普通科の生徒が集まる観客席の真ん中。
招かれるがまま椅子に座り(敷かれたクッションはふかふかで、ひざ掛けと肩掛けに包まれながら)ステージを快適に見下ろしている。
(……ん?)
流石に、もてなしすぎじゃないかと疑問を抱きつつ「あーん」と、普通科女子にホカホカのたこ焼きを食べさせて貰い、ハフハフと頬張る。最初のぎこちなさはどこにいったのか、妙に距離が近い普通科の面々に戸惑いを隠せない。
(私、心操くんの応援にきたんですよね?)
かろうじて目的を思い出すも、何を言うべきか考えがまとまらない。すでに頑張っている彼に『頑張れ!』と声をかけるのは違う気がするし、不自然なもてなしも気になるしで、だんだん眠たくなってくる。
『一回戦!! 成績の割に何だその顔、ヒーロー科、緑谷出久!! 対、ごめんまだ目立つ活躍なし! 普通科、心操人使!!』
差し入れを咀嚼している内に意識が途切れて、カクンッと頭から落ちかけると複数の手に支えられる。
「あぶな……食べながら寝ちゃうんだ……」
「あ、でも口は動いてる!」
「起きた! ……喉に詰まらせてない? お茶飲みます?」
……んー?
色々と言いたい事はありますが、わざわざ支えなくても直前で起きるので大丈夫ですよ? 口の中のものを飲み込んで「あいがと、ございます」お礼を伝えながら、まとわりつく眠気に頭が揺れる。……ねむい。
「……っ! 渡我さん、焼きそばも美味しいですよ! 紅生姜たっぷりだけど食べれます?」
「んんっ! 綿菓子もありますよ!」
「ピザもあります! 心操が勝っても負けてもお疲れ様会しようって、屋台で買い漁ったんです!」
あ、そういうの普通っぽくて良いですね。
何故か、箸もスプーンも渡してくれないので、しょうがなく食べさせて貰いながらこくこくと頷く。
「こっちのたこ焼きが美味しいって! ソースが決めてでしょ?」
「いいや! ふわっとろっカリっのプロの技が光るこっちでしょ! 渡我さん、お口あけて~」
「ずるい! 私も!」
……。
「この色えぐくね? どんな味で……青汁じゃねぇか!!」
「やめろやめろ! 目は覚めるだろうけど子供に飲ませるもんじゃねぇ!」
「焼きトウモロコシは、炭火で炙られたバター醤油が最高で、熱々のうちに齧りつくのが至高なんだが、渡我さんには無理っぽいから速やかにスプーンで削り取れ!」
「……ギャップ萌えってこんな殺傷力あった? お世話するしかないでしょ……!」
普通科、楽しすぎません?
わいわいしている彼ら彼女らのやりとりが微笑ましくて、会話の内容は分からないけど居心地が良いです。
色々なご飯を「あーん」されながら、私もこんな風に、自然とその輪に入りたかったと目を細める。
(こういうの、好きです……)
普通っぽい空気に嬉しくなりながら、A組の皆を思い出して格差を思い知る。
(……なんで、たかが学校行事で将来がどうこうって話になるんですかね……)
もっと普通に、体育祭を楽しみたかった。
だからこそ、目の前の普通のやりとりがこんなにも心を癒してくれる。
(……いいなあ)
友達を応援して、パーティの準備をして、皆で屋台の品を買い漁って、味比べして、どうでも良い話題で熱くなれて、たくさん盛り上がって、いっぱい気楽に笑っている。
ヒーロー科の中で、己だけ冷めきっていた自覚があるだけに、この適温が心地良い。
(ずっとここにいたい……)
目を閉じて、プレゼント・マイクの放送を片手間に聞きながら、普通の人達と過ごすお祭り気分を堪能する。
「あ、歯に青のりは女子高生として致命的なんで、気をつけてください!」
「渡我さん、いーっ! ってしてみて」
「わ、犬歯すごっ!! ワイルド可愛い~!!」
「って、お前ら!! 試合始まるって!! あ、渡我さんはどれ飲みます? 自販機からジュース買いまくったんで、色々ありますよ!」
どんどん気安くなっていく普通科の面々に嬉しくなり、ヒーロー科をやめたい気持ちで足が揺れる。
一時的な構われだとしても、この子達と同じ空間にいるだけで癒される自信がある。
心操くんが晴れてヒーロー科に移籍して、私が普通科に通う未来の為にも頑張ろうと思える。
そうしていると、プレゼント・マイクの元気の良い試合開始の合図が聞こえてきて「「「!?」」」全員の視線がステージに注がれる。
そういう切り替えも良いと、声を張り上げて心操くんを応援する彼ら彼女らの手に汗握る表情がカァイイと、頬が緩む。
(さて……)
おすすめだというジュースを飲みながら、私としては望まぬ展開に目を細める。
(心操くん、早速しかけちゃいましたね)
先手必勝とばかりの“個性”の発動に、性急ですねと缶の中身を飲み干す。
「何てこと言うんだ!!」
試合開始の直前、なんやかんや言っていた心操くんが、最後に声を荒らげて「お前らは、揃いも揃ってあの人だけを生贄にして、無傷で生還したんだろう!?」と煽り、緑谷くんがらしくなく激昂したのだ。
……あちゃあ、ってやつです。これはもう次の試合では通じないです。
(心操くん、焦ってますね……)
緑谷くんが相手なら、もっとやり様はあったでしょうに。
スタート直前に“個性”を発動させるのは良い案でしたが、それはもっと格上に使うべきでした。
(……やはり、経験が足りてないですね)
スマートな圧勝より泥にまみれた辛勝。つまりは様子見しながらの挑発に混ぜて“個性”をかける方が、勝ちあがる勝率も上がったでしょうに。
ほぼ優勝できない事を除けば、彼の個性は手品の様に種を隠すからこそ、不気味で映えるのです。……これじゃあ、目立っても一時的ですね。
パキリと缶を潰す。……彼を過信しすぎた私のミスですね。
反省しなくてはと小さくため息を漏らすと、周りの子達が何故かビクついて、なんです? ひそひそして「心操、その煽りはやばいって」「……まあ、噂に憤ってたし、気持ちは分かるけどさぁ」と気まずそうです。
「……?」
疑問を感じるも、普通の子達の思考は読めないので興味を失う。
『オイオイどうした、大事な緒戦だ盛り上げてくれよ!? 緑谷、開始早々――――完全停止!?』
小さくなった缶を、燃えないゴミ用のビニール袋に捨てながら、足を組んで頬杖をつく。
二回戦を勝ち抜けないだろう心操くんに憂いを感じていると「……?」ここにきて、妙な予兆を瞳が訴えてくる。
……何でしょう? この、花粉みたいにじわじわと積み重なる不愉快な予感は。
『アホ面でビクともしねえ!! 心操の“個性”か!!??』
ある様でない様な、妙にまとわりつく前兆に、気づけば彼らから目を離せない。
『全っっっっ然、目立ってなかったけど彼、ひょっとしてやべえ奴なのか!!!!』
いいえ。どんな嫌味や悪意も、平然と無視すれば無傷ですむ程度の“個性”です。
だからこそ、身体能力の低さを嘆いているのでしょうし、こんな違和感を起こせる子でもない。
「……振り向いて、そのまま場外まで歩いていけ」
なら、緑谷くん? 心操くんの指示に大人しく従っている彼のポカンとした童顔に……――――は?
ザワリと、脳の瞳がざわめく。
「……っ!」
緑谷くんから、死人の気配……!?
意味が分からなすぎて勢いよく立ち上がる。
(それも複数……!)
これに似た視線を、私は知っている。
此処ではない、次元の向こうから緑谷くんを見ている気配に「……!」緑谷くんの“個性”が暴発する。
「……!」
彼の指がバキッと折れて衝撃の暴風がゴウッ! と巻き起こる。
っ。瞬間、醸し出されていた気配が消える……。いえ、これは消滅ではない。
ざわつく脳の瞳に苛立ちを覚えながら、頬の煩わしいガーゼに爪をたてる。掻き毟るなと言われていなければ、苛立ちに任せて剥がしていたところです。
(緑谷くん、貴方……何を飼ってるんです?)
もしかして、私のお仲間さんですか?
『――――これは……緑谷!! とどまったああ!!??』
残滓を感じます。
緑谷くんに興味を抱きながら静かに観察していると、緑谷くんが不意に顔をあげて、目が合う。
「……っ!」
緑谷くんは少し驚いて、だけど(うん!)とばかりに大きく頷いて、気を引き締める様に心操くんと向き合う。
(……ん? え? ……なに?)
今の一連の動きがよく分からない。
緑谷くんは見ているだけの私にどんな幻覚を見出したのか困惑するも、緑谷くんの纏う残滓が気になって目を離せない。
その一連の動きに心操くんも気づいて「!?」私を驚愕の表情で見て……あの、私がここにいるの、逆効果になってません?
「ッ、何で……!? いや、後だ! 体の自由はきかないハズだ、何したんだ!」
心操くんの叫びを聞いて、パッと口を塞ぐ緑谷くん。……やはり警戒されてますね。分析と解析が得意な緑谷くんは、早々に彼の“個性”に当たりをつけた様です。
「なんとか言えよ!」
「――――」
「……! 指動かすだけでそんな威力か、羨ましいよ!」
ダメですよ心操くん。焦りが顔にでています。
「俺はこんな“個性”のおかげでスタートから遅れちまったよ。恵まれた人間にはわかんないだろ!」
そして、緑谷くんをバカにしすぎです。
彼からは、貴方以上の飢えを経験した匂いがします。
「誂え向きの“個性”に生まれて、望む場所へ行ける奴らにはよ!!」
彼は我慢できる子です。耐えられてしまう子です。
痛くて、苦しくてしょうがないって顔してる癖に、貴方と同じ様に幕を降ろせない子です。
(……だから私は、緑谷くんや心操くんを、見つけてしまうのです)
最初から、普通を持っていない私と、自ら普通を置いて行こうとする貴方達。
お互いにどういう結末を迎えるのかと、未来の楽しみが増えた気分です。
取っ組み合い「なんか言えよ!」殴られ、鼻血を流す緑谷くんと、その血に内心で狼狽えてしまう心操くん。
やはり、同じ飢えを体験していても、根や環境によって違いはでてくるものです。
緑谷くんの迫力に怯んでしまった心操くんは、すでに負けています。
(……そして)
脳の瞳が答えを得ました。目を細めて緑谷くんを見つめる。
彼は、人から人に受け継がれる『ナニカ』を身に宿している。
(……私の様に)
人から人に寄生していった悪夢と、似て非なるものをもっている。
「……♪」
心操くんの応援のつもりで、面白い事を知れたと口元を覆う。……勝敗への興味は消えて、その場を去ろうとし、気づく。……そういえば、応援らしい応援をしていません。
(……。それは、いけませんね)
もう関心を失っているとはいえ、約束は大切です。一言ぐらい適当な応援を放とうと口を開いた瞬間、心操くんは場外に背負い投げされる。
『心操くん、場外!! 緑谷くん、二回戦進出!!』
……終わりましたね。
それなら、せめてお疲れ様の一声ぐらいかけようと思い直せば、何故か普通科の子達がついてくる。……まあいいですけど。
『二回戦進出!! 緑谷出久―!!』
あの辺りが良いですかね?
なんとなく、うずうずしている普通科の面々を先に行かせると、彼ら彼女らは大きく頷いてドタバタと走っていく。
『IYAHA! 初戦にしちゃ地味な戦いだったが!! とりあえず両者の健闘を称えてクラップユアハンズ!!』
やっぱり、心操くんはヒーローになれますね。
だって、良い友達に恵まれています。
「かっこよかったぞ心操!」
その一声で、俯いている心操くんに上を向かせてくれる。
1人ぼっちじゃないと、教えてくれる。
「正直ビビったよ!」
「俺ら普通科の星だな!」
「障害物競走一位の奴と良い勝負してんじゃねーよ!!」
「それに、お前の憧れの人も応援してたんだぜ!」
「羨ましいぞこのやろー!」
へえ、心操くん、憧れてる人とかいるんですね。
何故か背中をおされて、最前列に押し出されると、友人達を見上げていた心操くんが一瞬で気まずそうな顔になり、まるで合わせる顔がないとばかりに俯いてしまう。
……。
あの、そこまで気にしなくて良いですよ?
確かに、トレードの条件は満たせなかったかもしれませんが、まだチャンスはありますし、心操くんは充分に頑張ってくれました。
知らず昂っていた心が落ち着いて「心操くん」迷いましたが、ちゃんと応援をしましょう。
いいんですよね? と、確認する様に周りを見れば、期待の籠った表情ばかりで、止める者はいないと心操くんを見下ろす。
「……すみません。渡我さんが、ここまで引っぱりあげてくれたのに。……負けました」
ええ、負けましたね。
彼は俯いたまま、悔しそうに拳を握っている。その震える身体を静かに見下ろす。
「……俺、中途半端で……やっぱり、こんな“個性”がヒーローなんて、分不相応で……渡我さんにも、迷惑をかけました」
彼の表情は見えないけれど、その声は震えています。
もしかしたら彼は、幕を引く為の準備をしているのかもしれません。震える手で、諦めに指を伸ばしているのかもしれません。
……なら、私はその邪魔をしましょう。
(だって、応援しても良いのでしょう?)
それなら「心操くん」私は応援という名の、祝福と呪いを君にかけましょう。
俯いたままの油断しきった背中を押して。
「君は、ヒーローになれます」
普通から、ヒーローという異常へと。
優しい台詞で、地獄に落としてあげましょう。
「……、え」
「オールマイトにも救えない誰かを、救けられる凄いヒーローになれます!」
この一時だけは、善なる私も悪女になりましょう。
我ながら残酷な台詞だと、周りの視線が心地良い。
「……、あ」
興が乗って、塀を乗り越えて飛び降りる。
くるんっと一回転して着地すれば、目の前に驚愕、というより放心している心操くんがいる。
「……渡我、さん」
背伸びして、手を伸ばして頭を撫でる。
「まずは、身体を鍛えましょう」
「……ぁ」
「あと、話術ですね。北風と太陽です。緑谷くんタイプに北風は逆効果です」
「……っ」
「そして、君はもっと、この声を聞くべきです」
ほら、たくさんのプロの人達が、君の“個性”を称賛している。
撫でる手を止めて促せば、心操くんは周りの声を聞い……うん? ちゃんと聞いてます? すごく褒められてますよ?
なのに、心操くんは私だけを見つめている。……その瞳を見て、刷り込んだひよこですかと苦笑する。
もう、しょうがないですね「心操くん」彼の前で、大きく両手を広げる。
「聞こえてますか、心操くん。……貴方は、すごい子です!」
ちゃんと聞きなさいと、応援を終える。
「…………ッ」
ぇ?
そしたら、心操くんの両目から、液体がボロボロと……あの……?
「……おれ、ぜったい、あきらめません……っ!!」
んん?
ズビッと鼻まで鳴らして、え、ええ?
(な、なにも、泣く事ないじゃ……ないです?)
台詞、間違えました? 応援、ダメでした?
いえ、私は依頼をしっかりこなしただけで、普通科に入りたいしで、男の子を泣かせちゃったのは誤算で?
動揺するも、気づけば周りの歓声と心操くんへの励ましの声も激しくなっていき……動揺する。
(ど、どうすればいいんですか、この空気!)
とりあえず、泣いている子をこのまま晒すのはいけないと、逃げる様に彼の腕を引けば、片腕で両目を覆い、唇をぎゅっとしたまま大人しくついて来てくれる。
でも、溢れる涙は止まりそうにありません。
(そ、そういえば、緑谷くんがいましたよね? ……な、なにか良いアドバイスを――――って、なんですその顔?)
見れば、まるで自分ではどうしようもできなかった迷子を託された様な、そんなおかしな気分になる複雑な表情をしている。
折れた指を、そんなに強く握ったら痛いですよ? そして私に向かって、大きくぺこっと頭を下げるのも……なんで?
(……。もうヤです、この体育祭は分からない事ばっかで帰りたいです)
とりあえず、お疲れ様と緑谷くんに手を振って、疲れきった心地で心操くんの手を引いていけば、通路の途中で普通科の子達が迎えに来てくれる。
「心操、すごかったな!」
「お疲れ様! ……お前、絶対ヒーローになれるよ!」
「渡我さん、ありがとうございます!」
「私、渡我さんのギャップ萌えがどうこうって噂の真意、よく分かりました!」
……もう帰っていいです?
一気にガヤガヤと通路は賑やかになり、そのまま囲まれて辟易する。
心に余裕が無いので、気配を消して逃げようとすると「被身子さん!」……。逃げたら、心配しちゃう子が来てしまう。百ちゃんと芦戸ちゃんが駆け寄ってくる。
丁度、普通科の子達から離れようと抜け出したタイミングだったので、その勢いのまま2人に抱きしめられる。
「トガ、私との試合があるって覚えてる? 探したんだからね!」
「……次は、もう少し詳細な書置きを残してください!」
……えぅ?
温もりに包まれながら、心配されるだけだと思っていたのに、探されていたという事実に不意打ちめいた感情が生まれる。
百ちゃんが、改めて「被身子さんがお世話になりました」と、普通科の子達に頭を下げている。彼ら彼女らが恐縮するも、心操くんは赤い目で静かな表情を浮かべている。
そして、百ちゃんは芦戸ちゃんに私を託しながら「……心操さん」心操くんを、真剣な表情で見つめる。
「被身子さんにあそこまで言わせる貴方と、共に学べる日を楽しみにしています」
「……!」
軽く目を見開くも「ああ」急にぐっと大人びた心操くんが、百ちゃんの顔をまっすぐに見て頷く。
色々な意味で驚いている普通科の子達に軽い礼をして、百ちゃんはそのままスマートに集団から離れていく。
……すごいです。私は気配を消して無言で立ち去る事しかできないのに、その社交的な別れ方は参考にしなくてはと、抱っこされながら感心する。
そうして暫く運ばれていると、通路を曲がった辺りで「もう!」予想していたけど、百ちゃんにパスされてぎゅーっとされる。
「……心配しました!」
「ごめんねぇ?」
爪先が浮いてます。
「……いいえ! 耳郎さんが言う通り、私が過保護すぎるんです! ……ですが、何事も無くて良かったです」
「……はい」
頬ずりされて、少し照れる。
まだ、素直に気持ちを伝えられるのに慣れてない。
「……え、っと」
でも、さっきの普通の子たちとのやりとりで、こういう時は……その背中にもっと気軽に手を回しても良いと知ったから。ぎゅーっと、抱き着いてみる。
「!? ……――――今すぐ市役所に行きましょう!」
「暴走するなヤオママ!! それ系の話はダメって皆で話し合ったよね!?」
「ハッ!? そ、そうでした! ですが、普段はされるがままの被身子さんが……ついに私の娘になる決心を……してくれたという事では!?」
「違うし落ち着け!!」
おお? 芦戸ちゃんにガバッと奪われました。
私はぬいぐるみですか? いえ、抱きしめて落ち着くならお好きにどうぞですが。ちょっと私を軽率に持ちすぎだと思います。
「暫くトガへの抱っこ禁止!!」
「……っ。はい」
「あとトガ、次は轟と瀬呂の試合で、その次の次が私との試合! うっかり寝過ごしそうだし、私と一緒に行くからね!」
「……はい」
頬をつんつんされて、目を逸らす。……遅刻とサボリを封じられましたが、まあ、良いでしょう。
「頑張ってくださいお2人とも! 私の試合は、お2人の次の次ですわ!」
「相手は常闇だよね? ……ねえトガ、ヤオママが凄く緊張してるし、何かアドバイスとかある?」
「芦戸さん!? 何を……」
「まあまあ」
そんな会話を聞きながら、ああ、やっぱり彼女達はヒーロー科だと肌で感じる。
適当に、常闇くんの“個性”はだーくしゃどう。黒で影なんだから、とりあえずサングラスと閃光弾で様子見しますねーという軽い会話への食いつきが、違う。
真面目な顔で「ですが、太陽の下でも“個性”が消えていません」とか「いや、影は光で消えるし、昼間でも当然影はできる。……試してみる価値はあるんじゃない?」普通科が懐かしくなるぐらい、会話の熱と重みが違う。
(……普通科、通いたいです)
改めてそう願いながら、芦戸ちゃんに横抱きされてうとうとする。
芦戸ちゃんの、背中をぽんぽん叩く感触が絶妙すぎて、心地良さに任せてぎゅうとしがみついた。