ドラえもんではなくそのすぐ後ろでした   作:ひよっこ召喚士

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ロボット改造大騒動!?

「……」

「……」

 

 目の前に居る相手に対して気を抜くような真似は元よりしないが、集中していないと一瞬でやられるのが分かるのが恐ろしい所だ。手加減せずに相手をしてくれてるという事は少なからず認めるだけの技量があると思ってくれてるのであれば嬉しいのだが、そこまでは分からない。

 

「はぁああ!!」

「とぉりゃっ!!」

 

 動き始めたのは同時であったが、私の拳は相手に届くことなく、相手の足が私の首元で止められていた。秘密道具で速度を上げていてコレなのだからまだまだという証拠だ。

 

「助かった王ドラ。感謝する」

「いえいえ、私にとっても良い修行になりました」

 

 しっかりとした武術を習得している相手と言うのはこれほどまでに違うのか、ロボットなので身体を鍛えるといっても馬力が上がる事はない。むしろ改造しているだけこちらの方が機体の能力だけで言えば上なのに負けたのだから少し悔しさすら感じる。

 

「すごいね。二人とも!!」

「うむ、見事な技であ~る」

「やっぱり王ドラの方が強いんだな」

 

 観戦していたドラえもんズの他のメンバーが決着と共に騒ぎ始めた。まぁ、普段からドラニコフを除けばやかましさの塊でしかない面々がよく黙って観戦してたものだ。ドラえもんとドラメッドの素直な賞賛とキッドからの少し棘のある言葉が耳に入る。

 

「それはそうですよ。私も練習はしていますが道具頼りの付け焼刃です。常に修行している王ドラには勝てませんよ」

 

「いつもの馬鹿みたいな修行も無駄じゃないってことか」

「でもボクたちロボットなのに修行って意味あるの?」

 

 エルマタドーラの感心したような声とドラリーニョの純粋な疑問の声が響く。ドラリーニョの声を聴いて、たしかに人間と違って体が鍛えられる訳でもないのになと疑問が広がって行く。

 

「同じ動きを繰り返す事でコンピューターであっても学習します。しっかりと動きを繰り返す事でより速く身体に動きをさせる事が出来る様になったり、誤差などをしっかり理解して動きの最適化をして行く事で技術は上がっていきますよ。まぁそれには地道な鍛錬と正しい知識が必要になりますけどね。私の改造や道具の使用法は邪道ですよ」

 

 そっかぁ、やっぱりちゃんと学ばないとダメなんだね。と納得が広がって行く中で何かを思いついたのかこちらに近づいてくる者がいる。なんだか嫌な予感がするので逃げようとしたが今回はその前に引き止められてしまった。

 

「邪道でもそっちの方が速く強くなれるだろ?俺たちも改造してくれよ」

「足が速くなったらもっとサッカーが出来るかな?」

「面白そうだな。おれにも頼むぜ」

 

 強さとかにあまり興味がないドラえもんやドラニコフ、そして武術ではなく魔法を修めているドラメッドなどは参加していないが、キッド・ドラリーニョ・エルマタドーラの3人が私を囲むように近寄って頼んで来た。

 

「ロボットの改造には申請が必要ですので出来ませんよ」

「えー、そうなの?」

「がっかりだぜ」

「待てよ。ハイドラはどういう理由で申請してるんだ?」

 

 このまま気付かずに話を終えられれば良かったが、こういった時にだけ頭の回転が早くなるのは何故なんだろうか。

 

「主に秘密道具の実験ですね。秘密道具の新たな可能性を探したり、道具同士の相性などを確かめたり、それらを元に新しい道具の開発や今ある道具の改善など研究の結果をレポートに纏めて提出し、一定の功績を上げているから許されているんです」

 

 提出したレポートのコピーや開発中の道具を見せながら説明を加えると見せて見せてとみんな近寄ってきた。道具の方は起動しないようにだけ注意して渡す。

 

「なるほどこれは……こうして分かりやすい差があると余計に悔しいです」

「うーむ、なんとなく凄いことは分かるであるが、これを読み解ける王ドラも、わがはいから見れば十分であ~る」

「僕なんてちんぷんかんぷんだよ」

「ガウゥ」

 

「じゃあよ、その手伝いとかで申請は通らねぇのか?」

 

「通るか通らないかで言えば通るでしょうね」

 

「おっ、それなら」

 

「やりませんよ」

 

「なんでだよ!!」

「改造してくれよ!!」

「ハイドラ~!!」

 

 道具の使用などで失敗することもあり、計画性のない行き当たりばったりなこの面子に改造なんて施して問題を起こさない訳がないでしょう。監督責任という言葉を知っていますかね?あなた方が問題を起こした場合に私も責任を問われるんですよ。問題の大きさにもよりますが下手したら資格の取り消しも在り得ますよ。

 

 とは言っても真っ向から否定するようなことを伝えればそんなことはない、馬鹿にするなと意地になるでしょうから改造できない理由を一つずつ伝えていく。

 

・改造は負担が掛かり、慣れていないと難しい

・申請が通るのに時間がかかる

・改造もタダで出来る訳ではない

 

「ハイドラは簡単に改造やってるじゃん」

 

「だから私は慣れてるから出来てるんです。秘密道具の事を一から百まで理解していないと身体に組み込んだ際に誤作動させてしまう事だってあります」

 

「慣れてる道具でやればできないのか、俺なら空気砲を使うとか、エルマタドーラならひらりマントとか、ドラリーニョは何だろうな。まぁ、だがそんな感じならどうだ?」

 

 本当になんで成績とは関係ない場所でこうも頭が働くのか……たしかに使い慣れてる道具であれば誤作動はある程度は回避できるだろう。とは言っても身体に組み込んだ際に普段とは違う挙動をする事もある物を制御できるとは思えない。むしろ普段との違いに振り回されるのではないだろうか……そもそもドラリーニョは組み込んだ道具の事を忘れるのではないか?

 

「申請にかかるってどれくらい必要なんだ?ハイドラってしょっちゅう改造やってるし、一年どころか一ヶ月も掛かんないだろ?」

「……審査を入れても一週間から二週間もあれば可能です。ですが良くも悪くも有名なドラドラ7のあなた方の申請が通るか分かりませんよ。それに最後のお金の問題はどうするんですか?」

 

 これに関して言えば苦し紛れだったから気づかれてもしょうがないでしょう。私自身、適宜改造を施していましたし、それを隠していませんでしたからね。ですが最後の問題についてはどうしようもないでしょう。お金に困ってるというほどではないにしろ。裕福とはとても言える者はいませんからね。

 

「友達だろ?まけてくれよぉ!!」

 

「友人だからと言ってお金のことに関してはしっかりしないとダメです。それこそ線引きをしっかりしなくては友情なんてなくなりますよ」

 

「お金なんてあんまりないよー」

「おれも年中金欠だしな」

「ぐぬぬぬぬ」

 

「これはハイドラの言う事が正しいであ~る。友達だからとズルズルしていれば碌な事にならないであ~る」

「ワァウ!」

「3人とも無理を言わないで諦めたら?」

 

 比較的常識的であるドラえもんたちがキッドたちを止めようとしてくれる。お金の問題は解決しようがないから流石に諦めるだろうと高をくくって居たら、思わぬところから反撃がきた。

 

「これくらいしっかりした研究であれば実験とかに補助金とかも出るんじゃないですか?治験とかと同じような試験役として出来るものがあればむしろ給金も貰えますよね」

 

「王ドラ!?」

 

 私が声を上げてそちらを睨むとつい考えが口から零れてしまっただけの様でしまった!?と王ドラも自分のやらかしに気付き、すぐさま申し訳なさそうな顔をしていたがもう遅い。場を濁すために聞かなかった事にしてその場から離れようとしたが私の服、白衣を掴まれ動けなくなった。

 

「ハイドラ君、そう言った制度があるんなら教えてくれても良いじゃないか。友達だろ?」

「実験とかで人手が居るんならおれ達が手伝おうじゃないか」

「手伝いが必要ならぼくなんでもやるよ」

 

 目をキラキラとさせてそんなことを言ってくる三人。本当に余計な事をしてくれたなと王ドラを睨む。後で何かしら代償は払わせてくれよう。そう思っていると何かを感じたのか身震いをして顔を青くしている王ドラの姿が見えた。

 

「改造の為であれば、なんでもするんですか?」

「おう」

「もちろんだぜ」

「やるやる~」

 

「分かりました。それでは申請などに必要な書類や準備がありますのでまずは書類の記入をしてください。私もやらないといけない事があるので、約束を忘れないでくださいね?」

 

 ()()()()()と言ってのけたのだからある程度の事は覚悟してもらいましょう。ええ、私に対してこのようなマネをしたんですからねぇ…ふっふっふっふ………

 


 

 あれから二週間が経った。毎日毎日、まだかまだかと訊いてくる二人はとてもうざかった。二人の声を聴いて思い出したかのように、というより思い出してワンテンポ遅れて訊いてくるドラリーニョも面倒でしか無かった。だが、それもこれでようやく終わるだろう。

 

「それじゃぁ改造を施しますよ。慣れている道具の方が良いためキッドは空気砲、エルマタドーラはひらりマントにして、ドラリーニョはこれと言って得意な道具が無く、サッカーの力を高めたいという事なのでポータブルピラミッドにしましたが大丈夫ですか?」

 

 三人とも頷いて楽しみな様子で手術台に寝転んでいる。しっかりと書類は提出してもらいましたし、根回しも間に合いましたから存分に楽しんでもらいましょう。

 

「それでは一度スイッチを切りますよ。目覚めたら改造は終わってますので」

 


 

「んあ、ふわぁ」

「あれぇ」

「……手術は終わったのか?」

 

 目が覚めて辺りを見渡してもハイドラの姿がない。身体をざっと動かしてみても分かりやすい変化はなく、どういう事だと首を傾げていると机の上になにやら紙が置かれていたことに三人は気づき、手を伸ばして代表してキッドが読み上げた。

 

 

【改造手術は無事成功しています。みなさんの身体に無事、それぞれの秘密道具が組み込まれているのでご安心ください。普通の秘密道具と使い方などが変化していますので注意点も含めて説明します】

 

 

キッド

 

・空気砲と空気ピストルの薬を合わせたような物を体内に仕込みました

・ドカンと撃つと意識しながら口に出す事で体から空気砲を放つことが可能です

・いつもの空気砲をつけたまま撃つことで威力をあげたり、連射することも可能です

・腕だけでなく足や背中などから撃つことも可能です

・薬の分泌量は意識して調節が可能ですが容量には注意が必要です

 

 

 

エルマタドーラ

 

・ひらりマントの特性をそのまま体に付与しました

・ひらりと意識して言う事で効果は発動できます

・また、直接的に触れる物を自動で弾く効果もあります

・また、効果範囲が広がっています

・上記の対策として何に対して使うのか指定を細かく出来ます

・跳ね返しや反射の基点を変える事も可能です

・オンオフは可能になっているので落ち着いて使用してください

 

 

ドラリーニョ

 

・全体的に能力が強化されています

・得意な物はさらに得意になっています

・力加減などに気を付けてください

・いつもと同じ加減で動くと危険です

・くれぐれも忘れないようにこの紙を持ち歩いてください

 

 

「へぇ、なるほどな。ドカン!ドカン!おっ、すげーな。空気砲と合わせるといつも以上の早撃ちが出来そうだぜ。足から発射か、ドカン!ぐへっ!?天井がある所でやるもんじゃねぇな……」

 

 腕から直接発射される空気砲と腕に付けている『空気砲』から放たれる空気砲でいつもより短い間隔での連射が楽しいキッド、紙に書かれていた例を見て足からの発射を試すと天井に頭をぶつけて顔が潰れていた。その際に意識がおろそかになったのか腕についている『空気砲』から放たれた空気砲がエルマタドーラの方に飛んで行った。

 

「うぉっとあぶねぇなキッド!?お前が体勢崩した時にこっちに空気砲が飛んできたぞ!?身体から放つのと空気砲から放つのとしっかり意識しろよ……にしても間に合わないと思った時には弾けてたな。こりゃ闘牛じゃ負けなしだな」

 

 予想外な攻撃に加えて、同じ部屋のとても近い距離から放たれたそれに衝撃を覚悟して身を固めていたエルマタドーラであったが身体に当たる直前に空気砲はそれて別の方向に飛んで行った。

 

「みてみて、いつもより体が軽いよ。わぁい、ボールが自由自在だよ。いけ、シュート!!」

 

 部屋の中をいつもより速く動き回っているドラリーニョ、速すぎるせいか声がダブったり、遅れて聞こえてくる時もあった。そのまま勢いで得意のサッカーを披露すると部屋の壁や床に乱反射してキッドやエルマタドーラを襲う。

 

「危ない、ドカン!!ふぅ、移動にも使えそうだなこれは、反動なら普段から味わってるし調整くらいわけないぜ。ドカン!」

 

 体の横から空気砲を発射して素早く移動して飛んできたサッカーボールを華麗に避けて見せた。そして跳ね返って戻って来たボールをそちらに向き直らずに空気砲だけを発射して勢いを止めて見せた。

 

「こっちにもボールが跳ね返って来たぞ。にしても今の動き、ボールの勢いを利用して俺が動いたのか。こりゃ面白い事が出来そうだ」

 

 エルマタドーラは基点を変えるという追加機能でボールを弾くのではなく、ボールの運動エネルギーを利用して自分を移動させてボールを避けて見せた。文字通りひらりと避けて見せたエルマタドーラはその動きを何かに使えないかと想像を巡らしている。

 

「あははは、二人ともごめん……」

「気を付けてくれよ。っと紙に続きがあるみたいだな」

 

 

【追伸、改造後に目覚めるまでに時間がかかるでしょうから学校側には連絡済みです。目覚めてから授業に参加してくれれば大丈夫になっています。私は普通に授業があるのでここを離れますのでそのようにお願いします】

 

 

「へぇ、アフターサービスまでばっちりか、流石ハイドラだぜ」

「てことはよう。いつ改造が終わったかなんて分からないんだし、このままこっそり能力を使って遊ぼうぜ」

「わぁ、楽しそう。やるやる」

 

 それぞれが改造で手にいれた力を試そうとバレない内にと部屋から抜け出した。流石に校外に出る様な真似はしなかったが授業をサボって遊びに行く事には変わらず。また、その姿をカメラで監視している視線に気づくことはなかった。

 


 

「わぁい、狭い場所だと危ないからグラウンドに行こっと」

 

 そう決めるとサッカーボールを蹴りながら駆けだしていき、途中でその手に持っていたメモを落としていったが、何かを手に持っていた事すら忘れて止まることなく、走り続ける。

 

「あれ、なんで走ってたんだっけ?」

 

 急に走っていた目的を忘れたドラリーニョはその場で足を止めた。すると制御を失ったサッカーボールが飛んでいき、学校の校舎の方へ飛んでいき、窓ガラスを盛大に割った。

 

「あれ、さっきまで何かあった気がするけど、なんだっけ?」

 

 『ポータブルピラミッド』、小さなピラミッドの模型で、これを頭の上に乗せると、その人が持っている様々な能力を高めてくれる。様々な能力を高める機械であるが、それを機体に組み込んだせいか物忘れの酷さにも拍車がかかってしまったようだ。

 

「あ、居たぞ。ドラリーニョだ!!」

「壊れた教室をどうしてくれるんだ!!」

 

「えっ、えっ、なんのこと。ぼくしらないよ~!?」

 

 そう言いながらも相手の必死な形相からヤバいと思ったドラリーニョは身体機能の調節など完全に忘れて全速力でその場から駆け出した。風が舞い、辺りの物を全て吹き飛ばし、地面を少し削りながら縦横無尽に走り回るドラリーニョ。

 

「あははは、凄い、凄い、なんでぼくこんなに速く走れるの?あはははは、ははははは、わぁい!!」

 

 楽しさだけを味わいながら止まり方も自分が誰かも忘れながら走り続けるドラリーニョ。彼が走った後ろには破壊された跡と弾き飛ばされたロボットが積み重なるばかりであった。

 

【身体機能の上昇、技術の向上は確認されたが機体の特性、特徴なども強化されている。被検体、ドラリーニョは記憶障害が進行し、全てを忘れて暴走。性格などを含めた特性の中で不安点のない者にしか使用は不可能だろう。ただし、『いいとこ選択肢ボード』などを利用して欠点を緩和することができれば有用な使い方が出来るかもしれない】

 

 


 

「こんな良い能力が手に入ったんだ。存分に試さないとな。おもちゃだけどこれでも使ってみるか『立体インベーダー』」

 

 『立体インベーダー』未来の世界ではありふれてるシューティングゲームであるが、専用の銃以外にも反応するように設定すると道具が無くても複数人で遊べるようになるという裏技があり、キッドは設定を決めると当たり前のように難易度をマックスにしてスタートした。

 

「ドカン!ドカン!ドカン!ドカン!ドカン!」

 

 最初から大量に迫ってくるインベーダーたちに対して連続で空気砲をお見舞いするキッド、慣れてくると反動を相殺するように背中からも空気砲を放ったり、反対の腕からも飛ばしたりも始めた。

 

「ははっ、空中移動、回転撃ちだ。ドカン!両腕から同時に行くぜ。分泌量アップ、スペシャルドカン!!」

 

 迫りくるボス個体である宇宙船を分泌量をアップして無理やり空気砲の威力を上げて一撃で倒すと楽しそうにまだまだ湧いてくる敵を倒している。だがやはり最高難易度となると難しいものがあるのか、多すぎる数と硬いボス個体の複数登場に焦りが見えてくる。

 

「ちくしょう、数が多いな。新記録は更新できたがまだまだいける。こんなところで止まってられるか!!分泌量をアップだ。連続ドカンだ!!うわぁっと、なっ、なんで、違う、腕から出すんだ。ギャッ!?ダメだ腕からだけじゃバランスが取れない、うわっ!ゲッ!?ごべっ!?ギャー!?誰か止めてくれぇえええ!!ひぃい高い所こわ~~い!!!」

 

 分泌量を上げ過ぎて空気砲の威力を制御できなくなったキッド、しかも制御できるかを確認する前に連続で撃ち始めてしまったために身体をあちこちに打ち付けながら飛ばされていき、空高くにあがってしまったキッドは高所恐怖症で我を忘れて空気砲を無駄打ちしながら空を飛び続けた。

 

【五倍くらいまでであれば容量をオーバーしても大丈夫であるが反動などを考えると三倍ぐらいでリミッターをつけるべきである。姿勢制御などが可能なように全身ではなくどこから空気砲が発射されるかある程度、場所と方向を決めておいた方が汎用性はなくなるが安全性にはよし。使用者が慣れていたために問題が無かったが動きについて行けずに酔ったり、身体を壊す可能性も考えられる。『がんじょう』や『万病薬』を事前に処方するか『バランストレーナー』で訓練を受けるか、『バランスローラースケート』や『ウルトラバランススキー』などの姿勢制御装置を組み込んだ方が良いかもしれない】

 

 


 

「これはもう『闘チュウ』なんかじゃ我慢できないな。闘牛を試すしかないだろ。とは言っても学校からでればバレるしな。『実感帽』で代用するか」

 

 かぶって欲しい物の姿を思い浮かべると、その幻が現れる。細かく思い浮かべる程、形、重さ、味、臭いなどが忠実に再現される。闘牛の事であれば簡単に想像ができるのでエルマタドーラの視界の中には『実感帽』によって生み出されたエルマタドーラ専用の牛たちが群れを成して現れている。

 

「ひらり!ひらり!ひらり!こんなもんじゃないだろ!!もっと来いよ!!」

 

 次々に襲い掛かってくる牛をひらりと避けたり、ひらりと弾いたり、牛の突撃に合わせて自分で発動していた。たまに意識できなかった物も勝手に発動し、牛を動かしたり自分を動かして気付いたら回避している。調子にのったエルマタドーラは次々と想像の牛を生み出して闘牛を楽しみ始めた。

 

「ひらり!ひらり!ひらり!ひらり!ひらり!、ぐえっ、なんで、身体が勝手に、牛を弾けよ、ばか、こっちに避けたら、うべぇ!?か、顔が、潰れ、お前らと、止まれ!!??これ以上突っ込んでくるな!!うわぁあああ!!」

 

【おそらく『実感帽』にて想像の牛を創造し、闘牛を始める。牛の数が捌ききれなくなり自動発動が多発、発動中にさらに発動することで切り替えに誤作動が生じ、牛を弾くのでなく、自身の移動が多発、自ら突っ込んでいくために壁への激突は防げず、さらなる牛の突撃により壁や天井を壊しながら動き続ける。『実感帽』をかぶったままのため、意識消失時に闘牛の夢などを見れば状況はさらに悪化するだろう。意識による発動により、認識系の道具と効果が重なり被害が増加する。自動発動をきれば牛の衝突をもろに受けるために解除も不可能……自業自得ですが『実感帽』は厄介ですね。永続性もあり、他の人には認識できないから解除が難しい。他の二人もそうですが仕事を余計に増やしてくれますね】

 

 


 

「あははっはは、あはっははは」

 

 笑いながら走り続けるだけのロボットになり下がったドラリーニョ。しかし、その優れた運動神経も合わさって誰も止めれずにいるといきなりドラリーニョが方向を変えて一直線に進み始め、スポンと何かに吸い込まれた。

 

「『万能わな』に『てまね木』『カムカムキャット』などの思考誘導、身体操作系を組み込み、万が一の対策で『吸い寄せ磁石』のスイッチを切らない限りわなの中から出れない様に設定。私特製道具【お手軽誘導捕獲機】です」

 

 わなの中を覗き込んでみると磁石の磁力に捕らわれながらも走る事を辞めずに、金魚鉢の見た目をしたわなの中で未だに走り続けていた。

 

「はぁ、【改造版いやなことヒューズ】起動!!」

 

 『いやなことヒューズ』、本来であればこれを襟首に付けておくと、嫌な事があった時にヒューズが切れて何も感じなくなり、体の動きや脈も息も止まって15分後には元に戻るというその場を凌ぐための道具だが万が一の為に改造時に取り付けておいた。

 

「さて、次はキッドですね」

 

 ロボット学校の上空を飛び続けながら空気砲をハチャメチャに撃ち続けている。そのために簡単には近づけず、誰も対処が出来ない状態に陥っていた。

 

「学校の被害はまぁ良いですが、他のロボットも危険そうですね。台風ネットを改造して空気砲を防げるようにして学校を覆う」

 

 本来であればその名の通り台風から町などを守る道具だが、風を防ぐ効果を利用すれば空気砲封じに改良するのは簡単だった。なので同じように風に作用させられる道具を使って対処を進める。

 

「『台風トラップと風蔵庫』に『気候集中装置』を組み込んでっとよし、これで、空気砲を吸い込めるな。後はアイツ自体を捕まえないとな。特製【捕獲ミサイル】発射!!」

 

 『見せかけミサイル』と『ハッタリバズーカ』に『ナゲー投げ縄』と『御用セット』の縄を組み合わせた【捕獲縄】を搭載し、『サイコントローラー』の機構を利用した思考誘導で確実にキッドにぶつける。見せかけの為に威力は無いが、縄を相手に届かせるには十分だ。ミサイル自体はキッドの近くまで行った所で空気砲の一つを受けて迎撃されたがキッドは飛び出した縄にがんじがらめになって落ちて来た。

 

「た、助かったのか?」

 

「助かったじゃないですよ。注意を守らずに暴走させて、貴方も元に戻るまで眠ってなさい【改造版いやなことヒューズ】!」

 

 強制的に意識を堕とさせると『どこでもドア』を開いて改造を施した手術室に放り込んだ。さて、最後はエルマタドーラなのだが、どうやって止めようか思考を重ねる。

 

「『実感帽』なんて厄介な物を使ってくれましたね。本当に……あれは他の人は干渉できないというのに」

 

 実体のない存在を消すなんて幽霊を退治するようなものだ。どうしたものか……まず被害を抑えるためにエルマタドーラを回収する必要があるな。だがそれは【捕獲ミサイル】があれば簡単にできる。何なら今回はキッドの空気砲と違って牛には実体がないからミサイルを破壊されることも無い。

 

 にしてもどうするか……『もどりライト』で元の空想に戻ったりはしてくれないだろうな。そもそも実体がないから光は当たらないだろう。光さえ当てられれば可能かもしれないが……実体を与える事は出来るか?

 

 『イメージ実体機』で既に作られてる幻を実体化させる。改良を施せば可能だろうけど『イメージ実体機』を大量に使った際にかかる費用は流石に研究費で落とせないだろう。もちろんエルマタドーラに払えるわけがない。

 

 干渉するためにエルマタドーラとイメージを共有する。『テレパしい』を利用すればうまくいくだろうか?それとも『異説クラブメンバーズバッジとマイク』とかの方が確実か?いや余計に想像が広がって手に負えなくなるだけだろう。

 

「誰かに夢を見て貰って、エルマタドーラを追いかけているみたいだから『ユメプロジェクター』と『ユメスクリーン』から夢の世界に牛を誘導して『夢破壊砲』で夢ごと葬るか?うん、それなら想像物と夢で干渉させることは出来そうだ」

 

 そうと決まれば早めに動くとしよう。まずは被害を防ぐためにエルマタドーラに向けて【捕獲ミサイル】を発射!直接当てたり狙えないが、エルマタドーラの周囲を囲う様に縄を網上に展開して待っていれば捕まえることはできる。

 

 そしてすぐに『実感帽』を回収する。そして、エルマタドーラを狙わせない様に逃がしながら夢の準備を進める。三人の被害で気絶している人も居るので『夢風鈴』で一番近い眠っている人を呼び寄せて協力してもらう。

 

「『ユメスクリーン』と『ユメプロジェクター』を起動!エルマタドーラ、とりあえず夢の中に潜ってこい!!『ユメ監督いす』で補助はしてやる」

 

 そういってスクリーンの中に叩き込むと慌てながらも必死に夢の中を駆け回り、想像の牛たちはどうやら夢の中に納まったらしい。そして、エルマタドーラが夢の中から帰って来た瞬間に『夢破壊砲』を放って夢を壊し、牛は消し去る事が出来た。

 

「た、助かったぜ」

 

[ピンポンパンポーン、最後の訓練が終了しました。参加した生徒も避難した生徒もお疲れさまでした。これよりロボット学校は修復作業を開始します。1時間の休憩後、通常通り授業を再開します]

 

「へっ、訓練?」

「【改造版いやなことヒューズ】……ふぅ、あぶないあぶない、種明しは最後にやらなくてはつまらないだろう。さて、とっとと改造した部分を元に戻すとしよう」

 

 

 


 

 

「「「はぁ!?学校全体での訓練と実習の時間にした!!??」」」

 

「ああ、君たちが暴走しない訳がないからね。ならば最初から暴走しても良い状態にしてから改造してやれば良い。学校を借りるのに苦労したが、暴走した後で直ぐ直せるように『ムシャクシャタイマー』を『ビッグライト』で巨大化させて学校全体を効果範囲にして、通常の生徒は暴走が始まったら避難の訓練だが誘導ロボットや警備ロボット、レスキューロボットなどそういった災害時に役立つロボットたちは君たちの暴走に対してどう動くのかを見る実習試験として役立てたのさ」

 

 暴走した時のデータや一般のロボットがそう言った秘密道具災害に巻き込まれた際の対処法など、暴れ具合などもカメラで撮影してあり、実習とは別に通常の授業でも使われることになる。良かったじゃないか卒業前に有名ロボットになれるよ。暴走ロボットや秘密道具災害の例としてだけどね。ロボット学校だけじゃなく、警備会社やタイムパトロールの研修でも役立つだろうよ。

 

「おれたちを実験台にしたのか」

 

「元からそう言う約束だろう。それに別に制御できない不良品を渡したわけではない。ドカン!ひらり!っとね?」

 

 そう言うと私は自分の身体から空気砲を撃って見せたり、わざと自分に向けて跳ね返した空気砲で素早く移動して見せたりと技を披露してみせた。

 

「そもそも簡単に強くなる方法なんて無いんだよ。どんな方法であっても才能か努力は必要になる」

 

「へっ、天才様の言う事は違うね」

 

「ほぉ、その言葉は私が休みの日を潰して訓練や実験に使ってるのを知ってて言ってるのかな?お前たちが旅行だの遊びなどに出かけている間も私は努力をしている。無理を言って申請が通るようにし、暴走しても問題にならない様に準備をしてやった挙句に勝手に嫉妬されても呆れる事しか出来ないな」

 

「うぐぐ、悪かったよ。無理を言って」

「もう改造してなんて言わないから許してくれ」

「ごめんなさ~い」

 

 そう言って反省する三人を見て私は笑って許してやる。別に好き勝手言われてもしょうがないとは思っている。努力しているのは本当だが、私には知識と言うアドヴァンテージがあるのは事実だしな。それに罰はまだ終わって居ない。

 

「別に良いさ。さて、残った仕事などはしっかりやっておくんだよ」

 

「「「仕事?」」」

 

「ああ、手伝いを申請したんだから君たちにもレポートの提出の作業があるに決まってるだろう。既定の用紙と書き方をまとめた物は私が用意しよう。これだけの規模の実験だからねざっと一人、30ページは必要だろうね」

 

「「「30ページ!!??」」」

 

「ああ、しかも最低量だし、内容が伴わなければ必要枚数は増えるからね。それと授業に出なかった分の課題があるからね」

 

「はぁ!?授業は出なくてもよくなったって」

 

「私は目が覚めてから参加すれば良いとしか書いてませんよ。参加できなかった分は課題を提出しないと欠席になりますからね。さぼって遊び始めた件は先生方もご存じなので課題の量は覚悟しておくことですね」

 

「そんなぁ、あんまりだぁ~~!!!!」

 

 私からの宣告に三人は暴れた疲労とこれからの苦労を思って人目も憚らずに泣きだして、悲痛な叫びをあげた。それを遠巻きに見ている他のメンバーも今回ばかりは助ける事はしなかった。

 

「全部ハイドラの掌の上だったね」

「簡単に強くなれるなどと考えた良い罰ですよ」

「これで少しは反省すると良いであ~る」

「ワゥワゥ」

 

 

 


 

 

登場した秘密道具

 

 

 

『見せかけミサイル』

 

脅かすためのミサイル。

 

 

『ハッタリバズーカ』

 

脅かすためのバズーカ。

 

『サイコントローラー』

 

これを握って心の中で思うだけで、脳波制御によって思い通りにロボットを操作できる。

 

 

『ナゲー投げ縄』

 

この縄に命令すると、どこまでも縄が伸びて何でも取り寄せる事ができる

 

 

『御用セット』

 

十手、提灯、縄のセット。逃げる相手に目がけて縄を投げるだけで、見事に捕まえることができる

 

 

『台風トラップと風蔵庫』

 

台風の一部を捕まえる道具。これを台風による暴風の中で広げ、『風蔵庫』のバルブに接続して溜める。

 

 

『気候集中装置』

 

1㎞四方の天気を、ホースで囲んだ中にまとめることができる。強弱も調節できる

 

 

『台風ネット』

 

目に見えない網のようなものを出して、台風から街を守る

 

 

 

『実感帽』

 

この帽子をかぶって欲しい物の姿を思い浮かべると、その幻が現れる。他の人には見えない。細かく思い浮かべる程、形、重さ、味、臭いなどが忠実に再現される。帽子を脱いでも効果があり、かぶったまま夢を見ると、起きても幻で出てきてしまう。

 

 

 

『イメージ実体機』

 

相手のイメージを形にする機械。心の中を探って望みを突き止め、必要な分子を集めてきて、そのイメージを実体化することができる。使用料がすごい高く、ドラミでも1度きりしか使えない。

 

 

『もどりライト』

 

このライトの光を当てた物は元の姿に戻る

 

 

『異説クラブメンバーズバッジとマイク』

 

マイクに自分の考えを喋ると、バッジを付けた人はみんな同じ考えになる。

 

 

『テレパしい』

 

この実を食べると、喋らなくても頭の中で思っている事が相手に伝わる。しいの木の実でできている。何でもすぐに相手に伝わってしまうため、心の本音がそのまま伝わってしまう。何も言わなくても分かるだろうと思っている人を懲らしめる道具。

 

 

『いやなことヒューズ』

 

これを襟首に付けておくと、嫌な事があった時にヒューズが切れて何も感じなくなる。体の動きは止まり、脈も息も止まるが、15分後には元に戻る。

 

 

『夢風鈴』

 

眠っている人を眠らせたまま呼び集め、自由に操ることができる

 

 

『ユメスクリーン』

 

ユメプロジェクターから出る光を映像として映し出すもやもやとしたスクリーン。これを見ながら『ユメ監督いす』で夢を操作できる。このスクリーンに映る夢の中から出入りする事もできる。

 

 

『ユメプロジェクター』

 

夢の中を見たい人にアンテナを向けて距離を調節し、『ユメスクリーン』に映し出すプロジェクター。

 

 

『夢破壊砲』

 

人の夢を消してしまえる大砲。

 

 

『ユメ監督いす』

 

これに座ると、人の夢にあれこれ口出しできる。「カット!!」と言って話を中断させたり、配役はもちろん、話の成り行きも自分の好みに変える事もできるが、相手も夢の中で思いのままなので、なかなかそう簡単には行かない。

 

 

『ムシャクシャタイマー』

 

ムシャクシャした時に壊した物は、このタイマーをひっくり返せば元に戻る。ただし、元に戻るのは4回までで、5回目からは効き目が無くなる。中に入っている砂は、実は『全体復元液』を砂にコーティングしたもの。何かを壊してこのタイマーをひっくり返すと、砂が落ちる中央のくびれ部分で、容器との摩擦によって復元波が発生する。すると、壊した物が元に戻る。

 

 

『ビッグライト』

 

スイッチを入れると発光し、その光を物体に当てると、一定期間その物体を大きくする事が出来る。

 

 

 


 

 

オリジナル道具

 

 

【空気砲の薬】

 

空気ピストルの薬の空気砲版。

ドカンと言うと空気の塊が手から発射される。

 

 

【改造版いやなことヒューズ】

 

いやな事がなくても発動可能なヒューズ。

暴走を予想していたハイドラによって取り付けられた。

強制遠隔緊急停止装置。

 

 

【捕獲縄】

 

命令通りに伸びる『ナゲー投げ縄』と悪人を捕まえる『御用セット』の縄を組み合わせた捕獲用の縄。

 

 

【捕獲ミサイル】

 

『見せかけミサイル』『ハッタリバズーカ』『サイコントローラー』『ナゲー投げ縄』『御用セット』を組み合わせて作り上げられた捕獲用のミサイルで命令通りに伸びる『ナゲー投げ縄』と悪人を捕まえる『御用セット』の縄を組み合わせて強化した【捕獲縄】を搭載している。『見せかけミサイル』と『ハッタリバズーカ』によって遠くに居る相手にでも届ける事が出来る。遠隔でも操作できるように『サイコントローラー』の機構をバズーカの部分に組み込んでいる。操作できるのはミサイルの軌道と罠の挙動である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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