上位者少女が夢みるヒーローアカデミア   作:百合好きの雑食

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26話 試合終了と約束です

 

 

 怒りに打ち震える人間は見慣れています。

 

 でも、芦戸ちゃんの怒りは、少しだけ違う気がするのです。

 

 

「えーい!!」

「……」

 

 拳に『酸』を纏わせた、不格好な突きを躱す。

 

 喧嘩慣れしていないのか、攻撃が不得手らしい芦戸ちゃんの拳は遅い。

 最初に酸で焼かれた手の平はヒリヒリするも、濃度は低くかなりの軽傷。私に勝とうとする意志はあるのに、命を刈りとろうとする気迫は皆無。

 

(……やり辛いですね)

 

 追撃の蹴りを首を傾げることで避け、見越して伸ばされる五指を『パリィ』して仰け反った首筋に手を伸ばす。

 

「!?」

「……」

 

 場合によっては、内臓は抜かずとも衝撃が響く様に殴打するつもりでしたが……迷った末に彼女の襟を握ってポーンと後方に投げ飛ばす。

 

「うわ!?」

「……」

 

 空中で「こんっ、の!!」無理に身を捻って酸を飛ばしてくるも、一歩、位置を変えれば当たる事もない。そのまま無様に転ぶのをギリギリで回避した芦戸ちゃんは「……ぐぬぬ!!」と、悔しそうに私を睨んでいる。

 

「ッ!!」

 

 そして、すぐさま地面を蹴って駆けてくる。

 

「だああ!!」

「……」

 

 そんな彼女に、困ってしまう。

 

 一方的な悪意や逆ギレなら何の感情も抱きませんが、コレは違うと、理解はできずとも感じるので、どう立ち向かえばいいのか分からない。

 溶解液の飛沫が、太陽の下でキラキラと光っている。目を細めて、勝てばいいのか負ければいいのか。当初の目的より優先度の高い悩みに冷や汗が滲む。

 

(……普通科には通いたいですが、今は芦戸ちゃんが優先ですね)

 

 こうなってはもう、彼女をいたぶっての勝利は望めない。

 

 怒っているから殺しにくる、なら分かる。でも、怒っている癖に私の怪我を気遣うのが分からない。

 敵意はあるのに、一切の害意を感じない矛盾に、ずっと迷っている。

 

(……どうすればいいんです?)

 

 芦戸ちゃんの思考が読めず、ひたすらに困惑する。

 

 でも、脳に得た瞳は、この子は()()()()()()()()()()()()と教えてくれる。

 理由も理屈もその結論に至るまでの過程もすっ飛ばされているが、直感もそれを肯定している。なればこそ、戸惑いながら彼女を見る目が変わる。

 

(……無抵抗に殴られたら、許されるでしょうか?)

 

 なんて、今更できる空気でもない。

 

 本来のトガヒミコなら、それら全てを無視して当初の目的を突き進めるでしょうが、“善”の私は理性的に、彼女への攻撃を控えられる。

 

「……こんのぉ!!」

「……」

 

 私は、普通になりたい。

 月光の下ではなく太陽の下を歩きたい。

 

 そして、なりたい自分を手に入れたい。

 普通になれない誰かが、普通だと受け入れられる、そんな夢物語のヒーローになりたい。

 

 そんな『夢想家』の私に、脳に得た瞳が芦戸ちゃんを求めよと示すなら、きっと芦戸ちゃんは役に立つのだ。

 

 彼女は、私と世界の摩擦を少しでも減らしてくれる鍵になるのかもしれない。だからこそ、彼女と敵対するのは得策ではない。

 

 すぐさま肉薄しようと迫ってくる拳を、寸前で避けながら肘を起点に投げ飛ばす。

 

「ん、ぎ!!」

 

 数秒、彼女は宙に投げ出されるも、タイミングを見計らう様に身を捻り、着地と同時にノータイムで此方に迫ってくる。

 

(……もう少し、考える時間が欲しいです)

 

 芦戸ちゃんとは仲良くすべきだと結論が出たのに、今度はどうやって怒りをおさめれば良いのか分からず頭を抱える。

 

 再度伸ばされる腕をとって、もう少し遠くに投げ飛ばす。

 けれど、彼女は間髪をいれずステージを蹴る様に立て直し、がむしゃらに突っ込んでくる。

 

 

『……受け身に慣れた様だな、着地からの立て直しが早い』

『あんだけポンポン投げられたらな!! だが、渡我は最初の位置からほとんど動いてねえぞ!! どうする芦戸ぉ!?』

 

 

 芦戸ちゃんは、私に一撃当てるまでは止まらないとばかりの顔をしている。今更に、試合の最初からやり直したい。

 

 彼女の様子がおかしくなったのは、お茶子ちゃんを『友達』だと言ってからです。

 つまり、私に嫉妬している? 自分の方がお茶子ちゃんと仲が良いと主張したい? ……いいえ、それはないですね。だって芦戸ちゃんは……

 

「そこー!!」

「……」

 

 不和を嫌い、調和を愛している子です。

 だからこそ、特定の敵も親しすぎる友も作らないタイプに見えます。

 

「またー!?」

「……」

 

 怪我をさせない様に投げ飛ばして、そんな彼女をジッと見つめる。

 

 だからこそ、分からない。

 そんな彼女が、怒りを露わにしている。試合に関係なく私に執着している。いったい、何をそんなに怒っているのです? 何が地雷だったのかと思考を巡らせる。

 

「……ん、ぎい!!」

「……」

 

 芦戸ちゃんは止まらない。

 呼吸もろくに整えず、間髪をいれずに攻撃をしかけてくるのは良いですが、USJで脳無と相対した今では亀並みに遅く感じる。

 

 それでも、戦いながら少しずつ修正されていく。

 彼女の動きが少しずつマシになっていくのは感心しますが、本来の私相手ならとっくに死んでいます。

 

(……弱い)

 

 あまりの非力さに、手加減すら難しい。

 

「そこ!!」

「……」

 

 今は、どうせ避けられるからと際どくなった酸をブラフにしているが、お話にならない。

 虚をつく様に突っ込めばあっさり動揺してくれる。そんな無防備な芦戸ちゃんの背後にまわるも、速攻で回し蹴りがきます。上半身の捻り具合に感心しつつ、ステージに散らばった溶解液をお借りして避ける。

 

 

『おおっと!! 渡我の奴、相手の“個性”を逆利用しやがった!! 体幹ぶれなすぎだろ!?』

 

 

 追いすがる様に、芦戸ちゃんがスライディングしてきますが、咄嗟だったのか溶解液を纏いきれていない。もう少しで触れられたのにねと、悲しくなる。

 

 

『……惜しいな』

『ああ! 芦戸も、ぶちキれているかと思いきやブラフ込みの追撃は光るものがあるぜ!! いけー!! そのまま渡我をぶん殴れー!!』

『……おい』

 

 

 プレゼント・マイク?

 明らかに芦戸ちゃん贔屓な解説に、今更に場の空気が芦戸ちゃんに染まっていると気づく。

 

「……ハァ」

 

 これは、ますます芦戸ちゃんの扱いが難しくなります。

 

 目の前には、間髪をいれずに酸を左右に撒き散らして、今度はしっかりと片靴に溶解液を纏って勢いよく滑ってくる芦戸ちゃん。

 私の動きを制限して顎下を狙う、のはいいですがみえみえです。大体、私の怪我を狙わないと宣言して実行している時点で、予測が容易になっています。

 

「んなっ……!?」

「……」

 

 格上に対して、自ら枷をつけて挑んでくる愚かさに、逆に心配になってくる。

 一動作で芦度ちゃんの頭に両手を乗せて、飛ぶ様にくるりと一回転。上に逃げて背をむける様に距離をとる。

 

「……?」

 

 あえて晒した背中への攻撃を待つも何も無い。カウンター狙いがばれたのかと振り返り……え? 芦戸ちゃんはこちらに手を伸ばして、酷く追い詰められた表情で立ち尽くしていた。

 

「……あっ」

 

 それは、迷子が親に手を伸ばす様な、力の無い動作で。

 今にも泣きそうな表情だと、目を見開く。

 

「芦戸ちゃん……どこか、痛いんですか?」

 

 気づいたら、声をかけていた。

 芦戸ちゃんは「……っ」痛みを堪える様にぐっと唇を噛んで、伸ばしていた手で拳を握る。

 

「……別に! トガの背中が……嫌いなだけ!」

「……」

 

 えー?

 己の一部位を嫌われた時って、どう反応すればいいんです?

 

 私と違って派手に動いている芦戸ちゃんは、息を乱しながら汗を拭っている。けれどその瞳からは複雑な感情が滲み出ている。

 

(……?)

 

 そんな表情で見つめられる心当たりが、私にはありません。

 

 

『そこで攻撃もせずに様子見ってか!? 芦戸の体力が回復するのもあえて見逃すとか、このガールマジで何考えてんだよ!? おい、イレイザーヘッド、担任のお前から見て渡我ってどんな子?』

『……そうだな。あの年で、心・技・体がひよっ子の水準を超えている。プロのヒーローでも、下手をすればあいつには勝てないかもな』

『……マジ?』

 

 

 ちょっと?

 

 今、そんな事を言う必要ありまし……あ、なんか大人の政治的探り合いとかカードを伏せつつの情報公開的面倒臭い気配を察知しました。

 雄英って色々な意味で敵が多そうですもんね。裏で勝手にしていてください。

 

(それに、芦戸ちゃんの息も整った様ですし……)

 

 彼女の表情に興味を抱いて、改めて芦戸ちゃんと向かい合う。

 

「……トガ」

「はい」

「言いたい事は、色々あるけど、まず」

「……?」

「歯を喰いしばれって、言ったのは……アタシだけどさ」

「はい?」

「試合中も、ことあるごとにずっと喰いしばるなー!!」

 

 跳び蹴り!? そして理不尽!?

 

 言われた通りにしているのに怒られるとか、情緒が難しすぎるでしょう?

 あと、飛び蹴りは隙も多いので今すべきじゃないです。ポーンと投げ飛ばしますが、最初よりも着地に慣れてしまった様で、すぐさま怒りの酸が飛んでくる。

 

 

『よっしゃあ!! まだまだやれるな芦戸!? この中身ベイビーにお前の一撃をお見舞いしてやれ!!』

 

 

 そして、プレゼント・マイクが酷いです!!

 

 だけど、声は冗談めかしていますが誠実な響きも混じっています。どうやら、私の発言にプレゼント・マイクも思う所があった様で、相澤先生も珍しく止めようとしません。

 

(……)

 

 そんなに、私の返答はダメでしたか?

 観客の大半が芦戸ちゃんを応援するぐらい、何かを間違えていたんですか?

 

「……」

 

 それは、常識ですか?

 常識とは多数決で選ばれる二択の内の一つですよね? 私はちゃんとそちらを選べていると思うのです。なのに、なんで急に二択以上の透明な選択肢が増えるんですか?

 

「……っ」

 

 それとも道徳ですか?

 人間に優しくしているのに、冷たいと言われるのはどうしてですか?

 

「……ッ」

 

 まさか平凡な事ですか?

 生まれつき血を求めている私に、そんな最初から無いものを察しろとか無茶です。

 

「……トガ?」

「――――」

 

 もしや、世間一般での当たり前な事ですか?

 それは、いつか私に分かる事ですか?

 

 

『あ』

 

 

 気づいたら、

 滑る様に接近して、溶解液を纏った靴で芦戸ちゃんを蹴っていた。

 

 

「―――ッ!!」

 

 

 此方に向けていた両手ともに、皮膚が破れて、ジワリと血が滲んでいる。

 

(あ……)

 

 いけない。

 考え込みすぎて自動で対処してしまった。同じ事をぐるぐると考えて現実逃避していた。

 

「……っ」

 

 ここまで、するつもりは無かったのに。

 

「……ッ、あ!?」

 

 こうなっては、もう手の平に酸を生み出せないでしょう。“個性”を使った途端、肉が溶けて試合どころじゃないです。

 

 いつか彼女自身が、“個性”を使いすぎると自分自身を傷つけると言っていた。

 すでに、真新しい傷口が酸に焼かれたのか、両手をおさえて痛みを堪える芦戸ちゃんの顔に見入る。

 

(……)

 

 今の自分が、どんな表情を浮かべているのか少し気になった。

 

 

『―――マジかよ!?』

『……酸の飛沫を、全て潜り抜けての一撃か』

 

 

 ぽつりと『のらりくらりしていたかと思えば、こういう一撃を交ぜてくる』などとぼやいている相澤先生の独り言はともかく、マイクに拾われていると突っ込む人は誰もいない。

 

「……え」

 

 だって、私も驚いている。

 

 

「―――ッ、だああ!!」

 

 

 酸が、飛んでくる。

 芦戸ちゃんが、痛みに蹲ることなく、攻撃をしかけてきた。

 

(……は?)

 

 なんで?

 

 ジュウゥ! と焼けている音と匂いがする。咄嗟に避けるのを忘れるぐらい、芦戸ちゃんの躊躇しない“個性”の使用に驚いた。

 

 

『……おいおい』

 

 

 解説すらも、芦戸ちゃんの行動を理解していない。なら、私に分からないのも道理だろう。

 

 駆けてくる。

 両手から煙を出しながら、嫌な臭いを発しながら、ダメな音を響かせながら、傷だらけになっていく手で、私を掴もうとしてくる。

 その、変わらぬ闘志に、目を見開く。

 

 痛くないの?

 

「痛くないの?」

 

 気づいたら、声に出して問いかけていた。

 

 

「ッ!! ――――痛いよ!!」

 

 

 返事は、吠える様な悲鳴。

 

「めちゃくちゃ痛くて、痛すぎて、意識飛びそう!!」

 

 涙が滲んだソレに、だろうね、とは言えなかった。

 

 芦戸ちゃんの両手から、更に煙が上がっていく。

 歪んで涙目のまま、それでも、私を見つめる瞳はまっすぐだった。

 

 そうしてようやく、私は芦戸三奈という少女を、低く見積もっていた事に気づいた。

 

 

「……なんで、痛いのに頑張るんですか?」

 

 

 そんな疑問に、芦戸ちゃんは痛みを誤魔化す様に吠える。

 

 

「アタシは、トガを倒したいの!!」

 

 

 それしか、今はもっていないとばかりに、更に突っ込んでくる。

 煙が増して、躊躇せずに“個性”を使用して、手の平が溶けて崩れてボロボロになっている。

 

「……ッ!! 分からないって、顔してる! ……ぐあ、ぁああ!!」

 

 赤で濁った『酸』が飛んでくる。

 ガクガクと、握れもしない拳をつくろうとして失敗して、それならばと腕ごと振り下ろしてくる。

 

 分からないと、もうその一撃を避ける理由が、私には無い。

 

 

「どうして、そんなに私に勝ちたいんです?」

 

 

 ぽすんと、私の肩に、ようやく彼女の一撃が当たる。

 距離をとれば、また無理して“個性”をつかってしまうから、距離を離さない様に問いかける。

 

「……ッ、トガのバーカ!!」

 

 暴言は、独特の臭いで気にもならない。

 痛みに耐性が無い癖に、無理をするからボロボロと泣いてるじゃないですか。痛くてしょうがないって……両手が溶けているじゃないですか。これ、もう綺麗な状態に戻らないでしょう?

 

「本ッ当に、全然分かってない!! さっきので分かってたけど、アタシがどれだけトガに憧れてるか、知らないでしょ!?」

 

 ……は?

 

「ほら、その顔!! 微塵も信じてないし、分かってない!!」

 

 ……なにを?

 

 体当たりしてくる身体を、避けてはいけないと、受け止める。

 ドンッ!! と全体重で押してくるのを、揺らがずに抱きしめる。

 

 

「ッ!! 自分の、“個性”でも、こんなに、痛くて、きつくて、怖いのに……なんで、あの時……1人で行っちゃうのよ!」

 

 

 分からない。

 彼女が、何を言っているのか、どうしたいのか、微塵も分からない。

 

 

「アタシだけ、何もできなかった……!! 立ち尽くして、役立たずだった……!!」

 

 

 悲鳴をあげる様に、痛みを誤魔化す様に、芦戸ちゃんは叫んでいる。

 痛みとショックでガクガク震えている腕を、無理に上げようとするのを咄嗟に押さえて止める。

 

「トガは、頑張ってたのに……! 庇って、怪我して、血だらけで、ボロボロだったのに……『きっとヤな事してきますよ』って、その通りだったけど、だからって、1人で行く事ないでしょう!?」

 

 気づいたら、ゴン、ゴンと胸元を頭突きされている。軽い衝撃は、妙に心臓に響く。

 

「……っ、ごめん」

 

 気づいたら、べそべそと芦戸ちゃんが泣いている。

 

「――――あの日、トガの力になれなくて、ごめん」

 

 胸元に、染み込む温かい液体に、手足が動かない。

 

「皆を守ってくれたのに、トガの事は守れなくて、ごめんなさい……っ」

 

 まさか。

 芦戸ちゃんは、そんな事を気にしていたんですか?

 

 

「……嫌だよ。アタシは、もう……トガの背中を見たくない」

 

 

 いつも笑っていたのに、明るくてキラキラしていたのに。

 

 裏で、そんな悲しい事を考えていたんですか?

 

 

「……今度こそ、一緒に戦いたいっ」

 

 

 無理だと、そう言いそうになって、喉が引きつった。

 

 そんなに弱いのに……私という上位者に並びたいと泣いている彼女が、酷く滑稽で、眩しくて、震える頭を撫でてあげる。

 

 

「……トガの、隣に立ちたいっ」

「いいよ」

 

 

 だから、頷いてしまった。

 

 その声が、あまりに願いに溢れていたから、どこまでも私の事ばかり考えていたから。全部、丸ごと受け入れる。

 

「じゃあ、弱い芦戸ちゃんを、私が強くしてあげます」

「……」

「私の隣に、立っていいですよ」

「ほんと、に?」

「はい」

 

 胸元に置いていた頭を、のろのろとあげる芦戸ちゃん。カァイイ顔が、涙と鼻水でくしゃくしゃで、目を細める。

 

「……いいの?」

「いいですよ」

「……アタシ、トガの……相棒になれる?」

「なんにでもなれますし、なっていいです。私が強くします」

 

 ポンポンと背中を撫でて、すでに痛みで限界だったのだろう、汗で濡れた身体を抱き上げる。

 

「トガ……っ」

「はい」

 

 ジュウ、と私の肌が煙をあげますが、“個性”が暴走しているのか、汗にも『酸』が混じっています。特に気にもならず歩き出す。

 

 

「あの日……アタシ達を、守ってくれてありがとう」

 

 

 そんな事を、ずっと言いたかったという声色で、嬉しそうに目を細める。

 

「……どういたしまして」

 

 別に、貴女たちを守ったつもりは無かった。けれど、そういう事にしておこうと思った。

 優しく抱え直して、ミッドナイトをチラと見つめる。

 

 

「私の負けでいいです」

 

『いいえ……芦戸さん、気絶につき渡我さん、二回戦進出!!』

 

 

 え? ハッとして芦戸ちゃんを見下ろすと、ぐったりと意識を飛ばしている。

 

 慌てて駆けだすと『二回戦進出、渡我被身子!! ……芦戸、ナイスファイト!!』プレゼント・マイクの声が響いた。

 

 

 思い出した様に沸きあがる歓声は……控えめだった。

 

 だけど、拍手は万雷の様に彼女に降り注いで、それに少しだけ頬が緩んだ。

 

 

 

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