「……やっちまったか?」
「何かおっしゃいましたか? 楽郎さん?」
「いや、何でもない」
ともすれば、というか実際似たようなものだが、世間知らずのお嬢様を口八丁で籠絡して婚約まで漕ぎ着けてしまった現状が、自分でも酷い事をしていると評価せざるを得ないだけで。 それは本人に言えることでもない。 自分が分からない。
本当に分からない。
俺の前には、2台のVRシステムが並んでいた。
ここは俺の趣味の部屋だ。 電脳大隊の独身寮を抜けて、新しく借りたマンションの一室にチェアー型のVRシステムとクソゲーの並ぶ棚を置いた、俺の城となる部屋である
そこに、何故か新しいチェアー型のVRシステムを買い足していた。
いや目を逸らすのはやめよう。
婚約者と同棲して俺の趣味に引き摺り込もうとしている。
それだけだ。
お互いに向ける感情は、奇怪な執念と、多少の愛着くらいだろうが、しかし俺たちの関係性は一応世間一般では婚約者と呼ばれるもので。
心から好きと言えるものが無いだけで、玲さんは理想的な女性と言っていい。
俺がキレたあのゴタゴタもその後の説得も説明にならない説明も全部を、それだけ好きになれるって素敵な事ですね、の一言で飲み込んで笑ってみせた玲さんは、楽しかったですから、とそのまま俺との結婚を承諾。
かくしてお互いに恋愛感情を抱かぬままに婚約者になってしまった俺たちは、婚約者としてのアレコレを投げ捨てて趣味探しに一直線……こんな展開クソゲーでも中々ありませんよ。 何故だ。
「アカウント登録は出来た?」
「はい。 ユートピア社のVR共通アカウント自体は使える状態で残っていたので、恙無く終わりましたよ?」
「そっか。 なら良かった。 ……じゃあ本題だ」
「変なゲームばっかりで悪いが、一応選び放題だ。 何からやってみようか」
俺の持つゲームコレクションから一人用やオフライン専用のものを除いた、クソゲーだけではない協力プレイの出来るゲームを全て揃えた。 大衆に認められたものも買い足した。 そして休日がやってきて……それが今だ
「ユナイト・ラウンズ……これはどのようなゲームなんですか?」
剣士アバターをかつて使っていた玲さんが手に取ったのは、パッケージに騎士の絵があったユナイト・ラウンズ
「滅びかけた王国を、プレイヤーの力で盛り立てる協力ゲーム……のはずだったもの。 ドロップレートが酷すぎ、設定に忠実で何もかも滅びかけ、挙げ句に略奪が横行して世紀末。 でもその世界観が気に入ったプレイヤーが集まって、今でも細々と続いてる」
「なるほど……基本的にはPVPになるのでしょうか」
「うん。 正にそうだね」
「じゃええと……この辻斬り・
「こっちのは最初からPVPとして作られたゲームで、江戸時代後期をベースに斬った張ったの大乱闘。 基本的には協力関係が成り立たない修羅の国になってて、挨拶でもするような気軽さで刀を振り上げるかな。 合言葉は天誅、天がやれって言ったから……癖が強いよ?」
「ふふ」
「どうして笑うの」
「いや変な理由ではなくて、ですね? あんまり長々と話されない楽郎さんが立て板に水で説明されるのがちょっと面白くて」
「そっち?」
「はい」
笑う玲さんは楽しそうで、こっちも説明した甲斐があるというもの。 着眼点がズレているのはご愛嬌だ。 これらは玲さんにとっては未知のゲームでしかない。
「ネフィリム・ホロウ2、これは」
「宇宙から落ちてきた生体兵器ネフィリムを駆って、他の陣営のネフィリムや野良の暴れネフィリム、あとエイリアンと戦うゲーム、基本的にはロボットものって考えてもいいかな。 前作は操作の難易度がすごく高かったからクソゲーに分類されてたけど、2はシャンフロシステムを組み込んで大化けしたブラックドールの主力商品。ランキングのトップ層はすごく強いよ」
赤の女王とはたびたび大会でやり合うが戦績はあっち有利だ。
有能なオペレーターが付いてるのもあって奇策がすぐに対策されるのも勝利を重ねられない理由だろうが……
「じゃあ、これやってみようかなと思います」
「よし、ソフトのインストールといこうか」