上位者少女が夢みるヒーローアカデミア   作:百合好きの雑食

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33話 面倒な事ばかり起こります

 

 

 由々しき事態、というには大げさですが……面倒な事になっています。

 

 深刻に欠伸をしながら(どうしましょう……?)難題が多すぎてうんざりします。

 お茶子ちゃんに手を引かれ、梅雨ちゃんに背を押されているこの状況、転ぶ事は無いでしょうと億劫に目を閉じる。

 

 あの後、緑谷くんと轟くんの試合が終わり、救護班の人達が現れました。

 

 ロボットが彼らに近づいて、診断した途端にアラーム音。救護班の人達は顔色を変えて2人に駆け寄り、鬼気迫る様子で声を張り上げながら2人を運んでいきました。

 その尋常ではない様子に観客席の空気も変わり、それにお茶子ちゃん達も不安を覚えたみたいです。

 

 青ざめた顔で『お見舞いに行こう!』と、私の手を引いて立ち上がりました。

 

 飯田くんも『当然だ!!』と、強張った顔で立ち上がります。……これが強制イベントというものかと、なすすべもなく引きずられました。

 

「……2人とも、大丈夫かしら?」

「だ、だだだ大丈夫に決まってんだろぉ!!??」

 

 心配そうな梅雨ちゃんと、不安が爆発している峰田くんもいます。

 

 2人は襲撃の時に緑谷くんと共闘したそうで、その時の絆もあって私達より先に腰をあげていました。……そう考えると、特に何も考えずお見舞いに行くという行為は大事なのでしょうか? 

 

(……でも、お見舞いってただの自己満足ですよね? 邪魔になるだけですよね?)

 

 疑問を覚えるも、お茶子ちゃん達が迷わず行動するという事は、コレは『普通』寄りの迷惑行為なのかもしれません。もしくは、実は迷惑行為じゃない? ダメです難易度が高すぎます。

 あと、近くに座っていた塩崎ちゃんと目があい、引き止めたそうにしていたのも気になります。

 

(……とりあえず、誰かが入院したらお見舞いに行ってみましょう)

 

 その時の相手の様子を見るまで、この思考は保留です。未来の知り合いの入院を期待しつつ、それはそれとして……堪えきれない欠伸が洩れる。

 目の前に、重要度の高い悩みが立ちふさがっているので、そろそろ目を背けるのも限界です。

 

(……薄々、おかしいと違和感はありました)

 

 危うい所で、緑谷くんに助けられましたね。

 

 試合の最中、私の戦い方がどうこうと叫んでいたアレです。

 そこから気づきを得て、改めて思い返せば、芦戸ちゃんの様子もおかしかったんです。そこから連鎖する様に、細かく思い当たる節がありました。

 

 緑谷くんと芦戸ちゃんだけの勘違いならともかく、それを聞いた直後のお茶子ちゃん達の反応に、なんて事だと愕然としました。

 

 

(……恐らく、襲撃事件のインパクトが強すぎて、クラスメイト達は謎の勘違いをしています)

 

 

 ソレは、私の苦手分野から発生している思い込みで、だからこそ発見が遅れました。

 雲を掴む様にとらえどころがない。『普通』の心理から生まれる勘違い。

 

(……ヤです、面倒臭いです)

 

 それは、知らぬ間にクラスメイト達に浸透していたらしく、いまや周知の事実になりかけている。

 

(……私が、気高いヒーロー?)

 

 ゾッとします。

 なので、気づきが遅くてギリギリであろうとも、手遅れになる前に気づけて良かったです。

 

 この件は早めに、かなり強引にでも絶対に解いておかなくてはいけません。身勝手な偶像を押しつけられるのはごめんです。

 

 私は『普通』が良いのです。その為にも、次の試合どれだけヒールぶれるかで決まるので、やっぱりお見舞いに割く時間、は――――…………うん?

 

(血の臭い)

 

 くん、と。顔をあげて鼻を鳴らします。

 甘くて冷たい、死に誘われている香りだと思考を切り替えます。

 

(……これ、轟くんです。この濁り具合は、内臓が破裂してますね)

 

 分析しながら、咄嗟に口元を隠す。

 目を細めて……マジですかと、予想外の事態に口角が上がる。

 

(……緑谷くんの攻撃、かろうじて氷の壁で二重にガードしてましたよね?)

 

 なのに、この損傷です?

 私の想像以上に、緑谷くんの“個性”は凶悪だと、認識を改める。

 

 異常です。ただ一つの気づきを得ただけで、破壊力が上がりすぎている。

 見ていた限り、“個性”のコントロールも安定していなかったのに、未完成でコレなら、不自然が過ぎる。

 

「被身子ちゃん?」

「……」

 

 おもしろくて、足が止まりかけたせいか、お茶子ちゃんが不安そうな顔をする。

 

「……ぁ」

 

 それで我に返ります。

 咄嗟に、轟くんの血の臭いがすると口を開きかけ、でも、お茶子ちゃんは優しいから、変に心配してしまうかもと口ごもって目を逸らします。

 

(……ど、どう言えばいいんでしょう?)

 

 こういう時、気づいた事を教えるのか、教えないのか、誤魔化すのか、知らぬ存ぜぬで押し通すのか、それ以外の行動か、最適解が謎すぎる。

 

(……『普通』なら、咄嗟にどんな選択をするのか、切実に知りたいです……っ)

 

 どれだけ考えても、どこかで噛み合わなくなるのが分かっているから困ります。

 それでも、何か言わなくてはと、舌に音を乗せようとした時「いい加減にしろ!!」と、出張保健室の方から怒鳴り声がします。

 

 

「そこをどけ、オールマイト!!」

「ちょ、待って!? 本当にもう少しだけ待ってくれ!! 今から彼女を探してくるから保健室に入らず待機していてくれ!!」

「ッ!? どこまでふざけるつもりだ貴様は!? 焦凍の容態はどうなっている!?」

「だ、だから――――来たね!!??」

 

 

 はえ?

 

 燃えてるおじさん……じゃなくて、エンデヴァーとオールマイトが騒いでいると思ったら、こっちに気づいたオールマイトと目があう。

 

「渡我少女!! リカバリーガールが君をご指名だ!!」

「……はい?」

 

 ええと、なるほど?

 

 オールマイトの大げさな動作に首を傾げるも、リカバリーガールの意図をなんとなく察してお茶子ちゃんの手を離し、後ろで支えてくれる梅雨ちゃんにも「いってきますね」声をかけて、離れる。

 

「ひ、被身子ちゃん?」

「……大丈夫?」

 

 2人の声に頷いて足を進める。それにぞろぞろとついて来ようとする皆を、オールマイトが慌てて遮る。

 

「すまないが、今は渡我少女以外立ち入り禁止だ!!」

 

 ……。

 つまり、それぐらい轟くんがやばいって事ですね。

 

(……リカバリーガールとしても、この対応は苦肉の策と見ました)

 

 まあ、これから病院に運んで手術だと後遺症が残りかねないですし、場合によっては死んじゃいます。この件に関しては色々な大人の事情が絡み合って、大変そうだなぁと欠伸を飲み込む。

 

(……緑谷くんを応援した私にも、ほんのり責任はありますし)

 

 軽いフォローはしましょう。

 

 この臭いの感じだと、轟くんの肋骨あたりが内臓に突き刺さって。お腹の中に血を溜めています。少し急いだ方がよさそうです。

 オールマイトの脇を通り抜けようとすると、父親として当事者なのに蚊帳の外なエンデヴァーが激怒しています。……当然ですね。

 

「ふざけるなよ、オールマイト……!! 焦凍は俺の息子だぞ!?」

「い、いや、だからね!? 後でちゃんと説明するから、頼むから落ち着いてくれ!!」

「貴様……こんな時までいい加減にしろ!! 説明責任すら果たせんのか!? 何故、ドクターヘリの要請すら保留してこんな子供、に――――」

 

 邪魔です、とは流石に言いません。

 

「…………」

 

 相手は現役ヒーローであり、先輩みたいなものですからね。軽く視線をあげて、その瞳を見据えます。

 静かに、入り口を塞ぐ2人に声をかける。

 

 

「通してください」

 

 

 月前の湖に、小石を投げ込む程度の威圧。

 

 これから私が行使するは狩人の秘儀であり、明らかに“個性”の枠組みから外れているのです。

 約束したとはいえ、お婆ちゃんにこの神秘を明かすのは特別で。だからこそ緊張もあります。

 

 なので、余計な事に思考を割かせないでください。

 

「「……ッ!?」」

 

 ゆっくりと道を空けてくれる2人に会釈して、保健室に入る。

 

 エンデヴァーの方に更にいちゃもんをつけられるかと思いましたが、意外と素直に引いてくれて助かりました。

 

 後ろ手にちゃんと鍵を閉めて、ふぅー……と一息。

 

(……さて。『聖歌の鐘』を現実で使うのは初めてですが……手ごたえは変わらないと信じてますよ)

 

 それじゃあとベッドに近づくと、リカバリーガールがそれを拒む様に硬い表情で立っている。

 

「……あんた、年寄りを脅かすもんじゃないよ」

「はい?」

 

 何を言っているんですか? 首を傾げると睨まれる。

 

 え、怒ってます……? 年寄りの癇癪ですか? お婆ちゃん血圧大丈夫です?

 

「……ハァ。それで、あんたならどうにかできるんだろう?」

 

 簡潔に急かされました。

 

 空気を読まないソレが、なんだか楽しくて、頬を緩めながら締め切られたカーテンを見つめます。

 

「はい、できます。でも、なんで知ってるんです?」

 

 とても濃い、血の香りがする。

 

「……分かるさ。だてに年はくってないよ。……あんたは、あの子の指を正常に治してみせた。それに関して謙遜するでも誇るでもなく、不備が無いか興味すら示さなかった」

「……?」

「つまり、指を生やす以上の事を、低リスクで正確にできると暴露している様なもんさね」

 

 んん? なるほど、です?

 ……つまり、もうちょっとそれっぽいリアクションをとればいいって事ですね?

 

「だから、オールマイトに頼んで、私を探そうとしたんですね」

「……この件は、下手に表沙汰にしたくないからね。あんたに賭けてからでも遅く無いと診断したのさ。……あちらの御仁のおかげで、少々大げさになっちまったがね」

 

 ふむ?

 リカバリーガールは、轟くんもですが、緑谷くんの心配もしているみたいです。……確かに、これで轟くんに何かあれば、加害者である緑谷くんに注目が集まり、“個性”への興味が溢れるでしょうが……彼には何かあるのでしょうか?

 

 私の知らない事情もあって、色々複雑化している現状に、しかし興味を失う。まあいいかと、治療の準備をする。

 

「それで? 治療行為は見せてくれるのかい?」

「はい。リカバリーガールの助手になるって約束しましたから」

 

 改めて、閉まっているカーテンをシャッと開く。

 そこには、麻酔が効いて顔色の悪い緑谷くんと轟くんが、別々のベッドで寝ている。

 

「わあ、酸塗れだったベッドが新品になっています! すごいですねぇ!」

「渡我! あんたはもっと別の事に興味を向けな!」

 

 あ痛っ!? え、怒られました。

 

 でも、ベッドが新しくなってるのは気になりますと、叩かれた腕をさする。改めて、2人の様子を見つめて……ふむ。

 

「じゃあ、やりますね」

 

 緑谷くんもですが、轟くんの方に比重を置かないとですね。

 

(……予定通り『聖歌の鐘』でいいですね)

 

 緑谷くんは、自業自得に骨があちこち粉砕して、普通に手術すると長時間の大手術になりそうです。轟くんは、お腹の一撃がやばすぎて、複数の血管と臓器が壊死しています。肋骨が下半分折れて胃やら肺やらしっちゃかめっちゃか刺さってます。……この場にいるのがリカバリーガールじゃ無かったら、終わってましたね。

 

 改めて、リカバリーガールに見える様に、手の平から『聖歌の鐘』を生み出します。

 

「それは……?」

「ちょっとした、“個性”の応用です」

 

 ちなみに、これは形だけの代物です。

 

 本当は無くてもいいんですけど、何も持っていない自分から鐘の音が響き渡るのは、普通にヤだったので、疑似『聖歌の鐘』を、“個性”で生み出しました。

 

 百ちゃんの真似です。まあ、百ちゃんのと違って数分でドロドロになりますけど。

 

 さて、集中です。

 治しすぎない様に、2人まとめて不自然にならない程度に、丁度良い具合に、治す。

 

 ――――頭上に掲げ、鐘を鳴らす。

 

 音色が響き渡り、目に見える形で薄い光の膜が私たちを包み込む。

 

 

「……――――!!?? ぎぐ、あ……ッ、あああ゛ああアァ!!??」

「がっ!!?? あ、ぎ? ぅ……ぐ、ぅううううぅ、があァ!!??」

 

 

 緑谷くんと轟くんが同時に悲鳴をあげますが、仕様です。

 無視して、もう一度行使すれば今度は獣の如き苦悶の叫び声があがります。でも、これは治っている証拠だから続行です。

 

「!? 何が起こっているんだい、大丈夫なんだろうね!?」

「はい、治療の副産物です」

「本当だろうね!? 説明をおし!!」

「あ、痛い、痛いですってば! ……リカバリーガールだって、調子良くなってるでしょう?」

「……!? ……腰の、痛みが」

 

 はい、驚いているリカバリーガールを横目に、もういいですねと鐘をドロドロに戻す。

 

 そうしたら「焦凍ぉ!?」「デクくん!?」「ヒミコちゃん!!」「渡我さん!?」と、複数の声とドアが開いた音がしつつ……あれ? 足が、ふらつく?

 

「あんた達!? ここは今、立ち入り禁止だよ!!」

「……?」

 

 リカバリーガールの声を聞きながら、意識がぼうっとしています。

 

 初めて感じる状態異常に興味津々で、ふらつく感覚に慣れようと意識を集中する。

 その状態を分析しつつ、しかし危機感は覚えない。これは、どういう状態かよく考えなくてはと、ぼやける視界を擦る。……あ、そうだ。説明しなきゃ。

 

「……んぅ。リカバリーガールには、言いましたよね?」

「!? 何をだい?」

「……だからぁ、私の“個性”は『変身』で、だからこそ、元の『設計図』がしっかりしてるって話ですよぉ」

 

 ちゃんと聞いていてと、頬が膨らむ。

 妙な気だるさと、何故か増えている室内の気配に敵意が無い事を確認して、とにかく、最低限の説明は……しないと、です。

 

「……私の行使する『癒し』は、だからこそ、怪我によっては下手な治療より激痛を起こします」

「……続けておくれ」

「ふぁい。……その人の『設計図』通りに、元の形に戻ろうとするからです。無理矢理にでも、そこに大事な臓器が在ろうと、異物も骨も、最短距離で治ろうと、時間を戻す様に治ります」

 

 続けながら、足に力が入らずベッドを支えにする。

 リカバリーガールが慌てて支えてくれるも、お婆ちゃんに体重はかけられない。

 

「バラバラの骨も……破れた内臓も、壊死した細胞も、戻ろうとして……結果、怪我によっては、より深く肉を抉り神経を傷つけるという訳です」

「…………」

 

 だるい……

 でも、この睡魔は、いつもと、違います。

 

「……でも、ちゃんと治ります。……死にたいぐらい、痛くても……ショック死しても、治ります。……だって、そういう、もの、ですから……」

 

 言いながら、なんか、無理です。

 

 これは、もしかして血が足りないのかと、瞼が閉じて―――――声。

 

 

 

 

 

 

「ごめんねぇ、言うのが遅かったけど『聖歌の鐘』に関しては、無制限に使えるのがバレたら良くないみたいだから、使用する度におもしろ……じゃなくて、具合が悪くなる仕様にしときましたぁ。眠いかもですけど、次の試合も頑張ってね~♡」

 

 

 

 

 

 

 はぁ……?

 

 あまりの内容に『ガバッ!!』と、勢いをつけて覚醒する。

 

 ……――――おまっ、()ふざけるなそういうのは事前に言いなさい!!

 今日に関しては二度も機会があったでしょう!? あーもう!! これだからトガヒミコは報連相すらまともにできないッ!!

 

「……ん、ぐぐぐぅ!!」

 

 怒りを必死に飲み込むも、内容が内容だけに胃の辺りがムカムカする。

 ほんとうにあいつ殺したい。

 

 数秒ほど意識も途切れていたらしく、ぶつけたらしい鼻がヒリヒリ痛い。

 リカバリーガールだけじゃ支えきれなかったらしく、目の前に駆け寄ってきたのだろう、お茶子ちゃんと梅雨ちゃんに撫でられている。その後ろには心配そうな飯田くんと峰田くんもいる。

 

「被身子ちゃん……大丈夫?」

「おちゃこ、ちゃん」

「ヒミコちゃん、無理に起きないで」

「つゆちゃん」

 

 にくきゅうが、鼻をそっと撫でて、梅雨ちゃんに背を撫でられる感触に癒される。

 ほとほと()への殺意が溢れそうだったからこそ、お茶子ちゃんのなでなでと、梅雨ちゃんのよしよしが格別で、元気がでてくる。……それはそれとして。

 

「……なにか、たべもの、あります?」

 

 主に()のせいで、身体がだるくてしんどいです。

 

「え?」

「……ちょっと……血が、物理的に減りまして……補充したいんです」

 

 頭がぼうっとします。『聖歌の鐘』の行使に、私の血をつかっているみたいです。

 いえ、すぐに()から頂くので、本当なら秒で回復できますが……

 

 基本、暗黙の了解で不干渉を貫いている()が、殺し合いスレスレの横やりを入れるぐらいです。

 

(……この件は、きちんと話を聞かないと判断はできませんが、信憑性はそれなりにありそうです)

 

 なので、失った血に関してはそのままにしておきましょう。

 ですが、それはそれとして後で絶対にぶちのめします。

 

「ま、待ってね、今ならのど飴あるから! あと売店で何か買ってくるよ!!」

「トガさん、オレンジジュースもどうぞ!!」

「ヒミコちゃん……サプリは大丈夫?」

「と、トガ、お前、いくら何でも……自分の身を削ってまで何やってんだよぉ!?」

「――――」

 

 あれ? 後ろの方に塩崎ちゃんもいる。

 

 意外な人物の姿に目を丸くしていると、リカバリーガールが出張保健室のドアを閉めながら、オールマイトに怒っている。

 

「……誰もいれるなって、言った筈だがね?」

「す、すみません!! じ、尋常じゃない叫び声に、私も動揺してしまって……」

「……ハァ。あんた達、この件はここだけの話だよ。後で念書を書かせるからね。エンデヴァー、あんたもだよ」

「……。分かっています」

 

 お茶子ちゃんと梅雨ちゃんに支えられながら立ち上がり、ベッドで眠る2人を見る。……ふむ。

 

(顔色も良いし、ダメな血の臭いも消えましたね……)

 

 緑谷くんの酷使した左腕と折れていた右足もくっついています。これならリカバリーガールが治したって言っても誰も疑わないでしょう。轟くんの内臓と肋骨も治せたし……んー、疲れました。

 

 顔をあげるのを億劫がっていると、何かを熟考していた塩崎ちゃんが近づいてきて、そっと手を握られる。

 

「渡我さん、私に何かできる事はありませんか?」

 

 ……!

 おどろきました。

 

 その顔を見て、気づきます。

 彼女の閉じている瞳が、開きかけている。

 

(……こっち方面の才能があったんですね、塩崎ちゃん)

 

 私の秘儀の行使を感じて、何かの気づきを得たのでしょうか?

 彼女の声は怖いぐらい真摯で、誠実すぎて、妙な胸騒ぎがします。なんとなくアデーラちゃんを思い出したからこその、予感です。

 

 近い内に、塩崎ちゃんは啓蒙を得るかもしれない。

 

「……大丈夫です。それより、塩崎ちゃんはどうしたんです? 怪我でもしたんですか?」

「いいえ。次の試合が始まりますので、お迎えに参りました」

「「あ」」

 

 お茶子ちゃんたちの声が重なる。

 

 ……なるほど。緑谷くんが心配過ぎて、本当に次の試合が私と塩崎ちゃんって忘れていたんですね。当たり前に連れて来た事に対して、反省モードに入っています。

 

「ありがとうございます。……ふあぁ」

「……渡我さん、具合はどうですか?」

「んぅ、平気ですよ。少しふらついてますが、問題なく動けます」

「……そう、ですか」

 

 胸を痛めている様で、どうにも熱い瞳で私を見つめる塩崎ちゃんの様子に、少し困ります。

 

 やっぱりこれ、アデーラちゃん反応です。

 夜が明けた後も、信仰心がいきすぎてとにかく身を捧げようとしていた頃の彼女にそっくりです。

 

(……いえ。違いますね。ここはヤーナムでは無いですし、一緒にするのはどちらにも失礼です)

 

 ここは現実であり、人が壊れるのが前提の悪夢ではない。それに、塩崎ちゃんは雄英に通えるぐらいの逸材です。

 この程度なら、放置しても大丈夫でしょうと見ない振りをする。

 

(……それに、今はそれ以上の問題がありますし)

 

 こうして、緑谷くんと轟くんを治した後の皆の反応を見て、瞳や、表情を改めて観察して、察しました。謎の勘違いに拍車をかけてしまった、と……!

 

「……っ」

 

 だからこそ、都合は悪いですが、丁度良いので塩崎ちゃんを生贄にします。

 

(……次の試合相手である彼女を心身共にボロボロにして、私のイメージを戻します)

 

 皆の誤解をとく為に、普通科に入る為に、塩崎ちゃんは庇護対象なので胸は痛みますが、犠牲になって貰います。

 

 そんな計画を立てている隙に、リカバリーガールにお菓子と造血剤、皆からサプリにのど飴にオレンジジュースを飲まされます。ごった煮すぎです。

 

 そして、塩崎ちゃんに丁寧に抱き上げられます。

 

「それでは、参りましょう渡我さん」

「…………。1人で歩けますよ?」

 

 あと、お顔が近いです。

 

「いいえ、これぐらいはさせてください」

「…………」

 

 優しく微笑まれてしまい、その慈愛が込められた瞳に「……ありがとうございます」これからの事を思うと、少しやり辛いです。

 

(……まあ、やるんですけど)

 

 部屋を出る際、本当に念書を書かせようと準備しているリカバリーガールをチラと見て、まあこれなら秘密は守られるかと期待する。……我ながら、警戒心の無い事をしましたね?

 

「渡我さん」

「ふあい?」

「……次の試合、私の全てを以って渡我さんに挑戦します」

「? はい」

「……どうか、私を見定めてください」

 

 うん?

 キリッと前を向く塩崎ちゃんの表情は凛々しく、緑谷くんレベルの謎の意気込みと覚悟を感じる。

 

(……あれ? これはまさか、塩崎ちゃんも謎の勘違いを発生させています?)

 

 予想外すぎて動揺する。

 ……いえ、次の試合で嫌でも勘違いは是正されるでしょうし、今ぐらいはいいかと、気まずさを飲み込む。

 

 

『さあ、次の試合は――――って、またかよ!? 渡我被身子!! 今回も対戦相手に運ばれて悠々自適にご登場だぁ!!』

 

 

 うるさいですね。

 

 通路を抜けると眩しい青空が瞼越しに眼球を刺激し、歓声とプレゼント・マイクの声がダイレクトに鼓膜に突き刺さります。

 塩崎ちゃんの腕の中で、短い安息が終わってしまうと嘆きの溜息を零します。

 

(……さて)

 

 それじゃあ、イメージ回復の為に頑張りましょう。

 

 切り替えて目を開くと、目があった塩崎ちゃんに慈しむ様に微笑まれた。

 

 

 

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