上位者少女が夢みるヒーローアカデミア   作:百合好きの雑食

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4話 ヒーロー基礎学です

 

 

 クラスメイト達から逃げる様に気配を消して、静かに教室を後にする。

 

 この学校はおかしい。除籍という夢と希望しかない横暴を『合理的虚偽』でバッサリ切り捨てた挙句、血が欲しいと好ましく思う女子からルームシェアのお誘い。私への罠でできているとしか思えない。いくらトガヒミコが普通じゃないからって限度というものがある。……肉体的にはともかく精神的に疲れきってしまった。

 

(……輸血液、飲みたい)

 

 溜息をつきながら歩いていると、同じ様に疲れきった背中を見つける。

 

(……あれは、緑谷くん、でしたっけ?)

 

 少しの興味を惹かれて彼に声をかけ――――ようとして。出かかった言葉は先程のA組女子を思い出してピタリと止まる。

 

(ダメです。ヒーロー科に在籍している人間はすべからく警戒すべきです)

 

 小さな好奇心に蓋をして、気づかれない様に気配を消す。

 

「指は治ったのかい?」

「わ! 飯田くん……! うん、リカバリーガールのおかげで……」

 

 そんな私を通り越して『エンジン』の子が緑谷くんに声をかける。

 

「しかし、相澤先生にはやられたよ。俺は『これが最高峰!』とか思ってしまった! 教師がウソで鼓舞するとは……」

 

 少しだけ歩く速度が落ちた2人の横を、気配無く追い越そうとして「おーい!」……今だけは聞きたくなかった声が届いてくる。

 

「トガさーん! 駅までだよね? 待ってー!」

「……ひぇ」

 

 近くの人間に焦点をあわせすぎて、遠距離から簡単に発見されてしまった。

 

「君は∞女子。それに最下位女子!?」

「え? いつの間に!?」

「麗日お茶子です! それにこの子はトガヒミコちゃん! えっと飯田天哉くんに緑谷……デクくん! だよね!!」

「デク!?」

 

 代わりに自己紹介されてしまいました。

 しかも、駆け寄ってくる勢いでするっと腕を絡めとられてしまう。笑っているけど『逃がさない』的な圧力を感じてしまう。

 

「え? だってテストの時、爆豪って人が」

「あの……本名は出久で……デクはかっちゃんがバカにして……」

「蔑称か」

「えーそうなんだ!! ごめん!!」

 

 ……会話を続けるなら離してくれません?

 

 この場、というか麗日ちゃんから逃げたいですっ。犬歯も疼くし良い匂いするしこの先の展開も怖いしでヤなんですっ!

 ええい、ここははっきりと言うんです。麗日さんの顔をバッと見て。

 

 

「でも『デク』って……『頑張れ!!』って感じで、なんか好きだ私」

 

 

 カァイイなあ!!

 

 今は恐怖の対象だけど、笑顔が理想でカァイすぎます大好きです!

 

「デクです」

「緑谷くん!!」

 

 気持ちは分かります! でも、緑谷くんはそれでいいんですか?

 

「浅いぞ!! 蔑称なんだろ!?」

「コペルニクス的転回……」

「コペ?」

 

 麗日ちゃんと同じく首を傾げていたら、麗日ちゃんが「なんだろね?」って笑いかけてくれる。

 不意打ちにドキっとしていたら「トガさん、気づいたら教室にいなくてびっくりしたよー」と、腕に力がこもる。……あ。これ、もう逃げられない奴ですね。

 ガラケーで『見つけました。このまま一緒に帰ります!』って、葉隠ちゃんに送っているのが見えた。

 

「…………私は、生活破綻者じゃないですもん」

 

 気づいたら、耳郎ちゃんの言葉を思い出してほっぺがふくらんでいる。聞こえてしまったのか、麗日さんが「あー」と困った顔をする。

 

 そんな私と麗日ちゃんを不思議そうに見ている緑谷くんと飯田くん。この2人なら味方になってくれるかもと、淡い期待を抱いてすがる様な視線を送る。

 

「……あの、何かあったの?」

 

 おずおずと聞いてくれる緑谷くんに「……皆が酷いんです!」と、つい拳をにぎって不満を訴える。

 麗日ちゃんは少し押し黙って「……話しても良い?」と私の顔を見つめる。その、真摯ともいえる表情に首を傾げながら「構いません」と頷くと、麗日さんは意を決して、先程までのA組女子の暴走っぷりを語ってくれる。

 

 ……おお。

 

 実に起承転結が分かりやすい説明で、私がどれだけ困惑しているのか伝わってきます。

 流石はヒーローを目指す女の子。自分を良く見せようとしない語りっぷりに感心していると、緑谷くんと飯田くんの顔が徐々に強張っていく。そして……

 

「トガさん! 今日は麗日さんと一緒に帰った方が良いよ!」

「そうだな。ああ、大丈夫だ。僕たちが君を必ず立派な真人間にしてみせる……!」

 

 嘘でしょう? ……味方は、できませんでした。

 

 納得がいかなすぎるけど、気づけば4人で駅まで歩いている。

 その流れで、当たり前に麗日ちゃんに家まで押しかけられて、もう好きにすればいいと投げやりになる。

 

「お邪魔しまーす! わあ、ここがトガさんの住んでる、へや………………」

「何もありませんけど、寛いでください」

 

 冷蔵庫の中にはお水しかないので、近くの自販機からジュースでも買ってこようとしたら、急に手を握られる。驚いて足をとめると、麗日ちゃんがぐるんっと振り返る。

 

「……トガさん!!」

「は、はい」

「……絶対に、ルームシェアするから!!」

 

 なんで????

 

「今夜は、とりあえず家に泊まって……!!」

 

 嫌ですけど?

 でも、あの、もしかして麗日ちゃん、泣いてます?

 

 何か悲しい事でもあったのかとオロオロしていると、その勢いのまま手を引かれて、お泊りセットをもってのお泊りイベントがはじまってしまう。

 

「トガさん、食べたい物はある?」

「特にないです」

「好きな食べ物は?」

「ええと(血とは言えませんね)……食べられないものがないので、好みという好みはありません」

「……そっか」

 

 気落ちする麗日ちゃんにそわそわして「……本当に、何でもいいのです」と付け加える。……なんででしょう? 迷惑しているのは私なのに、そんな顔をされると胸の奥がチクチクします。

 

 そうして、麗日ちゃんの家にお泊りしたんですけど。

 

「…………」

 

 ちょっと、一夜の密度が濃すぎたというか。

 心身への負担が大きすぎたというか。……気づいたら次の日になっていました。

 

 

「…………?」

 

 

 いえ、自分でもびっくりですよ? でも、無理ですよね?

 

 

『いらっしゃい! 先にご飯にする? それともお風呂?』

 

 

 って、最初に言われたのはうっすら覚えています。

 

 それで私はお風呂を選んで、その後は麗日ちゃんの手作りご飯をご馳走になって、とても美味しくて、会話は少な目なのに楽しかった。

 

(そこまでは、記憶が続いているんです……)

 

 でも、麗日ちゃんが『お風呂に入ってくるね!』と部屋を出て行って数分後、突然、半裸で現われて、

 

『トガさん、もしかしなくてもお水しかつかってない!?』

 

 と、ちゃんと遠慮したのに怒られて、改めて一緒に入ろうと熱い湯船に押し込まれてしまった。

 

 そして、あわあわしている内に髪を乾かされ、パジャマも着せて貰った。

 

 至れり尽くせりすぎて、せめて睡眠の邪魔はしないでおこうと『お、おやすみなさい……』と、畳に正座して寝ようとしたところで『トガさんは、こっち!!』と、布団の中に引っ張りこまれて、あまつさえ逃げられない様に抱きしめられて――――もろもろの衝撃が強すぎて記憶が飛びまくっている。

 

「…………」

 

 濃すぎです。

 出会って1日目で、どうしたらこうなるんです?

 

 こんなの、夢と現実の区別がつかなくて、ずっと呆けていてもしょうがないです……

 

(……いえ、快適ではあったんですよ?)

 

 誰かと一緒に寝るのははじめてで、戸惑いながらも心地良かったです。

 

 熟睡はしなかったし、麗日ちゃんが身じろぐ度に起きて、すぐに眠れて、起きて、という感じで、とても理想的な睡眠をとれました。でも、でもですよ?

 

(……ねがお、みられました)

 

 早朝、フッと目覚めた時に、微笑む彼女と目があった。

 

「――――」

 

 思い出して恥ずかしくて、思わず足が止まると、気づいた麗日ちゃんが「どうしたの?」笑ってくれる。

 ……ずるいです。なんでもないって、顔を隠しながら目を逸らすしかないじゃないですか。

 

 そんな風に、ときめきの記憶喪失に陥りながら、2人で並んで教室に入ると『ざわっ』と騒がしくなる。

 

「おはよう2人とも!」

「それで!? トガちゃんはどうだった!?」

 

 はい? どういう意味ですか!?

 

 葉隠ちゃんの喰い気味の質問に、麗日ちゃんは「…………うん」と、悲痛な表情で首を振る。

 その反応に、周りから『ああ、やっぱり……』な視線が集まってくる。……もしかして喧嘩を売られてます?

 

 流石に、これには普通を目指して良い子な私でも言い値で買わなくてはいけない。文句を言おうとして、

 

「今日も、トガさんは私の家にお泊りね!」

「…………」

 

 麗日ちゃんの笑顔と台詞に、何故か言葉を飲み込んでしまう。

 自分でもよく分からない感覚で、その後はむしゃくしゃしてふて寝してしまった。

 

 あまりに怒涛すぎて窒息しかねなかったからこそ、当たり前に授業がはじまった時はホッとした。

 午前は必修科目・英語等の普通の授業で、ここまでは普通です。

 

(……すごく、落ち着きます)

 

 しみじみしながら、眠気をこらえて授業を聞いていく。

 

 お昼は、大食堂で葉隠ちゃんに誘われて一緒にご飯を食べました。……遠くの席で、残りのA組女子と緑谷くん飯田くんが揃って話しあっているのは全力で無視します。

 

 そして午後の授業になり、ヒーロー科として必須だというヒーロー基礎学がはじまります。

 

 

「わーたーしーがー!! 普通にドアから来た!!」

 

 

 HAHAHA! って登場するオールマイトに(有名人がいる!)と、本当に雄英は普通じゃないと感心する。

 

「オールマイトだ……!! すげえや本当に先生やってるんだな……!!」

「銀時代のコスチュームだ……! 画風違いすぎて鳥肌が……」

 

 ……んー。夢でならともかく、現実でオールマイトって私に殺せますかね?

 

 現実は一発勝負ですし、入試のアレも準備運動にすらなりませんでした。……どうにも力の差というものが曖昧です。

 

(まあ、真面目に考えれば勝てないでしょうね。……たかが5年ほど悪夢で戦ってきた私と、ナンバーワンヒーロー。……一対一で耐久戦にもちこめれば、手数が多い分あるいは……というところですか)

 

 あの悪夢に“個性”は無く。だからこそ現実の自分がどの程度の実力なのか、予想もつかない。

 

「ヒーロー基礎学! ヒーローの素地をつくる為、様々な訓練を行う科目だ!! 単位数も最も多いぞ。早速だが今日はコレ!! 戦闘訓練!!!!」

 

 ……けれど。

 

「戦闘……」

「訓練……!」

 

 湧き上がるクラスメイト達よりは強いと、自負している。

 

「そしてそいつに伴って……こちら!!!!」

「!?」

 

 え、あの壁、あんな動きするんです?

 

「入学前に送ってもらった『個性届』と『要望』に沿ってあつらえた……」

「戦闘服!!!!」

「おおお!!!!」

 

 雄英、お金かかってますね……

 

「着替えたら順次グラウンド・βに集まるんだ!!」

「「「はーい!!!!」」」

 

 元気な彼らを見つめながら、自分の要望を思い出して目を細める。

 

 ヒーローとしての戦闘服。というよりは、私にとって着慣れた狩装束。

 それを現実に着込むおかしさと、夢とは違う着心地に唇をゆがめながら、嘴の仮面を被る。

 

 

「格好から入るってのも大切な事だぜ少年少女!!」

 

 

 そうですね。

 身が引き締まる思いです。嫌でも、あの夜を思い出して目が冴えてきます。

 

 

「自覚するのだ!!!! 今日から自分は……ヒーローなんだと!!」

 

 

 仮面の下で、遠慮なくニィ……と笑う。

 

 

「さあ!! 始めようか有精卵共!!」

 

 

 少しだけ、楽しくなってきました。

 

 

 

 




 頭は『嘴の仮面』胴は『異邦の服』と『狩人の装束』からマントとコートをとって組み合わせた戦闘服。
 手には手首までの黒く上等な皮手袋をはめて、私物だといって『慈悲の刃』を申請して奇跡的にオーケーを貰った。
 
 嘴の仮面はフェロモン防止機能付き(重要)らしい。

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