僕のヴィランアカデミア
12月初旬、日曜日朝。
寮の外では雪が降っていた。
「おはよー」
「雪だ━━━━━!!! 心頭滅却乾布で摩擦」
切島は走りながら服を脱ぎ、峰田と芦戸もはしゃいでいた。
「ドア閉めてー梅雨ちゃん動かんくなった」
「わーごめん梅雨ちゃん」
「梅雨ちゃんこれ羽織って」
「梅雨ちゃん温かい昆布茶飲む?」
「ケロ、ありがとう透ちゃんひなたちゃん」
寒さのあまり冬眠を始めようとする蛙吹を、ひなた、麗日、葉隠の三人で介抱した。
「元気だな」
「布濡れますわよ」
「転ばないようにな!」
「積雪情報見よーぜ、好きなんだよねー俺ー」
はしゃいでいる切島達を、心操はひなたの淹れた昆布茶を飲みながら見ており、八百万は切島の乾布摩擦用の布が雪で濡れる事に対してツッコミを入れ、飯田は走り回る三人に声をかけ、上鳴は積雪情報を見るためリモコンを手に取った。
すると、朝食を食べていた瀬呂がクラスメイトに尋ねる。
「ねェ、轟達何時くらいに帰ってくるか聞いてる? 漫画の続き借りてェの」
「6時くらいって」
「仮免補講最終日…! 今日の二人がテストで合格すれば、晴れてA組全員仮免取得だ!」
「うん、二人とも受かるといいね!」
緑谷と飯田が言うと、ひなたもニコッと笑みを浮かべた。
一方、轟と爆豪は夜嵐、現見、竜崎と共に仮免補講のテストに参加していた。
「今頃テスト中かねえ。大丈夫かなあ」
「大丈夫でしょ! 爆豪くんも最近感じ良いし! 悪いけど!」
葉隠が言うと、砂藤がソファーから立ち上がる。
「ケーキでも作って待ってようか」
「やった!」
「じゃあ僕も手伝うよー」
ひなたは、砂藤と一緒に調理のために厨房へ向かった。
ほとんどのクラスメイトが素直に轟と爆豪の合格を楽しみにしている中、上鳴は複雑そうにリモコンを操作してテレビをつけていた。
「俺があの二人に唯一勝ってたのが仮免持ちっつーとこだったのになー」
「チンケな事言うなよ」
「お前だけの良さは多々あろうに」
「上鳴チン気」
「んだそりゃ!」
素直に祝福せずにぼやく上鳴を、瀬呂が注意し障子がフォローした。
上鳴がニュース番組をつけると、積雪情報が報道された後ニュースが報道された。
『それでは今週のニュースを振り返って参りましょう。ライフスタイルサポートメーカー大手『デトネラット社』がヒーローサポート事業への本格参入に踏み切りました』
「デトネラット社、ねぇ」
「どうかしたか、ひなた」
「う〜ん…僕、あんまりこの社長好きじゃないんだよね。胡散臭いっていうか…業績は右肩上がりなんだけど、この会社の株は正直買う気しないんだ。僕が捻くれてるのかなぁ」
ひなたは、デトネラット社のCMを見つつ、株の動向を確認しながら言った。
ひなたが使っている株のアプリでもやたらとデトネラットが上位に上がるが、ひなたはデトネラットの社長から何か不穏なものを感じ取っていたのか、デトネラットの株を買った事は一度もなかった。
超常が起きて混乱の後、人々が平和を望み超常との共存を図り始めた頃、異能者の間で一つの思想が流行した。
抑圧ではなく解放を。異能の自由行使は人間として当然の権利である。
『四ツ橋主税』、彼は解放主義者を纏め上げ“異能解放軍”を結成。
自らを『現在を壊す者』デストロと名乗った。
法の整備を進める国と対立するも数年の拮抗の末敗北。
解放軍は解体され、メンバーの多くが捕まり四ツ橋は獄中での執筆活動の後自決。
四ツ橋に子供がいた事は、彼自身も知らなかった。
デトネラット社の社長は、水面下で動き始めていた。
そしてその夜、無事試験に合格し仮免を取得した轟と爆豪は、早速ひったくり集団を倒した。
◇◇◇
そのほぼ同刻、社長は4人の部下と共に食事を摂っていた。
切り揃えられた前髪で目が隠れた男『スケプティック』、オールバックの男『トランペット』、紫色の髪と水色の肌の女『キュリオス』、水色のコートを着た男『外典』がそれぞれ食事を摂る。
「闇市に流しているアイテムは全て……常時監視している。危なくなれば爆破させ跡を残さない。膨大な量の戦闘データが集まっているよ」
「商魂逞しいですね」
「解放活動の推進でもある」
すると、スケプティックが携帯を確認する。
「おっと…もう着いたそうです」
「早いな」
「『すぐ動け』と───あなたの言葉はデストロの言葉です。なかなか口を割らないようで……顧客リストを捜索しましたが見当たらず…本人曰くリストは全て消去したと」
「手際が良い!」
自動ドアが開き、ドアの向こうから黒服に取り押さえられボロボロになった義爛が連れて来られる。
「
義爛が椅子に座らされると、社長が義爛の前に立つ。
すると義爛は、吐き捨てるように喋り始める。
「へへ…マジかよ、驚きだ…俺に辿り着くたァどんな暇人かと思ったら…デトネラット社のハゲがお出ましとは。おっちゃんがよ、憤ってたぜ。俺が駆け出しン頃から世話ンなってるおっちゃんだ。正規の会社が市場荒らしてるってよォ」
「いくら欲しい?」
「商売ってのぁよ。面見てやるもんだよ。俺ァ俺が気に入った人間としか取り引きしねぇ。殴って人引っ張り出すよーな奴ァダメ。連合の事知ってよーが知らなかろうが、俺はあんたに何一つもたらさねえ。客売る売人がどこにいるってんだ。金玉から出直して来い!」
「君とは長い付き合いになりそうだ」
義爛がボロボロになりながらも笑ってみせると、社長は口角を吊り上げた。
◇◇◇
約一ヶ月半前、
連合がアジトにしていたのは、山奥の山荘だ。
以前のバーよりはいくらか劣るが、一応水道と電気は通っており、住めないほど劣悪な環境ではなかった。
Mr.コンプレスと一緒に物資の調達と情報収集に行っていた零は、調達してきた品を持ってアジトに戻ってくる。
「ただいま」
「あらおかえり」
「頼まれてたもの持って来たぜ」
そう言ってMr.コンプレスは、圧縮した品を解放する。
二人が持ってきたのは、3日分の食料と日用品、それから新しいサポートアイテムだった。
「やっぱ金ってあるとこにはあるんだな。零くん有能すぎておじさん参っちゃうね」
「そりゃどうも」
Mr.コンプレスが零を褒めると、零はどかっとソファーに腰を下ろしながら返事をする。
零は、以前から“個性”を使って
以前は黒霧の“個性”を使って頻繁に出稼ぎに行っていたが、今はその黒霧がいないため資金や情報の調達は困難となっていた。
だがそれでも、当分は困らないだけの貯金はあった。
買い出しの品を持って帰ってきた零は、出かける前と服装が変わっており、暖かそうな格好をしていた。
「ゼロちゃんどうしたのその服。ブカブカじゃない」
「落ちてたから拾った」
「剥いだんだろ」
マグネの質問に対して零がしらばっくれると、スピナーがツッコミを入れる。
零は、変装をして買い出しから帰る途中、女性と間違われてチンピラに絡まれたため、チンピラを殺して服を奪ってきたのだ。
一方でトガは、零が買ってきたダッフルコートを着て喜んでいた。
「わぁ! カァイイ! これ着ます!」
「トガちゃん似合ってるよ! 安物じゃねえか捨てちまえ!」
トガがコートを着て喜んでいると、トゥワイスはコートに付いていたタグを取ってやりつつ、トガを褒めた。
零がソファーに座ってサポートアイテムの調子を確認していると、スピナーが零に尋ねる。
「そっちは収穫あったのか?」
「いや、全然。痕跡消すのは世界一上手いんだよあのジジィ。ただ、一個気になる事があってな。デトネラットってあんだろ。あのキナ臭えハゲが社長の。あいつらが妙な動きを見せていてな。最近やたらと闇市にもデトネラットのアイテムが出回り始めてる。あいつらが出張ってくる前にアイテム買っておいて正解だった」
「……………へぇ」
零が言うと、死柄木は何かを考え込む。
以前からデトネラットはどこか胡散臭いと感じていたが、正規の事業が闇市に侵食し始めている
最近義爛からのアイテムの供給が滞っているのも気がかりではあった。
するとその時、仲間集めに行っていた荼毘が戻ってくる。
「あら、おかえり」
「何だ、全員お揃いかよ。律儀に仲間集め勤しんでンのは俺だけか」
「おめーは焼き殺して回ってるだけじゃねェか。一人でも連れてきた事あったか!?」
「ゴミしかいねェんだ。何の志もなくただ生きてるだけのゴミが多くてさ」
「人を見る目が無いのでは?」
「仲間集め? キャンプファイアーの間違いでしょ」
「てめぇらだけは黙ってろ」
荼毘、トゥワイス、トガ、零の4人が話していると、死柄木が口を開く。
「黒霧が捕まってもう一ヶ月くらいか。結局失敗しやがった。お陰でドクター探しも難航中だ」
「お守りの黒霧さんがいなくなって寂しいねェ弔くん。ねェドクターってどんな人なんですか?」
死柄木がオーバーホールから奪った“個性”破壊弾のケースを取り出すと、トゥワイスにネックレスをつけてもらっているトガが尋ねる。
「先生の主治医だよ。用心深い人で、アジトのパソコンでしかコンタクトを取れなかった。脳無の開発と管理もあの人がやってた」
「いくら用心深いっつったってよ━━、アピールしてくれてもいいのにな。仕え先の愛弟子が絶賛放浪中なんだぜ!?」
「そうよねぇ。せめて居場所のヒントくらいくれたっていいじゃない」
「寂しいの否定しなかった。弔くんは寂しいのです」
すると、今まで黙って見ていたスピナーが口を開く。
「…なァ、俺達一体どこに向かってるんだ? 俺はステインに触発されてここにいる!」
「「はぁ?」」
スピナーが言うと、死柄木と零が聞き返す。
するとスピナーが語り始めた。
「前時代的価値観の残る田舎で、トカゲ野郎と蔑まれ育ってきた。それが当たり前だと思っていた! 俺の心にはずっと、何も無かった。夕方の報道番組でステインの最後を見るまでは! 彼は世界を変えようとしていた! 一人で! あの時俺は初めて世の中が窮屈なんだと知った。居ても立っても居られなかった! そしてここにる!」
「何、急に熱くなって」
「何だ空っぽのコスプレ野郎じゃねえか」
「そうだよ俺ァスッカラカンなのさ! だからこのダラけた現状がわからねえ! どでけえ風穴ブチ開けられると思ってた! 答えてくれ死柄木! 俺達はどこに向かってるんだ!?」
スピナーが荼毘の言葉を肯定し、死柄木の胸ぐらを掴みながら叫ぶ。
死柄木が何かを言いかけた、その時だった。
「だから…じ…
ドドッ
突然地面が大きく揺れ、
外に出ると、地面がヒビ割れ何かが突き出そうになっていた。
「探した──…やっと見つけた。ずっと合図を待っていた。お前がオールフォーワンを継ぐ者か」
地面から声がした、次の瞬間だった。
ボゴォッ
「「「!!」」」
地面を突き破って出てきたのは、10m以上はある巨漢ギガントマキアだった。
「ちょっと、何よコレ…!?」
「……これが力かァ…!? 黒霧!」
「どういう事だよ」
「黒霧さんこんなの求めて旅立ってたのか!?」
「先生が遺してくれた戦力らしい」
すると、ギガントマキアは首から下げたラジオを落として
「俺は、オールフォーワンに全てを捧げる。さァ後継…その価値、お前に在るのか示してくれ」
「は?」
◇◇◇
そして数分後、
ボロボロの連合の前には、涙を流し、ボロボロになったMr.コンプレスとマグネを掴んでいるギガントマキアが立っていた。
「嘘だ──…小さすぎる……! 何故だオールフォーワン、あんまりだ…何故──…!」
「この…バケモンが…!」
零は血がドクドクと流れる額を押さえながらフラフラと立ち上がり、ギガントマキアを睨みつける。
その後ろでは、トゥワイスもボロボロになりながらも立ち上がろうとしていた。
「もうやめませんか……? ラウンド2行こうか!」
ギガントマキアは、Mr.コンプレスを投げ捨てると滝のような涙と鼻水を流して泣き出す。
「なぜ…あんまりだ──…主よなぜだァアアアア!!? 彼は、弱すぎる!!!」
「何だってんだよこいつは! もー訳がわからない!!」
『困ってるようじゃな、死柄木弔よ』
「ドクター」
「ドクター!? 探してたっつうドクターか!?」
『お友達も揃っとるようじゃな。元気かね?』
「ああ、ただ…一秒後にはミンチかも」
死柄木がそう言った瞬間、ギガントマキアは両拳を地面に叩きつけた。
すると地面が割れ、
ギガントマキアは、泣きながら嘆いていた。
「受け入れたいのに、ダメだオールフォーワン。俺にはこいつ、受け入れられない」
「何だってンだよ…!!」
『そいつはギガントマキア。かつてボディガードとしてオールフォーワンを支えた男じゃ。オールフォーワンが最も信頼する人間の一人。尋常ならざる耐久力を持ち、複数“個性”所持に改造無しで適応している。オールマイトに勢力を削がれ、敗北を予感したオールフォーワンはそいつを隠した。実に周到! お前を拾って数年後の話よ。自身がどうなろうとも、夢を、意志を、終わらせぬ為じゃ』
「そんな優しープレゼントには見えねえンだが気のせいか?」
『良い目じゃ荼毘よその通り! ギガントマキアは忠誠心が強すぎるあまり絶望しておる! かつての主と死柄木との落差に』
「気に入って貰えるよう頑張ろうってか?」
荼毘は、ギガントマキア目掛けて炎を飛ばしながらラジオに向かって尋ねる。
だが…
『それは無理じゃよ。今はな。どれ…』
ラジオからカチッと音がしたかと思うと、炎の中からほとんど無傷のギガントマキアが現れた。
「効いてないですよ荼毘くん!」
「あーもうこの役立たず!」
「黙ってろ燃やすぞ」
トガと零が言うと、荼毘が手から青い炎を放ちながら言い返す。
『マキア…』
ラジオから音声が流れると、ギガントマキアはラジオを抱えたまま動きを止めた。
そして、ラジオに頬擦りすると犬か猫のようにゴロゴロと喉を鳴らした。
『オールフォーワンの録音音声じゃ。これで落ち着いたじゃろう?』
「キッショ」
「要らんぞこんなん」
ギガントマキアの先程までとの温度差に、零と死柄木は引いていた。
するとドクターが死柄木に反論する。
『要らん!? この期に及んでまだ望めば手に入ると!?』
「あ?」
『黒霧と長く居過ぎたな。目を覚ませ』
「ドクター何だよ冷たいな」
『フム…少々待っとれ、よいせ…』
「何でしょ」
「要領を得ねえジジイだ。プッ、オエ…」
「仁くんゲップ汚いのでやめてくだ、ウプッ」
トゥワイスとトガがえずいたその直後、
「これはァ━━━!?」
『さてと、少し話そうか』
「くさい」
「オエッ、くっせぇ!」
「ここは……」
「何だこりゃあ?」
「中に何かいるわよ」
荼毘は、培養器に入った脳無のうちの一体に目を向ける。
「脳無…? これまでのと少し違う…」
荼毘が言うと、ドクターは嬉しそうに後ろを振り向いて言った。
「ほほうわかるのか差異が!! ほほうほほうやはり良い目を持っとるよ。そうじゃ違うんじゃ、この子らは中位下位とは違うんじゃよ〜〜ハイエンドじゃよ! より『マスターピース』に近付いたスーパー脳無じゃ! 凄いじゃろうこれまでとは違うんじゃよ!!!」
「ドクター。俺も頼みがあって、探してたある弾を複製して欲しい」
「髪が伸びたな死柄木よ! お父さん達は元気かね?」
「ああ」
「あれがドクター? 逆光で見えねえ」
Mr.コンプレスがドクターの姿を見ようとした、その直後だった。
「来るな!!!」
突然ドクターの叫び声が聞こえ、ドクターが椅子ごと
「ほっほ、すまんな。不用意に近付くな。いいな? 近寄る時はいつ何時もワシからじゃ。破ればすぐに元いた場所へ帰しあいつにミンチにしてもらう」
「うっぜ」
「自分で呼んだんだろ、変なジジイだ」
「話が進まねえ」
椅子ごと近付いてくるドクターに、零、トゥワイス、荼毘は呆れ返っていた。
「所在地を知られたくないので転送にて招かせてもらった。死柄木以外は初めましてかな? どこかで会っているかもな。ギガントマキア同様オールフォーワンの側近、氏子達磨じゃ。今適当に付けた名じゃ。さてと死柄木。招いてやったのはオールフォーワンに免じての譲歩故じゃ。ワシの命も技術もこの子らも、全ては偉大なるオールフォーワンに捧げたもの。お前は今までそのおこぼれに縋っていたに過ぎない。嫌っとるわけじゃない。ワシの為じゃよ。全てを捧げるに値するかどうか、見極めたいのじゃ。何も為していない、二十歳そこらの社会の塵がワシに何を見せてくれるんじゃ? 死柄木弔」
「俺は、先生とあんたに会う以前の事をよく覚えてない」
「ああ、よく知っとるよ」
「なのにだ。皆を身につけると、怒りが沸々湧いてくる。考えてたんだずっと。あの日からずっとさ。ちゃんと覚えてんのは先生に抱えられてから。それまで俺は空っぽだった」
「死柄木…」
「皆を身に付けると…不思議なんだ。胸がムカムカして吐きそうなのに、心がどこか落ち着くんだ。不思議だよな! 俺の中には断片的な映像しかないのに、なのに俺の心は鉛の塊が沈んでて、そこから怒りが無尽蔵に吹き出してくる! 全然スッキリしないんだ。ヒーロー社会が崩壊したとしても、裏の支配者になったとしても、この鉛が消える事はない。俺はきっと全部嫌いなんだ。息づく全てが俺を苛つかせるんだ。じゃあもう壊そう。一旦全部。あんたは世にも美しい地平線を見られるよ。だからドクター、手を貸せ。地獄から天国まで見せてやる」
死柄木が不気味な笑みを浮かべながら言うと、氏子はドッと笑い出した。
「まるで子供の絵空事!! 真顔で何を言うかと思ったら!! 良いじゃろう、力を貸そう。死柄木!! やってみろ!!
「え、チョロ」
「テンションおかしいな」
Mr.コンプレスと零は、やけにあっさり協力する事になった氏子に呆れ返っていた。
『全部壊す』という死柄木の言葉に、トガの顔からは笑顔が消え去った。
「弔くん、物騒な事考えてたのですねえ。ねェ、私の好きなものまで消しちゃうの?」
「仲間の望みは別腹さ。好きに生きてろ」
「やった!」
死柄木が言うと、トガはピョンピョン飛び跳ねて喜ぶ。
氏子は、
「ハッハッハッ、思ったよりトんだのう死柄木よ!!」
「てめぇ…吹っ掛けたな」
「どう成長したのか経過を見たかった! 元より協力してやるつもりじゃったよ。この子らもその一つ! そしてお前の為に研究も整えておる。ただし! 後者はまだ渡せない。お前達は弱い! これは事実! 最低限の格は身に付けてもらう。アレは純朴、ワシと違って心の底からお前を認めておらん!」
「?」
「ギガントマキア、アレを屈服させてみろ。その時お前に全てを捧げよう。欲しければその手で掴む事だ」
「ああ。全く長いチュートリアルだったぜ」
氏子がニンマリと不気味な笑みを浮かべながら言うと、死柄木も不敵な笑みを浮かべる。
そんな中、荼毘は乗り気ではない様子だった。
「俺は手伝わねーぞリーダー、勝手にやっててくれ」
「炎が効かないので拗ねてるのです」
荼毘がギガントマキア戦不参加を申し出ると、トガが荼毘を揶揄う。
「喋るなイカレ野郎。いい仲間が出来そうなんだよ。そっちに時間を使いたい。リーダーの心中なんざ知ったこっちゃねェ。俺は俺の為に動く。いいだろ?」
「紹介楽しみに待ってるよ」
「そんな事言ってまた燃やさないといいけど」
荼毘が言うと、死柄木は荼毘の方を振り向いて言った。
そのやり取りを見て、零は呆れたようにため息をつきながらそっぽを向く。
すると氏子は上機嫌で身を乗り出す。
「ならば荼毘にはハイエンドのテストに協力して欲しいのう!! 趣味が!! 審美眼がとても合う!! 接しやすい!!」
「話聞いてンのか」
「そんじゃ早速戻してくれよ。俄然やる気が湧いてきた」
「これから先ワシとの連絡はこれを使え!」
氏子は、アームで箱を掴み箱の中に入った小型無線機を
「さァジョンちゃん、彼らをギガントマキアの元へ」
氏子が小型の脳無の頭に取り付けられた装置をいじると、脳無は口から黒い液体を吐き出す。
黒い液体に包まれた
ギガントマキアと目が合った死柄木は、不敵な笑みを浮かべる。
「よう、未来の王様がご帰還だ!」
「王とは、畏怖され求められる者。強い者だ」
死柄木に声をかけられたギガントマキアは、ギロリと死柄木を睨みつける。
◇◇◇
そして時は現在に戻り、12月中旬。
「…っし…」
死柄木が息を切らしながら退くと、地面が割れギガントマキアが飛び出てくる。
ギガントマキアは、死柄木の身体を掴んで真っ二つに捻り潰した。
「弱い」
だが、ギガントマキアが握り潰したのはトゥワイスが作ったダミーの死柄木だった。
マグネは、トゥワイス、Mr.コンプレス、死柄木の三人に磁力を付与する。
「行くわよ、三人とも」
「浮いてりゃ」
「隙しかねェ!!!」
マグネに浮かされたトゥワイス、Mr.コンプレス、死柄木の三人は背後から一斉にギガントマキアに奇襲を仕掛ける。
だが…
「弱いっ」
ブアッ
「「「!!」」」
ギガントマキアが掌から衝撃波を放つと、三人は軽々と吹っ飛ばされた。
その様子を、トガ、スピナー、零の三人が遠くから見ていた。
「おーおーやってるやってる」
「未来の王様がピンチです!」
「いつもの事だ」
死柄木は氏子の協力を得る条件としてギガントマキアを服従させなければならないのだが、初めて対峙した時から一ヶ月半、ギガントマキアは全く死柄木を認めていなかった。
48時間と44分の間ギガントマキアは休む事なく攻撃を続け、その後約3時間の睡眠を取ると再び攻撃を始める。
戦闘時は身体が大きくなり、死柄木がどこにいようと必ず見つけ出す。
本人曰く耳と鼻が良いらしく、寝込みを襲っても即反応して返り討ちにしてくる。
死柄木は碌に寝ずに巨獣に命を握られながら、何故か笑っていた。
一方死柄木以外のメンバーは、離脱しても深追いされないため交代で休憩を取りながら死柄木の手助けをしていた。
「……お前、ステインが好きで来たんだよな。連合には最早ステインの影も無い。何故ここにいる」
スピナーが尋ねると、トガは不気味な笑みを浮かべて答える。
「ステ様も好き。出久くんも好き。ひなたちゃんも好き。お茶子ちゃんも好き! 私はたくさん『好き』に『なれる』といいのです!」
「……自由だな」
「僕は何でもいいんだけどさ…妹には手を出さないでよ。殺すよ?」
トガが笑顔を浮かべながら言うと、スピナーと零が言った。
◇◇◇
数時間後、ギガントマキアは地面に篭って睡眠を始めた。
荼毘以外の
「寝たか…! いつ飯食ってんだあの化物」
「とりあえず、まず手当てしないと…!」
「それと体力回復な。食え」
マグネは零が買ってきた衛生用品で死柄木を手当てし、零は死柄木にレトルト食品を押し付けていた。
トガは、満身創痍の死柄木に声をかける。
「弔くん生きてますか?」
「ああ! あいつ動きはすっトロいんだ。初めに比べりゃ大分近付けてる…! 必ず跪かせてやるあのゴリラ」
死柄木はボロボロになっていたものの笑みを浮かべており、その眼差しは夢を追う少年のようだった。
すると、その時だった。
プゥウ♪
「!」
突然、トゥワイスの尻から屁のような音が聞こえる。
「あれ? 義爛からだ」
「俺が何回掛けても繋がらなかったのに! ケータイどこから出した!?」
「きったねー着信音だなオイ」
トゥワイスが携帯を取り出すと、Mr.コンプレスと零がツッコミを入れる。
「あいつは俺を連合に紹介してくれた後も心配してくれてるんだ! とても良い奴だ!! てめぇ何でMr.コンプレスの電話出ねェ最低だなてめぇ!!」
トゥワイスが携帯をかけてきた人物に対して罵声を浴びせると、聴き慣れない声が聞こえる。
『ああそれは私達の所為だ。彼は悪くない。
「ボイチェン……?」
「──誰だ。義爛は!?」
『今、ニュース等チェックできる状況かい? すぐに見て欲しい!』
Mr.コンプレスが携帯を取り出すと、メンバー達は一斉に携帯を覗き込む。
『速報です。昨日に続きまた指が発見されました』
「指!?」
『指定
「俺達が現れた場所に……」
すると、トゥワイスの携帯から再び何者かの声が聞こえる。
『初めまして
「ヤクザの次は解放軍かよ…レトロブームでも来てんのか。何だか最近本が売れてんだっけ? あんまり流行りに流されんなよ」
『ハッハッハッ、押さえてるね! だが違うよ、流行を作った側だ』
リ・デストロが言うと、トゥワイスが携帯に向かって激昂した。
「楽しそうだな、義爛はどうした!? 目的は何だ!! あいつはとても良い奴なんだ!!」
『彼はここにいるよ、もちろん生きて。目的は異能の解放。人が人らしく能力を100%発揮できる世の中。既存の枠を壊し再建する事だ』
「それって…別に対立しなくねェか?」
「ヤクザの『名前貸せ』再び!?」
Mr.コンプレスが疑問を抱き、トガが露骨に嫌そうな顔をする。
死柄木も不機嫌そうにリ・デストロに言った。
「ブローカーを解放して掛け直せ。今は忙しい。用事が済んだら聞いてやるよ、革命サークル」
「それ自分達に返ってくるやつ」
「特大ブーメランだな」
死柄木が言うと、Mr.コンプレスと零がツッコミを入れる。
『ならばブレイクタイムがてら聞いてくれ。まず彼は解放しない。一応人質さ。君達は結束が固いと聞いている。彼は立派だよ。仕事に対する意識が高い。常に警察・ヒーローの目を警戒し闇に身を潜めてきたのだろうね。故に同じ闇からの追求には遅れを取った。讃えよう、顧客リストを完璧に消去した事。指を削がれても情報どころか呻き声一つ上げなかった事、無意味な抵抗を讃えよう! 我々解放戦士達は来たる日に向け準備を整えてきた! 何代もかけて! 耐えて耐えて根を張り備えてきた! 革命サークル!? そのジョークは好きじゃない! 潜伏解放戦士11万6516人、既に決起の準備は出来ている。自虐ジョークは好きじゃないな
「…ハッタリだろ…」
『──新潟か、ずいぶん山奥にいるんだね』
「トゥワイス、携帯!」
「チッ」
リ・デストロが言うと、携帯の位置情報で居場所がバレている事に勘付いたマグネが携帯を指差し、トゥワイスは携帯を投げ捨てた。
『もう遅い! 衛生カメラで君達をロックした。どこに行こうと居場所は筒抜け! 悪名高き
「予告アリとは優しいね! どうしたいんだお前ら」
『解放の先導者は“デストロ”でなければならない。君達は名を上げすぎた。我々の手で潰し、解放軍再臨の狼煙とする。“指”はその宣誓。まどろっこしい駆け引きなど必要ない。戦おう、異能を解放して、これからすぐ! 愛知は“泥花市”へ来るといい。来れば義爛は解放しよう! そして選ぶといい、私達と戦って潰えるか、ヒーローに捕まり潰えるか!! 死柄木!』
リ・デストロが高笑いしながら挑発すると、死柄木は『望む所だ』と言わんばかりに口角を上げた。