上位者少女が夢みるヒーローアカデミア   作:百合好きの雑食

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15話 目指す理由、です

 

 

 先生とクラスメイト達の声をBGMに、作文用紙にペンを走らせる。

 

 ついでに、私が見えていた敵の情報を予想という形で書き記す。不自然にならない形にとどめつつ、記憶を呼び起こして文字かさを増していく。……反省文という敵との戦いは初めてではないので、早く終わらせるコツも掴んでいるのです。

 

 

「待って待って! 敵に侵入されたばっかなのに大丈夫なんですか!?」

 

 

 ただ、弔くんの“個性”は警察や雄英側にばれていない可能性が高いので『崩壊』と書くのは不自然すぎる。なので、あの時にチラと見えた相澤先生の傷跡を思い出して、こういう“個性”ではないかと予想を詳細な理由付きで書いていく。

 

 つまり、あの時は私が動かないと最悪死者が出ていたかもしれない(でなかったかもしれないけど)クラスメイト達が心配で焦燥にかられてしまった(ウソですけどね。弔くんと黒霧さんを狩りたかっただけです)ので、私に情状酌量の余地はたっぷりあります。という内容をそれっぽく書いていく。

 

「逆に開催することで、雄英の危機管理体制が盤石だと示す……って考えらしい。警備は例年の五倍に強化するそうだ」

 

 あと、相澤先生へのダメ出しも書いておこう。絶対に書いておこう。

 

「何より、雄英の体育祭は……()()()()()()()

 

 まず、“個性”の関係上仕方ないとはいえ、戦闘時の視野の狭さが気になります。

 

「敵ごときで中止していい催しじゃねえ」

「いや、そこは中止しよう?」

 

 敵を凝視しないと“個性”が発動しないというなら、若干の視野狭窄も仕方ありませんが、それならもっと周りの気配に鋭敏になってください。

 

「峰田くん……雄英体育祭見たことないの!?」

「あるに決まってんだろ。そういうことじゃなくてよー……」

 

 現状、それで十二分に戦えているからと満足して思考停止になっていませんか?

 

 世の中、もっといろいろな武器や防具、サポートアイテムがあります。

 身の程を知り非合理を嫌った合理性を突き詰めるのも良いですが、非合理性から得られる経験も大事なのです。

 過去、色々な武器を好奇心のままに使って、痛い目にあった経験が実際に活きている身として、そこは誠実かつ真摯に書いていく。

 

 まあ、この後に待ち受けているだろうミッドナイトも含めた生徒指導室への恨みもたっぷりと込めていますが。

 

「ウチの体育祭は日本のビッグイベントの一つ!! かつてはオリンピックがスポーツの祭典と呼ばれ全国が熱狂した。今は知っての通り規模も人口も縮小し、形骸化した……」

 

 それと、繰り返しになりますが先生は『目』に頼りすぎです。

 それなら、最低でも周囲の空気の揺らぎから周辺にいる個体を把握して敵味方の判別をつけられる様になって欲しいです。

 

「そして、日本に於いて今、『かつてのオリンピック』に代わるのが、雄英体育祭だ!!」

 

 私が脳無の目を潰した時、先生が私の接近に気づいていればその場で脱出できていた筈です。

 “個性”の関係上、どうしても『目』に頼りきりになってしまう事情は理解しますが、それはそれです。暫くは目を閉じての生活をご提案します。

 

「当然、全国のトップヒーローも観ますのよ。スカウト目的でね!」

 

 そういう内容を、とってもオブラートに包んで書いていく内に気づく。

 先生に『狂人の智慧』を授けたら良いのでは……?

 

「資格修得後はプロ事務所にサイドキック入りが定石だもんな」

「そっから独立しそびれて万年サイドキックってのも多いんだよね。上鳴あんたそーなりそう。アホだし」

「くっ!!」

 

 比喩ですけど、脳に瞳が増えるのは“個性”とも相性が良さそうです。

 これは、かなり良い考えでは? 思わず手を止めて思考していれば、すでに反省文を半分ほど書き終えている事に気づく。

 

 理不尽への反逆のつもりで意地悪も書いていますが、実際のところ先生は充分に強いです。

 サポートの腕も的確で、この程度の傷ですんだのも先生のおかげです。彼ならガスコイン神父と戦っても前半は余裕で勝てると思います。後半戦は……先生、虚をつかれるの弱いっぽいですし、勝率半分ってところでしょうか?

 

「当然、名のあるヒーロー事務所に入った方が経験値も話題性も高くなる。時間は有限。プロに見込まれればその場で将来が拓けるわけだ」

 

 んー? 反省文が一段落ついたので、ようやく話が頭に入ってくるも(あ、そういうの良いです)と、即座に興味を失う。

 

「年に一回……計三回だけのチャンス。ヒーロー志すなら、絶対に外せないイベントだ!」

 

 いえ、私は資格さえとれればそれで充分なので、頑張る理由がありません。

 だらけきっている私に、相澤先生だけが気づきましたが、素知らぬ顔で誤魔化します。

 

 けれど、皆は違うようで。少しだけ空気がピリッとしました。

 

「…………」

 

 本当に、ヒーローというのは目立ってなんぼなんだなぁと……包帯で覆われた手で隠す様に『んべっ』と舌を出しました。

 

 

 

 

 ふあ、っと。

 午前の授業が終わって昼休み。

 

「あんなことはあったけど……」

 

 薬指と小指でペンを握るのにも慣れてきた私は、滲む涙をそのままに『わっ!』と盛り上がるクラスメイト達をチラと見る。

 

「なんだかんだテンション上がるな、オイ!! 活躍して目立ちゃ、プロへのどでけぇ一歩を踏み出せる!」

 

 ……。

 まあ、そういうノリなんでしょうね。

 

 夢を追い、目立つ事しか考えないヒーロー達の辿りつく先が、過去のトガヒミコの悲鳴に気づきもしない、上辺だけのヒーロー達。

 

(少しだけ、ヤな感じです……)

 

 授業の合間に反省文を書き終えた私は、机を片付けつつ目を細める。

 

 別に、彼らがそうなるとは思いませんが、こういう積極性を見せられる度に、私は皆とは違うのだと線引きされている気になる。

 

「皆すごいノリノリだ……」

「君は違うのか? ヒーローになる為、在籍しているのだから燃えるのは当然だろう!?」

「飯田ちゃん、独特な燃え方ね、変。……ヒミコちゃん、一緒に食べましょう」

 

 梅雨ちゃんが、眠ろうとした私の前に来て誘ってくれる。

 というか、今日は百ちゃんや葉隠ちゃん、芦戸ちゃんと耳郎ちゃんも教室で食べるらしい。

 

「僕もそりゃそうだよ!? でも何か……」

「デクくん、飯田くん……」

 

 え? お茶子ちゃんの感情の込められた声に、思わず目を向ける。

 

「頑張ろうね、体育祭」

「顔がアレだよ麗日さん!!??」

 

 ち、ちょっとびっくりしました。

 

「どうした? 全然うららかじゃないよ麗日」

「生……」

 

 スパァンと、峰田くんが元気にぶたれていますが、本当にどうしたのでしょう? すごく一生懸命って感じです。

 

「皆!! 私!! 頑張る!」

「おお―――けど、どうしたキャラがフワフワしてんぞ!!」

 

 ……。

 どうしてか、さっき考えていた事もあって、気合の入ったお茶子ちゃんの横顔に動揺してしまう。

 

「……ぅ」

 

 そわそわする。

 いえ、お茶子ちゃんが、上辺だけなダメダメヒーローを目指していても、全然、どうでも良い筈なのに……足が止まる。

 

「…………っ」

 

 お茶子ちゃんだけじゃない。

 本当は、クラスメイト達がこの先にどんなヒーローを目指していようとも、それは彼ら彼女らの選択であって、私がどうこう思って責める筋合いはないのです。

 

 知らない事は、無い事と同じなのだから。

 

 ()()()に5年も気づかなかった私が……無い事にしていた私が、このヒーロー飽和社会だからこそ犠牲になってしまう、()()()()()()()()()()()()の存在を、彼ら彼女らが知らない事を、分からない事を、見えない事を……っ。いいえ、やめましょう。

 

 希望に溢れる姿を滑稽だと皮肉ってみても、眩しくて目が潰れそうになっていても、邪魔する様な言動をして良い理由にならないのです。

 

 

「…………ち、ちょっと、ジュース買ってきます」

 

 

 でも、少しだけ気になったから。

 

 梅雨ちゃん達に断って、いつの間にか羽織っていた毛布を(あれ? 本当にいつの間に? 誰のです?)そのまま纏いつつ、お茶子ちゃん達を追いかける。

 

 そして。「お金欲しいからヒーローに!?」と、意外そうに上げられた声に気づいて「ふえ?」変な声が漏れてしまう。

 

「あ!?」

 

 驚いた顔で振り向いたお茶子ちゃんと目があって、慌てて駆け寄られる。

 

「ひ、被身子ちゃん!? 聞いてたの!?」

「は、はい。……お茶子ちゃん、お金欲しいんです?」

「き、究極的に言えば……」

 

 なんだか、すごくカァイイ顔で動揺しているお茶子ちゃんにキュンとしつつ意外な理由に目を丸くする。あと、緑谷くんがとても自然にうっかり階段から落ちてもフォロー可能な位置に移動してくれるの優しいです。

 

「なんか、ごめんね不純で……!! 飯田くんとか立派な動機なのに、私恥ずかしい」

 

 あーって、恥ずかしがるお茶子ちゃんが、そのまま私を労わる様に毛布を巻きなおして、ほっぺをにくきゅうでぷにぷにってしてくれる。やわらかい。

 

「何故!? 生活の為に目標を掲げる事の何が立派じゃないんだ?」

「うん……でも、意外だね……」

 

 飯田くんも、動きが面白いけどスススッと私を人目から隠す様に立ったりして……え? 今の私って人目に触れるのダメな感じなんです?

 

「ウチ、建設会社やってるんだけど……全っ然仕事なくってスカンピンなの。こういうの、あんま人に言わん方が良いんだけど……」

「建設……」

「麗日さんの“個性”なら、許可とればコストかかんないね」

「でしょ!? それ昔父に言ったんだよ! でも……」

 

 そうして、お茶子ちゃんが語ってくれるご両親の話を(……っ)聞いて。そのお茶子ちゃんへの想いが込められた台詞に、動揺して、気づけば目を見開いている。

 

 ああ。

 

 自分の両親を、そして、己と()()()の事を考えて、酷く足元がおぼつかなくなる。

 

(……本当に、良い子ですね、お茶子ちゃん)

 

 ご両親も、とっても優しくて、お茶子ちゃんが、こんなに優しい子に育つの、よく分かります。

 

 

「私は絶対ヒーローになって、お金稼いで、父ちゃん母ちゃんに楽させたげるんだ」

 

 

 強く、まっすぐな瞳が綺麗すぎて、息が止まる。

 お茶子ちゃんの全てに見惚れながら、なんてか弱くも強い子だろうと、胸が高鳴る。

 

「麗日くん……! ブラーボー!!」

 

 飯田くんの言葉に一緒にこくこくと同意しながら、でも、何も言う資格がない私は、静かにお茶子ちゃんを見つめる。

 

 でも、お茶子ちゃんは「あ」少しだけ驚いた顔をして、パアっと「えへへぇ……♪」って嬉しそうに、気づけば笑っていたらしい、持ち上がっている私の頬をつんっとする。……こ、怖い顔を晒してごめんなさい。

 

 

「おお!! 緑谷少年がいた!! ……渡我少女も!?」

 

 

 あら。

 接近には気づいていましたが、唐突ですねオールマイト。皆がビクッとしてます。

 

「ごはん……一緒に食べよ?」

「乙女や!!!!」

「ぜひ……」

「あと、渡我少女は決して無理はしない様に! 食事の後はリカバリーガールのところにちゃんと顔を出すんだよ! 寝ないでね!?」

「はーい」

 

 軽く返事をして、あっさりと別れた緑谷くんを見送り、私も教室に戻る事を伝える。

 言い訳のジュースだけ買いに行こうとしたら、何故か飯田くんがぐわっと迫ってきて「僕が買って来よう!!」とお金を受け取り、お茶を買ってきてくれた。……いえ、良いのですけど。

 

「おかえりなさい」

「おかえりー」

「麗日どうだったー?」

「……すっきりした顔をしているわ」

 

 んぐ。

 教室に戻れば、皆はお弁当を食べずに待っていてくれた。あと、私がお茶子ちゃんを気にしているのはバレバレだった様です。

 

「……ただいま、です。別に、何もないです」

 

 落ち着かない。

 そういう空気、変に心臓がくすぐったくなるのでヤです。

 

 そっぽを向いた私のポーカーフェイスに、特に問題はなかったと判断したのか、妙にほっこりした表情で食事を始める皆を見てホッとする。察しが良すぎるのも困ったものですと、コンビニで買ったバナナを取り出して口でむいていく。

 

 ピタリ。一同の動きがそこで一旦止まる。

 

「……バナナは片手で食べやすいもんねー。……一応聞くけど、そのコンビニにはおにぎりとかサンドイッチは一つも無かったの?」

「普通にありましたよ?」

「そっかー! なんでバナナ!?」

「栄養価が高いって聞いたので」

「んぅー!!」

 

 葉隠ちゃん、カァイイ顔をくちゃっとさせてもカァイイね。どういう鳴き声なんです?

 

「……ヒミコちゃん、あーん」

「? あーん」

「……こういうの、嫌じゃないかしら?」

 

 いえ別に。

 卵焼きが美味しいと首を振れば、ホッとした梅雨ちゃんにミートボールを更に『あーん』される。

 

「被身子さん、こちらもどうぞ」

「肉食べなって肉!」

「辛いの平気?」

「トガちゃん、バナナはね? おやつじゃないけどおかずでもないんだよ……!」

 

 百ちゃん、芦戸ちゃん、耳郎ちゃん、葉隠ちゃん。そして梅雨ちゃんを見て、食べさせて貰いながら思う。思ってしまう。

 お茶子ちゃんと同じぐらい優しい彼女達は、どんな『ヒーロー』になるのだろう?

 

「…………」

 

 お茶子ちゃんと同じ様で、違う。似ている様で、似ていない。

 だけど、あの瞳をするのだろうと思った。

 

 貫かれる様な、ハッと息を忘れる様な、そんな理由があるのかもしれないと思えば、変に心臓がもやもやする。喉が詰まって、ごくん、口の中のものを無理に飲み下す。

 

 ……まあ、そうですよね。

 

 

(皆は、私みたいな成り行きとは違う)

 

 

 感じてしまう疎外感を、当たり前だろうと受け入れる。

 

 最初は、ヒーローを目指すのが『普通』だからと、学校や親の希望に流されただけ。

 そして、まさかと思っていた雄英に受かってしまい、初めて『ヒーロー』について考えた私は。もしも、こんな『ヒーロー』がいたならばと、理想のヒーロー像を見つけた。

 

 そして、そんな『ヒーロー』がいないなら私がなれば良いと……夢をみてしまった。

 

(……バカみたい、です)

 

 改めなくても、私が一番くだらない。

 

「トガちゃん、もうお腹いっぱい?」

「……はい」

「被身子さん、先生に食後は必ず保健室に行く様にと……あっ! いけません! 起きてください!」

「ちょっ、薬! せめて薬だけは飲ませないとダメだって! 確かポーチにいれてる―――って多ッ!!??」

「ちょ、トガを起こして!! これ絶対に飲ませないとダメなやつ!!」

「起きてヒミコちゃん。……っ、熱があるわ、高いわ」

「あー!! どーう考えても解熱用の薬も入ってるよねぇ!? トガちゃーん!!」

 

 ……ご迷惑をおかけしています。

 でも、お願いなので今は放っておいて下さい。

 

 どうして、私はこのクラスで一番強いのに……一番どうしようもないのでしょう?

 どうして、私より『普通』でしっかりしている子達が……こんなにもか弱いのでしょう?

 

(……そんなの、『普通』じゃない私に分かりっこありません……)

 

 どうして、私はどこにいても『普通』になれないのでしょう?

 どうして、私はこんな事を考えて苦しくなっているのでしょう?

 

 どうして、私は『此処』にいるのでしょう?

 

 

「―――――」

 

 

 いっぱい考えていたら、ごちゃごちゃして、しんどくなる。

 

 額に手をあてている梅雨ちゃんを引き寄せて、無理やり抱きついて、突き飛ばされるのを覚悟でぐりぐりと額をおしあてた。

 

 眠いし、だるいし、熱いしで、もうぜんぶ、分かんなくなっていた。

 

 

 

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