上位者少女が夢みるヒーローアカデミア   作:百合好きの雑食

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1話 個性把握テストです

 

 

 こんな事を言ったら、色々な人に怒られる気はしますけど。

 

 私は、雄英に通うつもりは一切無かったのです。

 

(ドア……大きすぎませんか?)

 

 ぼーっと教室のドアを見上げて、欠伸を堪えて目元を擦る。

 気を抜くと意識を飛ばしそうになりながら1-Aの教室に辿りつき、のろのろとやる気なく教室のドアを開けて中へと入っていく。

 

 ドキドキもわくわくも、何もない。

 

 むしろ鬱屈した気持ちを抱きながら、誰もいない薄暗い教室に一番に乗り込み、支給された制服を適度に着崩しながら自分の席を探して視線を泳がす。

 

(……だるいです)

 

 っていうか、もう学校に来たくないです。

 

 きゅっと唇を噛んで、どんよりと落ち込みながら自分のだろう、壁際一番後ろの席を見つける。

 一つだけ後ろに飛び出ている孤独な席が、まるで今の自分みたいだとやるせなくなる。そして、己の体質を恨めしく思う。

 

 

(私、本当なら2年生なんですけど……?)

 

 

 まさかの留年ですよ……

 というか、去年はこの体質のせいもあって、たったの一日も出席できなかった。

 

 登校中に、意識を刈り取られる様に眠ってしまったのだ。

 

 原因の一つが、18禁ヒーローと呼ばれるミッドナイトの存在だった。

 個性事故というか、私と彼女の相性が抜群に悪かったのだ。ギリギリの時間に教室に入ろうとして漂う香りに気づいた途端、ばったりと眠ってしまった。

 

 そこで、まあ予想外の時間に狩人の夢に来訪してしまい驚いた()が、まさかの隠し事というか特大の秘密を五年越しで大暴露してくれやがって、その件で大喧嘩になり、気づいたら現実時間で十ヵ月も経過していた。

 流石に、見知らぬ病院で目覚めて両親に泣かれてと展開についていけずに唖然としていたら、雄英から留年のお知らせが届いた。……いっそ、退学にして欲しかったです。

 

(……気が重いのです)

 

 大体、雄英というのがいけない。目立ってしょうがないじゃないですか。

 学校側とお母さん達からのさりげなくないヒーロー科への怒涛のおすすめを断りきれず、迷いに迷いながら(当時はまだヒーローになるつもりはなくて)どうせ筆記で落ちるからと、倍率300倍というバカみたいな雄英に記念受験して…………少し、自分があの悪夢に浸かりきっていたという現実を突きつけられた。

 

 一般の、当たり前の感覚を忘れていた私の目の前に広がる、哀れな残骸たちの柔さと脆さに引いた。

 

 考えてみれば、私は夢の中で人形ちゃんに潜在能力? の様なものを限界まで引き上げて貰っていたのだ。

 

 脳の中の瞳に関してもそうだし、体力、持久力、筋力、技量……多分、個性使用に関係ありそうな血質、神秘も、終わらない夜を繰り返す内に限界まであげていた。それはもう考え無しに、現実に影響があると薄々勘付きながら、その意味を気にもせず、能天気に渡我被身子はやらかしたのだ。そして今の私は人間の皮を被った上位者である。

 

(……。だから、ヒーロー科にって、推されていたんでしょうけど……雄英や士傑でって、勧められていたのでしょうけど)

 

 頭が痛くて、思い返すだけでうんざりしてくる。

 12歳の頃、私達はあの悪夢を終わらせて、人ではなくなった。

 

 現実の私と夢の()に分かたれた後、私は改めて自分が大嫌いになった。

 

 ……あまりに救い様の無い、血に酔った獣でしかない己の過去の言動の全てに、頭を抱えて、ひたすらに後悔する毎日を送る羽目になった。

 

『トガはトガなのに、不思議だねぇ』

 

 そう言ってにんまりと笑う、夢の()が、更に大嫌いになった。

 

 あの悪夢が繰り返されるものだと知る前から、悪夢に囚われている住人たちを殺して回った異常者である渡我被身子に近い()は、苦悩する私を興味深そうに見つめていた。

 

 少しでも、普通でありたくて、両親に改めて普通になりたいと、普通について尋ねた。

 

 私の異常に疲弊していた両親は大喜びで、普通を目指して一緒に頑張った。それでも普通という感覚が遠い私は、せめて擬態をしようと両親に協力して貰い努力した。普通の家族の様にお出かけしたり、旅行をしたり、笑うのだけは控えて、がむしゃらに普通を目指した。

 

 だから、お行儀良くしていたのに、まさか学校側からヒーロー科を勧められて、両親も乗り気になり、そして本当に雄英に受かるなんて思ってもいなかった。

 

(……最悪です)

 

 留年のせいで、異例のA組21人。……私、これじゃあただの異物じゃないですか。

 

 もうやっていられなくて、自分の席にのろのろと近づいて、感慨もなく座り、腕を枕にふて寝する姿勢になる。

 

(……ねむい)

 

 心地良いトロトロとした眠気に身をまかせたくて、でも、眠るのは嫌いだとイライラする。

 

 深く眠れば、あの夢で()と顔を合わせる事になるから、浅い眠りを繰り返している。本当は授業中に寝るのが一番良いのだけど(夢を見る間もなく目が覚める)この学校でそういうのは厳しそうだと、小さく欠伸。

 

 ……ダメだ。意識を保てない。……今なら、登校してきたヒーローの卵の誰かが起こしてくれるだろうと信じて、快感と不快感を同時に抱きながら目を閉じる。

 

 眠りは、数秒かからずやってきて、意識はストンと落ちた。

 

 

 

 

 

 ――――がっこう、がんばってね~。

 

 

 

 

 

 はあ?

 

 夢の方から能天気な声がかけられた気がして、意識が覚醒する。

 

 目を閉じたまま気配を探れば、教室内はすでにざわざわと賑わい、人が集まっている。

 ……少しは睡眠時間がとれたようだと、全身に漂う二度寝の誘惑と戦う。

 

(眠い……けど、寝たくない、です。……でも、眠い。……私、まだ赤ちゃんなんですよぉ)

 

 泣きたい気持ちでバブバブしたくなる。

 上位者として生まれたてなのが現実にも影響している。寝ようと思えば前の様に一年近く眠ってしまえるからこそ、我慢しなくちゃいけないのに、我慢している自分がおかしいとぐずりたくなる。

 

 ……これだから、寝起きは嫌いなのだと、ちゃんと起きなくてはと瞼に力をいれる。

 

 

「机に足をかけるな! 雄英の先輩方や机の制作者方に申し訳ないと思わないか!?」

「思わねーよてめーどこ中だよ端役が!」

 

 

 え、うるさ……

 

 むしろ、この騒ぎに今気づいた自分にショックを受ける。……寝ていると本当にダメなんだなぁと、明確な弱点に気づきながら、己の体質に改めての危機感を抱きつつ、しかしまだ寝ていたいと心の赤ちゃんが抵抗している。しかし、繰り返すがこの学校にはどこかしこにミッドナイトの残り香があって、眠気を余計に誘ってくる。

 

(……っ、寝たら、下手したら()と顔を合わせることになる。……あ、嫌悪感で目が冴えてきました)

 

 たまには役に立つと、ようやく顔をあげようと「お友達ごっこしたいなら他所へ行け」……したら、先生が来たっぽいですかね? ……あれ、ここで顔をあげたら、寝たふりしてたって思われます?

 

(それは、ヤですね……)

 

 流石に初日からそんな恥ずかしい事してる子って見られるのはヤです。私の方がお姉ちゃんですし「ハイ、静かになるまで8秒かかりました。時間が有限、君たちは合理性に欠くね」うーん「担任の相澤消太だ。よろしくね」……いつ起きましょう?「早速だが、体操服着てグラウンドに出ろ」いえ、もうこのまま寝てしまった方がいいのでは?

 

「それと……おい、誰かそいつを叩き起こせ」

 

 あ、起こされた。良かったー!

 

 寝たふりもばれなかった様だと、ホッとしつつ、誰かに肩をゆさぶられる心地良さにうとうとする。

 誰かが「……熟睡じゃん」「……えぇ」と呟いているのが聞こえて、寝たふりをしている変な子にはならなくてすんだと、目を閉じたまま引きずられる様に立ち上がり、数人の誰かさん達に甲斐甲斐しく手を引かれたり、背中を押されたりしながら更衣室に辿りついた。

 

(ねむい……)

 

 そして、着替える際にもちょっとぐずついて、年下の子たちに更に着替えを手伝って貰った。

 ……いえ、大丈夫です私は変な子じゃない筈です。眠かったら誰でもこうなる筈だと自分に言い聞かせて、欠伸をしながらグラウンドにでる。

 

 

「個性把握……テストォ!?」

 

 

 そこで響く驚愕の声を聞きながら、先生だという男性の説明を話半分に聞く。

 ふらつく身体を、カァイイ女の子に支えられながら、目元を擦ってなんとか意識を保とうとする。

 

 いえ、寝ぼけながらでも、ちゃんと状況は把握していますよ?

 

 こういう時、脳の中の瞳は便利だと思うんですけど、こうなっている元凶な気もしてきて複雑になる。

 爆豪君という子が派手に”個性”を使い、ソフトボールを投げるのをジッと見つめていると、脳に彼の名前と個性が浮かび上がってくる。

 

 ……『爆破』かぁ、なるほどですねぇ。

 

 見たところ手の平から爆破している感じなので、手首から切り落とせばいいですね。

 あと、傷口は焼いちゃえば止血もできて死にはしないでしょう。……あ、いや。ヒーローが切り落としちゃダメなんでしたっけ? ふあぁっと欠伸しながら首を傾げていると、先生にギロリと睨まれてしまった。思わずジッと見つめ返す。……へぇ。『抹消』なんですね。

 

「…………」

 

 私の視線に何かを感じ取ったのか、先生はスッと視線を逸らして、盛り上がるクラスメイト達に目を細めて口を開く。

 

 

「……面白そう……か。ヒーローになる為の三年間。そんな腹積もりで過ごす気でいるのかい?」

 

 

 ピリッと空気が引き締まるのを感じながら、ふあ、っと漏れた欠伸を何とか手の平でおさえる。

 

「よし。トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう」

「「「「はあああ!?」」」」

「生徒の如何は先生の“自由”。ようこそこれが、雄英高校ヒーロー科だ」

 

 わー……入学初日からのソレに、流石に驚いて少しだけ目を見開く。続く彼らのやり取りを聞きながら、なるほどーと、目を擦る。

 

 そして思う。私……この学校には絶望的に向いてないですね、と。

 ヒーローにはなりたいけど、私の望む理想と、現実が求めてくるヒーローは違うのだ。

 

(……とりあえず、前向きに普通な感じに、最下位を狙いましょう)

 

 だって、私は普通のヒーローになりたい。

 

 普通になれない誰かを見つけて、普通にしてあげられる。そんなヒーローになりたい。

 

 だから。

 

 

「……“誰か”を蹴落とすのが前提のテストなんて、やる気がでる訳ないんですよねぇ……」

 

 

 ああ、うっかり声に出してしまった。

 

 ……けれど、どうせ誰にも届いていないだろうと、自分の番になるまで、ちょっとだけだと自分に言い聞かせて、静かに目を閉じた。

 

 

 

 




『ヤーナムの悪夢』

 それは、夢関連の"個性"持ちだけが引き込まれるという『都市伝説』の一つ。

 その夢を見てしまった者は、数日の内に精神を病み、一生眠り続けるか廃人になってしまうとまことしやかに囁かれている。
 そして、夢見る誰かが死んだなら、新しい宿主を探して地球の裏側に逃げようと寄生する。距離は関係なく、血に執着するらしい。

 この広い世界で、たった一人だけが見られる特別な夢。

 その噂がただの真実である事を知る者は限られている。

 現在の『夢』の所有者は渡我被身子。

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