造花に命を吹き込む魔法   作:赤鱶

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造花

「後は若いお二人で……」

 

事務的な質疑応答は恙無く終了し、俺とお嬢様だけの時間がやってきた。  これから最大2時間、自然公園の散策なんていうプチデートを通じて交流を深める事になる。

 

俺としては久々の自然だ。 幼少期は父母に連れられて山海を満喫していた俺もまた、自然を愛し自然に癒やされる感性を持ち合わせている。 古巣のクソゲーの方が優先度が高いだけで。

 

……武田氏としては、最近忙しい俺のためにこういう時間を設けるのが目的だったのかもな。 幸いな事にお嬢様は一緒に居て空気が険悪になるような人物でもないし、無難ながらも話を振れば流れるように応えてくれる。

 

「こういう所は初めて?」

 

「生け花の感性を育む、という事で長姉に連れられてここには何度か。 この池も今は緑一色ですが、初夏には花菖蒲が咲き誇って綺麗なのですよ? 陽務さんは興味はありませんか?」

 

「どうにも父母の趣味のせいか、池を見れば魚を、花を見れば虫を想起するように育てられてしまいましてね。 俺にとっては花は花でしかないみたいです。」

 

「幼少のみぎりより自然と触れ合う事も多かったのですね」

 

「うちの母は虫が好きで、やたらと虫取りに連れ出されまして。 父は釣りが好きで、朝から釣り竿を持たされて、なんて事もしばしばでした。 そういう意味では充実した子供時代だったと思います」

 

感性がクソゲーに堕ちなければ、という但し書きが付くが。

 

「釣りもされたのですか。 実は私も祖父が釣りを趣味としていまして、幼少の頃は早朝から川釣りなどにお伴する事もあったのですよ」

 

「マジで? あ、失礼。 斎賀さんの印象だとあんまりアウトドアって感じもしなくてつい。 川釣りだと子供には難しかったんじゃない?」

 

ん……? 斎賀さん?

いやこの子、中学高校の時の同級生の完璧超人お嬢様じゃねぇか!? なんて事だ、今の今まで忘れてたとか……いや逆に斎賀さんも俺の事なんて覚えてないだろうからそれでいいのか。

 

「ええ、でも魚が掛かった竿をひいてみろ、と渡してくれる祖父でしたから。 稚心にはそれで充分でした」

 

「釣りは大海原との対話だァ! って容赦なく竿を握らせるうちの父とは大違いですね……」

 

閑話休題。 流石にヒラマサに引かれて海に落ちた話はしなくていいだろう。 過剰な自分語りになってしまうし。

 

会話は、弾んだ。 知らない人でもないし、沈黙が心地いいなんて感想すら抱く。 きっとこのお見合いはうまくいき、俺と玲さんは結婚するのだろう……だが、何だこの違和感は。 良くないフラグを見逃しているかのような、ルート選択を間違えてバッドエンドに突き進んでいる時のような、言い知れない不安が俺の中に積まれていく。

 

「陽務さんは趣味がゲームとおっしゃいましたが、具体的にはどのようなものを好まれるのですか?」

 

「実は自分でも厄介な趣味だとは思ってはいるのですがね、ヒットして大衆に楽しまれるゲームがある裏で、なるべくしてひっそりと見捨てられる、言い方は悪いですがクソゲーというジャンルがありまして―――

 

 

つい、語り過ぎてしまった。

そういう時間では無かったはずなんだが、気付かぬうちに余裕が無くなっていたのだろうか。

 

「すみません、つい」

 

「いえいえ。 本当にゲームがお好きなのですね。」

 

これで許してくれる玲さんは女神さまだ。 乱数の女神よりよっぽど好感度高いわ……

 

「私は二番目の姉に誘われて、やっていた時期があるくらいで、ゲームにはあまり造詣が深くないのですが……シャングリラ・フロンティアってご存知ですか?」

 

「あれも流行ったよね。 クオリティも凄かったし、珍しく流行ったゲームなのにやり込んでたよ。 楽しかった」

 

「お恥ずかしい話ですが、あまり何かにのめり込む事のない私も趣味と言われるとシャングリラフロンティアを思い出すくらいには長くやっておりましたね。 最後はあまり気持ちの良いものではありませんでしたが……」

 

ん?

 

話を変えるべきか、聞くべきか……ええいままよ

 

暗く沈んだ斎賀さんに続きを促すと、少しだけ躊躇った後に話しはじめる

 

「使っていた剣にアバターを乗っ取られてしまって、それがボスとして君臨したんです。 いま思い返しても忸怩たる思いです……」

 

いやそれ始原色災禍(モノクローム・カタストロフィ)事件じゃねぇか!?

 

かつて隆盛を誇った大規模クラン黒狼、その主力たる最大火力(アタックホルダー)サイガ-0を彼足らしめる始原装備、その暴走によるシャンフロ史上に今尚残る大事件だ。

俺も攻略中のユニークシナリオのキーとなるNPCが死亡したりして最終的に引退の契機となった、少しだけ苦い思い出でもある。

 

「あれは、仕方ないよ。 運営が世界観に拘り過ぎなんだ。 個人のプレイしていたアバターを乗っ取って大殺戮をさせるなんてまともな感性をしてたら絶対に出来るはずがない」

 

まさかの本名の読みを変えただけのアバターネームだとかは置いておくとして、そうかあれ斎賀さんだったのか。 いやサイガ-0が、か。 実際に行動したのは運営の用意したAI、始原獣の殺意っていう概念存在らしいから斎賀さんは無関係だ。

ミナココロ大戦記を彷彿とさせる中々にクソゲチックな顛末だったが、そうか、あれがか……

 

「むしろ斎賀さんは趣味を奪われたみたいなもんだろ。 俺だったらキレて訴えるくらいまで行ったかも知れないし……」

 

「そう、ですね……」

 

趣味、趣味か……どうにも斎賀さんは、アバターが暴走の末にロストした事よりも、サイガ-0の引き起こした災禍に心を囚われているような……

 

俺にとっても奴はウィンプの仇みたいなもんだし、奴を倒すためにエルマが大魔法の一部になって消えたのも気に食わないが……それよりも、目の前の斎賀玲、その心が分からないでいた。

 

「なんで怒らないんだ」

 

「何でって……」

 

「あんたは趣味を奪われた側だろ、大切に育て上げたアバターだったはずだ。 それをロクにヒントも出さなかったクセに世界観が理由ですって奪われて、あまつさえ新大陸壊滅の大戦犯の烙印を押されて、欠片の怒りも抱かなかったって言うのかよ!」

 

どうなってんだこの人は。

 

「好きなゲームじゃなかったのかよ!?」

 

木々と、池と。 風の音をかき消して、何も解らなくなった俺の叫びだけが虚しく響いた。

 

 

「好き……だったのでしょうか」

 

 

 

キョトンとして俺を見る斎賀玲が分からない。

何だこれは、本当に人間か。

 

これは、造花だ……何処までも美しくある、しかし生きてはいない。 技術的にはプレイヤーの人格を詳らかに解析する事など造作もないであろうシャンフロで、始原の殺意に乗っ取られたのも理解できる気がした。 この人には……

 

「君、は―――」

 

『君には、思い入れってものがないのか』

 

口から溢れかけたその一言は、ギリギリで飲み込んだ。

それは人に言っていい言葉じゃない。 プロゲーマーの俺が絶対に口にしていい言葉じゃない。

 

あぁでも、俺は心を持っていかれてしまった。

この展開に、この壁に、この謎に、この果てしない困難の予感に、ずっと前から囚われてきたんだから。

 

「玲さん。」

 

「君が、心から好きになれるものを探したい」

 

「そのために、君の人生を俺に預けてくれないか」

 

 

 

()()()()()()

 

絶対に、この造花みたいなお嬢様に、これが好きだってモンを叫ばせてやる。 そのために人生を懸けたっていい。

 

そんな執念が俺の『恋』でいい。

 

 

俺はクソゲーが好きだ。

 

 

 

 

さて……

 

まずは困惑する玲さんの説得からだな、我ながら熱くなって失礼ばっかしてからに……

 




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