上位者少女が夢みるヒーローアカデミア   作:百合好きの雑食

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2話 転校したいのです

 

 

 7歳の頃から、私は獣を狩っている。

 

 最初の夜、見知らぬ町中で目を覚ました私は混乱した。

 夜だし、暗いし、血の臭いはともかく鼻につく獣臭に顔をしかめて、怯えながら歩きだした。

 

『なにぃ、これ……?』

 

 暫く彷徨い、裸足の足に石畳は冷たくて、猫ちゃんのパジャマをぎゅっと握りしめる。謎の物音にいちいちビクつきながら進んでいると――――衝撃。死角から飛びかかってきた屍犬に襲われる。

 

『ふあ!? ァ、ぎ……ぇ、なん、れ……? あッ、ヤ、です…ぅあ……いたい、いた、ぃ、です……っ、ぅア!!??』

 

 ゴキリ!! 最後あたりに、粘度の混じったそんな音が自分の喉から脳に響いて、あっさりと息絶えた。

 

 そうして狩人の夢に辿りつき、呆然と悪夢で目覚めながらも、すぐに鮮烈な痛みと死の恐怖を思い出してわんわんと泣き叫ぶ。

 

 

 

 

 

「………ふあ」

 

 そんな、最初の夜を思い出しながら、走っているクラスメイト達を見つめる。

 

 あの当時は10mもまともに走れなかったと、50m走をしている彼らを微笑ましく見つめる。

 だから、あんな犬に殺されるのだと、過去の己に(……ざまあみろです)音も無く呟いて、胸がすく思いで目を細める。

 

(……良い天気です)

 

 ふあぁ、と。青空に目を細めて、欠伸交じりに頑張るクラスメイト達を応援する。

 

 幸い、私の順番は最後なので、平均を見てそれ以下の記録を不自然にならないレベルで出せば良い。

 それにしても『エンジン』の子、速いですねぇ。『蛙』の子もカァイイなぁ。本名も見えるのだけど、読み方があっている気がしないので、自己紹介するまで“個性”でいいですよね。

 

「……?」

 

 そんな時、私を支える手が小さく震えているのに気づいて、くるりと振り返る。

 

「あ」

 

 そしたら、カァイイ女の子が、ハッとした様子で『しまった』って顔をして、表情を強張らせながらも明るい声で「大変な事になっちゃったね! お互い頑張ろうね!」と、大げさに身体を動かしてぐいぐい私の背を押してくる。

 

「……。いえ、無理しないでください。不安だーって、顔にかいてありますよ」

「え?」

 

 ピタリと固まる女の子に、頬が緩みそうになるのを堪えて、手を握ってあげる。

 

「私、トガです。渡我被身子」

「……わ、私は、葉隠透、です」

「そっか。よろしくね葉隠ちゃん」

 

 何故か、握手した手を驚いた顔で見つめる葉隠ちゃんに「大丈夫ですよ」と、こっそり彼女の耳元で囁く。

 

「私が最下位になるから。葉隠ちゃんは心配しないでください」

「……」

 

 ね? と笑って、これ以上は支えて貰うのも悪いなぁと、ふらつきながら前に進む。

 

「……どうして?」

 

 ポツリと呟く彼女の声を聞き流して、軽い伸びをする。

 

 それにしても『透明化』ですか。手にした武器を透明にできたら、たしかに怖いですねぇ。まあ、私には“見える”からいいですけど。

 

「……位置につけ」

「はぁい」

 

 歩いていると丁度よく順番になったので、そのままスタート。……これ『加速』つかったら、それなりに速そうですね……しませんけど。

 

「ほ、っと」

 

 ゴール。可もなく不可もないタイムを出す私を先生が睨んできますが、ぷいっと顔を逸らす。

 そのまま、次のテストの順番を待ちますが、ふと今更な疑問が浮かんでくる。

 

(そういえば、私と()って繋がってますよね?)

 

 上位者になってすぐに「管理めんどいです」って、夢で手に入れた私物を全部食べたのだ。あまりの雑さに唖然とした記憶がある。

 

「…………」

 

 嫌な予感がして、更に記憶を探っていく。

 

 確か、喰い合わせがどうとか言い訳して効果が下がったのもありますけど、本当に全部食べてしまったのなら、今の私って『加速』も無制限に使えて、手も触手でにょろにょろできて、レーザーも出せたり衝撃波で敵を吹き飛ばせたり、なんなら聖歌の鐘効果で範囲回復もできるんです?

 

 …………こわっ。

 

 ゾッとした。

 その可能性には気づかなかった。入試の時も“聖職者の獣”を人間サイズにして振るっていただけなので、そんな可能性は考えてもいなかった。

 

(流石に、これは要検討しなくてはダメなやつです)

 

 自分の手が意図せずにゅるにゅるになるとか、可愛くなさすぎて背筋が凍りそうになる。

 今だけは眠気も遠ざかり、腕を擦りながら皆の姿を見つめれば、その頑張っている姿に(かぁいいなぁ)と、心が落ち着いてくる。

 

 いいなぁ、子犬の様なクラスメイト達。……抱きしめたいなぁ。

 

 上位者になった影響か、年上はともかく年下に対して甘くなりがちになっている。

 ついつい保護欲や加護欲を抱きながら、自然と笑いそうになって慌ててこらえる。……悲しいけど、私の笑顔はどうあがいてもアレなんです。我慢ですよ我慢。

 

「次、はやくしろ」

「はぁい!」

 

 と、次は握力のテストですね。

 ふふふ、これは簡単ですね。普段から制御しているので朝飯前です。――はい、確認するまでも無く最下位ですね! ……ええ、幼女レベルですよこれは。……手加減しすぎました。流石に先生の視線が痛いです。

 

「……」

 

 ダメです。これ下手に言い訳したら怒られるやつです。視線から逃げる様にこそこそする。

 

 流石に、次は頑張るべきかと思い始めますが……最下位を目指すならこれで間違っていないので私は手抜きをやめません。

 私は! 除籍を言い訳に地元の高校に転校して(制服がカァイくて一目惚れしたのです!)そこで普通のヒーローを目指すのです! 俄然やる気が下がっていく。

 

 立ち幅跳びも、ぴょーんっと軽く飛んでおしまい。

 もし私が“個性"をつかうなら適当な獣に『変身』して飛び越えちゃいますかね。体操服が破けるのでしませんけど。

 

 反復横跳び。これは、調整がちょっと難しいですね。……うっかり手が出て仮想敵を斬りたくなります。狩人の癖がでてきちゃいます。……なんだか懐かしくなってきましたし、たまには地下に潜って狩りをするのも良いかもしれません。

 

 まあ、それはそうとして……あの子、私を見る目が熱いですね。

 

 最下位候補の男の子。私が余裕に見えるせいで、絶対に何か隠し玉を持っていると、勝手に追い込まれている。“個性”は……?『わん・ふぉー・おーる』……名前で個性の予測がつきませんね。

 

(……うーん。葉隠ちゃんの時みたいに、大丈夫だよって言ってあげたいけど)

 

 先生が油断なく私を睨んでいるので、断念するしかなさそうです。

 そして、ボール投げがはじまり、あの子の番になる。

 

「緑谷くんはこのままだとマズいぞ……?」

「ったりめーだ。無個性のザコだぞ!」

「無個性!? 彼が入試時に何を成したか知らんのか!?」

「は?」

 

 外野の声を聞きながら、私も彼を見守る。

 そして、彼が“個性”をつかうのを目視して「!」それが、フッと掻き消えた事に驚く。

 

「な……今確かに使おうって……」

「“個性”を消した」

 

 ――――わぁ。

 

「つくづく、あの入試は……合理性に欠くよ。お前のようなやつも入学出来てしまう」

 

 思わず、パチパチと手を叩く。

 すごい! すごく素敵じゃないですか! 予想以上に『抹消』って素晴らしいです! 先生の血が欲しいです一滴でいいから貰えませんか!?

 

(ああ! でもでも、先生は私の“個性”と条件を知っているから、頼んでも断られそうですね? 襲ってでもストックしておきたい“個性”ですどうしましょう!?)

 

 ワクワクして、手を合わせる。

 

 個性そのものを『抹消』できるなら、普通になれない誰かと話し合いをする時に、凄く役に立つじゃないですか!

 やっぱり一滴じゃ無くてコップ一杯は欲しいと襲撃方法を考えていると、緑谷くんと呼ばれていた子が先生に捕まって何やら説教されていた。……わあ、先生厳しい。

 

 

「“個性”は戻した……ボール投げは2回だ。とっとと済ませな」

 

 

 ……大丈夫でしょうか?

 手を抜いて良いんだよと教えてあげたいのに、先生が私に厳しい目を向けすぎている。悩んでいると私の耳にブツブツブツブツと絶望顔で追い詰められた少年の声が届いてくる。その必死すぎる顔と考察に、思考が止まる。

 

(そんなに、追い詰められているんですか……?)

 

 その気持ちが分からなくて、呆然としてしまう。

 

(たかが、除籍になるかもしれないって、それだけで?)

 

 少しだけ、この学校を見る目が変わっていく。

 

(そんなにも、彼にとってここは魅力的な場所なんですか?)

 

 そして、聞こえてくる台詞に、彼にはナニカがありそうだと予測しながら一挙一動を観察して。―――わぁ、と。その剛球に喉奥で笑ってしまう。

 

(面白い子ですね。緑谷くん)

 

 指、バキバキだぁ。

 私なら、輸血液とか誰かの血でも飲めばすぐ治りますけど、普通の子じゃダメなのに。すごいね。

 

 

「先生……! まだ……動けます」

 

 

 絞り出す様な声に、痛いんだろうなぁと口元がによによする。

 ……って、いけない。私は良い子のトガなのです。……よし! 頑張った緑谷くんには聖歌の鐘が生身でつかえるかの実験を「どーいうことだこらワケを言えデクてめぇ!!」あら、『爆破』の子ですね。

 ボボボって“個性”ではしゃいでて元気ですねぇ。先生に鮮やかに捕まってしまいましたが……うーん。視線がいちいち私を見てるんですよねぇ。……先生の目が油断ならないので、今は下手な事はしないでおきましょう。ごめんねぇ緑谷くん。

 

(……でも)

 

 気づけば、緩んでいる頬に触れながら、口元を覆う。

 

(なんだか、予想外に楽しめそうですね。このクラス)

 

 笑っている唇を隠して、少しだけ惜しむ気持ちがわいてくる。けれど、除籍の誘惑には逆らえない。

 

 それに、だ。今の私は個性テストよりもどうやって先生の血をコップ一杯ほど、合法的に手に入れるか考えるのに忙しい。

 個性テストに対しての興味が元から無かった事もあり、残りは最初よりも適当にこなしていく。そして、途中から平均すら目指さなくなった私を、クラスメイト達が心配そうな瞳で見つめてくる。

 

(やっぱり、こんな最難関なヒーロー科に来る物好き、いいえ、ヒーロー志望の子達って、良い子が多いんですね)

 

 なんだか、勝手に自分と比較して卑屈になってしまいそう。

 でも、これがヒーローって奴なんだろうかと考えて(……そういえば、ヒーローの『普通』って、あんまり知りませんね)なんて、今更な事を考える。

 

 普通のヒーローになりたいけど、考えてみたらヒーローという職業が当たり前すぎて、ヒーローの平均というものが良く分かっていないと気づく。

 

「……おい、渡我。少しはやる気をだせ」

「ふあぁ……どうせ最下位だし、別にいいです」

 

 欠伸をしながら答えると、クラスメイト達がギョッとするが、先生はため息をついている。

 

 気にせず最後のテストも終わらせると、クラスメイト中の視線が私に注がれる。まあ、最下位は確実に私ですからね。

 そんな重めの空気を気にもせず、先生が「んじゃパパっと結果発表」と、軽い調子で口を開く「口頭で説明すんのは時間の無駄なので一括開示する」とかいって文明の利器を利用する。

 

 

「ちなみに、除籍はウソな」

 

 

 はい? ……はい????

 

「君らの最大限を引き出す合理的虚偽」

「「「「はー!!!!??」」」」

「あんなのウソに決まってるじゃない……ちょっと考えればわかりますわ……」

 

 う、ウソ、ウソって、それがヒーローの先生がやる事なんです!? 流石に酷くないですか!?

 

「……まあ、渡我には逆効果だったみたいだがな」

「はぁい! やる気激減でしたー!」

 

 手をあげて怒りを滲ませて宣言すれば、先生にギロリと睨まれたので渋々手を降ろす。

 

「……今回は大目にみてやるが、次は真面目にやれ」

「……ヤです」

「おい」

「知らないです! どうせ私が一番強いんだし、意味ないじゃないですか!」

 

 すっかり拗ねた気分で、せっかく合法的な除籍のチャンスだったのにと頬を膨らませると、先生の顔がますます呆れてしまう。

 

 あーあ。……流石にお母さんもお父さんも、何も無いのに転校なんて許してくれないだろう。でも、普通を目指す私に雄英はやっぱりビッグすぎるんですよねえ。

 

「……緑谷、リカバリーガールのとこ行って治してもらえ。明日からもっと過酷な試練の目白押しだ」

 

 どうしたもんでしょうと思っていると「……?」強めの怒気が向けられているのに気づいて、気配を探る。……『爆破』の子ですね。不機嫌そうですけど、何かあったんでしょうか?

 

「おい。欠伸女がでけぇ口叩くじゃねぇか、ああ!?」

「……ふぁ?」

 

 振り返ると、クラスメイトの男子数人が「おい!」「やめろって」みたいに彼を止めようとしている。緑谷くんも慌てて間に入ろうとしている。

 

「お前が一番強いだと!? ふざけてんじゃねぇぞクソザコがぁ!!」

 

 んぅ? 一番? ……ああ、そういえばさっき言いましたね。ポンっと手を叩いて、怒る彼に近づいて頷く。

 

「はい。私が一番強いです」

「あ゛?」

 

 ビキキッと、血管が浮き出てますね。短気過ぎませんか? 周りの人達も『うわあ』って顔しているし、今のって私が悪いんです?

 私としては、彼は吠え癖のあるワンちゃんにしか見えず、カァイイなぁって優しくしてあげたいんですけど、こうも歯をむき出しにされると……手がでてしまいそうです。まあ、彼から暴力を行使する気配はないので、良いんですけどね。

 

 んー。眠いです。

 

「それじゃあ、そういうことで~」

「待てやこらぁ!!」

 

 彼が押さえ込まれているのを横目に、更衣室に向かう。

 

 忘れかけていたけど、今日は買い物に行く予定があるのです。

 雄英に通うにあたって、当たり前に一人暮らしを強いられているので、ご近所のスーパーで夕飯を買わなくてはいけない。

 

「……はぁ」

 

 本当に、親の存在はありがたい。

 

 洗濯機の使い方を二回連続で失敗した私は、今日こそは失敗できないと重い溜息を吐いた。

 

 

 

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