上位者少女が夢みるヒーローアカデミア   作:百合好きの雑食

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43話 ヒーローとしての名前です

 

 

 コードネーム。

 

 ヒーローとして呼ばれる、私の()()

 こう在りたいと願い、目指す、理想の形。

 

(……?)

 

 それを考える事に、私は謎の抵抗感と苦手意識を感じている。

 

 ジリジリと、嫌悪にも似た衝動が胃からせりあがってきて、どうにも()と向き合っている様な、殺意にも似た激情に自傷しそうになる。

 はて? 片手で顔を隠しながら、何がそんなにも不愉快なのか考えます。

 

(……私という『ヒーロー』の、名前?)

 

 それを考えるのがトリガーらしく、酷い苛立つきに襲われます。

 

 どうにも、自覚というより抜け落ちたナニカがあるらしく、変なもやもやを宥めながら深呼吸。……ヤな事は少しでも原因を考えて、マシにしないといけません。大丈夫、私ならできます。

 どうして、名前をつけようとするだけで、こんなにも気持ち悪くて、ヤなのか、ちゃんと考えます。

 

 そして(――あ)気づいて、息が止まる。

 

(そうです、私は、私の事が世界で一番大嫌いなんです……!!)

 

 そんな普通に擬態しているだけの私が、そう在りたいと願う『ヒーロー』へ、祈りと願いの形でもある名前をつけるって………はあ? 無理です。

 

 せっかくの()()に、()()が混ざってしまう。

 

 バカなんじゃないですか?

 

 気持ち悪い。

 おぞましすぎてキれそうです。

 

 気分は最低で、()を前にするレベルに不快指数が上がっています。

 

(……ムリです、イライラします)

 

 醜悪な表情を両手で隠しながら、ギリギリの理性で冷静になろうと両目を圧迫する。

 

 とにかく、溢れる感情を血と一緒に飲み込んで、いつもより真剣に気配を殺します。

 感情が漏れない様に舌を噛みしめ、口内を血でいっぱいにしながら怒りが静まるまでひたすら耐え忍びます。

 

 ……だいじょうぶ。

 皆は、私の異常は気づいていません……

 

 咄嗟に気配をずらして掻き消したから、こういう時だけ、上位者で良かったと思います。

 

 少しだけ落ち着いて、そうっと確認すれば皆はヒーロー名に夢中だし、相澤先生は寝ていて、ミッドナイトもわくわくと皆を見守っています。ホッとして、両手を外して顔をあげる。

 

 しかし、問題は何も解決していません。

 

(……本当に、どうしましょう?)

 

 ここまで途方にくれるのも久しぶりです。

 

 でも、ヤです。絶対ヤです。

 無理です無理。

 理屈じゃないんです、なんかキライなんです、バカだと思うんです。

 

 私に、名前はいらない……っ。

 でも、名前があるのが『普通』なら……やらないと……

 

 

『じゃ、そろそろ出来た人から発表してね!』

 

 

 ……あ、発表形式なんですね。

 

 項垂れながら、いつもの様に切り替えます。……ヤな事は、今までにもいっぱいあったから、我慢しましょう。……私は、我慢できるトガヒミコです。

 ……こうなったら、皆の名前を参考にしましょう。

 

 そうです、ヒーロー名だと思うからダメなんです。……第二の名前だと思って、蔑称をつけましょう。

 

 自分の感情を抑え込んでいると、早速とばかりに青山くんが立ち上がり、教卓まで自信満々に歩いていく。

 

「行くよ! 輝きヒーロー“I can not stop twinkling.”」

「「「「短文!!」」」」

 

 ……そういうのも、ありなんですね。

 

『そこはIを取ってCan'tに省略した方が呼びやすい』

「それねマドモアゼル☆」

 

 呼びやすさ……そういうのも大事なんですね。

 

「じゃあ次アタシね! エイリアンクイーン!!」

『2!! 血が強酸性のアレを目指してるの!? やめときな!!』

「えー!? でも、今だと手がすごくエイリアンって感じで「芦戸ちゃん」―――すみません! 他の考えます!」

 

 キリッとしながら自分の席に戻る芦戸ちゃんに、先生の言う事はちゃんと聞こうねって後で言っておきます。

 

「……じゃあ次、私いいかしら」

「梅雨ちゃん!!」

「小学生の時から決めてたの。フロッピー」

『カワイイ!! 親しみやすくて良いわ!!』

 

 へえ、カァイイと親しみやすいんですね。

 

「んじゃ俺!! 烈怒頼雄斗(レッドライオット)!!」

『『赤の狂騒』! 漢気ヒーロー“紅頼雄斗(クリムゾンライオット)”リスペクトね!』

「そっス! だいぶ古いけど俺の目指すヒーロー像は“紅”そのものなんス」

「フフ……憧れの名を背負うってからには、相応の重圧がついてまわるわよ」

「覚悟の上っス!!」

 

 憧れ……とは少し違うけど、ミッドナイトは好きですね。

 

 うーん。思ったよりも名前というのは、難しく考えるものじゃ、ない?

 ……重くても軽くても、短文でも面白くてもカァイくてもいいんですね。

 

 『ヒーロー名』につけるんじゃなければ、参考になるのに……

 

「イヤホン=ジャック」

「テンタコル」

「セロファン」

「テ……テイルマン」

「かぶった。シュガーマン!」

「ピンキー!!」

 

 考えている間に、どんどん発表されていきます。うぅ……

 

「チャージズマ!!」

「インビジブルガール!!」

『良いじゃん良いよ!! さァどんどん行きましょー!!』

 

 ミッドナイト、楽しそうでカァイイなー……

 

「クリエティ。この名に恥じぬ行いを」

『クリエイティブ!!』

「焦凍」

『名前!? いいの!?』

「ああ」

「ツクヨミ」

『夜の神様!』

「グレープジュース!!」

『ポップ&キッチュ!!』

「……」

『うん!!』

 

 待って口田くん、口に出してくれないと今の私には伝わりません!!

 ミッドナイトも『うん!!』じゃなくてちゃんと言って!? 参考は1つでも多く欲しいのです!!

 

「爆殺王」

『そういうのはやめた方がいいわね』

 

 ……え、ダメな名前とかあるんですか?

 爆豪くんのは何がダメなの? 急に難易度あげないでください。

 

「考えてありました。ウラビティ!」

『シャレてる』

 

 お茶子ちゃん、カァイイ……!

 

『思ったよりずっとスムーズ! 残ってるのは再考の爆豪くんと……飯田くん、緑谷くん。そして、渡我さんね。…………んんっ! 何か分からない事があったら、遠慮なく先生に相談していいのよ?』

 

 ミッドナイト、優しい……!

 ジーンとしながら、オロオロしている百ちゃんの視線も感じながら、ひたすらに頭を悩ませる。

 

(……いっそ『anyone』とかにすれば、いいですかね?)

 

 それなら、ギリギリ嫌悪にも耐えられる、気がします。ヒーロー名と思えませんし!

 もう、それにしようかと、強張る指先でペンを握って…………けれど、止まってしまう。

 

「……」

『あなたも名前ね』

 

 っ、飯田くんもつけ終わってます。…………私は。

 唇を噛んでいると、緑谷くんが立ち上がる。

 

 

「えぇ緑谷、いいのかそれェ!?」

 

 

 ……?

 

「うん、今まで好きじゃなかった」

 

 好きじゃ、ない……?

 

「けど、ある人に“意味”を変えられて……僕にはけっこう衝撃で……嬉しかったんだ」

 

 ……あ。

 

 

「デク、これが僕のヒーロー名です」

 

 

 包帯の下で、目を見開く。

 

 ――――でも『デク』って……『頑張れ!!』って感じで、なんか好きだ私。

 

(……彼の価値観が変わった瞬間を、私は知っています)

 

 好きじゃないけど、意味は変わる…………それなら、私にもあります。

 

 気づいたら、指が動いている。

 

 私の最初の願い。

 普通になりたい、皆と同じがいいという渇望。

 

 それは、いつしか普通になれない誰かを、普通にしてあげたいという、夢になりました。

 

 そういう風に救けられたかったから、そういうヒーローになろうと思いました。

 

 そして、それを目指しているから、お友達ができました。

 元気で、頑張りやの弟子ができました。

 

 こうして、クラスの皆と夢の様な時間を過ごしています。

 

(……そして、トガヒミコが変わるきっかけをくれたのは()()です)

 

 ソレは、醜悪で不衛生でした。

 ソレは、唐突で暴力的でした。

 ソレは、最低で最悪でした。

 ソレは、災難で災厄でした。

 ソレは、しんどくて苦しくて、痛くて悲しくて、辛くて救われなくて。何度もだまされて裏切られて、出会う人々は壊れていくのが前提で…………だから、トガヒミコは普通になれました。

 

 自分の生まれながらの異常を、知りました。

 

 いつまでも、幸せに巡っていたかったけれど、行き止まりに辿りつきました。

 名残惜しさに停滞を望みながら、目覚めを拒絶しました。

 

 一つの世界が、終わりました。

 一つの世界を、終わらせました。

 

 皆の前に出て、名前を見せると……教室内が悪い意味でザワつきました。

 

 

「……出久くんのおかげで、決まりました!」

 

 

 もう、ソレは“意味”を失いました。……だからこそ。

 

 

「夢みるヒーロー、“ナイトメア”です」

 

 

 終わった()()を、私の名前として続けましょう。

 

『……ダメよ!!』

「どうしてですか?」

『……『夢』は、世間に避けられる不吉の意味をもつわ。それだけでもヤバイのに、『悪夢』なんて名前は場所によっては禁忌扱い、容赦なく排斥される可能性がある!!』

「知っています。……でも、いいんです。これが、私の名前です」

『―――』

 

 捻りも何もない、けれど誰も名乗れなかったヒーロー名。

 

 ヤーナムの悪夢が続いたせいで、世界で最も忌み嫌われ、恐れられる名前を、私につけるなら抵抗感も薄れます。

 

「……私にとっての悪夢は、とっくに()()がかわっていました」

 

 悪夢を終わらせた私だからこそ、知っています。

 

「……だから、これでいいです」

 

 もう名ばかりのヤーナムの夢が、かけがえのない()()である事を、身をもって知るのは私だけです。

 

 

「私は、誰かの()()()()()()()()ヒーローになります」

 

 

 私が終わらせたことにより、夢という単語も、“夢個性”に対する差別も、いずれ消えていくでしょう。

 

 それなら、それを早める為のスケープゴートになりましょう。……とっくに終わった悪夢に、差別が続くのもおかしいですしね。……それに。

 

 ちょっと照れながら、ミッドナイトに背伸びして、こっそり囁く。

 

 

「“ミッドナイト”と、“ナイトメア”……『ナイト』がおんなじで、お揃いですね!」

 

 

 好きなヒーローと名前が似ている。それだけで、もう少しだけ好きになる。

 

 それだけ伝えたくて、速足で席に戻ろうとしたらふわっと足が浮いて、あれ?

 

 

『卒業したらうちに来なさい!』

 

 

 キュッ、と。

 防護服ごしに抱擁されました。……おお! 抱っこされてます!

 

 

「ミッナイ先生!! その場合アタシもくっついていきますからね!?」

「お待ちください!! 被身子さんはうちの子です!!」

「ちがうわ」

「トガちゃん独占反対!!」

「いいい家にお持ち帰りとかそそそういうピンクなやつなのか!?」

「落ち着け」

 

 うれしい、けど……

 ミッドナイト……ちかいと、ねむいです。

 

「あ!? 渡我、まだ授業中だから!!」

『あら?』

「……おでこ冷やすか?」

「轟さん、お願いします!」

 

 カクン、と。

 

 意識を失い、冷たさで目覚める隙間。――――『まあ、いいんじゃないですか?』頬杖をついて、満更でもなく笑う()と目があった。

 

 …………やっぱり、糞袋女にすれば良かったです。

 

 

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