上位者少女が夢みるヒーローアカデミア   作:百合好きの雑食

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37話 表彰式と体育祭の終わりです

 

 

 ポン! ポン!

 

 ピクッと、空に上がる花火の音に身体が揺れて覚醒する。

 

「……ふあっ!」

 

 変な声が出ちゃいました。……べつに、銃と間違えた訳じゃないです。過去に数えきれないほど狙撃されたせいで、つい目が冴えちゃうんです。

 

(ん、暗い)

 

 あれ、目を開けているのに光を感じない。

 そっと指先で目元を撫でると、ごわついた包帯の感触。……よくよく意識すれば、お腹と足の包帯も巻き直され、靴もスリッパになっている。

 

 

『それではこれより!! 表彰式に移ります!』

 

 

 え、表彰式?

 

 ちょっと状況が分かりません。

 ミッドナイトの声に顔を向けると「……起きたのか」と、別方向から轟くんの声。困惑しながら返事がわりに手を振ると、小さく振り返してくれる。……どうやら私は、表彰台の上で寝ていたらしい。椅子に座らされて薄いシーツに包まれている。

 

 

「ん゛ん゛――――――!!」

 

 

 ……。

 そして、あえてスルーしてましたが、起きた時から騒音がすごいです。

 

 声からして爆豪くんです(だから無視してました)。さっきから、こっちを見ろやと言わんばかりの自己主張の激しさですが、貴方が目を潰した事をお忘れですか? 見れませんって。

 

 ひたすらガッチャガッチャと拘束具を揺すり、ウガウガと力の限り唸っています。口にも拘束具が嵌められて、まさに鎖に繋がれた獣の有様です。

 

(……なのに、どうして人としての理性を感じるんです?)

 

 そこまで怒っているなら、理性も爆発させれば良いのに。みみっちくもしっかりと理性を残している。その人間性の強さは、呆れを通り越して感心すらしてしまう。

 

(……試合の後も、突然自傷しますし)

 

 彼に関しては本当に意味が分かりません。

 選手宣誓の通りに優勝できたのに『ふざけんなよ!! こんな、こんなの――――』って、声を震わせながら怒鳴ってきました。そのまま、ボン!! って自分の両手を焼きながら包帯を燃やし、その手で私の襟首を掴もうと『爆豪くん!!』する前に、ミッドナイトにハンカチを顔面に叩きつけられ秒で鎮圧されました。

 事前に、布に“個性”の香りを纏わせていたらしく、私への余波は少なかったです。

 

 何がしたいのかと困惑しましたが、私の意趣返しが痛いところに刺さったのは確実なので、そこにはホッとしました。

 

(ざまあみろ、です。自分がやられてヤな事は、人にやったらダメなんです)

 

 なんて、口にするのは寝ているからやめました。

 

 今日の私は、頑張ったんです。

 普通科に通いたくて、普通を味わいたくて、色々と手をつくしたんです。

 トレードに適していた心操くんをサポートして、最終種目まで残した時点で負けるつもりだったのに……不運にも対戦相手に恵まれませんでした。

 それでも、どうにかしようとしていたのに、突然の暴挙で決勝戦への出場を余儀なくされました。……流石に、決勝戦で戦える生徒が普通科行きは無理です。……ええ、全てを台無しにされたお礼にしては、優しい悪意でしょう?

 

 爆豪くんの悔しがる顔が、この目で見られなくて残念です。

 

 その後は、手当てをするからと担架に乗せられて……そこから意識が無いですね。

 

 

「ん゛~!!!! ン゛――――!!!!」

 

 

 はい、状況の把握が完了しました。

 

 10分そこそこしか眠れていないと欠伸をこぼすと、全身から怒気を発する爆豪くんが何か言いたそうにしています。……試合後も変わらないタフネスは凄いですが、遊びの延長はお断りさせてください。

 

『3位には轟くんと、もう1人飯田くんがいるんだけど。ちょっとお家の事情で早退になっちゃったのでご了承下さいな』

 

 早退かぁ……口に出しちゃダメでしょうけど、羨ましいです。

 

『メダル授与よ!! 今年メダルを贈呈するのはもちろんこの人!!』

 

 ん、上空からの存在感。

 その手強さを理解した途端、自然と椅子の陰に隠れる様に気配を消し……って、間違えました。……やっぱり、寝起きはしなくて良い事をしちゃいます。

 

 

「私が! メダルを持って来『我らがヒーロー、オールマイトォ!!!!』……」

 

 

 やっぱりオールマイトでした。……この寝ぼけ癖、早めに直さないと変な事故を起こしそうです。

 

「轟少年、おめでとう」

「……はい」

「棄権は残念だったが、顔が以前と全然違うね」

 

 何となく気配を消したまま、椅子にもたれて欠伸をする。

 

「……緑谷戦でキッカケをもらいました。……あなたが奴を気にかけるのも、少し分かった気がします」

「……」

「俺も、あなたのようなヒーローになりたかった。……でも、清算しなきゃならないモノが、まだある」

「……深くは聞くまいよ。今の君ならきっと清算できる」

 

 グッ、とオールマイトが轟くんにハグしているのを感じながら、轟くんも悩みがあるんですねと不思議な心地になる。

 轟くんは優しい。戦闘訓練の後は少し警戒されましたが、授業前には冷たい手を額に当ててくれるし、教科書が落ちたら拾ってくれる。先生に当てられたら冷気でさりげなく起こしてくれるし、寝坊して跳ねている寝癖も簡易ドライヤーで直してくれる。……優しい轟くんには、いつか恩返しをしたいです。

 

「渡我少女――アレ、どこ!?」

『え!? もしかして落ちたの!?』

 

 って、いけません。

 気配を消したままだったと椅子の陰から出ます。

 

「ごめんなさい、ここです」

 

 上手な言い訳が思いつかず「……オールマイトが降ってきた時、つい気配を消しちゃいました」と正直に答えてオールマイトに近づいていく。

 

「う、うん! 相変わらず気配の消し方が凄いね!! 改めて渡我少女、おめでとう」

「ありがとうございます」

 

 頭を下げてメダルを受け取る。

 オールマイトが持ち上げた腕に合わせたからか、感心した様に褒められる。

 

「……もしかして、見えているのかい?」

「いいえ、見えません。でもよく視えます」

 

 オールマイトは戯れに左手でパーをつくるので、後だしのグーで負ける。その後も手の動きに合わせて全部負けてあげると、意味深な沈黙をかけられる。

 

「……渡我少女、爆豪少年に優勝を譲ったのはどうしてだい?」

「?」

 

 それ、この場で聞く事です?

 疑問を覚えるも、ミッドナイトは止めようとしない。ならいいのかと素直に答える事にする。

 

「意趣返しです」

「……ほう」

 

 つまり、ただの仕返しだと暴露します。

 途端、爆豪くんの方から刺すような視線と唸った声が降ってくる。

 

「……爆豪少年に、何かされたのかい?」

「はい。棄権するつもりだったのに、決勝戦まで運ばれました」

「……」

「いくら私でも、あの場で棄権するのは空気が読めてないって分かります」

「……」

「だから、仕返しの為に頑張りました! これに懲りたら、爆豪くんはもっと人に優しくするべきです!」

「……」

 

 恨みたっぷりに感情を込めると、オールマイトが「……そっちかー」と、まるで斜め上な回答をされた、みたいな反応をする。

 

「……だから、降参したんだね?」

「はい! 爆豪くんだって、立ちたくない舞台に立てばいいんです!」

 

 あと、普通科の事を横においても、こんな未成熟な子供達に交じって優勝とか、恥ずかしくてできる訳ないでしょう?

 

 “個性”というナイフを持った、力量だけで言ったら幼児を相手に一対一で戦う仕組みにも抵抗があるのに、この戦力差で決勝戦に立たされた屈辱に、久しぶりにカチンときました。

 恥ずかしくて、悪意の一つや二つ返しても罰は当たらないと思います。

 

 なのに、何故かオールマイトは多大な同情心を込めて爆豪くんを見つめている。……うん?

 

 ……もしかして、何かダメでした?

 

「えと……立ちたくない場所に、立たされたんだから、立ちたくない場所に立たせても、お相子ですよね?」

「……そうだね。そういう見方も、あるかな?」

「……もしかして、過剰な仕返しでした?」

 

 不安になってミッドナイトの方を見ると、彼女は『そうね』と、防護服を大げさに動かして親指をたて、力強く頷いた。

 

『ちゃんと考えて行動していたなんて偉いわ! 後で花丸をあげる!』

 

 褒められました!

 良かった、やりすぎてはいなかったみたいです。

 

「褒めていいんだ!? ……よーし! 渡我少女、おめでとーう!!」

「きゃー♪」

『勢い!! ……あら』

 

 

 はッ!?

 

 と、突然すぎるたかいたかいに歓声をあげてしまう。……違うんです、急に勢いよく持ち上げられて楽しくなってしまったんです。勢いもあったから本能を刺激されてしまったんです。慌てて口元を隠してオールマイトを睨む。

 

「お……おろしてください!」

「……」

「きゃー♪」

 

 まって!? やめてオールマイト、味をしめないで!?

 ミッドナイトもちょっとやりたそうにソワソワしないで……! 轟くんもこっそり立候補するのやめて!? …………さ、最低です。

 

 絶対に、気持ち悪い顔で笑いました。尖った歯も見られました……!

 

 口元を抑えながら蹲ってプルプルしていると、ミッドナイトに優しく抱き寄せられる。……防護服越しでも抱っこが嬉しいのずるいです。

 

「さて、爆豪少年!! ……っと、こりゃあんまりだ」

 

 ガポッ、と爆豪くんの口枷が外されるのを感じながら、ミッドナイトに正面から抱きつく。

 ミッドナイトは表彰台に登っていないから、防護服の頭を抱きしめる様にくっつく。

 

「伏線回収、見事だったな」

「こんな1番、何の価値もねぇ! 俺にも、世間にも認められねぇゴミ以下のクソだ!」

「うむ! 相対評価に晒され続けるこの世界で、不変の絶対評価を持ち続けられる人間はそう多くない」

 

 ミッドナイトがよしよしって頭を撫でてくれます。……もっとわしゃわしゃしていいんですよ?

 

「受け取っとけよ! “傷”として! 忘れぬよう!」

「要らねっつってんだろが!! おい、トガァ!!」

 

 ふあ!?

 エ、なんです?

 

「最初の攻撃、なんで避けなかった!?」

「はい?」

 

 いえ、そこ? というか、なんで私に話かけるんです? さっさとメダル授与されて終わりましょうよ。そう思うのに、オールマイトはメダルを持ったまま私たちを見守っているので、しょうがなく口を開く。

 

「……爆豪くんが、私の目を潰したそうだったので、当たってあげました」

 

 渋々とミッドナイトから離れて、指先で包帯をトンッと叩きながら答えれば、シン、と妙な沈黙。

 

「―――ハアア゛!!??」

 

 そして、それを切り裂くキレ声。もうどうしろって言うんです? オールマイトも「顔すげぇ」って言ってます。

 

「ワケを言えワケをトガてめぇ!!」

「……えー? だって、当たってあげないと爆豪くん、目を潰せば勝てるかもって希望にすがりついて、視野と行動が狭まるでしょう?」

「――――ッ!?」

 

 それは、少し可哀想です。

 爆豪くんは諦めが悪くてタフネスですから、的外れの可能性にすがって試合が長引くのもヤでしたし、怪我が増えてもつまらない。

 

 だから、早々に思惑ごと目を潰させてあげた。

 

「ちょっとしたサービスです。時間短縮になったでしょう?」

「―――……ク、ソがッ!!!!」

 

 ギリリ、と底冷えする様な、どす黒い何かを感じさせる声。

 

 どこかで「……うわ」とか「……えぐ」とか聞こえてきました。相当に怖い顔をしているんですね。色々な感情で憤死しそうな彼の様子に血圧が大丈夫か心配になる。

 

「……ッ、常勝の王!!」

「はい?」

「試合中に、常勝の王は裸の王様だとか抜かしてただろ!? オールマイトはどうなんだ!?」

 

 はい?

 

 ……それ、どういう質問です? いえ、辛うじて意図は分かるんですけど、真面目に聞いてるんですか?

 

「……もしかして、爆豪くんは今の私より目が悪いんです?」

「ああ゛!?」

「まさか貴方、オールマイトが()()()()()に見えてるんです?」

「――――」

 

 常勝の王なんて、肥え太らされてお肉になる前の、誰かにとって大切な家畜でしかないでしょう?

 

 どうにも、オールマイトを特殊なフィルターで見ている人が多いですね。どう見ても、どの角度から注視しても、その笑顔に、その背中に、その在り方に、べったりと張り付く敗北の血痕が悪臭交じりで纏わりついている。

 

 そう在ろうと決めて、そう在らねばならないと走り、そう成れてしまった時点で、彼は相応の代償を支払わされている。……つまり、常勝どころか誰よりも負け続けているヒーローでしょうに。

 

「……負けた経験の無い“常勝”なんて、ただ強いだけです」

「――――」

「爆豪くんはまず、野生を知らないといけませんね」

 

 しょうがないなぁと、自分の首にかかったメダルを指先で撫でる。

 その仕草で察したオールマイトが「渡我少女!」と、優しく手を差し出してくれるので、大きな手を借りて爆豪くんの前に着地。

 

「……ッ」

 

 たくさんの感情が煮えたぎる様な、濁った視線を感じる。

 

「本当は、これ以上お塩はあげたくないけど……爆豪くんが“常勝”になると困るから、あげます」

 

 観察対象としては優秀なんですから、その程度で立ち止まらないでください。

 

 そっと、自分の首にかかっているメダルを外して、腕を伸ばして彼の首にかける。

 

「――――」

 

 爆豪くんは、呆気にとられたのか身じろぎ一つしなかった。

 目を見開いてメダルを凝視しているのを感じる。

 

「爆豪少年」

 

 それを見たオールマイトは、呆然としている爆豪くんの拘束をバキッと壊して「次は、君の番だ」と、1位のメダルを差し出している。

 

「……チッ!」

 

 それに、爆豪くんは舌打ちをしたかと思えば、消毒液と血の臭いが混ざった包帯に覆われた手で優勝メダルを奪い取り、首を絞める様な勢いで私の首にかける。

 

 

「――――次は勝つ!! もう二度と、舐めた真似はさせねェ!!」

 

 

 ……なんか、急に元気になりましたね。

 彼の声はどこかガサガサしているけど、強い想いが込められている。

 

(……冷静になると、なんで私たち、メダル交換してるんでしょう?)

 

 謎の疑問を抱きますが、まあ爆豪くんの心が安定したならいいでしょう。

 

「改めて爆豪くん、優勝おめでとうございます」

 

 今なら大丈夫だろうと伝えると、ケッ! と、つまらなそうな反応をされる。……んー。

 

「ちなみに爆豪くん」

「……んだよ」

「弱いと、勝ち方も選べないんですよ?」

「……あ゛?」

 

 カチーンときている感じにホッとする。良かった、空元気じゃなさそうです。

 殴りかかってくる爆豪くんの両手首を片手で抑え込めば、瞬間的に頭突きしようとする頭も掴んで「グギギ、グガァ!?」ぐらぐらする様によしよしする。

 そうして戯れていると、肩がポン! と力強く握られる。

 

 

「――――さァ!! 今回は彼らだった!! しかし皆さん!」

 

 

 え? この場所に引き留める様に、オールマイトは私の肩を離さない。

 

 

「この場の誰にも、()()に立つ可能性があった!! ご覧いただいた通りだ! 競い! 高め合い! さらに先へと昇っていくその姿!!」

 

 

 待って? 降りたいんですけど? 爆豪くんの視線が痛いです。噛みつかれそうです!

 

 

「次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている!!」

 

 

 ちょ、オールマイトの力が強いです、押し付けるみたいに爆豪くんとくっつけないでください! ……って、爆豪くんから流れてくる私のイメージが失礼すぎません!?

 

 

「てな感じで最後に一言!! 皆さんご唱和下さい!!」

 

 

 何です、この『保護した小鳥を狩って得意げに飼い主に献上するバカ猫』とか『卵の殻がついたバカドラゴン』とか『猿の手(バカ)』とかその他諸々に失礼なイメージは!? 流石に叩きますよ!?

 

 

「せーの、おつかれさまでした!!!!」

 

 

 ……って、プルスウルトラじゃないんです?

 

『そこはプルスウルトラでしょ!! オールマイト!!』

「ああいや……疲れたろうなと思って……」

 

 ……はい。オールマイトの天然で、爆豪くんの顎が助かりました。良かったね、うっかり砕くところでした。

 

 最後は、1位の台に2人で立つなんて謎な事になりましたが、ようやく体育祭が終わりました。……改めて、長すぎる1日だったと気が滅入ります。

 

 というか……色々な不幸はありましたが、この場に立ってしまった己に恥じ入るばかりです。

 

(……こんなの、恥を知らない大人が無双した様なものです)

 

 むり。とても居た堪れません。きつすぎます……!

 

 ()なら嬉々として優勝していると分かるからこそ、それに近しい結果になってしまった現状に胸がえぐられます。衝動に任せて表彰台から飛び降り、ミッドナイトに抱きつく。

 

『え、渡我さん?』

「……ッ!!」

 

 ぅあー!!

 これが、己の黒歴史を自覚する者が苛まれるという、心の痛苦かと耳まで赤いのを自覚する。

 

 少しだけ『普通』への共感ができたのは嬉しいけど、それ以上に辛すぎてぐりぐりとミッドナイトに甘える。

 

 背中にまわるミッドナイトの手を感じながら、羞恥から逃げる様に目を閉じた。

 

 

 

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