上位者少女が夢みるヒーローアカデミア   作:百合好きの雑食

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0話 トガヒミコは2人います

 

 

「私は、()()に生きるのです」

 

 

 それが、最初に浮かんだ願い事だから。

 

 私の望み、本心、目指すものは、そんなささやかな、だからこそ私という人間には難しすぎる在り方で、自分で口にしながら、あまりの無茶無謀ぶりに笑みがこぼれてしまう。

 

「? 私は普通に生きていますよ」

 

 ……ああ、嫌ですねぇ。

 もう一人の()と分かり合える気がしない。向かい合ってお茶をしているだけで、心臓にチクチクと不快感を覚えている。

 

 以前までの私なら、そして目の前の()なら、自分ではなく世界が悪いのだと、そう言うのでしょう?

 

 現実の生き辛さに耐えきれず、世界そのものを変えてしまおうと間違えた結果、血に濡れていた可能性すらある。普通なのに普通になれない、仲間外れの誰かを探していたかもしれない。

 

 でも、と。私はもう違うのだと顔をあげて目の前の()を睨む。一般的に不気味だと言われる()の楽し気な笑顔に、胸がざわめく。

 

「……あはっ♪」

 

 輸血液入りの紅茶を飲みながら()が、そんな私の表情がおかしいと余計に笑みを深くする。

 

 見た目だけなら、全く同じの、同じだった筈の私達。

 すでに人では無く”上位者”として成った私達はあの悪夢を終わらせた。その流れで、()は夢の住人達にとってのヒーローになった。……そう、だから。

 

「……。私だって、ヒーローになるのです」

「はえ?」

 

 ()の目が丸くなり、流石に驚いたのか口をぽかんとあける。

 

「ヒーロー、ですか? ヴィランじゃなくて? どうしてそこでヒーローなんですか?」

「……私の癖に、分からないんですね」

「分かる訳ないですよぉ! 分裂した時に、そっちに多めに人間性あげたんですよ? 同じだけど個体差はあるんですからね!」

 

 ぷんすこと怒る()に、視線を逸らしながら口を開いて、閉じる。

 やっぱり、()にとはいえ、正直に話すのは嫌です。

 

 夢の支配者である()。得体の知れないへその緒をつかい上位者へと成り、永遠に終わらない夜に安定をもたらした私達。現実で寝ている私の事を気まぐれに思い出して分裂し、二つに別たれたもう1人の()

 

(……夢の私が、誰よりも“ヒーロー”なのが、ずるっこなんですよ)

 

 私より“悪”なのに。なんか、ちがうじゃないですか……!

 

 実際に、善性は私の方が多めに貰っている。上位者として幼体になったばかりの私達は、そんな危うい状態で二つに分かれたのだ。その時に、私の方に善性を。()の方に悪性を。多めにわけて分かりやすくした。何かを考えての事では無く、私達は、ただ何となくそうしたかった。

 

「……頭がおかしいんです」

「自画自賛ですか?」

「違います。死んでください」

「……あっちの私は良い子ちゃんなのに、トガには口が悪すぎです」

 

 しくしくと、わざとらしい泣き真似にイラッとする。

 すでに私と()は人間では無く、上位者と呼ばれるナニカであり、恐らくだが不死である。つまりは人間社会で生きて行くのは無謀であり、それを()も理解しているからこそ、泣き顔の下で面白そうに私を見つめている。

 

「……ヴィランは、こそこそ隠れなくちゃいけないのです。私は、お日様の下がいいんです!」

「ああ、それはそうですねぇ」

 

 雑な説明で、()はあっさりと納得してくれた。

 呪われたヤーナムの夜を延々と繰り返していたからこそ、お日様の下が恋しい気持ちを理解してくれる。

 

「…………」

 

 幼い日、本来なら何も無かった筈のあの日に、私達の運命は変わってしまった。

 

 あの日、校舎裏に呼び出されて、知らない子にコップ一杯の血を貰った。

 寝る前に変身してと、必死な様子で懇願されたから、血のお礼のつもりで大きく頷いた。だから……寝る前に変身したら、病院着を着た青白い顔の女性に変身して(誰だろう?)と思いながら、口の中に広がる味にうっとりして、幸せな心地で眠りについた。……それが、終わらない夢の始まりになるなんて想像もしないまま、当たり前に日常は崩壊した。

 

 

 獣狩りの夜は……―――良い意味でも悪い意味でも、私に最高の悦楽を与えてくれた。

 

 

 眠る度に続いていく終わらない夜を、心底から喜び楽しんでいた無邪気で幼かった己に、苦虫を噛み潰す心地で紅茶を飲み下す。

 多少の善性と脳に宿る瞳が……自分がどれだけ普通ではなかったかを、客観的に見せてくる。

 

「? 人形ちゃんの紅茶、お口にあいませんか」

「……美味しいですよ」

「なら、もっと美味しそうな顔して飲んで、にっこり笑いましょうよ~」

「……私は、笑いたくないんです」

 

 不気味な顔になるだけだと、余計に顔を顰めてしまう。

 それに、人形ちゃん、と呼ばれる狩人の夢にいる、精巧な人形として形作られた彼女の事を思い出して、余計に顔がひきつっていく。

 昔は、色々な意味でお世話になった彼女が……今はとても苦手だ。

 

「……そっちの()は、相変わらず人形ちゃんと仲良しさんですね」

「えへへ~♪」

「……気色が悪いです、死んでください」

「あ、もしかして嫉妬ですか? ヤキモチなんて可愛いですね~」

「……」

「無言で慈悲の刃を抜くのはダメじゃないです?」

 

 その口を裂いてしまおうと愛用の得物を持って立ち上がるも、空間が割れてそこからにゅるっと触手がでてきて押さえ込まれ、舌打ちが零れる。

 ……この夢では、目の前の()が王なのだ。知っているけど忌々しい。

 そして、あの人形ちゃんは……見事にこの世界で“女王”の立場を手にした訳で、色々な意味で受け入れられない。

 

「……もう、起きます」

「ええ!? 早すぎますよぉ! トガともっとお話ししましょうよ! 私ったら全然寝てくれないじゃないですかー!」

「会いたくないんです」

 

 立ち上がり、目覚めの扉に歩いていく私を、()が止めようと縋りついてくる。

 

「せめて一緒に町を歩きましょうよ! あれから一度も見てないでしょう? 朝も昼も夜もあって、前と違って賑やかですし、最近は新しい人もいっぱい入ってきて―――」

「っ、私達は」

 

 思わず振り返る。嬉しそうな笑顔に、奥歯を噛みしめる。

 

「……彼らを、何度も何度も、数えきれないぐらい虐殺してきました。……理由も無く、面白半分に、夜を繰り返しました!」

「わあっ、懐かしいねぇ、もうできないのが、残念だねぇ」

「……そういう、とこですよ」

 

 強めにデコピンして、以前には感じなかったもやもやに顔をしかめながら、逃げる様に背中をむける。

 ドアノブに手をかけると「……あはっ♪」と、楽し気な声。

 

 

「だから、トガは、そっちの私が大好きなんです♪」

 

 

 ……。

 勝手に言っていれば良いと、私は目を細めて、止めていた足を動かす。

 

 闇しかないソコへと一歩を踏み出せば――――――現実の私が目を覚ます。

 

 ギチリ、と。

 冷えた空気を感じながら、五感が夢から現実へと変わる感覚に目を細める。

 

 硬い椅子の上で、ぼんやりと視線を泳がせながら、スマホを手に足を組み直す。時計を見れば、時刻は早朝の04:44。

 

「…………はぁ」

 

 本日、雄英高校ヒーロー科1年生1日目という、はじまりの朝がきた。

 

 

 





 こういうのが読みたいと思ったので書きました。

 ダウナーで眠そうだけどカァイイものには弱い。パッと見はクール系の"善"トガちゃんが、普通のヒーローを目指してほどよく頑張っていくお話。
 

※ 彼女はヤーナムの夜を誰よりも多く繰り返した。朝になり目覚めても、夜になり眠りにつけば昨夜の夢から続きがはじまる。
 はじまりの狩人に首を差し出そうとも悪夢は終わらず、ただ最初に巻き戻る。
 しかし、少女はそれで良かった。たまにはキラキラしたカァイイ夢を見たくなるけれど、ここなら誰よりも『普通』だと、たくさんの血をあびて笑った。獣を殺して殺された。

 彼女は本能で、この悪夢の真相を知ることを拒み、理解もしなかった。

 だからこそ過去に訪れて失敗した狩人達と違い、"個性"による悪夢の歪みもなく、その代償を払う必要も無く、狂いすらせず正常に、上位者と成っても選択を間違えなかった。

 故に彼女は、この悪夢に真の平穏を、朝日を、もたらしたのだ。
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