上位者少女が夢みるヒーローアカデミア   作:百合好きの雑食

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10話 手の人と敵連合です

 

 

 赤い月の夜を思い出す。

 

 私は、この場の誰よりも理解している。

 

 

「敵ン!? バカだろ!? ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホすぎるぞ!」

「先生、侵入者用センサーは!」

「もちろんありますが……!」

 

 アレは狂った獣です。アレは、すでに手遅れです。

 

「現れたのはここだけか、学校全体か……何にせよセンサーが反応しねぇなら、向こうにそういうこと出来る“個性”がいるってことだな」

 

 手の人を見つめながら、轟くんの話にその周辺を見るけど、そんな“個性”の人は見つからない。

 

「校舎と離れた隔離空間。そこに少人数が入る時間割……バカだが、アホじゃねぇ。これは、何らかの目的があって、用意周到に画策された奇襲だ」

 

 その評価に、少し嬉しくなる。

 

 手の人からは、傷んで、腐って、崩れて、蛆が沸いた、虫の苗床の様な、悪夢で幾度も嗅いだ、懐かしくも不潔で不快な、魂の香りがする。

 

「13号避難開始! 学校に電話試せ! センサーの対策も頭にある敵だ、電波系の“個性”が妨害している可能性もある。上鳴おまえも“個性”で連絡試せ」

「っス!」

 

 そうでなくては、面白くないです。

 

「先生は!? 一人で戦うんですか!? あの数じゃいくら”個性”を消すっていっても!!」

 

 仮面の下で楽しく笑って、相澤先生の隣に移動する。

 緑谷くんの声を背中に、親しみを抱きながら手の人を見下ろす。

 

 貴方は、きっと今の内に、潰しておいた方が良いのでしょう。

 

(だから、ごめんね?)

 

 先生と共に降りたら、まっさきに息の根を止めようと、真摯な気持ちで嘴の仮面を被りなおす。

 

(貴方に、名誉ある死を約束しましょう)

 

 祈りを胸に目を閉じて、誓う様に手をあてる。

 

 階下の敵の多さに、多少の苦手意識はありますが……すぐに逃げれば良いと「……トガちゃん、どこ?」……葉隠ちゃん?

 

 私を小声で呼んで、きょろきょろと探している、必死な表情の葉隠ちゃんが瞳にうつる。

 

「…………ぅ」

 

 え、っと。

 

 どう考えても、手の人は、今の内に狩っておいた方が良い。

 

(……でも)

 

 不安そうに、私を心配する葉隠ちゃんは……もうちょっとで、泣きそうで……。

 

「13号! 任せたぞ」

 

 あ。

 バッと、気づいたら相澤先生は階段を飛び降りていた。あ、ああ……行っちゃいました。…………。

 

(ダメダメです……)

 

 がっくりと肩を落とす。

 バカです。私はどうしようもない大バカです。

 

 “善”の私は、どうにも流されやすいというか、優柔不断が過ぎる。

 下に交ざり、殺すと決めた時点で、葉隠ちゃんの事は無視すべきだった。……どうして、躊躇してしまったのか。

 

(……分かりませんよ、そんなの)

 

 苛立ちを溜息で誤魔化し、気配を消したまま、皆を誘導している13号先生の背後に立つ。

 

「先生」

「……!?」

 

 ギョッとする13号先生に「シー」っと「私です、渡我です」こそこそ囁く。

 

「……静かに聞いて下さい。目立たれると、流石に見つかっちゃいます」

「……!」

 

 緑谷くんが、足を止めて相澤先生の分析をしているのを見ながら、目を細める。

 

「あの黒いモヤモヤの人、個性が“ワープゲート”みたいです」

「ッ!?」

 

 流石はプロですね。「つまり、こっちに来ます」そう言う前に、すでに同じ結論に達していたのか、緊張しながら周りを警戒している。

 

「……13号先生、私が隙をつくるので、その際にモヤモヤの人の無力化をお願いします」

「……ッ」

「そんなのがいたんじゃ、逃げられないの、分かるでしょう?」

 

 そう締めくくり、そのまま13号先生の後ろを離れる。

 

 その際に、葉隠ちゃんの隣を通り過ぎて、その表情に心臓がチクチクしてしまう。

 もう、こうなったらステルスで素早く避難して、葉隠ちゃんにいっぱい謝るのが良いんです。少し離れた場所で、自分に言い聞かせる様に身を潜める。

 

 そして、一生徒がでしゃばれるのは、きっとここまでです。

 

(普通も、ヒーローも、本当に面倒です……!)

 

 出来るのにやってはいけない、というのが窮屈すぎる。

 

 それでも、それを我慢できるか、できないかが、大事なのだ。

 境界線を踏み越えるか、踏ん張れるかで、目には見えない、脳に得た瞳ですら分からない、ナニカが守られるのだ。

 

(大丈夫、我慢できます……! だって、私は普通のヒーローになるんですから!)

 

 ふうぅ、と息を整える。

 それに、たまにはこういう狩りも悪くありません。

 

 ほら。

 

 

「させませんよ」

 

 

 獣が、自ら罠にかかりにきた。

 

「初めまして、我々は敵連合。僭越ながら……この度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせて頂いたのは」

 

 ゆっくりと、パックしたままのメスを取り出し、もう少しだけ待つ。

 

「平和の象徴、オールマイトに息絶えて頂きたいと思ってのことでし―――」

 

 今。

 

 目的を明かすという、一つの目標を達成した小さな隙を縫って――――殺意を込めた投擲。

 

「ッ!!??」

 

 露骨すぎる殺意に、モヤモヤの人が反応し、メスを避けて驚愕を滲ませて振り向く。

 

 やりました! 目の前のクラスメイト達より、私が怖く見える様に、ちょっとだけ上位者の気配を漂わせたのが正解だった様です。

 

 後は、13号先生がこいつを背後から、って。

 

 グワッ!! と、先生の射線を遮る様に、勢いよく飛び出す爆豪くんと切島くん。射線は上手く避けつつ“個性”を使う轟くんの姿に目を丸くする。…………あ、そうですよね!

 

「……ッ!?」

 

 ヒーロー志望の子達が、こんな絶好な機会を、隙だらけの背中を、逃す筈がないんでした。

 ミスりました。爆発と氷と硬化パンチが炸裂しています。

 

 

「その前に俺たちにやられることは、考えてなかったか!?」

 

 

 とても失敗しました。

 

 やっぱり、私はまだまだですね。……さて、この後はどうしましょう?

 とっくに、私の姿は見つけられている。クラスメイト達が、モヤモヤの人の背後にいた私に驚いている。

 

「……っ、恐ろしい。……生徒といえど、優秀な金の卵」

「ダメだ、どきなさい二人とも!」

 

 目の前でズアァ! と広がる“ワープゲート”の、大きさに目を見開く。

 

「散らして、嬲り、殺す」

 

 予感のまま、即座に駆け出す。

 

「え」

 

 この中で一番、飛ばされて危ないのは「葉隠ちゃん!」すくいあげる様に抱き上げて、霧の隙間を潜り抜けていく。

 

「……!!」

 

 本体を、狩りたいのは山々ですが……!

 

 こっそり、やるならともかく、この状況でヤったら先生に怒られるから、我慢です! もう、宿題を増やされるのは、ヤです……!

 こちらを追いかけてくる霧を避けながら、振り向きざまにメスを投げるも叩き落される。

 

「皆は!? いるか!? 確認できるか!?」

「散り散りにはなっているが、この施設内にいる」

「…………!!」

 

 と、他にも何人か残っている様で良かったです。

 

 お茶子ちゃんがいます! 飯田くんと芦戸ちゃん、障子くんと瀬呂くんと砂藤くん。そして13号先生。

 ここなら葉隠ちゃんも安全だと、安心して降ろしてあげると、涙目でポカポカされました。……え? すごく怒ってます?

 

「物理攻撃無効でワープって……!! 最悪の“個性”だぜ、おい!!」

「……委員長!」

「は!!」

「君に託します。学校まで駆けてこの事を伝えて下さい」

 

 葉隠ちゃんを宥めつつ、私を警戒するモヤモヤの人に手を振る。

 

「警報も鳴らず、そして電話も圏外になっていました。警報器は赤外線式……先輩……イレイザーヘッドが下で“個性”を消し回っているにも拘らず、無作動なのは……恐らく、それらを妨害可能な“個性”がいて……即座に隠したのでしょう」

 

 おお……さすがはプロです。私は、そういうの全然考えていませんでした。

 

「とすると、それらを見つけ出すより君が駆けた方が早い!」

「しかし、クラスを置いてくなど委員長の風上にも……」

「行けって非常口!! 外に出れば警報がある! だからこいつらはこん中だけで事を起こしてんだろう!? 外にさえ出られりゃ追っちゃこれねえよ!! おまえの脚でモヤを振り切れ!!」

 

 え。砂藤くんも……頭良い感じなのです?

 

 ちょっとショックを受けつつ、葉隠ちゃんが落ち着いてくれるならと、渋々と嘴の仮面を脱いで持たせる。そのまま、私の一挙一動を見逃してくれない、モヤモヤの人から葉隠ちゃんを隠す様に立つ。

 

 ……これはもう、ステルスは無理っぽいですね。

 

「救う為に、“個性”を使って下さい!!」

「食堂の時みたく……サポートなら私超出来るから! する!! から!! お願いね、委員長!!」

 

 葛藤する飯田くんを見て、その気持ちが分からない。

 すぐに助けを呼びに行けばいいのに、現状を打破するのに有効だろうに、どうして迷うのか、分からないから悩む。

 

 うーん……?

 

「手段がないとはいえ、敵前で策を語る阿呆がいますか」

「バレても問題ないから、語ったんでしょうが!!」

 

 あ。

 

 13号先生が“個性”を発動する。そして、私にはモヤモヤの人の“ワープゲート”の繋がる先が目視できている。

 モヤモヤの人は、13号先生の“ブラックホール”を、ワープさせようとしている。

 

「――――」

 

 13号先生の『背後』に、だ。

 

 巧みすぎる、モヤモヤの人の戦略に見事に嵌っている。

 

(……これは、”ブラックホール”な時点で無理ですね)

 

 手を出すには、あの“個性”は脅威がすぎる。

 高い授業料ですが、今回は13号先生の脇の甘さが『わー私好きなの13号!!』…………。

 

 ―――いえ、ダメです。

 

 さっき、優柔不断で、後悔したばかりで『君たちの力は、人を傷つける為にあるのではない』…………。

 

 

『救ける為にあるのだと、心得て帰って下さいな』

 

 

 

 そういえば、今は救助訓練でしたね……

 

 チラとお茶子ちゃんを見つめて、即座に『加速』する。

 我ながら咄嗟だったので体勢が崩れている。不格好に13号先生に手を伸ばす。

 

 その宇宙服に、手を差し込む様にして、不安定な体勢で庇う様に前に押し出す。

 

 

「―――――ッぅ!!??」

 

 

 経験した事のない、激痛と悪寒に息が詰まる。

 

 一拍おいて、抉られた患部からブシャリ!! 鮮血が溢れ出る。

 

 

「……13号。災害救助で活躍するヒーロー。やはり……戦闘経験は、一般ヒーローに比べ半歩劣る……」

 

 

 イタ、イです。

 

 いたくてイたくていたクて、あまりの痛みに、生理的な涙が溢れる。

 

 

「自分の生徒の『腕』を、犠牲にしてしまった」

 

 

 うる、さいですね……ッ!

 

 まさか、勝ち誇っているのですか……? 腕から手の甲にかけてごっそり、皮と肉をチリにしただけで? 骨も、神経も、無事なのですよ……?

 

「トガちゃん!?」

「被身子ちゃん!!」

 

 狩人、舐めないでください。

 それに、一応は上位者なので、痛いけど元気です。目がいつになく冴えています。

 

 経験の無い激痛を無視して『加速』を連続使用。意識が飛びかけるも、油断しきったモヤモヤの背後に回り、その頭に真横からの蹴りをぶち当てる。

 

「――――がッ!!??」

 

 ブシャッ!! と、自分の左腕から手の甲まで、一定の量の血が噴きあがるが、無視。反転してもう一撃!!

 

「ッ、飯田ァ、走れって!!!!」

「くそう!!」

「トガさん、ダメ!! 今すぐ止血しないと!!」

 

 バカですか先生は今こいつ目を離したら飯田くん逃げられないです!!

 

「麗日どうしたの!!」

「被身子ちゃん!! 一人で頑張らないで!!」

 

 ―――……?

 

 その声に動きを止めると、私の横を障子くんが駆け抜けていく。蹲るモヤモヤの人に飛びかかって押さえ込む。

 

「理屈は知らへんけど、こんなん着とるなら、実体あるってことじゃないかな……!!」

 

 そして、押さえ込んだ本体に、お茶子ちゃんが触れる。途端、ブオンと飛んでいくモヤモヤの人と「行けええ!! 飯田くーん!!」と、泣きながら叫ぶお茶子ちゃんに、目を丸くする。

 あと、瀬呂くんが更にモヤモヤの人を“個性”でつかまえて「行けええ!!」と、叫んでいる。

 

 飯田くんは、うん、ちゃんとドアを通ってお外に出られましたね。

 

 ボタボタと血を零しながら、一息つく。

 

 

「…………。応援を、呼ばれる。…………。ゲームオーバーだ」

 

 

 掻き消える(うわぁ……)モヤモヤの人を見送って、少しうんざりする。

 

 マントの裏ポケットから包帯を取り出して、止血を試みながらきつく縛り、残りを適当に腕から手の甲にかけてまいていく……何と表現して良いか悩ましい“ブラックホール”産の傷跡に少し恐れを抱きながら……まあ、いいです。

 

「13号先生」

「っ、はい……」

「武器、抜いていいですか?」

「……は、い?」

「状況、変わりました。……手の人、きっとヤな事してきますよ」

 

 獣というものは、追い詰められた時こそが一番怖いのだ。

 唖然とする13号先生に、許可は貰えたと判断して、慈悲の刃を鞘から抜く。

 

 それでは、後半戦を始めましょう。

 

 

 

 

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