上位者少女が夢みるヒーローアカデミア   作:百合好きの雑食

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6話 戦闘訓練です

 

 

 先程は取り乱しましたが、もう大丈夫です。

 

 今の私はクールにして“善”なトガです。年下のクラスメイト達に恥ずかしいところを見られましたが、いつか汚名返上するのです。

 密かな野望を胸に(麗日ちゃん、がんばってください!)地下モニタールームで麗日ちゃんを応援する。

 

 一回目の屋内対人戦闘訓練は、序盤から大いに賑わっている。

 

 緑谷くんと麗日ちゃんが『ヒーロー』で飯田くんと『爆破』の子が『ヴィラン』に分かれて戦っているが、早々にドンパチ楽しそうです。

 

「爆豪ズッケぇ!! 奇襲なんて男らしくねぇ!!」

「奇襲も戦略! 彼らは今実戦の最中なんだぜ!」

「緑谷くんよく避けれたな!」

 

 クラスメイト達の感想を聞きながら、せっかくの奇襲なのに勿体ないと、バックスタブからの内臓攻撃への未練を……いえ現実でアレはダメです。今の無しです。

 

 自分の思考に猛省しながら、緑谷くんの『“『頑張れ!!』って感じのデク”だ!!』という台詞に頬が緩む。少しだけ良いなぁと羨みながら「……ふぁ」と欠伸。

 

(……ねむい)

 

 これだから、赤ちゃんはダメなのです。

 

 麗日ちゃんや緑谷くんを応援したいのに、いつもの眠気に負けそうになる。

 目を擦りながら首を振っていると、腕をくいくいと引っ張られる。

 

「トガちゃん、私に寄り掛かっていいよ」

「……あ、葉隠ちゃん、ありがとうございます」

「どういたしまして!」

 

 隣にいた葉隠ちゃんに引き寄せられ、私より小さな身体に寄りかかる。

 ふらつく視界が安定して、モニターが良く見えるとお礼を言えば、葉隠ちゃんはにっこりと笑ってくれる。

 葉隠ちゃんを挟んだ先には、自己紹介したばかりの尾白猿夫くんがいて、目が合うと微笑ましそうに笑ってモニターに視線を戻している。

 

「すげぇなあいつ!! “個性”使わずに渡り合ってるぞ、入試一位と!」

 

 サッとモニターに視線を戻せば、緑谷くんが頑張っている。

 それにしても一位なんて、去年の私とお揃いですね。『爆破』の子にちょっとした親近感を抱きながら、一瞬だが意識が遠のいてしまう。

 

(……ダメです)

 

 ぼやけていく両目を擦りながら、重くなる瞼に負けそうになる。輸血液でエネルギーチャージしたいと、血を求めて、青ざめた血が……………

 

 

「トガちゃーん、寝ちゃダメだよ~」

「……!?」

 

 

 揺すられてハッとする。目を開けるとモニターに麗日ちゃんがいて、その先には、飯田くんがいる。

 

『俺はぁ……至極悪いぞぉお』

 

「んっぐ!!」

 

 噎せた。

 

「わ! どうしたのトガちゃん!?」

「……い、いえ。飯田くんが面白くて……すごく、ヴィランに成りきってます」

「へ?」

「アレには、麗日ちゃんも笑いますよ……私もダメでした」

 

 お腹がよじれそうです。仮面を被っていなくて良かったと思いながら、ひぃひぃ言ってしまう。ちなみに嘴の仮面は葉隠ちゃんが持っていて、自分の姿が見えているのに、私が顔を隠すのはヤだと返してくれない。……自分はいいの? という疑問はありますが、なんかカァイイので有りです。

 

「トガちゃん、音声ないのに話してる内容分かるの? 飯田くんヘルメットしてるのに!」

「なんでか分かります。フィーリングかもしれません」

「へー」

 

 感心してくれる葉隠ちゃんに照れながら、本当に何でか分かるので、脳の中の瞳には副音声というか翻訳機能があるのかもしれない。……いえ、やっぱり無いですかね? 我が事ながら自身の事がさっぱりわからない。できる事とできない事も曖昧すぎると、葉隠ちゃんの香りと温もりに、またうとうとしてくる。

 

 パッと。モニターで派手な花火があがり『爆破』の子が鬼気迫る表情をしている。

 

 そして『殴り合いだ!』と、彼が緑谷くんに飛びかかった瞬間、眠気のピークが限界を通り越し―――プツッと、意識が途切れる。

 

 

 

 

 

「……! ……ね、ぇ……起きて……! ―――トガちゃん! トガちゃんってば!」

「――――はう!?」

 

 

 気づいたら、麗日ちゃんや飯田くん。『爆破』の子が室内にいた。

 

 少し焦げた甘い匂いがして、きょろきょろしてしまう。

 

「……え? ……あれ? ……訓練は? それに、緑谷くんはどうしたんです?」

「そっからかー!」

 

 あちゃー! と額を押さえる葉隠ちゃんと、様々な反応をするクラスメイト。

 

「訓練は終わったし、その後の講評の時間も終わったよ」

「……そ、そうですか」

「いっぱい揺すったけど、全然起きなくて……ねえ、本当に大丈夫?」

「……はい。少し眠ったので、暫くは大丈夫です」

 

 訓練中には寝ないと伝えれば、葉隠ちゃんも尾白くんもホッとした顔をしてくれる。

 

 見れば、嬉しそうな飯田くん、反省気味に落ち込んでいる麗日ちゃん、そして愕然としている『爆破』の子と、ここにはいない緑谷くん。

 

(面白いものを、見逃してしまった様ですね……)

 

 少し惜しむ気持ちで、これだから赤ちゃんは唐突に寝る……! と、苛立ちまぎれの溜息を吐く。

 

 

「次は3対2かぁ……これは更にヒーロー側が不利だよな」

「まあ、くじ引きだし。1人は余る計算だからな」

 

 

 そんな会話を聞きながら、皆で場所を移して第二戦。

 

 私は、葉隠ちゃんや尾白くんと一緒に『ヴィラン』チームとして、核を守らなくてはいけない。

 

 とりあえずと張りぼての核の部屋で話し合う。五分後にヒーローチームが突入してくるし、あまり時間は無い。「どうします?」と尋ねれば、私が寝ている間に葉隠ちゃんと尾白くんが話しあっていたらしい。

 

「俺が核を守るよ」

「そして私が! 隠れて背後から奇襲する!」

「……なるほどー」

 

 つまり、私はいりませんね。

 

 分かってはいましたが、見事に余ってしまった。

 感情が顔に出そうで、葉隠ちゃんに仮面を返して貰おうと手を伸ばせば「ダメ」ってされる。

 

「トガさんには、俺か葉隠さんのどちらかに付いて欲しい。1人増えるだけで出来る事の幅が広がるし。トガさんの気配の消し方は見事だからね」

「そうそう! トガちゃんって見える系の“個性”なんだよね? 気配を消すのはどうやってるの?」

「……いえ、私は見える“個性”じゃないですし、気配消しは何となくでやっています」

 

 気まずく否定すると、2人が驚いた顔をする。

 説明したくても色々と複雑で、どう伝えれば誤解が無いかと悩んでしまう。そうしていると時間が危ういと気づいたのか、葉隠ちゃんがもじもじするので「あ」察した私は慌てて背をむける。

 

「ご、ごめんね?」

「こちらこそ、です」

 

 そう。脱ぐ時間がやってきたのだ。

 ……よく考えなくても、これって倫理的に大問題ですよね?

 

 あと、後ろで衣擦れの音がするの、心臓に悪いです。

 

 尾白くんも、別の意味で気まずそうに鼻の頭をかいている。尻尾の揺れも心なしか大きい。

 

「……み、見てないよね?」

「見てません!」

「……ふ、振り返らないでね?」

「今は尾白くんの尻尾だけ見てるので大丈夫です!」

 

 最初の勢いはどうしたのか、私の存在が葉隠ちゃんの羞恥心に火をつけてしまったらしい。こちらをチラチラ気にして、靴と手袋はともかく、コートを脱ぐ手が止まっている。

 

「……やっぱり、コートは着てていい? ひ、必要になったら脱ぐから……!」

「それで大丈夫です!!」

「……ッ。一応、もう時間だから……俺が奇襲に行こうか? 葉隠さんがここで核を守るのも防衛には良いと思うんだ! 見えないし!」

 

 尾白くん……!? 建設的な意見を出している様に見せかけて、顔を赤くしてこの場から逃げたそうにしています。男の子ですもんね! なんだか居た堪れない気持ちは分かりますけど、2人きりにしないでください!

 

 そんな事を考えてわたわたしていると、不意に脳の瞳が疼いてギョッと目を見開く。

 

「――――」

 

 視界が、というよりこの部屋が青で染まっていく。

 

 規模と範囲、予感からコレは攻撃の前兆です!

 地面を蹴る様に走り、咄嗟に葉隠ちゃんを片腕に抱き上げ「きゃあ!?」その勢いで「尾白くん、ごめんなさい!!」驚いている彼に飛び乗る。

 

 瞬間、室内が氷で覆われた。

 

「え!? トガさ――――!? ッッ!? ……これ、は!?」

 

 吐く息が白くなり、室温が一気に下がっていく。

 

 あまりの規模に驚いて、葉隠ちゃんを抱えたまま尾白くんの顔に胸を押し付ける体勢で、尻尾に支えられながら目を細める。

 

 油断したら、ダメな相手みたいです。

 

「……尾白くん。葉隠ちゃんをお願いします!」

「え、トガちゃん!?」

「……分かった」

 

 驚く葉隠ちゃんと、自分の足が動かない事に気づいて、無念の表情を浮かべる尾白くん。

 

「一応、私はまだ動けますから。葉隠ちゃんは尾白くんと待っていて下さい」

「……なら、せめて着ているコートは返すよ! トガちゃん寒いでしょう!?」

「ありがとうございます。それじゃ「いや!! 絶対に葉隠さんの方が必要だから借りていた方がいいと思うよ!!」……ええ?」

 

 どうしたんです尾白くん……? 突然の主張に2人で目を丸くしつつ「そ、そうですね」と、頷く。

 何故かとても安堵している尾白くんから降りて、コートでくるんだ葉隠ちゃんをその両腕に乗せる。

 

「それじゃあ、ちょっと行ってきます!」

「……うぅ、ごめんねトガちゃん! 私たちの分も頑張ってね!」

「無理はしないでくれよ!」

 

 頷いて2人に手を振り、葉隠ちゃんに返して貰った嘴の仮面を被って部屋の外に出る。

 

(確かヒーローチームは……『複製腕』の子と『半冷半燃』の子でしたね)

 

 ならば、この氷は『半冷半燃』の子がしたのでしょう。階段を飛び降りる様に階下に向かい、ブーツの消音効果に満足しながら考える。

 

(尾白くんと葉隠ちゃんには申し訳ないですけど、この規模の“個性”となると……)

 

 用心を重ねなくては、逆に狩られてしまう。

 

 もう少し我慢して下さいと心苦しくなりながら、二階の廊下で足を止める。

 これは狩りではなく訓練です。オールマイトも見ていますし、無茶な事はしないと予測して確保テープの準備をする。彼らなら、核のある部屋に最短距離で向かう筈だと()()事にする。

 

 

「…………ふぅ」

 

 

 心を沈めて目を瞑る。呼吸をおさえ、意識を周囲に同化させる様に、ゆっくりと気配を溶かす。

 

 それは悪夢に沈む様に、暗く蕩ける様に、たゆたい、ただ待つのです。

 

 

『そうしたら、ほら。足音が二つ』

 

 

 スウ、と。目を開くと、目の前を『半冷半燃』の子が通り過ぎていく。

 

 『複製腕』の子が、それに付き従う様に、耳や目を先端に生やして周りを警戒―――いいえ。念の為とばかりの索敵をしながら、歩いている。

 

(…………)

 

 今です―――『半冷半燃』の子と『複製腕』の子の間に滑り込む。

 音もなく現れた私に『複製腕』の子が目を大きく開く。何が起きているのか分からず思考が止まっている隙に、意識外からの攻撃。彼の顎下に、ジッ!! と、靴先を掠める。

 

「―――ッッ!!?? ………っ」

 

 衝撃が脳に直接届き、カクンと白目になるのを確認して、廊下の死角に滑らせる様に座らせる。

 確保テープをその腕に巻きながら、彼の頬に傷をつけて血を貰い“個性”をつかう。

 

「…………」

 

 そうして、何食わぬ顔で『半冷半燃』の子の後ろをついて行く。

 

「? どうした」

「……いや、何もない」

 

 ッ。『半冷半燃』の子が振り向いている!

 

 ちょっとドキリとしたけど『半冷半燃』の子は「……そうか」と、興味を失ってくれた。

 

 ホッとして、勘が鋭いなぁと、更に油断できなくなる。

 その背中を見下ろして(『複製腕』の子、本当に体格が良いですね)さっきの彼の真似をして、耳と目を複製しながら、彼についていく。

 

「ここだな」

 

 そうして核の部屋に辿りつけば、葉隠ちゃんは尾白くんに背負われていた。

 着ていたコートは畳んで床に置かれており、葉隠ちゃんは裸で震えながら『半冷半燃』の子の隙を狙おうとしている。

 

 ……尾白くんも、全力で囮をしているんですね。この2人は、流石のヒーロー候補です。

 

「動いてもいいけど、足の皮剥がれてちゃ満足に戦えねえぞ」

 

 葉隠ちゃんに気づいていない彼が、ゆっくりと核に近づいていく。

 もうすぐだと見守っていると、急に「おい」と振り向く。

 

 

「もう2人はどこだ? 一緒の部屋にいる筈だろう」

 

 

 ああ。……あと一歩で、葉隠ちゃんの奇襲が成功したのに。

 やっぱり、彼もヒーロー候補だと。私は警戒するふりをして彼に近づき、その耳元に複製した口を近づける。そして、

 

『―――ここですよ』

 

 返事をする。

 

「……は?」

 

 私の声に驚愕し、即座に腕をかざすも、終わりです。

 一瞬固まった隙に、その腕に確保テープを巻いちゃいました。

 

 

『ヴィランチームWIN!!!!』

 

 

 瞬間、オールマイトのアナウンスが響いて、変身をとく。

 

「えっ」

「な……!?」

「――ッ!!」

 

 現れる私に、3人とも驚いてくれる。

 

 そして、強めに睨んでくる『半冷半燃』の子から逃げる様に葉隠ちゃんと尾白くんの傍に寄る。

 コートを拾って葉隠ちゃんに羽織らせれば「……そこにも、いたのか」と『半冷半燃』の子が悔しそうにする。

 

「と、トガちゃん、今のって……!?」

「はい、私の“個性”は『変身』なので、ああいう事ができるんです。びっくりしました?」

「し、したよー! 負けたかと思ったー!」

「……いや、驚いた」

 

 でも勝ったと、勝てたんだと、嬉しそうに笑う2人を見て、私も頬が緩む。

 仮面の下でニィっと笑い「やりましたね!」「うん、やったね!」「勝ったぞ!」と声をかけあい、ハイタッチする。

 

 オールマイトが講評の時間だと声をかけてくれるまで、時を忘れて盛り上がってしまった。

 

 

 

 

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