トットットットッ。
綱の上を気怠く走りながら、普段なら眠くて最短のルートを選びますが、今日はちょっとだけ遠回りなルートを選びます。
(あまり露骨だと、怒られそうですし)
反省文はもうヤです。
こっそりと普通科を牽引できないとなれば、知らず狭まっていた視野も元に戻ります。……なので、こっそり反省中なのです。
(……彼方への呼びかけは、ちょっとやりすぎでしたよね?)
チラと見れば、後方でプスプスと煙を出しているゴミ(ロボ)の山。抉れて剥き出しになった回路が、実に残骸っぽさを主張している。
……知らずにはしゃいでいた自分に苦い思いを抱きつつ、ずっと前を走る『ツル』の子を見る。人込みには紛れていましたが、もしも彼女に一部始終を見られていたなら……口止めしなくちゃです。
『さあ先頭は、難なくイチ抜けしてんぞ!!』
下手をしたら、また生徒指導室かもしれません。
閉め切られた一室で、先生達と顔を合わせながら、ポップコーンやコーラを片手に大画面で映画を視聴するだけの謎の時間。映画の内容がつまんなくて苦手です。
感想を聞かれても、登場人物の心情とか意味不明すぎて『分からない』としか答えられないです。
(……あれ、小学生ぐらいの子が見る映画だと思うんですけど?)
なんで、お説教とかじゃなくてあんなのを見せられるのか、疑問がつきません。
考えすぎて『ふあっ』と漏れてしまう欠伸を手で隠しながら、だらだらと走る。
本当はここで終わっても良いのですが、次の種目で残る普通科もサポートしなくちゃですし、寝るのは我慢です。
「なんっで、落ちないのよアレ!?」
「体幹やべぇ……」
「地面を走ってるみたい……」
「……くっそっ!!」
周りは騒がしいですけど、落ちても死にそうにないですし、助けるのは無しです。
(目立ちたくないですし)
誰かが無茶をして飛んでくる、“個性”の余波やら岩を躱して、だらっだらと走る。
『今年の普通科はハッスルしてんなー!! そして欠伸ガールもといA組渡我、飛んでくる岩に対して靴先だけで綱を一回転して避けやがった!! やる気の無さに反して危なげがねぇー!!』
やめてください。目立ちます。
『先頭が一足抜けて下はダンゴ状態! 上位何名が通過するかは公表してねえから安心せずにつき進め!!』
んー。……『43名』ってところですかね? 脳に宿る瞳って、こういう時に直感で分かるから便利です。理屈はさっぱりです。
『そして早くも最終関門!! かくしてその実態は――――』
まあ、私は綱の上で順位を調整しておきましょう。最下位を目指すのです。
『一面地雷原!!!! 怒りのアフガンだ!! 地雷の位置はよく見りゃわかる仕様になってんぞ!! 目と脚酷使しろ!!』
ふむ。……それなら普通科さんをフォローできそうですね?
『ちなみに地雷! 威力は大したことねえが、音と見た目は派手だから失禁必至だぜ!』
『人によるだろ』
チラと全体を俯瞰すれば、ヒーロー科以外の大半がこの崖でリタイアしている。……これは、むしろ弱すぎて心配になってくるレベルですね。ハラハラします。
ここまで頑張って偉かったねぇって気持ちで、こっそりと崖を越えられない他の子達を労わります。
『ここで先頭がかわったー!! 喜べマスメディア!! おまえら好みの展開だああ!!』
本当に、
『後続もスパートかけてきた!!!!』
憧れを抱く『普通』の人達は、お疲れ様でした。
(ですから……)
その『普通』から脱したがるおかしな子を、集中してフォローしましょう。
『だが、引っ張り合いながらも……』
少しだけ、先を走っている『洗脳』の子を見つめる。
貴方の気持ちはさっぱり分かりませんが、都合が良いのでお互いに利用しあいましょうと、笑みが漏れる。
『先頭2人がリードかあ!!??』
綱地帯が終わっても、ゆったりと速度を変えずに走ります。
途中で、ブツブツ言いながら穴を掘る緑谷くんを追い越し「あ……」目が合う。
「ねえ、そこにたくさん埋まってますよ!」
「―――!」
少し振り返り、意図はさっぱりだけど地雷を掘っているのだと気づいて、固まっている場所を教えてあげる。
彼は「……!?」複雑に顔を引き締めると、まっすぐな視線だけで目礼して、教えた場所を必死に掘り始める。うん、素直でカァイイね。
皆がひょこひょこと進んでいるのを見て、走るのはやめて歩くことにする。
さてさて、緑谷くんは何を…………おお! 派手な爆音と爆風に背中を押され、身体が浮きました!
『後方で大爆発!!?? 何だあの威力!?』
煙を巻き散らしながら頭上を飛んでいく彼に、少し楽しくなる。
『偶然か故意か――――』
一瞬、私と目が合った彼が、私に向けて『ぐうっ』と右手を握るのが見えました。
……アハッ。
『A組緑谷、爆風で猛追ー!!??』
口元を咄嗟に隠して、大きく手を振って見送る。
『抜いたああああああー!!!!』
うーん。目立ってます。私より目立ってくれる人は良い人です!
『元・先頭の2人、足の引っ張り合いを止め緑谷を追う!! 共通の敵が現れれば人は争いをやめる!! 争いはなくならないがな!』
『何言ってんだお前』
そうですよ。共通の敵よりも絶対的な支配者です。
『緑谷、間髪入れず後続妨害!! なんと地雷原即クリア!! イレイザーヘッドおまえのクラスすげえな!! どういう教育してんだ!』
先頭は、相当に盛り上がっている様です。
改めて周りを確認して……あら。
『俺は何もしてねえよ。奴らが勝手に火ィ付け合ってんだろう』
青山くん、お腹痛そうですね。……うーん。
『さァさァ、序盤の展開から誰が予想出来た!? 今一番にスタジアムへ還ってきたその男――――……』
あ、サポート科の人も焦げてる。……じゃあ、はい。
『緑谷出久の存在を!!』
大歓声を聞きながら、この中で余力がギリギリ、それでも諦めていない2人の背を、軽く押しておく事にする。
『さあ続々とゴールインだ! 順位等は後でまとめるから、とりあえずお疲れ!!』
まずは……『ズーム』の子の手を取り「え?」そのまま、青山くんのところに行って同じ様に引っぱってあげる。
「……!?」
「青山くん、お腹大丈夫です?」
「おや、貴女誰ですか? でも助かります! このままゴールを目指しましょう!」
「いいですよー。私はトガです。トガヒミコです!」
「私はサポート科の発目明です!」
目を白黒させつつ、お腹が痛くて大変そうな青山くんを引っ張り、プスプス焦げている『ズーム』の子、発目さんもそのままゴールに連れていってあげる。地雷を踏まない様に、2人の足取りにも注意する。
『おいおい、これは競走だぜ? A組渡我!! 自分は落ちても構わないってか!?』
『……あいつ』
知りませーん。
続々とゴールして行くヒーロー科の面々を見て、すでに後続の人たちは諦めてるんですもの。諦めていない人を助けるのは、私が普通科に行く為にも当然です。
それに、この2人は私が手を引かなくてもゴールしていました。なので、青山くんのお腹の為にも早めにゴールさせるだけです。発目さんはついでです。
「と、渡我さん……! 助太刀はありがたいけど……これは勝負だ! 僕が先にゴールするよ!!☆」
「はい、どうぞー!」
「えー!?」
「おお!!」
ゴール手前で発目さんを放り込んで、青山くんの背中も押して、歩いてゴールする。
ぴったり43位ですね。
「―――何してるのぉ!!??」
「え? ……あ、発目さんより先にゴールさせた方が良かったです?」
「んー!!??」
首を傾げたら、お腹をおさえながら凄い顔で疑問の声を発されてしまう。とりあえず、背中を撫でてあげましょう。
「ありがとうございました! 渡我さん、お礼は後日に!」
「はーい、どういたしましてー」
そのまま、マイペースな発目さんとは別れて、ようやく障害物競走が終わったと欠伸を洩らす。
青山くんは辛そうですが、休む時間が増えた分回復も早いでしょう。
これ以上の手助けはプライドを刺激するみたいなので「なんか、ごめんねぇ」謝って、その場を去る事にする。
「!? ちょ」
ああ、そうだ。
今の内に、あの子に口止めを『ようやく終了ね』ミッドナイト?
『それじゃあ、結果をご覧なさい!』
あ、結果発表はじまっちゃいました。
そして表示される画面を見て、緑谷くん、1位凄いねぇという気持ちは……心操くん(普通科)いましたー! という気持ちで押し流される。 良かったー……! ゴールしているのは見えてましたけど、改めてここまで来てくれてありがとうございます!
(最後まで残してあげないとですね……!)
安堵の欠伸をふにゃふにゃ洩らしていると……なんか視線がうるさいですね。
もしかして、注目されてます?
『予選通過は上位43名!!!!』
ザワッ!! と、更に視線が集まってきて……いえ、もういいです。気にしない事にします。
『残念ながら落ちちゃった人も安心しなさい! まだ見せ場は用意されてるわ!! そして次からはいよいよ本戦よ!! ここからは取材陣も白熱してくるよ! キバリなさい!!!!』
ふむ、どうやって心操くんを目立たせましょう……?
『さーて、第二種目よ!! 私はもう知ってるけど~』
それにしても、さっきからミッドナイトがカァイイですね。テンション上がっているのが伝わってきます。……笑顔が見たいのに、私のせいで防護服が邪魔です。
『何かしら!!?? 言ってるそばから――――コレよ!!!!』
ん? 『騎馬戦』……? って、何でしたっけ?
「「騎馬戦……!」」
「個人競技じゃないけど、どうやるのかしら」
ええと、個人競技じゃないということは、こそこそする必要が無いんです?
『参加者は2~4人のチームで自由に組んで騎馬を作ってもらうわ! 基本は普通の騎馬戦と同じルールだけど、一つ違うのが……先程の結果にしたがい各自にPが振りあてられること!』
なるほど、そういう。
「入試みてえなP稼ぎ方式か、わかりやすいぜ」
「つまり組み合わせによって騎馬のPが違ってくると!」
『あんたら、私が喋ってんのにすぐ言うね!!!!』
怒ってるのもカァイイ!
『ええそうよ!! そして与えられるPは下から……5ずつ! 最下位は0Pで42位から5P、41位10P……といった具合よ、そして』
私は0Pですか。望んだ展開に満足です。
『1位に与えられるPは、1000万!!!!』
わあ……0と1000万って、差が開きすぎて面白いですね。
『上位の奴ほど狙われちゃうー……下剋上サバイバルよ!!!!』
緑谷くん、凄い顔してます。
『上を行く者には更なる受難を。雄英に在籍する以上何度でも聞かされるよ。これぞ
まあ、もう上にいる私には関係ないですけど。
『予選通過1位の緑谷出久くん!! 持ちP1000万!!』
ふありと欠伸。
やっぱり、上にいながら身軽なのが一番です。
『制限時間は15分、振り当てられたPの合計が騎馬のPとなり、騎手はそのP数が表示された“ハチマキ”を装着! 終了までにハチマキを奪い合い保持Pを競うのよ』
再び、熱気の様なものが足元から場に籠っていくのを感じる。……皆、本当に頑張り屋さんですね。
『取ったハチマキは首から上に巻くこと、とりまくればとりまくる程管理が大変になるわよ!』
つまり、私のハチマキってただ邪魔なだけですね。
『そして重要なのは、ハチマキを取られても、また騎馬が崩れてもアウトにはならないってところ!』
……えー?
「てことは……」
「43名からなる騎馬10~12組がずっとフィールドにいるわけか……?」
「シンド☆」
ですよねぇ。
「いったんP取られて身軽になっちゃうのもアリだね」
「それは全体のPの分かれ方見ないと、判断しかねるわ、三奈ちゃん」
結局、楽はできそうにないのです。
『“個性”発動アリの残虐ファイト! でも……あくまで騎馬戦!! 悪質な崩し目的での攻撃等はレッドカード! 一発退場とします!』
……。こっそりでも、怒られそうですね。残念です。
『それじゃ、これより15分! チーム決めの交渉タイムスタートよ!』
「15分!!??」
短いです……まあ、私は人気が無いでしょうし、絶対条件として心操くんに――――え?
ゾクッ!! と、緑谷くんに向けられているのと同等以上の圧力を感じて咄嗟の『加速』!!
「被身子さん、私と!!」
「被身子ちゃ―――いない!?」
「トガー!!??」
「まって、トガちゃん私と組もう!!」
「「「逃げたあああ!!!!」」」
え? え? ……ええ?
一部を除いてA組に狙われて、いや、誘われてるんですか私? なんで? 0Pですよ私?
びたっ!! とミッドナイトの後ろに隠れます。ごつい防護服が今だけ凄くありがたいです。
「トガちゃん、どこー!?」
「被身子ちゃん、でておいでー!!」
「被身子さん、怖くないですよー!」
「マジかよ!? 渡我どこ行った!?」
「0Pなんて、旨味の無さ過ぎる強敵ありえねぇー!!」
ほら、A組の狂乱ぶりに、B組さんと他の科2人がびっくりしてますよ。……やめて?
ミッドナイトも、面白がってぷるぷる笑いをこらえているの、伝わってますからね!?
予想の斜め上からやってきたピンチに、私は暫く動けもせず混乱するしか無くて、お願いだから心操くん先にチーム作らないでね!? 私と組みましょうね!?
心の中で、じだんだを踏むしか無かった。