ミッドナイトの防護服、太陽の光を吸ってポカポカしています。
すよぉ……と、眠りそうになっていると、ミッドナイトにポンポンと優しく肩を叩かれてハッとします。
そうでした、交渉タイムでした。こそこそとミッドナイトの防護服の隙間から顔を出して、場が落ち着いているか様子を見ます。
「気配消すの、相変わらずヤバ……!!」
「見つからないー!」
「刹那にて、眼前から掻き消える、か……」
「どんな“個性”の使い方だよ? 渡我の奴、絶対まだ隠し玉あるぞ!」
「ここで逃げるとか、クラス最強の自覚無いのか?」
「ある訳ないでしょ、渡我だよ?」
「ごめん」
うえー、まだ探してます。
(諦めましょうよぉ……)
というか、A組の“個性”まで使った捜索に、B組まで興味を持っています。
チーム決めの交渉をしながら私を探してるの迷惑です。……これは、いずれ見つかりますね。……ヤですが腹をくくりましょう。
「あ、あの~」
「「「「いたー!!」」」」
やめてください。
目立つのヤなんです。
「ミッドナイトの後ろって、いつの間に!?」
「まあ! 被身子さんはかくれんぼもお上手なんですね」
「ヤオママ、今は和んでる場合じゃないから!」
「トガぁ! 俺と組もうぜ!! 爆豪も一緒な!!」
「ハアァ!!?? 勝手言ってんじゃねェぞクソ髪ィ!!!!」
お、落ち着いて?
そろそろ5分たちますよ? 真面目に私以外と交渉しましょう?
少し悩んで、心苦しいけどちゃんと言おうと「あ、あの……」一度ひっこめていた顔を、意を決してミッドナイトの腕の隙間から出して、しっかりと伝える。
「私は、騎馬戦をA組の人とするつもり、ないのです……!」
途端、皆の顔が驚き一色になる。
「「「!?」」」
「そんな……」
「被身子ちゃん?」
「なんで!?」
「だ、だから、ごめんねぇ……?」
驚いている皆に申し訳なく頭を下げながら『加速』して、視界に捉えていた心操くんの後ろにザッ! と移動する。
「! ……渡我、さん?」
「突然ごめんなさい、心操くん。私とチームを組みませんか?」
「……っ!?」
え、全身で動揺してる?
まるで『自分が誘われると思わなかった』みたいな顔にこっちが困ります。
私と貴方は、あの廊下でヒーロー科と普通科のトレード裏取引をかわした同士ですよね? ……あ、もしかして。
「0Pは、お呼びじゃ無いです?」
「! いえ、大丈夫、です。俺なんかでよければ……」
あ、良かったです。
表情がほとんど変わらないから、心操くんが何を考えているのか分かりませんが、ここで拒絶されなかったのは僥倖でした。流石に同チームじゃないとフォローするのも大変です。
「良かったです。一緒に頑張りましょう」
「……!」
廊下の時と同じ様に握手しようとすると「「「えー!?」」」と、こっちに気づいた皆に見つかってしまう。差し出される心操くんの手がぴたっと止まる。
「トガぁ!? なんでだよ!? オイラじゃダメなのかよぉ!?」
「彼、廊下で宣戦布告していた人ね」
「ええ、普通科の方ですわ」
「……また、何を考えているのか分からない事をっ!」
「読めない……!」
詰め寄ってくる皆の勢いが強すぎて、咄嗟に秘儀を使いそうになりました……
ダメです。例えるなら皆は足元でにゃあにゃあ鳴いている猫ちゃんなんです。
カァイくてか弱くて、下手に動くとうっかり殺しちゃいそうで、一気にこられるのは困ります。
びっくりついでにマダラスの笛とか鳴ったら、A組が大蛇の餌になるので本当にやめてください……!!
「……ぅう」
つい、で殺しちゃわない様に、すすっと心操くんの後ろに隠れます。
ええと、とりあえず適当な事を言って皆を宥めなくてはですね。……そう、真面目で頑張り屋さんの皆なら……
「私は、皆に挑戦したいのです」
こうです!
「「「「……!!??」」」」
あ、ちょろい。
嘘じゃなくて、ちゃんと真実を混ぜているので問題ないですが、そこまで喰いつきます?
「……私は、皆とちゃんと戦いたいです。だから、同じチームじゃダメなんです」
平時から『普通』の仮面(ちょっとひび割れてはいますが)を被る私は演技が得意です。
そして、今この場において私は、心操くんを目立たせる事を優先しているのです。
「ただの勝負なら、私が一番強いです」
「ッ!! 欠伸女ァ……!!」
い、威圧はやめましょう?
そんな迫力を出せちゃう子がいるからこそ、やっぱりA組と一緒に勝ちあがるのは無しです。
地味でか弱い心操くんが霞みます。
「個人競技なら、好きに調整できます」
「……あ、最下位はやっぱり狙ってたんだ。……怖ッ!!」
上鳴くんが失礼です。……いえ、何故か皆が同じ感想を抱いているのが分かったので、代表だっただけでつまり皆が失礼です。
……。
心操くんを目立たせる為に、そんな失礼な皆には踏み台になって貰います。
「この団体競技なら。私は、A組に負ける可能性があります」
ザワッとする皆に頷きつつ、まさかの5%の確率です。高いです。ヒントはミッドナイト。
A組を通り越して、脅威であるミッドナイトを意識しながら彼ら彼女らを見つめる。
「だからこそ、私は皆と戦いたいです……!」
スッと唇に指をあてながら、ニィと口角をあげる。
「敗北の泥味……私に、味わわせてくれますか?」
……うん。
不気味な笑顔を浮かべられたと満足しながら落ち込んで、静かに待っていてくれた心操くんの背を押して、その場を去る。
「――エロイ!!」
「やめろ!? トガだぞ!? ……トガなのに……!!」
「ギャップがさ、犯罪どころか巨悪になってきたね」
「……ったく、トガはさぁ……普段は赤ちゃんなのに」
「ずるすぎる。……でも、なあ?」
「これで燃えないとか、無いな……!!」
「負けないぞー!」
「ああ! クラス最強からの挑戦状だ! やるしかないよな!!」
「…………ッッ!!」
ズオォ……! と。
皆の気合が良い意味で高まっている。
下手すると、それは試合というより実戦に近い緊張感と集中力で……んー?
(……私、そこまで過激な事は言ってませんよね?)
ちょっと、煽っただけですよね?
殺し合おう、なんてニュアンスは含んでませんよね?
なのに、実戦を経験したばかりの彼らは、まるで次の本番を前にした戦士の様で……A組の迫力に中てられた心操くんが顔を強張らせています。
……あの。このプレッシャーは、1位の緑谷くんに浴びせませんか? 緑谷くんも含めて、なんで私達に挑戦する形になってるんです? おかしいですよね? 冷静になりましょう?
(……様子見っぽいB組も、A組と私達への警戒度をあげまくってるじゃないですかー)
ヤです面倒そうです。
どうやってさぼろうと顎に指をあてていると「渡我さん」声をかけられて、つい振り向く。
「……はい。あ!」
そこには、あの時の『ツル』の子が立っている。
近くで見るとカァイイと見惚れていると、そんな私に近づいて、丁寧に茨のツルで覆われる頭を下げる。
「私は、B組の塩崎茨と申します」
「と、トガです。トガヒミコです」
「ご丁寧に。……渡我さん、突然の申し出、失礼します! 私と、チームを組んでいただけませんか?」
……はい?
突然の申し出が意味不明すぎて固まっていると、ズイッとその横に大柄な影。
「おう、塩崎に先を越されたな! 渡我、俺とも組もう!!」
「て、鉄哲くん!?」
これは、更なる予想外です。
目の前には、あの廊下でお知り合いになった鉄哲くんが立っている。
B組の塩崎ちゃんと鉄哲くんが、まさかのチームを組んでくれると申し込んでくれました。
「は、はい! よろしくお願いします!」
B組なら、世間から注目されていないので嬉しい誤算ですが、どうしてでしょう?
とにかく、興奮してこくこく頷いていると、2人は各々の表情で笑ってくれる。
……いえ、背後からのA組の視線が痛いですが、今は振り払うのです!
と、とりあえず、こういう時は……自己紹介? チラと心操くんを見ると、彼は察して頷いてくれる。
「普通科の心操人使だ。渡我さんのおまけだが、よろしく頼む」
「謙遜するな! 俺はB組の―――」
そのまま、心操くんとB組2人の自己紹介を聞きながら、一気にやれることが広がって、思考が少しだけ忙しくなる。
(……最初は、心操くんを背負ってハチマキを集めるつもりでしたが)
この2人がいるなら、せかせか動く必要が無いですね。
んー。『スティール』と『ツル』と『洗脳』…………ああ、いえ。その前に確認しないと喧嘩の元でした。
「あの、私が騎手でも良いですか?」
手をあげて主張する。ダメなら、別の作戦を立てようと考えていると、3人に意外そうな顔で頷かれる。
「いいぞ!! 渡我が適任だろ!?」
「勿論です」
「渡我さんなら、問題ない」
……あれ?
あっさりと決まってしまいました。
あまりに都合の良い展開が不思議で、首を傾げてしまう。
「……ありがとう、ございます?」
知らない人達と急造でチームを組んでいるのに?
「……作戦とかも……私が、決めていいのでしょうか……?」
だんだん意味もなく不安になってきて、上目に見つめる。
「おう!! よろしく頼む!! さっきの話は聞こえていたしな!!」
「渡我さんの作戦、是非お聞かせください」
「……意見はします」
おお……! いいんだと少し嬉しい。
でも『さっきの話』ってどれでしょう? 覚えが無いのですが、都合が良いのはラッキーです。
「では、作戦ですが――――」
塩崎ちゃん、鉄哲くん、心操くんの、真剣な視線がくすぐったい。……この3人は、勝たせてあげないとですね。
眠いけど、頑張ります。
今だけはと、欠伸を堪えながら考えたばかりの作戦を伝えていく。
途中、眉を顰められたりもしましたが、なんだかんだ納得して貰い、作戦の共有はギリギリで交渉タイム中に終わる。
「という感じで、シンプルにいきます」
締めくくると、塩崎ちゃんが手をあげる。
「はい、塩崎ちゃん」
「作戦は分かりました。充分に効果的であると理解もします。……ですが、それで良いのですか?」
「なにがです?」
「……渡我さんに責任の所在が傾きすぎています。……失敗すれば、私達はその時点で敗北します」
「しないですよ?」
塩崎ちゃんは何を気にしているのでしょう? 分かりませんが、大丈夫ですと頷く。
「鉄哲くんが踏ん張れないとか」
「む?」
「心操くんがこけるとか」
「……」
「塩崎ちゃんのツルが脆弱でもなければ、失敗はないです」
「……」
まあ、それ以外の要因で失敗するとしても。
「大丈夫です。皆が失敗しても私がフォローします」
お姉ちゃんとして、君たちを助けますと目を細める。
暫し無言で見つめられますが、気にせず視線は逸らしません。
「……言葉では無く、態度で語るか!! ますます気に入ったぜぇ渡我ァ!!」
「……そこまでのご意志がおありなら、私は全てを受け入れます」
「……渡我さんの足を、いや、誰の邪魔になるつもりも無い」
ああ。良かった。
気合は十分みたいですね。
『さぁ起きろイレイザー! 15分のチーム決め兼作戦タイムを経て、フィールドに11組の騎馬が並び立った!!』
『…………なかなか、面白ぇ組が揃ったな』
騎手に私。前騎馬に鉄哲くん。後騎馬に塩崎ちゃんと心操くん。
『さァ上げてけ鬨の声!! 狼煙を上げる!!!! 血で血を洗う雄英の合戦が今!!』
裸足になり、組んで貰った手の上に乗り上げる。
「ん?」
「え?」
「……は?」
何故か3人に、異常なものを見る目を向けられますが、どこか変です?
『よォーし、組み終わったな!!?? 準備はいいかなんて聞かねぇぞ!! いくぜ!! 残虐バトルロイヤルカウントダウン!!』
「鉄哲、塩崎、恨みっこなしだぞ」
「お、おう!」
「はい……」
B組の子に激励されてるのに、なんだか気もそぞろですね?
『3!!』
まあ、いいです。
『2!!』
それじゃあ。
『1……!』
私達の勝利の為に。
『START!』
緑谷くんには、負けて貰いましょう。