上位者少女が夢みるヒーローアカデミア   作:百合好きの雑食

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38話 お揃いは好きです

 

 

 お祭りの終わりを喜び、余韻に浸るには少し早かったらしいです。

 

 ……まさかのラスボスは、お婆ちゃんでした。

 

「さ、治療するよ」

 

 声は笑っていますが、纏う空気がとても怖いです。

 見えなくても、怒っている事が分かります。

 

(私、何かしましたかね……?)

 

 心当たりはありません。ですが、謎に怒っている女性に理由を尋ねるなど、更なる地雷を踏み抜く様なものです。

 

(本当に、今日は厄日すぎて切ないです)

 

 数分前は、ミッドナイトに幸せに甘えていたのに……途中でリカバリーガールから保健室へのお呼び出しがありました。ミッドナイト曰く『今すぐ出頭しなさい! ですって』との事。

 出頭、という言葉選びの不穏さにさぼりを検討していると、ミッドナイトはふふっ、と笑って『怒られてきなさい』と、私の両目に巻かれた包帯を撫でました。

 

(……怒られるのは、ヤですけど)

 

 その撫で方にドキッとして、ついその気になってしまいました。

 

 心なしか張り切って、出張保健室の方ではなく校舎にあるいつもの保健室を目指して中に入ると『来たね』と、何やらやばめのオーラを纏ったリカバリーガールが待ち構えていました。

 

 そこで冷静になりました。

 

「……リカバリーガール?」

「なんだい?」

「……手に持ってるのは、なんですか?」

「目ざといね。これはあんたの為に特急便で取り寄せた消毒液だよ」

 

 ……消毒液?

 

「ちなみに、これは腹部と両脚の傷にぶっかける予定だよ」

 

 すごく怒ってます? 無臭かつ粘度を帯びた液体をタプタプ揺らして、リカバリーガールは腕まくりしています。

 

「……両目に、じゃないんですね」

「そこまで鬼じゃないよ」

 

 うん?

 

「でも、試合中に包帯を外せるぐらいだし、腹と足なら平気だろう?」

 

 んん? 絶妙に会話のキャッチボールができていませんね……?

 

「ほら、そこに座りなさい」

「……はい」

 

 本能的に逃亡したくなりますが、こういうのは受け入れなくてはダメなんです。たとえ心当たりが皆無で八つ当たりの可能性が高くとも、今だけは逆らってはいけません。

 

 いつかの()が『怒れる女性には気がすむまで付き合いましょう』と項垂れ『私達には意味不明でも、正当な理由がありそうなら受け入れた方が得です』遠い目をして『許して貰うまでの過程が大事なんです』疲弊し『女の人はめっちゃ根にもちます……』バカみたいに庭で正座していました。

 

「……お手柔らかに、お願いします」

 

 先にやらかしている自分がいると、状況の悪化を防げてそこだけは助かります。

 

「殊勝だね。感心したよ、覚悟はいいね」

 

 治療するんですよね????

 

 取りつく島があるのかすら分かりませんが、身を捧げます。

 リカバリーガールは早速とばかりに私の体操服を捲り、包帯やガーゼ類を外して消毒液を言葉通りにぶっかけました。

 ……まあ、取り寄せたとはいえ、そこま―――『ジュッ!!』って音がしましたよ今。

 

 傷口に触れた瞬間、焼ける様な激痛とねっとり濡れた感触が走りました。しかもジュワジュワ煙がでている音がします。

 

「……あの、これ」

「痛いかい?」

「……はい」

「それは良かったよ」

 

 どこも? 良くない? ですよね?

 

 嬉しそうな声を出すのはおかしいです。

 

「他に感想はあるかい?」

「……え、焼け爛れている感覚がしていますが、実際はそうじゃないですね。……神経に悪さしてますかコレ?」

「……流石だね。当然、生徒に害のあるものは使わないよ。これは困った患者用に知人が作った特別製でね。しっかり殺菌もできるしお肌も荒れない、自然治癒も促進される一品だよ」

 

 拷問用ですか?

 

 実に、長年の努力と根気と意欲、暗い情熱と執念を感じます……痛みも、段階ごとに押し寄せて飽きさせない最低仕様です。

 

「……痛みは我慢できますが、体操服までびしょ濡れになるのはヤです」

「こっちで洗濯しとくよ」

「……ありがとうございます」

「本当は頭からぶっかけたいけど、目の粘膜はダメだからね」

 

 リカバリーガールのお怒りの底が見えません。……けど処置はしっかりしてくれます。

 

(……でも、少し不自然です)

 

 お婆ちゃんにしては陰湿すぎるというか、ギリギリ体罰にならない際どさを攻めすぎています。……もしかして、裏があります?

 

「……」

 

 考え込むと、その思考を邪魔する様に消毒液をかけられます。

 

 ッ、まるで、というか。まんま芦戸ちゃんの『酸』で溶かされているみたいだと顔をしかめて―――「あ」気づいた。その瞬間、ノック音。

 

「……来たね。入りなさい」

「え?」

 

 私、消毒液でびしょびしょなんですけど?

 一般的に、人前に出ちゃダメな格好だと思うんですけど?

 

「失礼しまーす!」

 

 って、芦戸ちゃんです。

 あ、はい。……察しました。

 

「トガ、大丈夫?」

 

 保健室に入ってくるなり、声は控えめに心配そうに近づいてくる芦戸ちゃん。

 改めなくても、タイミングが良すぎます。

 

(……この消毒液、リカバリーガールはあえて『知人』が作ったと紹介しました)

 

 つまり、もしもコレが欲しいなら、お婆ちゃんに渡りをつけて貰う必要がある訳で……実際に、それが早いのでしょう。

 

「……芦戸ちゃん」

「なに?」

「はやく、強くなってね」

「え、うん!!」

 

 突然すぎる訴えに、芦戸ちゃんは困惑しながらも頷きます。……本当にお願いします。

 

 芦戸ちゃんには意味不明でしょうけど、リカバリーガールに搦め手を使われているんです。

 この消毒液、どうしたって芦戸ちゃんに有益すぎるんです。

 

(……非殺傷なのも、芦戸ちゃんに向いています)

 

 補助アイテムとして便利すぎです。

 ちょっと傷をつけてぶっかければ、それだけで相手は勘違いして色々な事が捗るでしょう。……リカバリーガールも、今のやり取りで私が搦め手に指をかけた事に気づき、満足げです。

 

(……しばらくは、芦戸ちゃん絡みでこの手段ばかりとられそうです)

 

 今も、こっそり私の体操服のポケットに連絡先を書いているのだろう用紙をいれてきます。……今日中に連絡した方が良さそうですね。

 

(……やっぱり、大人は侮れません)

 

 うんざりしますが、得られるアイテムは有用なので許しましょう。

 

「それで、芦戸ちゃんはどうして保健室に?」

「あ……! 両手の事を、リカバリーガールにちゃんと聞いて来いって言われて。あと、トガの着替えも持って行けって、ここで着替えた方が合理的だからって」

 

 ……なるほど。

 相変わらずです。そして、芦戸ちゃんはとっても鈍いです。

 

「芦戸ちゃん……本当に、はやく強くなってね?」

「なんで二度も言うの!?」

 

 そりゃ、言いたくもなりますよ。

 

 つまり、私もその話し合いに参加しろって遠回しに指示されています。……制服まで持ってこられたら、自然に逃げられません。

 

(……弟子ができるって、思った以上に面倒です)

 

 ですが、放り出すとローレンスさんの二の舞ですからね。大事に育てましょう。

 

 周りが、与しやすい芦戸ちゃんから私をコントロールしようとしても、私は寛容なので許します。八つ当たりで芦戸ちゃんが死にかけるぐらいです。

 

「……本当に合理的な男だね」

 

 リカバリーガールもやれやれと言った感じです。……まあ、放課後に改めて話をするより、帰りのHRまでの時間に済ませるのが時間の節約になりますしね。

 

「……座っていなさい」

「は、はい!」

 

 気づけば、お腹と足の処置は終わっています。そしてリカバリーガールは立ち上がり、保健室のドアにしっかりと鍵をかけます。ついでに、さりげなさを装ってスマホの電源を切り、机の上に置いています。

 

「……先に言っておくよ。あんたの手は、これ以上悪化する事もなければ自然治癒する事もない」

「っ、はい」

 

 うん? そりゃそうでしょう。 

 

「……包帯を外すよ」

「……はい」

 

 まさか、話し合いってソレですか?

 

 もっと、私関連の話を進めると思っていたので拍子抜けです。……自意識過剰でしたかね?

 でも、芦戸ちゃんの両手は轟くんや緑谷くん並に酷かったから、説明は必要かもですが……はて?

 

 芦戸ちゃんは、落ち着き無さそうに私にくっついてくる。

 

 静かな保健室に、しゅるしゅると包帯が解かれる音が響いて、この心の準備をさせる様な間は必要なのかと不思議に思う。

 

「――――」

 

 そして、やけにゆっくりと解きおわると、芦戸ちゃんの片手が露わになる。

 それを見降ろして、芦戸ちゃんは分かっていただろうに、受け入れがたそうに息を呑んでいる。

 

「……これが、これからあんたが一生付き合っていく手だよ」

「――……はい」

「芦戸ちゃん?」

 

 その強張った声に、首を傾げる。

 芦戸ちゃんの両手はちゃんと治したのに、酷いショックを受けています。

 

「……っ、トガ」

「はい」

「……アタシの、手が……えっと」

「はい?」

「っ―――少し……ううん、かなり、どくとくに、なったから……」

 

 何が言いたいんです?

 よく分からなくて、不具合でもあったのかと触れようとすると、ビクリと怖がる様に逃げてしまう。

 

「ッ、えっと……ちょっと――じゃなくて、だいぶ、グロい事になってる、っていうか……」

「はい?」

 

 今度こそはと捕まえようとすると、身体ごと押し付けるように両手が逃がされる。

 まるで抱きつかれる様に、気づけば向かい合って胸部がくっつく体勢に(やわらかい……っ)ちょっと動揺しつつ、首筋に芦戸ちゃんの吐息がかかる。

 

「……っ」

 

 いや、というか夢で見ましたし、触ったでしょう?

 まだ説明はしていませんが、まさか本当に()()()()だと認識してます?

 

 今後の、というか今夜の説明は長くなりそうだと今から頭が痛いです。

 

 というか、あの程度でグロとか、死肉に内臓、血が噴き出る断面とか、そういうの見た事ないんです? 正直、面倒臭くなってきました。

 

 これ以上何かを言われる前に、芦戸ちゃんの身体を引き寄せ「ひゃ!?」膝の上に座らせて、強引に指と指を絡める。

 

「っ!? と、とが」

「……バカですね」

「―――」

 

 夢の時と同じようにからかえば、芦戸ちゃんが息を呑む。

 

「……渡我。年頃の子に、この傷跡は酷なんだよ」

「そうですか?」

「……まあ、本来ならもっと深刻な話を、保護者も交えてする筈だったがね」

「でしょう?」

 

 本当に何を問題にしているのかと、芦戸ちゃんの緊張を宥める様に背中を撫でる。

 

 ですが、わざわざこんな場を設けたって事は、きちんと事実を伝えておけという事でしょうか? ……んー。

 

「芦戸ちゃん」

「は、はい!」

「本当はですね、あの時に芦戸ちゃんの両手は溶けて無くなってました」

「……え」

「でも、それは困るから。私の―――とっておきで治しました」

 

 口は滑らせません。

 リカバリーガールがまた暴走しないか意識して、お婆ちゃんの好奇心をこれ以上刺激させない様に言葉は選びます。

 

「十の指は溶けきって、肉と骨の残骸がシーツにへばりついて、芦戸ちゃんの血と酸が混ざり合ってドロドロして、掃除が大変そうでした」

「ぅ……」

 

 にぎにぎと、独特の感触を楽しみながら芦戸ちゃんの手を引き寄せて、その新鮮なケロイドの感触に嬉しくなる。

 

「それでも、血の臭いは甘かったです。リカバリーガールはヒーロー生命までは救えないって、私に任せてくれました」

「――――」

「だから、芦戸ちゃんの指を生やして、不自然じゃない程度に形を整えて機能も治しました」

「……っ」

「少し引きつるけど、ちゃんと動くでしょう?」

「………」

「無茶な動きをしても、以前より皮膚も破れたりしません。個性をつかっても支障はないし、むしろ機能性は良くなったと思います」

 

 そう伝えると、何故か口元をおさえて吐き気をこらえる様に背中を震わせてしまう。……その仕草が初心でカァイイと微笑ましく、いつもの様に唇を隠そうとして……まあ、この2人になら晒しておくかと、笑う。

 

「……ッ」

 

 芦戸ちゃんの手に、じんわりと汗が滲む感触。

 うん、ちゃんと汗腺も仕事をしています。やっぱり見た目以外は元通りです。

 

「と、トガ……」

「はい」

 

 自分の手の状態より、私への恐怖心が勝った声にゾクリとします。……弟子を苛めるのは、楽しいですね。

 

 ニィッと笑うと、芦戸ちゃんが引きつる様に背筋を伸ばして、極度の緊張に手足を震わせながら、意を決した様に私の手を握る。ぎゅう、と。

 

 

「――――……っ、あ、ありがとう!」

 

 

 ……。

 

「あ、アタシ、頭が良くないから混乱してるけど……迷惑かけてごめん!!」

 

 ……ああ。

 

「手も、治してくれて、ありがとう!!」

 

 ……そう、ですか。

 そうなんですね。

 

 芦戸ちゃんは、この本能を刺激する笑顔を見せても……逃げないんですね。

 

「……ん」

 

 それじゃあ、しょうがないです。

 

 まっすぐにお礼を言われるのは慣れていなくて、だらしなく緩みそうな頬に力をいれて、むずむずする唇を隠す。

 

「――……ッ!! あ、ええと、トガって治療もできるの!?」

「……はい、できます。でも、ナイショにしてください」

「う、うん!! ナイショにする!!」

 

 芦戸ちゃんは、元気ですね。

 気づけば、頭を撫でられています。

 

「……ちなみに渡我」

「なんです、リカバリーガール?」

「……あんた、その気になればこの子の手、綺麗にできるんだろう?」

「え!?」

「できますけど、やりませんよ?」

「え゛!?」

 

 ガバッと芦戸ちゃんが反応しますが、気にせずリカバリーガールの方に顔を向けます。

 ついでに、まさかリカバリーガールに治す当てがあるのかと、芦戸ちゃんを強く引き寄せる。

 

「ち、ちょっ!? そ、れは情熱的っていうか……!?」

「……」

 

 リカバリーガールが(この子はもう手遅れかもね……)な視線を芦戸ちゃんに向けるのが分かりました。

 

「……あんたの性格なら、将来的に綺麗にしてあげると思ったんだがね」

「芦戸ちゃんじゃなければ、そうしていました」

 

 普通は、肌がきれいな方が良いらしいですし、私だって女の子なのでその気持ちはわかります。でも。

 

 

「芦戸ちゃんは、私の弟子になりました」

 

 

 どうせ、もうこの子は『普通のヒーロー』になれません。

 

「……つまり?」

「なら、私の()()って、印をつけても良いでしょう?」

「へ!?」

 

 芦戸ちゃんが変な声を出しますが、今はリカバリーガールです。

 こればかりは、いくらリカバリーガールに言われてもダメです。

 

 手が溶けたのは事故であり、それを治したのは私です。……なら、ちょっとぐらい私の好みを反映しても良いでしょう?

 

 芦戸三奈は、不幸にも()に目をつけられ悪夢に招かれました。

 既に、自覚の有無に関係なく悪夢の関係者なんです。

 

 私の隣に立ちたいと願ったのは、芦戸ちゃんです。

 

 なら、放してあげる理由は無くて。

 自分の()()には、名前を刻むのです。

 

 

「―――芦戸ちゃんは、芦戸ちゃんのものです。でもこの両手は、私が治したんですから、私のです」

 

 

 ギチリ、芦戸ちゃんの手を強く握る。彼女は、痛みに反応しながらも抵抗しない。

 

「……あんた、かなり重いね」

「? 体重は軽いですよ」

「……はあァ。馬に蹴られる趣味はないし、この話はここまでだね」

「……馬?」

 

 なんでお馬さん?

 芦戸ちゃんも、見えないけどなんか気づいたら重いです。声にならない声をあげてぎゅーっと抱きつかれています。

 

「……と、トガの……ばか!!」

「え?」

 

 上擦った声で罵倒され、少し動揺します。

 

「……も、もしかして、芦戸ちゃんは手を綺麗にしたいんですか?」

「……っ、バーカ!!」

 

 更なる罵倒!?

 弟子が酷いとオロオロしていると、芦戸ちゃんの手が背中に食い込む。

 

「……アタシの手、100人中100人の人が、見たらギョッとすると思う!」

「私は好きです」

「……っ、アタシは、トガが何を考えているのか、全然分からない!」

「そうですか?」

 

 芦戸ちゃんの、小さくなった歪な爪が、かろうじて背中をひっかく。

 ドロドロになった傷物の両手は、以前と変わらぬ握力を感じさせる。

 

「……アタシは、これからずっと、この手で生きていくんだ」

 

 芦戸ちゃんの気持ちが、私には分からない。

 どんな思考で、どんな感情を飲み込めずに苦しんでいるのか、微塵も共感できない。

 

「……っ、この手で顔を洗って、ご飯を食べて、着替えて、勉強して……アタシの身体なのに、トガのものになった手で、ヒーローになるんだ」

「……」

「やっぱり、わかんない。トガがどうしてそうするのか、きっとこれからも理解できない。でも――――」

 

 芦戸ちゃんが、ゆっくりと顔をあげる。

 

 お互いに分からないまま、きっと分かり合えないまま、包帯越しに見つめあう。そのまま、その手が優しく私の頬を挟む。

 

 きっと、芦戸ちゃんからしか与えられない、独特の感触が愛おしくて喉が鳴る。

 

 

「――――アタシが、トガの隣に立ちたいって気持ちは、そんな事で揺らいだりしない!」

 

 

 額と額が触れる。

 強いのに、優しい感触でスリッと擦り付けられると、彼女の角があたってくすぐったい。

 

 良い匂いがして、今の芦戸ちゃんがどんな顔をしているのか見たくて、少しだけ包帯が煩わしい。

 

「―――うん!! リカバリーガールも、心配してくれてありがとうございます!!」

「……いいんだね? あんたが目指している背中は、ちょっとどころじゃなく歪んでるよ」

 

 今だけ、不自然に視力を回復したくなりますが、我慢です。

 

「それは、なんとなく知ってたから大丈夫です! ……たぶん、クラスの皆も気づいてると思います!」

「……そうかい」

 

 安堵した様にも聞こえる声で、リカバリーガールは何かを納得したらしい。

 芦戸ちゃんは、気持ちを落ち着ける様に深呼吸して、改めて私の頬を優しく挟んでくれる。

 

「トガ、ううん、ししょー! これからよろしくね!」

「? はい。今日の選択が一生の後悔になろうと、泣き喚いて自死を望もうと、ずっとずっと大切にするから安心してください」

「……ウ、ウン! オテヤワラカニネ!」

 

 どうして、そこで震えるんです?

 

 後悔はしていないけど、今後を考えてガクガクする芦戸ちゃんの手を握りながら不思議に思う。

 

 まあ、何はともあれ言葉にするのは大事なんだと、言霊の強さを改めて実感します。

 芦戸ちゃんともう少しだけ仲良くなれた気がして、この時間を作ってくれた相澤先生やリカバリーガールにちょっとだけ感謝する。

 

「……芦戸ちゃん」

「う、うん!」

 

 もう二度と、まともな夢を見られない彼女は、どんなヒーローになるのでしょう?

 

「貴女は、私が強くします」

「……うん! アタシは、トガの隣に立てるヒーローになる!」

 

 少しだけ楽しみになりながら、笑う。

 

 とりあえず……お揃いの革手袋はつけて貰おうと、ワクワクしながら頬ずりをした。

 

 

 

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