プルフォウ・ストーリー0092 失われたエメラルド   作:ガチャM

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宇宙世紀0092年。アクシズ親衛隊の生き残りプルフォウは地球にいた。アフリカ戦線でエースパイロットになっていた彼女は、あるとき特殊任務を命じられた。それは地球で身を隠している要人を宇宙に脱出させるというものだった―。

■デザイン協力 
アマニア twitter @amania_orz
おにまる twitter @onimal7802
かにばさみ twitter @kanibasami_ta
ねむのと twitter @noto999
田舎太郎 twitter @jegotaro

■設定資料
ティプレ・アン(デザイン:おにまる)
【挿絵表示】

ジェシカ(デザイン:ねむのと)
【挿絵表示】

エミリー・バルド軍曹(デザイン:アマニア)
【挿絵表示】

オスカー・ウィルフォード大尉(デザイン:田舎太郎)
【挿絵表示】


※Pixivにも投稿しています。


第1話「プロローグ」

      プロローグ

 

 

「わたしがモビルスーツのパイロット……?」

「そのとおり。マリーベル・リプル、あなたがネオ・ジオン軍の士官だということはわかってるのよ!」

 

 ミーミスブルン学園九年B組。そのクラス全員の目が、転校生のマリーベル・リプルに集中し、彼女はいくつもの好奇と疑いの視線に戸惑ってしまった。

 

「わたしはご覧の通り学生よ。アニメみたいにロボットに乗るなんて」

 

 モビルスーツとは二十メートルもの大きさを誇る巨大人型兵器のこと。そしてネオ・ジオン軍はその兵器を使って地球連邦政府に刃向う過激な組織。

 マリーベルは、鮮やかなオレンジ色の髪が印象的で、その整った顔とスタイルは学園の制服を着こなすのに十分すぎるほどだった。だが、そんな彼女がネオ・ジオンの一員だと疑われているとなれば穏やかな話ではない。

 

【挿絵表示】

 

「あなたは、学園近くで戦闘があった次の日にサイド3から転校してきたわね? タイミングが良すぎるのではなくて? それともサイド3では戦いは珍しくないのかしら?」

 

 マリーベルを問い詰めているのは、学園の副生徒会長ティプレ・アンだった。

 彼女は人目を引く美しい容姿、そして豊かな薄紫の髪をかき上げる大袈裟なジェスチャーでクラスメイトの耳目を集めつつ、マリーベルがネオ・ジオンのスパイなのだと吹聴していた。転校生に言及しつつも、あくまで主役は自分。それがティプレ・アンのスタイルだ。

 

「サイド3は、とても平和なコロニーよ」

「嘘。サイド3では、モビルスーツを使ったテロがあるのでしょう? ああ、怖い!」

 

 アンはおおげさに震えてみせた。

 スペースコロニー『サイド3』は、いまから十二年前に地球連邦と大戦争を繰り広げた旧ジオン公国の本拠地である。ジオン公国は戦争に敗北し、いまは地球連邦政府に属するジオン共和国へと体制が移行していた。だがジオン公国復興を目論む地下活動は、いまだ活発だと噂されている。ジオンの思想を受け継ぐネオ・ジオンが、転校生を隠れ蓑に地球に送り込んだスパイ。それがマリーベルなのだと、アンは言っているのだ。

 

「サイド3でモビルスーツなんてほとんど見なかったわ。作業用のモビルワーカーならよく見たけど……」

「あなたはサイド3でモビルスーツに乗っていたのでしょ?」

「さっきもいったわ、乗っていないって! わたしはエレカだって運転したことがないんだから」

「十四歳なら当然よね。でも、エレカが運転できなくてもモビルスーツは操縦できるの。案外簡単だそうじゃない」

「子供が軍のパイロットだなんておかしいわ」

「そうかしら? ネオ・ジオンでは子供のパイロットも多かったと聞くわ。それに地球連邦軍の最初のモビルスーツのパイロット……そう、アムロ・レイは当時十五歳だった。今どきめずらしくはないでしょうに」

「……」

 

 転校してきたばかりで、クラスでの立ち位置が不安定な転校生と、気の強い才女との対比が教室に無言の緊張感をもたらしていた。クラスメイトたちは、この言い争いの成り行きを息を潜めて見守っている。

 

「あのさ、話に割り込んで悪いけど……」

 

 無言になってしまったマリーベルを見かねたのか、彼女の後ろの席に座っていたジェシカ・ローズが、マリーベルの肩を抱きながら言った。

 

「なにかしら? まだわたしの話は終わっていないのだから、邪魔しないでくださる?」

 

 話の腰を折られたアンはジェシカを睨んだ。でも、それに臆さずにジェシカは反論する。

 

「マリーベルさんがネオジオンのパイロットだなんてありえないよ。だってさ、こんなに綺麗な顔してるんだよ。軍人って、もっと凄い表情してると思う……それよりモデルや女優って感じだよ」

「あ……。そんなことは」

 

 マリーベルは赤面すると、恥ずかしそうに俯いた。

 

「わたしはプルっちの味方だからね」

 

 ジェシカはマリーベルに微笑んだ。

 クラス中の生徒がマリーベルを疑うなかで、ジェシカだけが彼女を擁護していた。マリーベルは宇宙のサイド3から転校してきたから、地球での生活に慣れていないようにジェシカには思えたのだ。

 

「は? 綺麗な顔ですって?」

 

 アンは明らかに不機嫌な様子でジェシカを睨んだ。

 

「もちろんティプレさんも綺麗だけどねっ」

「ふん、わたしは別にマリーベルさんを非難しているわけではないの……。スパイでもパイロットでも、なんでもするといいわ」

 

 アンは肩にかかった髪をさらっとはらいながら言った。

 

「ただ真実を明らかにしたいだけ。状況証拠から導きだした論理的仮説が、彼女が嘘をついていることを証明してる。だいたい、こんな中途半端な時期に転校してくるなんておかしいと思わないの?」

「そうかなあ。この学園に転校生なんていくらでもいると思うけど」

「いいこと? わたしはこの二週間のね、宇宙港の全記録を取り寄せて調べたのよ」

 

 アンはマリーベルに向き直ると、バッグからコンピューター・パッドを取り出して、膨大なリストを表示させた。

 

「そうしたら地球とサイド3からのシャトル定期便はないというじゃない!」

 

 アンは、まるで陰謀の秘密を暴いたかのように得意げに話した。

 

「マリーベルさん正直に応えなさい。あなたどうやって地球にきたの? 今の時代、よほどの理由がないと一般市民は地球に降りられないのはご存知でしょう?」

「……えっ?」

 

 ジェシカはアンの説明に心底驚いたようだった。

 

「ティプレさん、それって本当なの?」

 

 彼女の丸い目がいつもよりいっそう丸くなる。

 

「ええ本当よ。わたしたちが地球からスペースコロニーに移住するのは簡単。でも、その逆は難しいの……地球はアースノイドで溢れてるんだから」

「じゃあさ、宇宙にいちど上がったら地球には戻ってこれないの?」

「仕事とか、よほどの理由があれば出来るでしょう。でも観光をしたいとか、やっぱり地球に戻りたいとか、そんな安易な理由ではダメよね」

「そんなこと、ぜんぜん知らなかったよ!」

「世間知らずを反省なさい。もちろん例外はある。政治家とか有力者とか特権があるVIPなら、ほぼ自由に地球と宇宙とを自由に行き来できるわ」

 

 いつの時代も、権力者は自分たちの都合の良いように法律を作りかえる。つまるところ、それが地球とスペースコロニーとの軋轢を招いたのだが、大戦争を経ても相変わらず地球連邦政府の意識は変わっていないのだ。

 アンはそうも説明した。

 

「あ、そういうこと? ……ティプレさんは、だからプルっちを疑ってるの? なら見当違いだよお。凄い親がいる生徒なんて珍しくないって。だってプルっちのお父様は……」

「そう、その通り」

 

 アンはジェシカに同意すると、マリーベルの顔をみた。

 

「マリーベルさん。VIPの子息子女が通うこの学園なら、地球に降りるのは買いものするくらい簡単なことだと説明する気なのでしょうね? だけど、それなら副生徒会長であるわたしの耳にも入っているはずなの」

 

 アンは、そこで聴衆の期待を煽るように一息いれる。

 

「ということは、あなたは密かに地球に潜入したと考えるのが論理的ではなくてっ!」

 

 アンはマリーベルをピッと指さしながら言った。

 マリーベルはその溢れる自信にたじろいだ。

 

「せ、潜入だなんて……。ちゃんと父がチャーターしたプライベート便で地球にきました。父は商社を経営しているから」

「プライベート便! ますます怪しいわね……」

 

 アンは演技めいた動作で大袈裟に驚いてみせる。

 

「だとすれば荷物や目的などはノーチェックじゃない!」

「確かにそうよ。でも、父は地球連邦政府に信用があるわ」

「地球連邦政府なんて汚職の塊じゃないの。信用とは最も縁遠い組織です」

「あなたは何がいいたいの?」

「フフン、わたしがひとつ可能性を提示しましょう……。あなたはジオンのシャア・アズナブル大佐から密命を受け、サイド3から工作員としてこの地球にモビルスーツで降りてきたのだわ!」

「なにそれ! 凄い話になってきたね」

 

 あまりに突飛な説に、ジェシカもさすがに呆れてしまう。

 

「そう? でもシャア大佐はララァ・スンっていう少女を部下にしてたそうよ。だったら、あなたのような娘をスパイに仕立て上げても不思議ではない」

「いい加減にして! そんな勝手な話、すごく迷惑なの!」

 

 ティプレ・アンの、あまりに空想めいたいいがかりに耐え切れず、マリーベルはついに立ちあがって反論した。

 アンは自分の仮説を飛躍させ、あまつさえシャア・アズナブルという有名な軍人の性癖まで持ち出し、それがあたかも決定的な証拠であるかのように放言しているのだ。彼女は政治家、いや煽動者に向いているに違いなかった。

 

「で、でもさ、シャア大佐からの密命だったらちょっと憧れちゃうけどね! わたしもスパイしてみたいよ、大佐の愛人になってさ~」

 

 加熱する議論で険悪になったクラスの雰囲気を、冗談でなんとか和ませようとするジェシカの努力に、クラスの生徒たちからちょっと無理した笑い声があがった。

 だが向き合うマリーベルとティプレの表情は真剣だった。

 

「ならば皆の前でアリバイを証明してみなさいよ、マリーベル・リプル!」

「そ、そんな。証明だなんて……」

 

 ティプレ・アンの挑発に、マリーベルは本当に困ってしまった。そう、アンの言っていることは、ほとんど正しかったからだ。

 でも姫様をこの学園から連れ出すまでは、けっして正体がばれるわけにはいかないのだ―。

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