上位者少女が夢みるヒーローアカデミア   作:百合好きの雑食

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42話 どうやら苦手な事みたいです

 

 

 せっかくの連休を、ほとんど寝て過ごしました。

 

 ぽけーっと保健室の天井を見上げて、今日から学校だとしんどくなります。

 眠気を纏いながら視線を動かし、違和感の元である点滴を見つけて喉奥で唸る。

 

(……最低な目覚ましです)

 

 身体に良いものであろうと、体内に勝手に侵入されるのは好ましくない。

 これなら、面倒でも口から摂取した方が良いです。身を起こして、少しでも眠気を飛ばそうと首を振る。

 

(……学校、ヤです)

 

 だって、お茶子ちゃんと遊べてない。

 本当なら、ちょっと奮発してカフェでご飯しようねって計画していたからこそ、苛立ちと我慢できない気持ちが溢れて歯がカチカチする。

 

(お茶子ちゃん分が、足りません……)

 

 そのせいで、テンションだだ下がりです。

 久しぶりの一人寝も落ち着かなくて、寝起きのイライラが止まりません。シーツと枕もぐっちゃぐっちゃに乱れて、眠りながらくっつくものを探していただろう寝跡はちょっと恥ずかしい。

 

「起きたんだね。おはよう、渡我」

「…………おはようございます、リカバリーガール」

 

 椅子を降りる音。近づいてくる軽いスリッパの音。カーテンがシャッと開いて、リカバリーガールが穏やかに挨拶してくる。

 

「よくは……眠れなかった様だね」

 

 苦笑には気づかない振りをして『とって!』と、無言で腕を差し出すと、リカバリーガールは「おやおや」と、楽し気に点滴の針をとってくれる。……この短い保健室入院で、私が点滴の感覚を嫌がり、そのせいで目覚まし代わりになっていると理解しての悪びれない態度に、ちょっと毒気が抜けていく。

 

「……今、何時です?」

「早朝の5時40分だよ」

「分かりました。準備します」

「例の朝練かい?」

「はい、芦戸ちゃんには連絡、いれてます」

「……連絡、ねぇ」

 

 呆れるリカバリーガールには答えず、ベッド横から使い捨ての歯ブラシと洗顔をとり、洗面台にむかう。

 昨日は、芦戸ちゃんへの連絡をリカバリーガールに頼んだのですが、その際に『朝6時に学校』とだけいれてもらいました。……詳しくは悪夢で説明したので問題ないです。

 

「洗顔していいですか?」

「……傷は塞がってるんだね?」

「はい」

「ならいいよ。終わったら包帯を巻き直すから、使用済みはそっちのゴミ箱」

「はぁい」

「ちなみに、自己診断が正確だからって、油断するんじゃないよ」

「ふぁい」

 

 言われた通りに両目を覆う包帯を外してゴミ箱にポイします。冷たい水で顔を洗えば意識も少しはっきりして、渡されたタオルで顔を拭けばさっきまでのイライラも薄れていく。

 その後は、リカバリーガールに保湿対策だと色々塗られて、包帯を巻かれている内にゼリーを飲んで朝御飯もとりました。 

 

「ごちそうさまです」

「もっと食べなさい」

「ヤです」

 

 昨日は三食大盛りだったから本当にいらないです。……あの時は、真面目に保健室入院を後悔しました。

 オールマイトの治療後、私の不自然な回復の言い訳として、リカバリーガールが休日返上で治療をしたと嘘をつく事になりました。

 だから保健室への強制入院を推奨されて、お茶子ちゃんに会えなくてふて寝していたら、何故か根津校長がお仕事を保健室に持ってきて、少し目が覚めたらひたすら教育について語られました。

 

 ……思い出すだけでも、辛い時間でした。

 

 耳にタコができそうなぐらい、指導者の暴走はダメだと訴えられました。……そんなに、芦戸ちゃんへの訓練内容はダメでした? ちゃんと優しくすると訴えたら、リカバリーガールにも絶対にやめな!! と怒られました。

 

 しょうがないので、芦戸ちゃんの訓練は普通以下になったと悪夢で報告したら、芦戸ちゃんは根津校長とリカバリーガールに感謝の叫びをあげるしで……おかしいですね?

 

 首を傾げつつ、体操服に着替え終えて「お世話になりました」リュックを背負い、リカバリーガールに挨拶をして保健室を出る。

 

「渡我! ちゃんと昼休みと放課後も来るんだよ!」

「……勿論です」

「忘れてたね?」

「……だ、大丈夫です! 芦戸ちゃんが待ってるので、失礼します」

 

 そそくさとその場を離れて、靴を履いて校舎の外に出る。

 雨が降っていますが、体操服なので気にせず根津校長に説明された道順を進んでいくと、ほどなく強大なドーム状の建物の存在と、見知った気配、が…………へ????

 

 気づいて、『加速』して()()に飛びつきます。

 

 

「わ、被身子ちゃん!?」

「え、トガ!? って、濡れてる!? 傘さそうよ!!」

 

 

 お茶子ちゃんがいる! 体操服で、ついでに芦戸ちゃんもいて、傘をさしている。ぐりぐりと額をおしつける。

 

「なんで、お茶子ちゃんがいるんですか!?」

 

 顔をあげるも、包帯が邪魔でお茶子ちゃんの表情が見えない。

 芦戸ちゃんは呼びだしたから当然だけど、まさかお茶子ちゃんに一時間も早く会えるなんて!

 

「三奈ちゃんと朝練するって聞いて、来ちゃった!」

「……なるほど! 芦戸ちゃん、偉いです! ナイスです!」

 

 嬉しくて、お茶子ちゃんの腕の中で身をよじって、肺いっぱいにお茶子ちゃんの香りをかいで、感情のまま体を擦りつける。

 

「ちょ、トガ、濡れた身体で……」

「いいっていいって」

「……お茶子ちゃん、お休み、お出かけ行けなくてごめんね?」

「治療ならしょうがないよ! でも、凄いね! 目と左腕はしょうがないけど、ほとんど包帯がとれてる!」

「……えーと、リカバリーガールが、がんばったので」

「……そっかー」

 

 お茶子ちゃん分が急速に満たされて、テンションがあがっていきます。

 緩んだ顔をお茶子ちゃんの肩に隠していると、服の裾を引っ張られます。

 

「……むー」

 

 芦戸ちゃんがほっぺ膨らませていますが、今は忙しいので待ってください。後で訓練してあげますから。

 

「あ、それでね? 三奈ちゃんとも、本当にここが新しい訓練施設でいいのかなって話してて……」

「ふあい! 根津校長が建ててくれました!」

「ブルジョワや!!」

「やっぱり、雄英は規模がおかしい」

 

 お茶子ちゃんの感触にうとうとしながら、今更にお茶子ちゃんが私のせいで濡れていく事に気づいて、慌てて離れながら顔を向けます。

 

「あと、引率の先生もつけるって言ってました!」

「え、どこに―――」

「おはよう」

「「うわあ!!??」」

 

 驚いたお茶子ちゃんと芦戸ちゃんが、前後から抱きついてきます。

 

「んむ、おはようございます、相澤先生」

 

 雨に濡れない場所で、寝袋に包まれている先生は、気だるそうに目をしぱしぱさせている。

 

「……せ、先生!?」

「びっくりしたー!! 軒下だから濡れてないけど、せめて中で寝ようよ!?」

「必要ない。それで渡我。“個性”の訓練はするのか?」

「? しません。暫くは芦戸ちゃんの体力づくりがメインです」

「分かった」

 

 返事する相澤先生の横を、2人をひっつけたまま通り過ぎていく。

 

「ええ!? ねえねえトガ、“個性”の練習はしないの!?」

「しません」

 

 鍵のかかっていない戸を開けると、真新しい建物特有の匂いがします。

 芦戸ちゃんは、悪夢に“個性”が無いのを気にしているのか、それともひたすらボコられてばかりで鬱憤が溜まっているのか、露骨に残念がります。

 そんなやる気だけはある姿に、落ち着いてと手を伸ばして頭を撫でます。

 

「……“個性”を使用するにも体力とスタミナを消費します。芦戸ちゃんはその辺りがまだまだ未完成なので、下地を固めてからです」

「……ん、分かった」

 

 納得したのか、手の平にぐりぐり頭を擦りつけてくる芦戸ちゃん。その感触を楽しみながら、室内の様子を確認すると、無駄に広いし色々と凝った作りをしています。これは、色々できそうで「ひ、被身子ちゃん!」と、お茶子ちゃんに遠慮がちに手を握られる。

 

「なぁに?」

「……私もね、あの」

「はい?」

「……一緒に、教えて貰っていい?」

 

 カァイイ……!!

 遠慮がちな仕草と、きっと上目遣いだろう体勢にキュンとして、手を握りかえします。

 

「いいですよ。芦戸ちゃんのついでになっちゃいますけど……」

「やったー!! ありがとう被身子ちゃん!!」

 

 手をぶんぶん振るお茶子ちゃんは心が広くて、芦戸ちゃんのおまけ扱いでも怒らないんだと安堵します。

 

(……カァイイなぁ)

 

 このまま、いつまでも和みたくなりますが……相澤先生が寝袋のまま隅に転がるのを感じて「……じゃあ」と、芦戸ちゃんの体操服の襟を握る。

 

「ァ……!?」

「準備運動から、しようね」

 

 察して、すぐに抵抗しようとするも、まだまだ遅い芦戸ちゃんをぶん投げて、特訓開始です。

 

 

 

 

 

 ―――――1時間後

 

 

 

 

 

 うん、初日はこんなものでしょう。

 軽い準備運動の後に、ちょっときつめの筋トレをして、休憩は5分。身体が温まったのを確認して芦戸ちゃんと戦闘訓練をしました。参加したそうだったお茶子ちゃんも同時に相手をして、ほどよく追い詰めて圧倒して踏みにじって、身体と心をボコボコにして朝練を終える。

 

「2人とも……本当に体力ないですね」

 

 メインで鍛えている芦戸ちゃんは床に溶けそうになり、サブのお茶子ちゃんは今日も地面とお友達になっている。呼吸もままならないというか、ひたすら肩で息して返事をする気力もなさそうです。

 私も2人と同じぐらい動いてるのに、か弱すぎて心配になります。

 

「2人とも、シャワー浴びますよ。あと、ちゃんと栄養補給もしてくださいね? 持ってきてないなら買ってきます」

 

 しょうがないので、2人を抱き上げて肩にもたれさせる。

 ……っ。瞬間、匂いが強くなり、汗でじっとりした体操服越しの熱くて柔らかいお肉の感触に喉が鳴りそうになる。

 

「……ッ」

 

 いけない飢えを覚えるも、遅刻させる訳にはいかないと平静を装って立ち止まりかけた足を動かします。

 見かねたのか、相澤先生が「ほれ」と3人分のゼリーをくれた。……やさしい!

 

「……授業開始まで時間はあるが、遅刻するなよ」

「「…………」」

「はぁい。芦戸ちゃん、お茶子ちゃん、無視はダメですよ?」

 

 軟弱な2人に注意をしながら、女子更衣室に入っていく。

 シャワー室は更衣室経由で行けるので、ベンチに座らせて着替えを準備します、が。……流石に、2人の服を脱がす訳にはいかないと少し考え「……先に入ってますね」一人で汗を流す事にします。

 

 両目を覆う包帯は、見た目の火傷跡がもう少し治るまではと言われてつけているだけなので、さっさと包帯を外して服を脱ぎ捨てる様にリュックに押し込み、熱いシャワーを浴びる。

 

「うー……!」

 

 シャワーで、なんとか湧き上がる欲情を流そうとしますが、満たされない飢えは消えてくれず、前髪をくしゃりと握る。

 

(……歯が、ウズウズします)

 

 性欲って、こんなでしたっけ? ……解消方法が謎すぎて困惑していると、ようやく再起動した2人が「……うあー」とか「……きつ」とぼやきながら、死にそうな顔で裸体を晒してシャワー室に入ってきて、あまりの光景にギョッとする。

 

 

「お、お先に失礼します!!」

 

 

 目に毒すぎると、極力見ない様に気を付けて急いで離れる。――――だ、大丈夫ですよね? ちょっと欲情してチウチウしたくなったのばれてないですよね!?

 移動しながら適当に身体をふき、荷物から制服と替えの下着を取り出して着替えながら包帯も巻いていく。

 

(……やばいです、目に焼き付きました)

 

 そしたら、視界が遮られた事で余計にさきほどの光景が際立ってしまう。

 

「……っ」

 

 何度も反芻してしまう己の理性の弱さに、謎に2人への罪悪感を募らせながら項垂れる。

 今の私は、性欲がダメすぎです。……まさか、年下の同級生を意識するなんてと、鼻の奥が興奮で痛くて、目をぎゅっと瞑りながらさっきの光景を追い出そうと努力する。

 

(……芦戸ちゃん、本当はああいう色なん―――煩悩退散!!!!)

 

 性欲を()への怒りに変換しながら、なんとか落ち着こうと、訓練場の外に出て、フーッと息を整えていると「渡我」寝袋を背負った相澤先生に声をかけられる。

 

「……はい?」

「校長に聞いているだろうが、この施設の利用には教師の引率が必要だ」

「あ、はい」

「明日も利用するのか?」

「はい。特別な事情が無い限り、毎日使います」

「……分かった。明日はB組の担任が引率する」

 

 B組? たしか、ブラドキング、でしたね。『操血』は、ちょっと試したい事があるので、気にはなってました。

 

「……ほぼ確実に、ブラドキングは自クラスの生徒に声をかけて、明日から施設が賑やかになると思うが、問題ないか?」

「? ないです。利用したい人が好きに利用すればいいと思います」

「……そうか」

 

 はて? 相澤先生の目元が少し和らいだのに首を傾げる。というか、どうしてそんな確認をしてくるのか考えようとして「被身子ちゃん!」お茶子ちゃんです!

 

「遅れてごめん!」

「トガ、良かった、いたー!」

 

 復活したお茶子ちゃんと芦戸ちゃんが、足をふらふらさせながら駆け寄って来ます。

 

「……話は以上だ」

「はーい」

「あ、先生、ゼリーありがとうございました!!」

「生き返りました!!」

「……明日からは各自で準備しろ」

「「はい!!」」

 

 元気の良い2人と一緒に先生を見送り、芦戸ちゃんにチョコを貰って3人で急いで食べながら教室に向かう。そしたら、いつもより賑やかな声が響いてきます。

 

 

「―――超声かけられたよ来る途中!!」

「私も、ジロジロ見られて何か恥ずかしかった!」

「俺も!」

「俺なんか、小学生にいきなりドンマイコールされたぜ」

「ドンマイ」

 

 

 楽しそうに盛り上がってますね。

 

「なあ、緑谷はどうだった?」

「…………ウン」

「ブフッ!! ネットに、強面の奴らが緑谷に頭下げて、満員電車の席を譲ってるって!!」

「……あーね?」

「……ドンマイ!」

 

 へえ、雄英体育祭って本当にいろんな人に見られてたんですね。

 私は、根津校長にお茶子ちゃんとのタクシー送迎を勧められているので、関係なさそうです。

 

「あ、トガちゃん達おはよー! 今日はギリギリだね」

「おはよう! ……あー、ちょっとね?」

「お、おはよう……あはは」

「んー? なんか怪しいなー……髪も湿ってるし、3人で何してたの?」

 

 葉隠ちゃんに腕を組まれて、その柔らかい感触に集中しながら「雄英の新しい施設で、朝の特訓をしてました」と伝える。

 それに、芦戸ちゃんとお茶子ちゃんが「「あっ!?」」と慌てるのを感じて、首を傾げる前に「新しい施設で朝の特訓!?」と、葉隠ちゃんが声をあげる。

 

「えっ!!??」

「なんだと……?」

「おいおい、聞き捨てならねぇな……」

「抜け駆けか!?」

「はあああああ!!??」

「ずるいー!!」

「詳しく、説明してくれますわよね?」

「ケロ、そういうの、よくないと思うわ」

「具体的に何したんだ!?」

「なあなあ、それ俺らも参加していいやつ?」

 

 え? なに? さっきまでの和気藹々はどうしたんです?

 

 びっくりしていると「おはよう」と先生が入ってきて、全員がシュバッ!! と(私は百ちゃんと轟くんに運ばれて)急いで席につく。…………なんだったんです、さっきの?

 

 

「相澤先生、包帯とれたのね、良かったわ」

「婆さんの処置が大ゲサなんだよ。んなもんより、先に報告がある。今朝から雄英一年専用の訓練施設が開放された」

 

 ザワッと、クラス全員が反応します。

 

「ちなみにここから徒歩でいける。教師の引率が必ずつく特殊施設で、事前の申請は必要だが一年なら()()()利用可能だ。……ちなみに渡我、使い心地はどうだった?」

「ふあ? ……特に問題は無いですし、今のところ不便も感じてません」

「だ、そうだ」

 

 ううん? 私の返答に、またクラス全員がザワザワと反応して、芦戸ちゃんとお茶子ちゃんはちょっと気まずそうに笑いあっている。

 

「じゃ、この話はここまで。……今日の“ヒーロー情報学”はちょっと特別だぞ」

 

 質問したそうな皆の口をギロリと遮り、相澤先生がさくさく話を進行していく。それに、皆がちょっと面白くなさそうな顔をして、珍しく不満を溜めていく。

 

 

「『コードネーム』ヒーロー名の考案だ」

「「「「胸ふくらむヤツきたあああああ!!!!!」」」」

 

 

 あれー????

 一気に不満が解消されましたね????

 

 

「というのも、先日話した『プロからのドラフト指名』に関係してくる。指名が本格化するのは経験を積み、即戦力として判断される2,3年から……」

 

 あ、はい。興味ないです。

 

「つまり、今回来た“指名”は将来性に対する“興味”に近い。卒業までにその興味が削がれたら一方的にキャンセルなんてことはよくある」

「大人は勝手だ!」

 

 本当ですよねぇ。

 

「頂いた指名がそんまま自身へのハードルになるんですね!」

「そ。で、その指名の集計結果がこうだ」

 

 先生が集計結果を出したみたいですが、包帯で見えないです。

 まあ、見る気もないですがクラスの皆が凄くざわついたので、面白い事になっていそうですね。

 

 ……そういえば、ノートどうやってとりましょう?

 

 

「……例年はもっとバラけるんだが、一人に注目が偏った」

 

 

 へえ。……やっぱり轟くんですかね?

 包帯を指先でカリカリしていると、妙に視線が集まって首をかしげる。

 

「…………デスヨネー」

「見る目ないよねプロ」

「爆豪とか、仮でも1位なのにな」

「表彰台で拘束される奴とかビビるもんな……」

「喧嘩売っとんのかテメェら!!!!」

「ぼ、僕の名前がある!?」

「わあああ!」

「うむ」

 

 頬杖をついて反応を聞いていると、百ちゃんが「被身子さん!」と、興奮した様子で振り返る。

 

「結果の予想、できていますか!?」

「? いいえ。ですが皆の反応から、轟くんが注目を集めている気がします」

「……は?」

「まあ! では、一番注目を浴びているのが被身子さんだったら、どうします?」

 

 私? それは。

 

「――――ヤですねぇ」

 

 ごめん、百ちゃん。

 ソレは()()じゃないから、冗談でもノってあげられないと声が低くなってしまう。

 

 っと、いけない。声に感情まで乗ってしまいました。

 

「……っ、嫌です、か?」

「はい、私は『普通』がいいです。……一番とか、困っちゃいます」

「……で、では。……もし、被身子さんが、仮にですけど、一番だったら、どうします?」

 

 ……えぇ? 百ちゃん、今日は意地悪な日なんです?

 もしかして、さっきの態度が悪かったのかもと反省しつつ、口元を隠して「そうですねぇ」と、答える。

 

「……『普通』になるまで、()ちなくちゃですね」

 

 幸い、トガヒミコにとってソレは、息をする様に容易い事です。

 

 ……まあ、間違っても私に興味が集まる事はないですから、杞憂ですけどね。

 

 

「せ、先生!! それ消して今すぐ消して!!」

「よォし!! 特に理由は無ぇけど、この話題はここまでにしよう!!」

「やべぇよ……やべぇよ……」

「来年、どうすんのコレ?」

「あ……だから、いつも」

「シッ!!」

 

 

 何故か、素直に相澤先生が集計結果を消すのを感じながら、急に落ち込む百ちゃんの頭を撫でます。

 ……このまま()()から逸脱しないで、このクラスに埋没していたいと、改めて願いながら。

 

「……えー、これを踏まえ、指名の有無関係なく、いわゆる職場体験ってのに行ってもらう」

 

 うん? ……え、なにそれ?

 

「おまえらは一足先に経験してしまったが、プロの活動を実際に体験して、より実りある訓練をしようってこった」

 

 ……なるほど?

 

「それでヒーロー名か!!」

「俄然楽しみになってきたァ!!」

「まァ、仮ではあるが、適当なもんは―――」

『付けたら地獄を見ちゃうよ!!』

 

 この声は……!

 ピクッと、背筋がのびる。

 

『この時の名が、世に認知されそのまま、プロ名になってる人多いからね!!』

「ミッドナイ……また防護服かよ!!!!」

 

 わぁいミッドナイトです!

 

「まァ、そういうことだ。その辺のセンスをミッドナイトさんに査定してもらう。俺はそういうのできん」

 

 ついそわそわしてしまいますが、百ちゃんに手を握って貰えて、落ち着きます。

 

「将来、自分がどうなるのか、名をつけることでイメージが固まりそこに近づいてく。それが『名は体を表す』ってことだ。“オールマイト”とかな」

 

 ふぅん? そういうものなんですね。

 

 百ちゃんの手をにぎにぎしながら、どうにも皆のテンションについていけませんが、ちゃんと考えないとダメな事は分かりました。

 

 名づけ、名づけかぁ……

 むぅ、私という『ヒーロー』が、誰かに呼ばれるだろう、名前。

 

 

(……そんなの、考えた事も無かったです)

 

 

 名前、そういえば、名前といえば……

 

 ()()()に、名前はあるのでしょうか……?

 

 

『お父様』

 

 

 無邪気な、幼い笑顔を思い出して、慌てて首を振る。

 

 いまだ消化できない事を意識しても、しょうがないです。

 ……でも、もしも、あるのなら、()とお人形ちゃんは、どんな名前をつけたのでしょう?

 

「……」

 

 そして私なら、どういう名前をつけるのでしょう?

 ……っ、いえ、今は、こう在りたいと願う己の『ヒーロー』に、どんな名前をつければいいのか、で。

 

(…………????)

 

 あれ? あまりにも思い浮かばなくて、頬に爪がくいこんだ。

 

 

 

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