上位者少女が夢みるヒーローアカデミア   作:百合好きの雑食

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11話 出血大サービスです

 

 

 慈悲の刃は、仕掛けにより二枚に分かたれる双刀の武器。

 

 二振りで一つの武器であり、まるで私と()の様であり、歪んだ刀身には星に由来する希少な隕鉄が用いられ、月の下ほど綺麗な照り返しを見せてくれる。

 

(……今日は、片手で使うしかありませんね)

 

 軽く振るいながら、ボタボタと出血する左腕を動かして、手をぐーぱーしてみる。……うん。ダメですね。このままいけば失血死が待っています。

 

(輸血液が欲しいです……)

 

 本来の使い方ができない得物の試し振りを終えて、走る勢いのまま階下に飛び降りる。

 

「トガちゃん、お願いだから戻ってきて!!」

「ダメだよ!! 被身子ちゃん!!」

 

 背中にかけられる、葉隠ちゃんとお茶子ちゃんの優しい声を無視して、内臓が持ち上がりそうな落下に身を任せる。

 

 数分前の事です。

 私の予感が信じられず、何を言っているのかと困惑している面々の前で、慈悲の刃を抜きました。

 

 これは獣を殺す、特別な仕掛け武器です。

 

 命を奪う事を前提とした、日常生活では見る事のない形状をした刃物。歪む刀身から感じる独特な迫力に、その場の全員が注目したのを狙って『加速』した。

 

 向かう先がどこかなんて、言うまでもない。

 

 だけど、お茶子ちゃんが苦しそうな顔をしている。葉隠ちゃんがいっぱい泣いている。

 

 障子くんは、咄嗟に私を捕まえようとしていた。芦戸ちゃんも、嫌だって泣きそうな顔で手を伸ばしている。瀬呂くんはダメだやめろと言いたげな姿勢で固り、砂藤くんは怒っている顔で拳を握っている。13号先生は、分かりませんね!

 

 それらを横目に(ごめんねぇ……)心の中で謝って、たくさんの声を振り払って走っている。

 

(私は、これ以上、優柔不断になりたくないのです……!)

 

 だから、耳を塞ぐ様に逃げ出した。

 私の事が、心配だと顔に書いてあるクラスメイト達の傍に一秒だっていたくなかった。

 

(やめてと言われたら、やめてあげたくなります)

 

 でも、それは優しいけど、たぶん、優しいだけなのです。

 

 だから、あの場にいたら、もっとダメダメになるから、しょうがなかった。……そして、何よりお茶子ちゃんから逃げたかった。

 

(……今はいいけど、冷静になったら)

 

 嫌われてしまいそうで、怖かった。

 

(……ヤだなぁ)

 

 喉奥で小さく唸る。ズクズクと、左腕の傷が脈を打つ様に痛む。

 

 分かっています、本当は、()()()()13号先生を救けようと動いていたら()()()()()()()のです。

 こんな傷を負わなくてすんだと、あの一瞬で気づいて、だからお茶子ちゃんも、皆も、落ち着いたら気づいちゃう。

 

(私が、13号先生を助けるつもりが無かった事を……)

 

 そしたら、いくら優しいお茶子ちゃんでも、自分の好きなヒーローを見捨てようとした私を、許さないと思うから。

 

(……顔を、合わせ辛いのです)

 

 混乱している今の内に、強引に許して貰えれば、と思わないでもない。少しは、仲直りの余地はあるかもしれない。

 

(……でも)

 

 そんな時間は、無いのです。

 逃げたモヤモヤの人を、広場にいる手の人を、私は狩人として優先しなくてはいけない。

 

 手負いの獣を、あえて放置する事はできない。

 

 

(だって、ちゃんと殺さないと……可哀想です)

 

 

 着地点が見えてきた。

 景色はどんどん流れていく。それでも遅いと、空中で秘儀を惜しみなく使っていく。

 

 あの、渡我被身子でさえ、狩りを全うしたのだ。

 

 繰り返される悪夢の中、無視しても良い筈の獣を憐れんで、ちゃんと殺してあげると、そうして『次』に連れていってあげると、トガヒミコはどんな夜でも全ての獣を狩って来た。

 

 ならば“善”なる私は、それ以上の慈悲で狩りをしなくてはいけない。

 

 広場に下りる際に「は? 影――ぐぎゃ!?」「ぐえぇ!?」数人を下敷きにして衝撃を散らし『加速』する。

 本当は、友情を捨てる覚悟は無く、お茶子ちゃんへの未練はたらたらで、どうすれば良いのか分からないままだけど、狩りは大事だからと、問題の先送りをしている。

 

 そんな自分が嫌で、だけど、立ち止まるよりはマシだと、広場の確認をする。

 

 

「あ? おい、アレ見ろよ」

「あのガキ、いつの間に下りてきやがった!?」

「バカが!! のこのこと自分から殺されに来やがった!」

「恨みはねぇが―――」

 

 

 相澤先生がピンチですね!

 

 近くにたむろっていた敵を、死なない程度に切り裂きながら、勢いを殺さずに跳躍する。

 

 空中で身をひねらせ、慈悲の刃を逆手に持つ。

 スッと、相澤先生に乗り上げる巨体の正面を「!?」横切る様に飛んだ私は、突然現れた私への反応の遅れを狙い、シュッ、と、ぎょろついた眼球を横に裂いて潰す。

 

「……あ?」

 

 手の人が、気分を害された様な声を漏らす。

 

 どぴゅっ! と巨体の両目から血が溢れるのを音で判断し、先生の腕を折らんと伸ばされていた手に、グッと靴先を押し当て、勢いを利用してゴッ! と蹴り上げる。

 

「――!?」

「はい、トガです」

 

 位置を調整して、相澤先生の目の前に着地する。

 驚愕に見開かれる瞳と、小さく動いた唇が私を呼んだのを確認し、そのボロボロっぷりに顔を顰める。

 

(とりあえず、この大きい人をどかしましょう)

 

 これ、下半身は無事でしょうか……? 心配しながらも慈悲の刃を構え直し、潰した筈の目をギョロつかせる巨体に「わあ!」嬉しくなる。

 弱点が復活するなんて好機です! 踏み込んで身体をひねり、近距離故にか、分かりやすい軌道の拳を躱して再度両目を裂いた。

 

「――――」

 

 巨体がひるみ、一歩後ずさる。

 よし、です!

 

 味を占め、もう一度と飛び込み、暴れる腕を利用して鉄棒の様に巨体の身体をくるんと一周すれば、私を殴ろうとして自らの頭を『ゴガッ!!』と凹ませる間抜けっぷりを見せてくれる。

 

(うわぁ……)

 

 ひしゃげた上半身を見ながら、もしや頭が弱いのです? と、距離をとる。

 

「……ッ!! 渡我、なんで、ここに」

「はい! モヤモヤの人が逃げたので、此処にいると思って追ってきました!」

 

 返事をしながら、手の人を見て、それから先生の目を見つめる。

 

 敵の前なので、飯田くんが外に出た事や、すでに場が後半戦というか、耐久戦になった事をあえて伝える必要はないだろうと、とにかく有利に事が進んでいると視線に込める。

 何かしら察した先生は「……まあいい」と、布を巻きなおす。

 

「……反省文10枚だ」

「ええ!?」

 

 先生は巨体から目を離さないまま、割と重めな罰を出して、私がここにいる事を遠回しに許可してくれる。……でも、反省文10枚は酷くないですか!?

 

 慄きがらも、軽くフラついている相澤先生の様子を観察する。

 巨体の下から抜け出たばかりの先生はボロボロで、右腕はバキバキになっている。……前に出すのは無謀っぽいなぁと、サポートに徹するつもりだった予定を変更して、立ち位置を変更する。

 

「……どういうつもりだ」

「先生は下がっていて下さい。合理的に、こっちの方が良いです」

 

 怒気を孕んだ先生の声に(怖いです!)振り向き様に言い訳した瞬間、影が差す。

 ズオッ!! と―――顔の横に手が今まさに掴みかかろうとし……速ッ!!

 

「―――んっ!!」

 

 咄嗟に指を切り落とし顔を逸らす。

 

 頬が裂け血が溢れるが、相手の目測を強引にずらさなかったら頭パーンしてました!!

 っていうか痛いです! そのまま視界から掻き消える様に、脚の間をくぐり抜けて背中側から頸動脈を裂くも、噴き出す血はすぐに止まってしまう。

 

(あ、これ接近しすぎると捕まった時点で終わりますね!)

 

 改めて、慈悲の刃を鞘に戻して、相澤先生の腰を持って五メートル程後方にバックステップ。

 

「っと! そういう訳です先生! サポートお願いします!」

「……後で職員室」

「なんでです!?」

 

 ちゃんと丁寧に降ろしたのに!

 渋い顔で、共闘を許可してくれたかと思ったら、コレですよ意味が分かりません!

 後、先生は男の人なのに軽かったです。持ち運びやすくて実に良いですね!

 

「…………」

 

 と、先生の視線が私の左腕に注がれているのに気づく。……あ、先生は右がバキバキで、バランス的には丁度良いですね。

 

「お揃いですね、怪我の度合いとか!」

「……生徒指導室」

 

 んー?

 なんでー?

 

 しかも、コレ、本気で怒っていますよ?

 血だらけの左をぶんぶんと振って見せて、場を和ませようとしただけなのに、いつにない相澤先生の本気の怒りを感じて、悲しみを背負いながら「……ハイ」と頷く。

 

 先生、情緒不安定なんです……?

 

 ボコボコにされて心が繊細な感じなのかもしれません。今日は踏んだり蹴ったりだと思いながら、唇を尖らせて、油断なく巨体を観察する。

 

「……脳無、やれ!」

 

 っとお。手の人の声に反応したのか、脳無という彼が五メートルの距離を一瞬で無かった事にしてきました。ゾアア!! と、突然目の前に現われる圧倒的な威圧感に、唇がひくつく……だから、速すぎです。

 

「―――ん、っぎ!!」

 

 動体視力が良くて良かったです。

 叩きつけてくる拳を慈悲の刃で受け流し―――相澤先生を巻き込む様に躱す。

 

 受け流しているのに、手がすっごく痛いです!!

 

「くっ……! 渡我、次も避けられそうか!?」

「――はい! 速いですけど。事前のモーションを読み切れば、動きは予測できます!」

 

 狩人として、後だしじゃんけんみたいな獣との戦いをこなしてきたんです。

 そういう意味では、脳無の動きは実に読みやすい。

 

「っ……フォローする」

「はい!」

 

 返事をしながら、先程とは違い相澤先生ではなく、私を中心に狙ってくる脳無の動きをよく見て、やはりまだ『人』だと思う。

 

(強く、恐ろしく、圧倒的ですが―――私は、そういう相手に慣れています!)

 

 笑みが漏れ、気に障ったのか更に激しい追撃に襲われる。

 ギリギリで避けると皮膚が裂け、今は太股が裂けた。お返しとばかりに伸びた腕をぐるりと切り裂くも、ひるみもせず追撃してきて「!」首筋から出血しながら、相澤先生の布が脳無の腕にまとわりついて、僅かに動きが鈍った隙に離脱する。

 

(もしかして、痛覚がない感じです?)

 

 即座に確認する。フェイントを交えて飛び込み、切り上げて手首を飛ばす。ぐるりと血を飛ばして円を描く手はともかく、断面図から噴き上げた血が萎む様に止まり、あろうことかぐつぐつと盛り上がる。

 

「“超再生”だと……!?」

「そんなのあるんですかあ?」

 

 ずるいです! 知っていたけど“個性”って反則です!

 

 怪我を全く気にしない動きにナニカありそうだとは思いましたが、これは酷いです。

 ならばと、もう一度両目を狙って動けば、視界が途切れる事は嫌がって、攻撃の合間に避ける動きが加わる。コレだと、少しずつ脳無への攻め方を模索して、最適解を探っていく。

 

「――――フ、ぎッ!!」

 

 脳無の拳と慈悲の刃がなんどとなく絡み合い、間合いを意識し、いなし、余波に傷ついていく。

 

 パワーとスピードとタフネスを兼ね揃えた強敵に、狩人の基本を思い出しながら、中距離を維持して、避けて、切り、躱して、切り、転がって、切り、ヒットアンドアウェイで、何とか場を持たせる。

 

「……ッ!!」

 

 脇腹が裂けて、痛い。

 もう使えない左でのガードが間に合わない。でも、相澤先生が絶妙にサポートしてくれるから、戦いやすい。

 悪夢での共闘の事を思い出して、つい笑ってしまう。

 

 

(でも、脳無をやっつける方法、現状無いんですよね)

 

 

 楽しいけど、そこは冷静に考える。

 

 動きすぎて呼吸を止めながら、攻撃が重すぎて右腕が上がらなくなってきた。

 体力とスタミナが初期のままなら死んでると思いながら、僅かな隙を勝ち取って呼吸する。

 

「――――ふぅ」

 

 出血が止まらない。

 

 返り血よりも、自らが流した血で戦闘服が赤く染まっている。

 これは、粘っても後10分を限度にしないと、生き物として不自然になる。……それ以上の戦闘は『普通』でいられない。

 

(応援、まだですかねぇ?)

 

 活動限界と定めた時間を越えたら、相澤先生は殺されてしまう。

 かといって“個性”をつかって悪夢の獣に変身したら……刺激が強そうですし……どうしようと考える。せめて、両手で慈悲の刃を振るえれば、もう少しやり様があるのに……と思っているとモヤモヤの気配。

 

(……おや?)

 

 ずっとこちらの様子を窺っていた癖に、ここにきて動くんですね。

 

「……。死柄木弔」

「っ、黒霧、あいつは、何だ?」

 

 ガリガリと、手の人が苛立たし気に首を掻いている。

 そして、ついでとばかりに「13号はやったのか」と聞いていて、もしかして13号先生を庇えたのはファインプレーだったのではと、少しだけ気分が上がる。

 

「……いいえ。五体満足です。今も活動しています」

「…………。は?」

 

 活動? もしかしてあの後に色々と動いていたんですかね?

 

 思考しながら、相澤先生の巻き付けた布を足場にして、脳無の両目を潰す。先生のおかげで空中戦ができる様になり、今はちょっと楽しいです!

 

「散らし損ねた生徒がおりまして……一名逃げられました」

「…………。はー……」

 

 布を移動する私を捉えきれず、一撃一撃が不安定になっている。更に攻撃の芽を潰そうと、切断しやすい手首と指をとにかく切り落としまくる。

 

 

「はあー……黒霧おまえ……おまえがワープゲートじゃなかったら、粉々にしたよ……」

 

 

 ガリガリガリガリって、貴方、カルシウム足りてないですね。モヤモヤの人はちゃんと頑張ってましたよ?

 

「さすがに何十人ものプロ相手じゃ、敵わない。ゲームオーバーだ、あーあ……()()()ゲームオーバーだ」

 

 ぴた、と。彼の首を掻く指が止まる。

 

 途端、相対している脳無の攻撃が止んだ。まるで、彼の声を待つ様に静かになる。

 

 

「帰ろっか」

 

 

 ……うわ。

 

「けども、その前に、平和の象徴としての矜持を少しでも」

 

 弔くん、でしたっけ? 

 

「へし折って、帰ろう!」

 

 性格すごく悪いね。

 

 人というか、ヒーローを不快にすることにかけては天才だと思います。

 何をするつもりなのか、理解してしまった私は目を見開く。いつの間にか、水辺に梅雨ちゃんがいる。緑谷くんと、峰田くんもいる。

 

 そして、すでに彼もいる。……本当に、性格が悪いです。

 

 ワープゲートで移動した弔くんが、伸ばす手の先には、梅雨ちゃんがいる。

 緑谷くんと峰田くんは、ダメです判断が遅いこれじゃあ梅雨ちゃんの顔に指が触れる。

 

 そして、彼の“個性”は『崩壊』で――――――

 

 

(今度は、最初から迷いません!)

 

 

 慈悲の刃をモヤモヤに投擲して連続『加速』する。

 

「!! 死柄木弔」

 

 ダンッ! と、無防備な弔くんの背中を、あえて飛びこえる。

 

 そして、数秒だけ、逆さまに見つめあう。

 

 私の手から溢れる血が、彼の手と顔を汚していく。

 梅雨ちゃんの顔前に、チリになりかけた左を差し込み、抱きしめる様に守る。

 

 

「―――梅雨ちゃんに、触らないでください!!」

 

 

 瞳が「……はぁ?」手の隙間から覗く、弔くんの目と、あった。

 

「―――」

 

 その、

 

(……ぁ)

 

 どこか、なにか―――見えた気がして、しかし、私は梅雨ちゃんと一緒に『加速』の勢いのまま飛んでいる。

 

 間もなく、水の中に頭からドボンッ! と、投げ出され、沈んで、水をかく羽目になった。一瞬で視界が歪み、戦闘服に水が染み込んでいく。

 

「――――……!?」

 

 脳に走った、電流の様なナニカに動揺する。なんです、今の?

 

 瞳が、ナニを見せた?

 

 言葉に出来ない不快感を覚えて、水が赤く汚れていくのを横目に、梅雨ちゃんの活動の邪魔にならない様、彼女の背を強く押す。

 

 とりあえず、考えるのは後です!

 今は、溺れない様にマントを脱ごうとして、ぬっ!! と眼前に梅雨ちゃんのお顔。

 

『……ワブッ!!』

 

 びっくりして泡吐きました。

 

 ゴボボボっと動揺する私を見て、何故か凄い勢いで戻って来たらしい梅雨ちゃんに抱きしめられ、そのまま水中を泳いでいく。

 

(!? 凄く速いです! ……でも、1人の方がもっと速いですよね!?)

 

 ここは、即座に緑谷くんや峰田くんのところに戻るべきでは?

 

 飯田くんといい、梅雨ちゃんの考えている事もよく分からないと、彼女に抱えられる様にして、ずっと早く水面から顔を出す。

 

 ふはっ!!

 

 空気が甘く、止めていた呼吸を再開して、少し咳き込む。

 水を吐いていると周囲に緊張が走っていて「……?」歪む視界で視線を走らせれば、見つける。――――笑っていない、オールマイトの姿を。

 

 

「あー……。コンティニューだ」

 

 

 ポツリと、呟く様な弔くんの声が聞こえて。

 

 それに「……ふあ」ようやく、気をぬいた。

 

 

 

 

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