上位者少女が夢みるヒーローアカデミア   作:百合好きの雑食

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9話 救助訓練です

 

 

 あの警報の後から、雄英の空気にスパイスがかかりました。

 

 ピリッと、侵入してきたマスコミに向けるには効きすぎている雑味に、何かしらあったのではと察するも、興味は数秒だって維持できない。

 ふありと欠伸して、一生徒の自分には関係ないと、浮かんだ疑問すらすぐに忘却した。

 

「今日のヒーロー基礎学だが……俺とオールマイト、そしてもう一人の3人体制で見ることになった」

 

 それを、相澤先生の言葉と共に思い出して、目を細める。

 

(……ヤですねぇ)

 

 静かに顔を伏せて、表情を隠しながら指を噛む。

 

「ハーイ! なにするんですか!?」

「災害水難なんでもござれ、人命救助訓練だ!!」

 

 虫の知らせ、の様なものを感じます。

 

「レスキュー……今回も大変そうだな」

「ねー!」

「バカおめーこれこそヒーローの本分だぜ!? 鳴るぜ!! 腕が!!」

「水難なら私の独壇場。ケロケロ」

 

 匂いたつ、無視できない予感に脳がざらついている。

 

「おい、まだ途中」

 

 無数に散らばった点と点が結ばれる前から、あるいは結ばれる前にと伝えてくるナニカ。

 

「今回コスチュームの着用は各自の判断で構わない。中には活動を限定するコスチュームもあるだろうからな」

 

 まあ……

 

 カリッと、指につけた歯形から血が流れ、溜息を零す。

 そんな予感があってもなくても、授業を避ける訳にいかない。

 

「訓練場は少し離れた場所にあるから、バスに乗っていく。以上、準備開始」

 

 指の傷は、予感ごと無かった事にする。

 狩人の勘がどう疼いたところで、結局それは『嫌な予感』程度でしかないと鼻を鳴らす。

 

 精度がどれほど高かろうとも、引き返す選択肢が無い以上、気にしすぎて良い事は無い。

 

(……現実で感じるのは、初めてですが)

 

 夢とどう違うのか、少し興味もある。

 

 戦闘服に着替える準備をしながら、念入りに道具の確認だけはしておく。……こういう予感の嫌なところは、完全に無視すると()()()()痛い目にあう事だ。すでに懲りているので、そこだけはちゃんとする。

 

(……今度、仕込み杖も申請した方が良いですね)

 

 着替えながら、そんな事を考える。

 腰に下げている慈悲の刃は、抜く時に許可が必要になる。授業の度にそれは面倒だと、立ち止まって考えていたら、葉隠ちゃんに寝ていると勘違いされて、優しく手を引かれながら思う。

 

(でも、仕込み杖なら、仕掛けを発動するまで大丈夫そうです)

 

 気は進みませんが、狩人の夢から持ってこようと決めて、何やら張り切っている葉隠ちゃんを(カァイイなぁ)と、見つめる。

 

「バスの席順でスムーズにいくよう、番号順に二列で並ぼう!!」

「飯田くんフルスロットル……!」

 

 その指示に頷いて、バスに乗り込もうとすると「……残念! トガちゃんの隣が良かったのに」って、耳元でこっそり囁かれて、カァイイがこみ上げて仮面の下で笑ってしまう。そしたら「今、笑ったよね!」と、仮面を取られてしまう。

 

「……!?」

 

 葉隠ちゃんは『透明化』であって『透視』じゃないですよね? ちょっとヒヤっとしました。

 

「こういうタイプだったくそう!!!!」

「イミなかったなー」

 

 先程の事にドキドキしながら後ろの席を確保しつつ、葉隠ちゃんは項垂れる飯田くんを気にしながらも「やったね!」と、私の隣で笑っている。……その姿に唇がむずむずするし、カチカチします。

 

(……今日の葉隠ちゃん、カァイイが過ぎません?)

 

 少し、いいえ、かなり心配になってしまう。

 

 彼女の“個性”が『透明化』なのは、もしかしたらこの可愛さが仇となり、悪意ある他人から身を守る為のものかもしれないと、そんな妄想まがいな事まで考えてしまう。

 

 それぐらい、狩人のコートで萌え袖する葉隠ちゃんはカァイイ。

 

 葉隠ちゃんも私が守らないと……! そう心に決めながら、葉隠ちゃんの柔らかいお膝を借りる。

 

「私思った事を何でも言っちゃうの、緑谷ちゃん」

「あ!? ハイ!? 蛙吹さん!!」

「梅雨ちゃんと呼んで」

 

 頭を撫でて貰い、気持ち良くうとうとしていると梅雨ちゃんの声が聞こえてくる。

 

「あなたの“個性”オールマイトに似てる」

 

 ん。

 

「そそそそそうかな!? いやでも僕はそのえー」

「待てよ梅雨ちゃん。オールマイトはケガしねぇぞ。似て非なるアレだぜ」

 

 ……眠いのに、気になってしまう。……考えてみたら、不思議ですよね。

 

 緑谷くんとオールマイトの“個性”の名前、どうして同じなんでしょう?

 

(あと、オールマイトの“個性”がたまに文字化けしてるの、気持ち悪いです)

 

 何が起こっているのかと、少しの興味が首をもたげて。

 

「…………」

 

 まあ、そういう事もありますよね……と、すぐに思考が霧散していく。

 

 脳に宿る瞳が、またナニカ予感めいたものを知らせてきますが、知りません。貴重な至福タイムを邪魔しないで下さい。

 

「派手で強えっつったらやっぱ轟と爆豪だな」

「ケッ」

「爆豪ちゃんは、キレてばっかだから人気出なさそ」

「んだとコラ出すわ!!」

 

 ……うるさいです。

 

「この付き合いの浅さで既に、クソを下水で煮込んだような性格と認識されるってすげぇよ」

 

 ああ、下水道の巨大豚みたいな人って事です? 

 

「てめぇのボキャブラリーは何だコラ殺すぞ!!」

 

 ……いえ。流石に今のはダメですね。比較対象が酷すぎたので、爆豪くんには後で優しくしましょう。

 

「人気なら、渡我とかはけっこう出ると思うよ。ギャップ萌えとかで」

「分かる! 子猫だと思ったら急にライオンになるの、すっごくずるいって思ったもん!」

 

 耳郎ちゃん……?

 そして葉隠ちゃんも何言ってるですか? 私ってまさかの捕食者だと思われてます?

 

「お! アレだよな! 警報の時に一度もつっかえずに女子2人抱えたまま脱出って、何をどうやったらできるんだ!?」

「……ふむ。トガくんは何か、特殊な訓練を受けている可能性があるな」

 

 ないです。

 

 おかしな誤解に戸惑っている間にも、ワイワイと会話は続いていく。

 

「もう着くぞ、いい加減にしとけよ……」

「「「ハイ!!」」」

 

 ……もう、ついちゃったんです?

 

 結局一睡もできていません。せめて五分だけはと葉隠ちゃんのお膝に縋りついたら、お茶子ちゃんの“個性”で運ばれてしまう。……厳しいです。

 

「すっげー!! USJかよ!!??」 

 

 そんな声に、しかし目が重くて開けられない。

 

「水難事故、土砂災害、火事……etc.」

 

 誰です、この声? 

 

「あらゆる事故や災害を想定し、僕がつくった演習場です。その名も……(U)ソの(S)害や事故(J)ルーム!!」

 

 いや名前ギリギリじゃありません……!?

 びっくりして、目があいちゃいました。

 

「スペースヒーロー『13号』だ! 災害救助でめざましい活躍をしている紳士的ヒーロー!」

「わー私好きなの13号!」

「……!」

 

 お茶子ちゃんが、好きなヒーローさん。

 

 興味がわいて、目をしぱしぱさせながら、宇宙服にしかみえない戦闘服を着た13号先生を見る。

 

(……『ブラックホール』ですか。……やっぱり“個性”って怖いですね)

 

 なんとなく、葉隠ちゃんの前に立つと、不思議そうな顔をされる。

 先生同士の話が終わったらしい13号先生が「えー始まる前にお小言を一つ二つ……三つ……四つ……」と数えだすので、寝そうになってしまう。

 

「皆さんご存知だとは思いますが。僕の“個性”は“ブラックホール”。どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」

「その“個性”でどんな災害からも人を救い上げるんですよね!」

「ええ……」

 

 嬉しそうに頷くお茶子ちゃん、カァイイ。

 

「しかし、簡単に人を殺せる力です。皆の中にもそういう“個性”がいるでしょう」

 

 ? 人を殺すのに、“個性”って関係なくないです?

 

「超人社会は“個性”の使用を資格制にし厳しく規制することで、一見成り立っているようには見えます。しかし一歩間違えれば容易に人を殺せる“いきすぎた個性”を個々が持っていることを忘れないで下さい」

 

 あ、そういう意味ですか。

 なるほどです。

 

「相澤先生の体力テストで、自身の力が秘めている可能性を知り。オールマイトの対人戦闘で、それを人に向ける危うさを体験したかと思います」

 

 ……。え? 私ってどっちの授業でもそれらを学んでいませんね?

 

「この授業では……心機一転! 人命の為に“個性”をどう活用するかを学んでいきましょう」

 

 そ、そうです! 普通のヒーローとして、ここからですよね!

 

「君たちの力は、人を傷つける為にあるのではない」

 

 少しの焦りを感じながらも、

 

「救ける為にあるのだと、心得て帰って下さいな」

 

 その台詞に、少しだけ息が止まる。

 

 救ける、という言葉と、他者の血を欲する“個性”に。少しだけ、胸のあたりが疼いた気がする。

 

「以上! ご清聴ありがとうございました」

「ステキー!」

「ブラボー!! ブラーボー!!」

 

 ザリ、としたそれが、快か不快かすら、分からないまま、

 

 

「そんじゃあ、まずは…………渡我?」

 

 

 予感がする。腰に下げた得物の柄を握って、相澤先生の更に先、噴水のある広場を見つめる。

 

 虫の知らせが、形をもってソコに在る。

 

 

「一かたまりになって動くな!!」

 

 

 相澤先生の声に、指先で鞘を引っ掻く。……そうですね、まだ許可もとっていないのでした。

 まるで、悪夢から這い出てきた様に、黒い霧の中から現れる彼らを、瞳にうつす。

 

「13号!! 生徒を守れッ」

 

 数、多いですね。

 

「何だアリャ!? また入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン?」

「動くなあれは、敵だ!!!!」

 

 瞬間、皆の視線が強く広場に集中したので、気配を消してしまう。

 

「13号に……イレイザーヘッドですか……先日頂いた教師側のカリキュラムでは、オールマイトがここにいるはずなのですが……」

「やはり、先日のはクソ共の仕業だったか」

 

 葉隠ちゃんが胸に抱く仮面を、そっと返して貰う。ハッとした葉隠ちゃんが不安そうに私を探しますが、ごめんねぇ……今、ちょっと忙しいんです。

 

「どこだよ……せっかくこんなに、大衆引きつれてきたのにさ……」

 

 仮面を被り、笑う。

 

「オールマイト……」

 

 とても久しぶりな怖気。5年ぶりに感じる背筋が凍りそうな悪寒。

 

「平和の象徴……」

 

 まるで知己の友にあったかの様に、胸が高鳴ります。なんて濃密な狂気と憎悪でしょう!

 

 

「いないなんて……」

 

 

 はじめまして、初対面な気がしない手の人!

 

 

「子供を殺せば来るのかな?」

 

 

 貴方、とっても素敵ですね! 気が合いそうなのに、お友達になれないのが残念です!

 

 

 

 

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