先程は取り乱しましたが、もう大丈夫です。
今の私はクールにして“善”なトガです。年下のクラスメイト達に恥ずかしいところを見られましたが、いつか汚名返上するのです。
密かな野望を胸に(麗日ちゃん、がんばってください!)地下モニタールームで麗日ちゃんを応援する。
一回目の屋内対人戦闘訓練は、序盤から大いに賑わっている。
緑谷くんと麗日ちゃんが『ヒーロー』で飯田くんと『爆破』の子が『ヴィラン』に分かれて戦っているが、早々にドンパチ楽しそうです。
「爆豪ズッケぇ!! 奇襲なんて男らしくねぇ!!」
「奇襲も戦略! 彼らは今実戦の最中なんだぜ!」
「緑谷くんよく避けれたな!」
クラスメイト達の感想を聞きながら、せっかくの奇襲なのに勿体ないと、バックスタブからの内臓攻撃への未練を……いえ現実でアレはダメです。今の無しです。
自分の思考に猛省しながら、緑谷くんの『“『頑張れ!!』って感じのデク”だ!!』という台詞に頬が緩む。少しだけ良いなぁと羨みながら「……ふぁ」と欠伸。
(……ねむい)
これだから、赤ちゃんはダメなのです。
麗日ちゃんや緑谷くんを応援したいのに、いつもの眠気に負けそうになる。
目を擦りながら首を振っていると、腕をくいくいと引っ張られる。
「トガちゃん、私に寄り掛かっていいよ」
「……あ、葉隠ちゃん、ありがとうございます」
「どういたしまして!」
隣にいた葉隠ちゃんに引き寄せられ、私より小さな身体に寄りかかる。
ふらつく視界が安定して、モニターが良く見えるとお礼を言えば、葉隠ちゃんはにっこりと笑ってくれる。
葉隠ちゃんを挟んだ先には、自己紹介したばかりの尾白猿夫くんがいて、目が合うと微笑ましそうに笑ってモニターに視線を戻している。
「すげぇなあいつ!! “個性”使わずに渡り合ってるぞ、入試一位と!」
サッとモニターに視線を戻せば、緑谷くんが頑張っている。
それにしても一位なんて、去年の私とお揃いですね。『爆破』の子にちょっとした親近感を抱きながら、一瞬だが意識が遠のいてしまう。
(……ダメです)
ぼやけていく両目を擦りながら、重くなる瞼に負けそうになる。輸血液でエネルギーチャージしたいと、血を求めて、青ざめた血が……………
「トガちゃーん、寝ちゃダメだよ~」
「……!?」
揺すられてハッとする。目を開けるとモニターに麗日ちゃんがいて、その先には、飯田くんがいる。
『俺はぁ……至極悪いぞぉお』
「んっぐ!!」
噎せた。
「わ! どうしたのトガちゃん!?」
「……い、いえ。飯田くんが面白くて……すごく、ヴィランに成りきってます」
「へ?」
「アレには、麗日ちゃんも笑いますよ……私もダメでした」
お腹がよじれそうです。仮面を被っていなくて良かったと思いながら、ひぃひぃ言ってしまう。ちなみに嘴の仮面は葉隠ちゃんが持っていて、自分の姿が見えているのに、私が顔を隠すのはヤだと返してくれない。……自分はいいの? という疑問はありますが、なんかカァイイので有りです。
「トガちゃん、音声ないのに話してる内容分かるの? 飯田くんヘルメットしてるのに!」
「なんでか分かります。フィーリングかもしれません」
「へー」
感心してくれる葉隠ちゃんに照れながら、本当に何でか分かるので、脳の中の瞳には副音声というか翻訳機能があるのかもしれない。……いえ、やっぱり無いですかね? 我が事ながら自身の事がさっぱりわからない。できる事とできない事も曖昧すぎると、葉隠ちゃんの香りと温もりに、またうとうとしてくる。
パッと。モニターで派手な花火があがり『爆破』の子が鬼気迫る表情をしている。
そして『殴り合いだ!』と、彼が緑谷くんに飛びかかった瞬間、眠気のピークが限界を通り越し―――プツッと、意識が途切れる。
「……! ……ね、ぇ……起きて……! ―――トガちゃん! トガちゃんってば!」
「――――はう!?」
気づいたら、麗日ちゃんや飯田くん。『爆破』の子が室内にいた。
少し焦げた甘い匂いがして、きょろきょろしてしまう。
「……え? ……あれ? ……訓練は? それに、緑谷くんはどうしたんです?」
「そっからかー!」
あちゃー! と額を押さえる葉隠ちゃんと、様々な反応をするクラスメイト。
「訓練は終わったし、その後の講評の時間も終わったよ」
「……そ、そうですか」
「いっぱい揺すったけど、全然起きなくて……ねえ、本当に大丈夫?」
「……はい。少し眠ったので、暫くは大丈夫です」
訓練中には寝ないと伝えれば、葉隠ちゃんも尾白くんもホッとした顔をしてくれる。
見れば、嬉しそうな飯田くん、反省気味に落ち込んでいる麗日ちゃん、そして愕然としている『爆破』の子と、ここにはいない緑谷くん。
(面白いものを、見逃してしまった様ですね……)
少し惜しむ気持ちで、これだから赤ちゃんは唐突に寝る……! と、苛立ちまぎれの溜息を吐く。
「次は3対2かぁ……これは更にヒーロー側が不利だよな」
「まあ、くじ引きだし。1人は余る計算だからな」
そんな会話を聞きながら、皆で場所を移して第二戦。
私は、葉隠ちゃんや尾白くんと一緒に『ヴィラン』チームとして、核を守らなくてはいけない。
とりあえずと張りぼての核の部屋で話し合う。五分後にヒーローチームが突入してくるし、あまり時間は無い。「どうします?」と尋ねれば、私が寝ている間に葉隠ちゃんと尾白くんが話しあっていたらしい。
「俺が核を守るよ」
「そして私が! 隠れて背後から奇襲する!」
「……なるほどー」
つまり、私はいりませんね。
分かってはいましたが、見事に余ってしまった。
感情が顔に出そうで、葉隠ちゃんに仮面を返して貰おうと手を伸ばせば「ダメ」ってされる。
「トガさんには、俺か葉隠さんのどちらかに付いて欲しい。1人増えるだけで出来る事の幅が広がるし。トガさんの気配の消し方は見事だからね」
「そうそう! トガちゃんって見える系の“個性”なんだよね? 気配を消すのはどうやってるの?」
「……いえ、私は見える“個性”じゃないですし、気配消しは何となくでやっています」
気まずく否定すると、2人が驚いた顔をする。
説明したくても色々と複雑で、どう伝えれば誤解が無いかと悩んでしまう。そうしていると時間が危ういと気づいたのか、葉隠ちゃんがもじもじするので「あ」察した私は慌てて背をむける。
「ご、ごめんね?」
「こちらこそ、です」
そう。脱ぐ時間がやってきたのだ。
……よく考えなくても、これって倫理的に大問題ですよね?
あと、後ろで衣擦れの音がするの、心臓に悪いです。
尾白くんも、別の意味で気まずそうに鼻の頭をかいている。尻尾の揺れも心なしか大きい。
「……み、見てないよね?」
「見てません!」
「……ふ、振り返らないでね?」
「今は尾白くんの尻尾だけ見てるので大丈夫です!」
最初の勢いはどうしたのか、私の存在が葉隠ちゃんの羞恥心に火をつけてしまったらしい。こちらをチラチラ気にして、靴と手袋はともかく、コートを脱ぐ手が止まっている。
「……やっぱり、コートは着てていい? ひ、必要になったら脱ぐから……!」
「それで大丈夫です!!」
「……ッ。一応、もう時間だから……俺が奇襲に行こうか? 葉隠さんがここで核を守るのも防衛には良いと思うんだ! 見えないし!」
尾白くん……!? 建設的な意見を出している様に見せかけて、顔を赤くしてこの場から逃げたそうにしています。男の子ですもんね! なんだか居た堪れない気持ちは分かりますけど、2人きりにしないでください!
そんな事を考えてわたわたしていると、不意に脳の瞳が疼いてギョッと目を見開く。
「――――」
視界が、というよりこの部屋が青で染まっていく。
規模と範囲、予感からコレは攻撃の前兆です!
地面を蹴る様に走り、咄嗟に葉隠ちゃんを片腕に抱き上げ「きゃあ!?」その勢いで「尾白くん、ごめんなさい!!」驚いている彼に飛び乗る。
瞬間、室内が氷で覆われた。
「え!? トガさ――――!? ッッ!? ……これ、は!?」
吐く息が白くなり、室温が一気に下がっていく。
あまりの規模に驚いて、葉隠ちゃんを抱えたまま尾白くんの顔に胸を押し付ける体勢で、尻尾に支えられながら目を細める。
油断したら、ダメな相手みたいです。
「……尾白くん。葉隠ちゃんをお願いします!」
「え、トガちゃん!?」
「……分かった」
驚く葉隠ちゃんと、自分の足が動かない事に気づいて、無念の表情を浮かべる尾白くん。
「一応、私はまだ動けますから。葉隠ちゃんは尾白くんと待っていて下さい」
「……なら、せめて着ているコートは返すよ! トガちゃん寒いでしょう!?」
「ありがとうございます。それじゃ「いや!! 絶対に葉隠さんの方が必要だから借りていた方がいいと思うよ!!」……ええ?」
どうしたんです尾白くん……? 突然の主張に2人で目を丸くしつつ「そ、そうですね」と、頷く。
何故かとても安堵している尾白くんから降りて、コートでくるんだ葉隠ちゃんをその両腕に乗せる。
「それじゃあ、ちょっと行ってきます!」
「……うぅ、ごめんねトガちゃん! 私たちの分も頑張ってね!」
「無理はしないでくれよ!」
頷いて2人に手を振り、葉隠ちゃんに返して貰った嘴の仮面を被って部屋の外に出る。
(確かヒーローチームは……『複製腕』の子と『半冷半燃』の子でしたね)
ならば、この氷は『半冷半燃』の子がしたのでしょう。階段を飛び降りる様に階下に向かい、ブーツの消音効果に満足しながら考える。
(尾白くんと葉隠ちゃんには申し訳ないですけど、この規模の“個性”となると……)
用心を重ねなくては、逆に狩られてしまう。
もう少し我慢して下さいと心苦しくなりながら、二階の廊下で足を止める。
これは狩りではなく訓練です。オールマイトも見ていますし、無茶な事はしないと予測して確保テープの準備をする。彼らなら、核のある部屋に最短距離で向かう筈だと
「…………ふぅ」
心を沈めて目を瞑る。呼吸をおさえ、意識を周囲に同化させる様に、ゆっくりと気配を溶かす。
それは悪夢に沈む様に、暗く蕩ける様に、たゆたい、ただ待つのです。
『そうしたら、ほら。足音が二つ』
スウ、と。目を開くと、目の前を『半冷半燃』の子が通り過ぎていく。
『複製腕』の子が、それに付き従う様に、耳や目を先端に生やして周りを警戒―――いいえ。念の為とばかりの索敵をしながら、歩いている。
(…………)
今です―――『半冷半燃』の子と『複製腕』の子の間に滑り込む。
音もなく現れた私に『複製腕』の子が目を大きく開く。何が起きているのか分からず思考が止まっている隙に、意識外からの攻撃。彼の顎下に、ジッ!! と、靴先を掠める。
「―――ッッ!!?? ………っ」
衝撃が脳に直接届き、カクンと白目になるのを確認して、廊下の死角に滑らせる様に座らせる。
確保テープをその腕に巻きながら、彼の頬に傷をつけて血を貰い“個性”をつかう。
「…………」
そうして、何食わぬ顔で『半冷半燃』の子の後ろをついて行く。
「? どうした」
「……いや、何もない」
ッ。『半冷半燃』の子が振り向いている!
ちょっとドキリとしたけど『半冷半燃』の子は「……そうか」と、興味を失ってくれた。
ホッとして、勘が鋭いなぁと、更に油断できなくなる。
その背中を見下ろして(『複製腕』の子、本当に体格が良いですね)さっきの彼の真似をして、耳と目を複製しながら、彼についていく。
「ここだな」
そうして核の部屋に辿りつけば、葉隠ちゃんは尾白くんに背負われていた。
着ていたコートは畳んで床に置かれており、葉隠ちゃんは裸で震えながら『半冷半燃』の子の隙を狙おうとしている。
……尾白くんも、全力で囮をしているんですね。この2人は、流石のヒーロー候補です。
「動いてもいいけど、足の皮剥がれてちゃ満足に戦えねえぞ」
葉隠ちゃんに気づいていない彼が、ゆっくりと核に近づいていく。
もうすぐだと見守っていると、急に「おい」と振り向く。
「もう2人はどこだ? 一緒の部屋にいる筈だろう」
ああ。……あと一歩で、葉隠ちゃんの奇襲が成功したのに。
やっぱり、彼もヒーロー候補だと。私は警戒するふりをして彼に近づき、その耳元に複製した口を近づける。そして、
『―――ここですよ』
返事をする。
「……は?」
私の声に驚愕し、即座に腕をかざすも、終わりです。
一瞬固まった隙に、その腕に確保テープを巻いちゃいました。
『ヴィランチームWIN!!!!』
瞬間、オールマイトのアナウンスが響いて、変身をとく。
「えっ」
「な……!?」
「――ッ!!」
現れる私に、3人とも驚いてくれる。
そして、強めに睨んでくる『半冷半燃』の子から逃げる様に葉隠ちゃんと尾白くんの傍に寄る。
コートを拾って葉隠ちゃんに羽織らせれば「……そこにも、いたのか」と『半冷半燃』の子が悔しそうにする。
「と、トガちゃん、今のって……!?」
「はい、私の“個性”は『変身』なので、ああいう事ができるんです。びっくりしました?」
「し、したよー! 負けたかと思ったー!」
「……いや、驚いた」
でも勝ったと、勝てたんだと、嬉しそうに笑う2人を見て、私も頬が緩む。
仮面の下でニィっと笑い「やりましたね!」「うん、やったね!」「勝ったぞ!」と声をかけあい、ハイタッチする。
オールマイトが講評の時間だと声をかけてくれるまで、時を忘れて盛り上がってしまった。