プルフォウ・ストーリー0092 失われたエメラルド 作:ガチャM
■デザイン協力
アマニア twitter @amania_orz
おにまる twitter @onimal7802
かにばさみ twitter @kanibasami_ta
ねむのと twitter @noto999
田舎太郎 twitter @jegotaro
■設定資料
ティプレ・アン(デザイン:おにまる)
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ジェシカ(デザイン:ねむのと)
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エミリー・バルド軍曹(デザイン:アマニア)
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オスカー・ウィルフォード大尉(デザイン:田舎太郎)
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※Pixivにも投稿しています。
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「まったくひどい目にあった。なんて任務だ」
プルフォウは、這々の体で
ともかく、まずは自室へと向かわなければならない。長期任務になるだろうからその準備もあるし、何より今は一人になりたかった。エミリー軍曹に全てを見られ、監視された一週間の生活は、プライベートというものが一切なかったのである。
だが、ふらつきながら基地の廊下を歩いていると、同僚のオスカー・ウィルフォード大尉とばったり顔を合わせてしまった。
オスカーは三十八歳になる一年戦争以来のモビルスーツ・パイロットで、この基地ではプルフォウの次に腕の立つパイロットだ。がっしりとした体格で、短い髪に長めのアゴの顔は少々強面ではあるが、部下の面倒見は良い。外見に寄らず、人が良くて気が利くところがある。
それだけに今はタイミングが悪かった。
「プルフォウ大尉、ちょうどよかった。実はな……」
オスカー大尉はそう言いかけて、なにやら困惑した表情になった。
それも無理からぬことだろう。プルフォウは、数時間前は学校の制服を着て基地内を練り歩き、少女っぽい言葉使いで会話していたのだから。もちろん、皆なにか触れてはいけない禁忌を扱うような感じで、理由を訊いてはこなかったが。
その気遣いが、かえってプルフォウの恥ずかしさを助長していた。
「オ、オスカー大尉、なにか……?」
「いや、あの制服は着るのを止めたのかい? 可愛くて良かったと思うがね」
オスカーは笑いながら言った。
「えっ……」
「プルフォウ大尉も、ようやく女の子らしくなったと皆で話していたところなんだ。あ、マリーベルと呼んだ方がいいのかな?」
ネオ・ジオンのエースパイロットを評価するには全く似つかわしくなく、捉えようによっては侮辱ともとれる形容詞の羅列に、プルフォウは顔を真っ赤にしてうつむいた。
「な、なにを言い出すんだ」
「変わったレクチャーだったようだな。工作任務における偽装や変装の練習? といったところ?」
「あ、いやっ……そうなんだ。エミリー軍曹に強引にね」
「なるほどね。エミリーは女優さんだったらしいからな。あるいはプルフォウ大尉を着飾りたかったんだろう。女性ってそういうものだろ? モデルがいいなら尚更さ」
オスカー大尉は腕を組んで納得したように言った。
「やめてくれ。パイロットなのにあんな服を着せられてバカみたいなんだから」
「まあ着慣れないだろうがね。大尉は綺麗なんだから、自分の良い素質は大事にした方がいい」
プルフォウはしばらくうつむいたままだったが、その表情はだんだんと凄みのある顔に変わっていった。
「オスカー、模擬戦でわたしのハードなしごきを受けたくなかったらな、その話は二度としないほうがいいぞ?」
プルフォウはオスカーを睨み付けながら、出せる限りの低い声で言った。
「いや、そんなつもりでは……なぜ、そんな怖い顔なんだ?」
「怖い顔にもなるさ! 嫌なんだよ、ああいうの!」
「そういうものなのか?」
オスカーはプルフォウの迫力にたじろいでいる。なぜ彼女が怒っているのか、さっぱり分からないといった表情だ。
「全て忘れた方が貴公の身のためだねっ! それで? なにかいいかけていたようだが?」
「あ、ああ……いま君が言った模擬戦闘だよ。レクチャーが終わってすぐで申し訳ないんだが。プルフォウ大尉と手合わせ願いたいと思ってな」
「貴公のドライセンとか?」
「受領したばかりなんでな。機体に慣れておきたい。だが性能を限界まで引き出せる相手となると、そうはいないからな。君と戦えば、限界特性もわかるってものさ」
オスカー大尉の申し出に、プルフォウは疲れた体がアドレナリンで急速に回復するのを感じた。モビルスーツで戦うということに、これ以上ない興奮を憶える。やはり自分はモビルスーツパイロットなのだと自覚せざるを得なかった。
「わかった、いいだろう。二時間くらいなら、作戦の準備にも支障はない。この一週間座学だけだったから、リハビリとベルグソンの慣らし運転にはちょうどいいさ。だからといって、勝てるとは思うなよ?」
「君に勝てたらジオン中に名前が鳴り響くよ」
「そうはさせないよっ」
プルフォウは笑みを浮かべてパシッと両手を打ち鳴らした。
「でもドライセンか。わたしはこれまで搭乗する機会はなかったな」
「当然じゃないか? ドライセンはサイコミュを搭載していない一般兵士用だ。君が搭乗してたのは、キュベレイとかいうニュータイプ専用モビルスーツだろう?」
「そうだ。アクシズではキュベレイの量産タイプに搭乗してたよ。ハマーン閣下や姉が乗ってたプロトタイプを改良したモデルでね。なかなか凝った作りをしてた。性能は良かったが、少しサイコミュの負荷が大きかったかな」
「サイコミュの負荷?」
「サイコ・マシーンは、脳波で機体制御をしたりファンネルをコントロールするんだが、送信されてくるデータは全てサイコミュが脳波に変換するんだ。フィルタリングされてもノイズがあるし、フィードバックループもあって……ようするに凄く頭が痛くなる」
「なるほど。だが、そんな状態で操縦するとは、よほどタフじゃないとな。……子供にやらせることじゃない」
「だから強化人間なんだろ?」
「確かにそうだが……」
オスカーは悲しげな表情でプルフォウを見た。
プルフォウはオスカーの態度に困惑しつつも、彼のヘーゼル色の瞳が少し可愛いと思ってしまって、慌ててその考えを頭から追い出した。
「なにか言いたいことが?」
「きみの前では言いにくいんだが、上層部のモラルや倫理観を疑ってしまう」
「意外と純粋なんだね。まあ、こんなことはわたしたちだけにして欲しいとは思うよ。自分は戦争の暗部が手を振って歩いてるみたいなものだからな」
「……すまなかった。謝る。安っぽい同情だなんて、大尉に失礼だった」
「いや、いいよ。気にしないさ」
プルフォウは自嘲気味に笑った。自分という人間を客観的にみると、哀れな戦闘人形にしか見えないからだ。
「たまには同情されるというのも嬉しいものだよ」
「そ、そうか……」
しばらく二人は無言になってしまう。
プルフォウは気まずさを感じて、話題を早く元に戻したいと思った。
「と、とにかく、そういった理由もあって、キュベレイはパイロットも限られるから、親衛隊で集中運用されたんだ」
「俺は戦場でキュベレイタイプを見たことはなかったな。下っ端には親衛隊なんて雲の上の存在だったよ」
「でも見なくて良かったんじゃないか? わたしはグレミー閣下に仕えてたんだから。オスカーはハマーン閣下側だったんだろ? 貴公を撃墜してたかもしれないよ」
「それもそうだ。ファンネルで全方位から攻撃されるなんて、ぞっとするよ」
「最近はファンネルとはご無沙汰だけどな」
ファンネルとは、バーニア・スラスターとビーム砲を備える、サイコミュで操作する遠隔攻撃端末のことだ。
「で、オスカーは? アクシズでは何に乗っていた?」
「最初の乗機はガザCだった。次はガザDで、最後はガ・ゾウムだ」
「ガザ系ばかりか。操縦訓練でガザDには乗ったことがある。ガザCはないな」
「乗らなくて良かったぞ。ガザCは造りが酷くてな、全力加速をしたとたんGで機体がミシミシ軋むんだ。モビルアーマーにも変形できたが、スピードだけは速くなるが、操縦性が落ちるから逆に怖かった。最悪なのは頭にコクピットがあったことだな。とにかく狭くてね。まあ操縦はしやすかったし、あの、なんだかいったビーム・キャノンだけは威力があったよ。命中精度は悪かったが……」
「聞いてると最悪じゃないか。ガザCは地球侵攻作戦用に、作業用のモビルワーカーを急遽戦闘用モビルスーツとして改修した機体だからな。コクピットや燃料タンクの装甲も薄かった。機動性が良いのも、ただ軽かったからか……。二、三度戦闘すると空中分解する危険があったとか」
「そうなんだ。被弾するとすぐ燃えるしな。だから寄り合って集団戦法で戦っていた。単独では死ににいくようなものだからな」
「でも地球連邦軍との交渉用に数を揃えるために、とにかく安く大量生産する必要があったことは考慮しないといけないだろう。アクシズ総出で、どの工場でも、服とか椅子を作ってた工場でも部品を作っていたらしいね」
「当時は、いざ戦争になるということで、アクシズの市民みんなが高揚してた。欲しがりません地球連邦軍に勝つまではってね。ザビ家の後継者ミネバ・ザビ殿下をスペースノイドの救世主だと信じてな。でも大量生産されたガザCをみたときは、確かに興奮したよ。旧式モビルスーツばかりのなかでガザCは未来的だった。色だって《赤い彗星》シャア・アズナブル大佐のパーソナルカラーで塗られたんだ。まあ色で誤魔化して、少しでも強そうにみせたのかもしれない。シャア大佐の専用機なみのモビルスーツを大量保有してるというわけだ。とはいえハリボテをたくさん作って、相手を驚かしたって感じではあるな」
「それでも連邦軍のエゥーゴやティターンズが、競ってアクシズとの同盟を望んだんだから効果はあったろうね。すごい軍事力を有してるってさ。ハマーン閣下の手腕はたいしたものだよ」
ハマーン・カーンはアクシズの摂政で、幼かったミネバ・ザビの代行者として、アクシズの政治・軍事を全て取り仕切っていた女傑だ。
「本当に、二十歳そこそこの女性とは思えぬ方だった。俺たち兵士にとっても憧れだったなあ」
「そうだろうな。グレミー閣下とハマーン閣下が協力していればね……。残念だ」
「まったくな」
再びしばしの沈黙。ネオ・ジオンの敗北と凋落は、内部抗争が原因だというのが何ともやり切れない話だった。二人が手を組んでいれば、いまごろは地球連邦政府を転覆させていたかもしれないのだ。
「……しかしガザCは、グリプス戦争でかなり撃墜されてしまったようだな? わたしはほとんど見なかったよ」
「プルフォウ大尉は理由を知らないのか?」
「ああ。損耗率が高いというのは想像できるが」
「他でもないシャア大佐にやられたのさ」
「えっ、それはどういうことだ?」
「シャア大佐は、グリプス戦争時は潜入任務で、地球連邦のエゥーゴに所属していたのは知ってるだろ?」
「ああ、エゥーゴの幹部だったらしいね」
「それで正体がばれて、エゥーゴに忠誠を見せろと言われたのかしらんが、金色モビルスーツのメガ・ランチャーで数十機のガザCを一気にな」
「メガ・ランチャーで……そこまでする必要があったのか? 味方なんだぞ……」
プルフォウは絶句してしまった。欺瞞のためとはいえ、味方の兵すら平気で倒すことができるとは。その非情さに総毛立ってしまう。
「ハマーン閣下と人間関係のトラブルがあったらしいから、当てつけだったのかもな。あるいは自分の色が使われて気に食わなくて一掃したのか。どちらにしろ巻き添えを喰ったのは下っ端だ」
「酷い話だ」
それにしても、一機種のモビルスーツからでも、アクシズ、ネオ・ジオンの内情がよく分かるものだ。その意味では、ガザCはアクシズを象徴する機体なのだ。
「でもプルフォウ大尉がガザCを知らないとはね。グリプス戦争時は何をしてたんだ?」
「ん? 裸で寝てたよ」
「……あ、いや……そういうプライベートな話は……」
プルフォウは、オスカー大尉の狼狽する顔が面白いと思った。
「あ、すまない。変な意味じゃないよ。姉妹と一緒に、一時的にコールドスリープさせられてたんだ。肉体的な調整とか睡眠学習なんかでね」
「な、なるほど。強化人間もいろいろ大変なのだな」
「身体を弄られたり、調べられたりね。貴公も強化手術を受ければ体験できるよ」
「いや、俺は遠慮しておくよ。オールドタイプの俺の場合、強化してもたいして変わりはなさそうだ。資金の無駄遣いだな」
「どちらにしろ、もう施設もないから無理だけどね。……じゃあ、そろそろ準備するか?」
「了解だ。……二人きりだから、エルマンの坊やに嫉妬されるね」
「?」
二人はそれぞれロッカールームに入っていったが、プルフォウはオスカーの別れ際の言葉を聞き取ることが出来なかった。