造花に命を吹き込む魔法   作:赤鱶

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決意2

 

果たして玲さんはどんな理由でそれを決意したのだろうか?

 

人は罪悪感や使命感だけでこんな表情はしない。

それは、趣味人に囲まれて育った俺が一番良く知っている。

 

「何でわざわざシャンフロを?」

 

「先程のお話を聞いて確信いたしました。 たとえ何の罪もなく、誰も傷付けていなかったとしても……あの事件は私にとって治らない傷です。 放置していいものではないんです」

 

「そして後始末を付けていった兎さんの言ったことと運営のアナウンスを合わせて考えると、見えてくるものもあります」

 

そう。 プレイヤーはあまりにも不甲斐なかったのだ。

あの世界を切り拓いておきながら、主人公足り得ない有象無象でしかなかった。 それこそがプレイヤーの咎であり、全ての元凶であった。 そう語る玲さんの瞳は確信に満ちていて、きっと当事者だったからこそ分かるものもあったのだろうと感じさせる。

 

「今も、ユニークモンスターのロックは解かれていない。 それはつまり、あの世界を解き明かす権利がないと判断されているという事に他なりません」

 

友人からの情報提供で、俺はある程度は今のシャンフロの事も知っている。

それによると巻き戻った世界には、倒されたユニークモンスターすらも復活していたのだという。

しかしそれは……かつてのように戦える存在ではなかった。

台地の龍王は鎧袖一触にプレイヤーを吹き飛ばし、海に出ても幽霊船は現れず、夜の狼はプレイヤーを玩び戦おうとしない。

 

運営のアナウンス、精進しろと言ったそれを言葉通りに解釈するなら、やはり『今のお前らじゃ無理だよバーカ』という事になるのだろう。

 

再生した世界でもレベル限界の150に到達したプレイヤーは着々と増えている。

けれどロックに関しては、ワールドストーリーに関してはなんの音沙汰もないらしい。

 

だから恐らく、レベルなんていうただ積み上げただけのパラメータでどうにかなるようなものではないんだろう。

 

「それは、本当に玲さんがやらなくちゃいけない事なのかな」

 

「分かりません。 きっと私じゃなくてもいいはずです」

 

きっぱりと言い切った玲さんの表情は、しかし真逆の意思に満ちている。

 

「あの事件は、不甲斐ないプレイヤーに対して運営が与えたペナルティだったのでしょう。 それは私だけの罪だったとはもう考えていません。 何千万のプレイヤーと連帯責任です」

 

でも。

 

「私が。 他でもないこの私が、停滞した世界を前に進められたのだとしたら。」

 

「少なくとも私だけは、その罪を雪いだという事になります」

 

 

これは。

ただ先頭に立っていたという理由で戦犯の烙印を押されたサイガ-0のための、弔いであり復讐なのだと。

 

玲さんは、どこまでも前向きに嘯いてみせた。

 

 

「でもそれだけじゃないんだろ?」

 

「ええ。 私が()()()()()()()()()()理由はそれです、けれど……」

 

一瞬口籠って、またはにかんで口を開く。

 

「ここに引っ越してから沢山のゲームをしました。 難しいものも簡単なものもありました。 ずっと、あの頃には感じなかった楽しさがあるんです。 それはきっと楽郎さんと一緒にやっているからです。」

 

「ようやくあの事件を分けて考えられるようになりました。 その上で、また()()()()のは、それだけ素晴らしい世界だったから。 でも……こうも思ってしまったんです」

 

繋ぎっぱなしだった手が、軽く握られる。

まるでおねだりでもするかのような声色で言葉が紡がれる。

 

「楽郎さんとならきっと、もっと楽しいんだろうなって」

 

だからそれは反則だろ。

 

 

 

 

2つの危惧がある。

 

一つが、冤罪の晴れたテンションで妙な事を始めようとしていないかって事だ。

今の玲さんは明らかに冷静じゃない。 あるいはこっちが彼女本来の性格なのかも知れないが、今の俺には判断がつかない。

時間をおいて考え直させる必要がある。

それは彼女にとっても、俺にとってもそうだ。

なんたってさっき一緒にやりましょうって言われて思わず頷きかけたからな。 俺も冷静じゃない。

 

もう一つが、玲さんがこのままシャンフロに熱中してしまうのを()()()()()()()()()俺がいる、って事だ。

 

どういうことだ。

いや俺もよく分かっていないが。

 

……たぶん、好きな人が自分だけを見ていないのが嫌なんだろうな。

うぬぼれじゃないが、さっきまでは玲さんの1番は俺だろうなっていう考えがあった。 恋愛感情じゃなくてもそれである程度は満足出来ていたし、これが続くなら悪くないと思えていた。

 

だからなんだ、いま玲さんの関心がシャンフロに向いているのが少しだけ寂しい……少しだけな訳あるか。 こっち向け。

 

もう少しだけ、俺のことも見てほしい。

 

他の事にも目を向ける玲さんを、笑って愛せるようになるまで

 

 

「……一ヶ月後、大きな大会がある。 格ゲーの世界大会なんだけど、俺はそこで優勝するつもりでいる」

 

嘘だ。 いや今決めたから嘘じゃない。

 

「そしたらしばらくは休みが取れると思う。 俺も本腰を入れてシャンフロにin出来るようになる」

 

嘘だ。 いや正確じゃない。

格ゲーの世界大会ってことはあのシルヴィア=ゴールドバーグが出張ってくるって事だ。

アイツに勝てれば俺のプロゲーマーとしてのキャリアにも一段落つく。 なんたって当初の目標がそれだからな。

さんざん公言してきたそれを達成したなら、まぁ長期休暇くらいはもぎ取れるだろう。

なんたって相手は全米一(ゼンイチ)だもんな。

 

「俺も久しぶりに心機一転してやってみたいと思ってるんだ。 アカウントも作り直しになるだろうし。 だから、それまでは玲さんも待っていてほしい」

 

嘘だ。 いや全部本心だ。 一ヶ月後には本心になってる。

 

いま冷静じゃない俺たちに時間を与え、まだ玲さんの心を掴んでない俺に猶予を与える誤魔化しだらけの窮中の苦策。

 

 

この途轍もなく可愛い婚約者を、未だ高く聳える壁たる銀金を、一ヶ月で()()してみせる。

 

シャンフロはその後だ。

 

 

 

果たして、そういうことになった。

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