にこれで終わったのかな」

 

「え?」

 

「何かね、嫌な予感がするんだ。マスコミがセキュリティーを突破できたとは考えにくいし……本当にただのマスコミの暴動だったのかな?」

 

「…………」

 

「考えたくないけど、その……囮、だったりして……」

 

 ひなたが言うと、心操は目を見開く。

 ひなたの言う通り、ただのマスコミに雄英のセキュリティーを突破できるとは思えなかった。

 悪意を持った誰かがマスコミを唆して雄英に侵入したのかもしれない、そんな考えがひなたの脳裏をよぎった。

 するとひなたは、驚いた様子でひなたの話を聞いていた心操の方を見て、余計な事を言って不安にさせてしまったと思いすぐに謝る。

 

「あ、ごめん。僕、悪い勘はよく当たるからつい……何の確証も無いのに変な事言ったよね」

 

「……いや、その可能性はあると思う。先生に言った方がいいんじゃないか? その話が本当なら、まだ近くに黒幕が居るかもしれないし」

 

「……うん」

 

 ひなたと心操は、今回の暴動に黒幕がいる可能性を考えて教師陣に報告に行く事にした。

 二人が走り出すと、途中で相澤と山田に鉢合う。

 ひなたと心操は、早速二人に報告をする。

 

「相澤先生! マイク先生!!」

 

「今回の暴動で、伝えなきゃいけない事が……!」

 

『Oh,ひなたに心操! 安心しろ、今回の暴動はただのマスコミ……』

 

「違うんです! ただのマスコミにセキュリティーを破れるわけがない! マスコミは囮です! さっきのどさくさに紛れて敷地内に(ヴィラン)が侵入してる可能性が高いです!」

 

 ひなたが言うと、特に山田は目を見開いて驚く。

 

『な……でもただの憶測だろ!?』

 

「……いや、ひなたの勘はよく当たる。悪い勘は特にな。一生徒の勘で動くのは合理的じゃないが、頭の片隅に置いておく価値はある。ひなた、お前の“個性”で敷地内を探れ。俺が許可する」

 

「はい! 『千里音(ダウジングシャウト)』!!」

 

 相澤に指示されたひなたは、常人には聞こえない爆音の超音波を放って周囲の空間を把握する。

 すると程なくして、ひなたが“個性“を使って淡く光った瞳を見開いて報告する。

 

「いた! 職員室に不審者が二人!!」

 

「なっ……!?」

 

「十中八九(ヴィラン)です! 二人共まだ動いている様子はありません!」

 

 ひなたが報告すると、3人は目を見開く。

 

『マジかよ……!? とりあえずでかしたひなた!』

 

「行くぞマイク」

 

 ひなたの報告を聞いた相澤と山田は、ひなたと心操を連れて全速力で職員室へ向かう。

 だがその途中、超音波の反響音を探って情報を集めていたひなたが怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「……あれ?」

 

「どうしたひなた?」

 

 怪訝そうな表情を浮かべるひなたに心操が尋ねると、ひなたは不思議そうに報告をする。

 

「……何でだろう。たった今、二人の反響音が消えた……」

 

「何……!? まさか……!」

 

 ひなたの報告を聞いた相澤は、嫌な予感が脳裏をよぎり目を見開く。

 そして全速力で職員室へ駆けつけると、勢いよく職員室の扉を開ける。

 するとその瞬間、もぬけの殻となった職員室に発生した黒い渦のようなものが縮んで消えた。

 

Damn(クソッ)! 一足遅かった!』

 

「やはりワープ系の“個性”か……!」

 

 惜しくも(ヴィラン)を取り逃した山田は悔しそうに壁を殴り、相澤は渦があった場所を睨みつけていた。

 ひなたも、悔しそうに二人に謝る。

 

「すみません……僕がもっと早く報告していれば……」

 

「……いや、十分やってくれたよ。お前が報告してなければただのマスコミの暴動とやり過ごしていたところだった」

 

 自分のせいだと落ち込むひなたを相澤がフォローすると、心操が相澤に尋ねる。

 

「あの……俺達はどうすれば?」

 

「とりあえず、後処理は俺達教師がする。お前らはくれぐれもこの事を誰にも口外するな」

 

「分かりました」

 

 相澤が二人に言うと心操が返事をし、ひなたもコクリと頷く。

 ひなたと心操は教室に戻され、午後の授業を受ける事になった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その後警察が到着し、マスコミは撤退。

 相澤と山田は、ひなたが(ヴィラン)を発見した事、そして(ヴィラン)のうちの一人がワープ系の“個性”を持っている可能性が高い事を校長に報告した。

 そして余計なパニックを招いてしまうため生徒達にはこの事を伝えずに教師側で(ヴィラン)対策を強化するという結論が出て、ひなた達は普通に午後の授業を受けた。

 そして午後のHRで他の委員決めをする事になった。

 

「ほら委員長始めて」

 

「でっでは、他の委員決めを執り行って参ります! …………けどその前に、いいですか!」

 

 八百万が言うと、緑谷は緊張しながらも自分の意見を言う事にした。

 

「委員長は、やっぱり飯田くんが良いと…思います!」

 

「!」

 

「あんな風にカッコ良く人をまとめられるんだ、僕は…飯田くんがやるのが正しいと思うよ」

 

 飯田が目を見開いて驚く中、緑谷が言うと、切島と上鳴も賛成した。

 

「あ! 良いんじゃね!! 飯田、食堂で超活躍してたし!! 緑谷でも別にいいけどさ!」

 

「非常口の標識みてぇになってたよな」

 

(うーん、僕も天ちゃんがいいと思うけど……)

 

 ひなたも飯田が委員長をやるのがいいと思っていたが、ふと緑谷の隣にいた八百万が「私の立場は……!?」と呆然としている事に気がつく。

 するとその時、相澤が不機嫌そうに睨みつけてくる。

 

「何でもいいから早く進めろ…時間がもったいない」

 

「ひっ!!!」

 

 相澤が凄むと、緑谷はビクッと肩を跳ね上がらせる。

 するとひなたが手を挙げて言った。

 

「じゃあここはひとつ、多数決で決めない? いきなり言われても納得しない人もいるかもだし。もし納得してくれた人が過半数だったら、天ちゃんが委員長って事でいいんじゃないかな」

 

「あっ、そ、そうですね……」

 

 ひなたが言うと、緑谷が納得した。

 

「じゃあ、飯田くんが委員長をやるべきだと思う人!」

 

 緑谷が尋ねると、ひなた、麗日、上鳴、切島、心操、瀬呂が真っ先に手を挙げ、他の生徒も、それに釣られたりだったり、何でもいいから早く終わらせたかったりだったりはしたが、次々と手を挙げ始めた。

 意外な事に爆豪も、「デクよかマシ」と言って、手を挙げている風なそぶりをしていた。

 賛成派が15人になったところで、はじめは納得していなかった八百万も、ここまで圧倒的な人数が賛成派なら仕方ないと自分も手を挙げた。

 ほとんどの生徒が賛成したため、緑谷の提案は可決され、飯田が委員長をやる事になった。

 

「えっと……じゃあ、飯田くんが委員長って事で……よろしくお願いします」

 

 緑谷から委員長を受け継いだ飯田は、クラスメイトの前で深々と頭を下げる。

 

「クラスの総意なら仕方あるまい!!」

 

「任せたぜ非常口!!」

 

「非常口飯田!! しっかりやれよー!!」

 

「頑張れ非常口ー!」

 

 飯田が緑谷に代わって委員長を請け負うと、クラスメイト達が飯田を持ち上げた。

 だがこの時、ひなたと心操以外のA組は、この日の事件が後に最悪の事態を招く事になるとは知る由もなかった。

 

 

 

 

 




学級委員長投票結果

相澤ひなた 1票(投票者:心操人使)
青山優雅  1票(投票者:自分)
芦戸三奈  1票(投票者:自分)
蛙吹梅雨  1票(投票者:自分)
飯田天哉  1票(投票者:相澤ひなた)
麗日お茶子 0票
尾白猿夫  1票(投票者:自分)
上鳴電気  1票(投票者:自分)
切島鋭児郎 1票(投票者:自分)
砂藤力道  1票(投票者:自分)
障子目蔵  1票(投票者:自分)
耳郎響香  1票(投票者:自分)
心操人使  0票
瀬呂範太  1票(投票者:自分)
常闇踏陰  1票(投票者:自分)
轟焦凍   0票
葉隠透   1票(投票者:自分)
爆豪勝己  1票(投票者:自分)
緑谷出久  3票(投票者:自分、飯田天哉、麗日お茶子)
峰田実   1票(投票者:自分)
八百万百  2票(投票者:自分、轟焦凍)
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