プルフォウ・ストーリー0092 失われたエメラルド   作:ガチャM

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宇宙世紀0092年。アクシズ親衛隊の生き残りプルフォウは地球にいた。アフリカ戦線でエースパイロットになっていた彼女は、あるとき特殊任務を命じられた。それは地球で身を隠している要人を宇宙に脱出させるというものだった―。

■デザイン協力 
アマニア twitter @amania_orz
おにまる twitter @onimal7802
かにばさみ twitter @kanibasami_ta
ねむのと twitter @noto999
田舎太郎 twitter @jegotaro
いなり Twitter @inrtbg7
ヒスイ @m_hisui

■設定資料
ティプレ・アン(デザイン:おにまる)
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ジェシカ(デザイン:ねむのと)
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エミリー・バルド軍曹(デザイン:アマニア)
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オスカー・ウィルフォード大尉(デザイン:田舎太郎)
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※Pixivにも投稿しています。


第11話「モックバトル」

     10

 

 

 

 プルフォウとオスカーがノーマルスーツに着替えてモビルスーツ・ハンガーへと向かうと、二人の愛機AMX-021X《ベルグソン》とAMX-009《ドライセン》はすでに整備が終了していて、核融合炉を起動すれば、すぐにでも発進できる状態になっていた。

 

 二人がこれから行う模擬戦闘(モックバトル)は、パイロットとしての技量を維持するには最適な方法だった。リニアシートには練習用にシミュレーター・プログラムが搭載されているので、複数を連動させて対戦することもできるのだが、シミュレーションと実際に操縦する模擬戦闘とではやはり異なるのだ。シミュレーターでは、機体の重量と加速を感じることが出来ないのである。

 

 もちろん、模擬戦を行えば地球連邦軍に発見される恐れがあるので、地形的に探知されにくい場所で実施しなければならない。プルフォウたちは、ヌアクショット基地から百キロほど離れた場所に、ポイント・タウと呼ばれている演習ポイントを設定していた。そこは磁性を帯びた砂や岩石が天然のレーダージャミング装置となっていて、演習場所としては最適だった。地球連邦軍の偵察衛星が上空を通過する時間を避ければ、まず発見されることはない。 

 

 プルフォウとオスカーは今回もそこを使うことにして、アフリカ方面軍司令部から使用許可を得た。そして、ポイント・タウまでは直線移動はせず、何度もルート変更をして目的地に向かう飛行計画を立てた。時間は倍かかるが、万が一にも連保軍に発見されるのを避けるためだった。

 

「ミノフスキー粒子は通常レベルか……。今日は定期便が飛行しているくらいだな」

「旅行気分なんでしょう。懲りない奴らですよ」

「それが仕事だからな?」

 

 プルフォウが定期便と表現したのは、地球連邦軍の長距離偵察機のことだ。ミノフスキー粒子が薄い場所では、長距離レーダーは大いに有効なのである。

 

 プルフォウはコンピューターパッドをメカニックに渡すと、ハッチを開けて《ベルグソン》に乗り込んだ。リニアシートに座り、背中のバックパックをシートの窪みに固定すると、コンソールのスイッチを操作してシステムを起動した。

 ほどなくして、ミノフスキー・イヨネスコ型核融合炉の律動が、格納庫に響き始めた。

 

「エアをくれ! ジェットエンジンをスタートさせる。」

 

 コンプレッサーから送られた高圧空気によって、両肩に備え付けられた熱核ジェットエンジンがアイドリングを始めた。キーンという、タービンブレード特有の甲高い音がコクピットにも聞こえてくる。

 

「各部作動チェック。電動アクチュエーター正常。腕部、脚部作動オーケー、アクティブ・バインダー作動オーケー……」

 

 プルフォウはチェックリストを読み上げながら、機体に問題がないことを確認していった。動作不良を起こしていた左腕も、修理の甲斐あって問題なく作動している。

 

「……メインカメラ、各部センサー、通信システム異常なし。」

 

 チェックリストの項目が全て丸で埋まると、プルフォウは機付長に親指を立てた。

 

「よし、機体に問題はない。プルフォウ、ベルグソン出るぞ! 模擬戦闘だからパレットガンを持っていく」

「了解。しばらくぶりの発進ですな大尉。声が弾んでますよ」

 

 機付長が、明らかに嬉しそうに見えるプルフォウに声をかけた。みな彼女が、一週間グリーンハウスにこもっていたことを知っているのだ。

 

「ふん、子供みたいにはしゃいでいるわけじゃないよ。でもモビルスーツに乗れるのは最高さ」

 

 プルフォウはそう応えると、《ベルグソン》の両脚をリニア・カタパルトにのせた。

 モビルスーツの両足がリニア・カタパルトの発進用スロットにはめ込まれて、スロットが閉じてしっかりと固定された。地下格納庫から飛び立つ際は、燃料を節約するためにカタパルトを使用するのだ。

 

「よし、ハッチを開けてくれ。発進する」

 

 プルフォウがフットペダルを踏みこんでゆくと、両肩の熱核ジェットエンジンと、腰と脚部に装備された複合サイクルエンジンとが唸りをあげて、《ベルグソン》はいまにも飛んで行きそうになった。

 基地の擬装扉が開き、管制官から発進OKのサインが出ると、電磁式のリニア・カタパルトによって《ベルグソン》は音もなく瞬時に上空に打ち上げられた。

 

「ぐっ……!」

 

 瞬間的にかかる強烈なGに耐えると、プルフォウはすぐに姿勢制御スラスターとアクティブ・バインダーを作動させて、機体を精密にコントロールした。

 今回はベースジャバーは使用しない。《ベルグソン》は、ベースジャバーと合体することでモビルアーマーに変形できるが、模擬戦にモビルアーマー形態は不要だからだ。

 プルフォウは熱核ジェットエンジンの出力を上げて上空で待機し、オスカー大尉の《ドライセン》を待った。ほどなくして《ドライセン》がバーニアを全開で追いついてきた。

 

「よし、私はこのまま飛行して、ウェイポイント2に到達したらホバー走行に移行する」

「了解だ。どのみち、このドライセンには飛行機能はないんだ」

「そのドライセンは、少し重そうだな?」

「重装甲だからな。そのかわりホバー走行は得意だよ。それにしても、ベルグソンもかなり装甲は厚いだろうに、よく飛べるものだな?」

「両肩にジェットエンジンを積んでるからね。加えて両肩のバインダーで、飛行機の翼みたいに揚力を発生させてるのさ」

「なるほど……。これは模擬戦闘では苦労しそうだ」

「ハンデをつけるよ。こっちが飛んでちゃ勝負にならないだろ? ドライセンの性能評価が目的だからね」

「ちょっと悔しいが、そうしてもらうか」

 

 二人は探知されないように、たっぷり時間をかけてポイント・タウにたどり着いた。苦労したが、それだけの価値はある。ここなら連邦軍に探知されることもなく、思い切りモビルスーツを動かすことができるからだ。

 

「よし、これより模擬戦闘を開始する。移動範囲はレンジいっぱい、高度制限は千フィート。使用武器はペレットガン。固定武装はビームサーベルの使用を許可。必ずシミュレーションモードにしておくこと。いいな?」

「了解だ。まずは有利な場所を確保したいな。鬼ごっこみたいなものさ」

「子供の遊びじゃないぞ?」

 

 上空に砂が舞い、青空と雲が濁る。この磁性を帯びた砂こそが、模擬戦に必要な状況を作り出すのだ。レーダーやセンサーも使えないが、それはミノフスキー粒子の散布状況を模していると考えればよかった。

プルフォウ大尉の《ベルグソン》とオスカー大尉の《ドライセン》は、それぞれ手ごろな遮蔽物を見つけて身を隠した。

 

 飛行用バインダーを備えた高性能機《ベルグソン》と、大柄だがオーソドックスな作りのモビルスーツである《ドライセン》。両者には機動性に差があるが、高度を規制したので条件は対等だった。もちろんドライセンも高出力のジェネレーターと複合ロケットエンジンを搭載しているので、旧世代のモビルスーツとは比較にならない。

 

「オスカーのやつ、上手く隠れたな」

 

 さて、オスカーがどう出るか? ロングレンジにおいて、この《ベルグソン》にはかなわないだろう。しかも、自分の狙撃能力はジオンでもトップクラスだと自負しているし、強化人間としての予測能力もある。そのスキルを使うのは卑怯だとも思えるが、簡単にスイッチでオン、オフ出来るものではないから仕方がない。

 

 おそらくオスカーは接近戦に持ち込むはずだ。強化人間の予測能力も、近接戦闘のミニマムな時間においては決して有効とはなりえないからだ。それはモビルスーツの四肢の可動速度に限界があるからだが、必ずドッグファイトになるだろう。プルフォウはそう確信して、あらかじめセンサーを近接戦闘用に切り替えておいた。

 

「戦闘開始!」

 

 オスカー大尉が模擬戦の開始を宣言した。

 

 だが戦闘が開始されたものの、しばらくは変化のない状況が続いた。お互いに位置を把握していない場合は、慌てて動いたほうが負けなのだ。

 といって、ずっとかくれんぼをしているわけにはいかない。

 プルフォウは遮蔽物としていた岩から《ベルグソン》を出して歩かせた。

 

「ん! 右か!」

 

 オスカー大尉の《ドライセン》が、ペレットガンを発砲しつつ遮蔽物から飛び出してきた。プルフォウはすぐさま反応すると、《ベルグソン》をジャンプさせつつ後退した。弾頭に黄色い蛍光塗料が封じ込められたペレット弾が、機体のすぐそばをかすめていく。

 プルフォウは《ベルグソン》に何度か方向を変えさせながら、弾をギリギリで避けつつ距離をとった。ウイングバインダーを装備しているので、《ベルグソン》は空力性能がよく、ジャンプの軌道を正確にコントロールできるのだ。

 

 だがオスカー中尉は《ドライセン》をバーニア全開で一気に増速させると、《ベルグソン》にとって巨大な肩のバインダーのせいで対応しにくい斜め方向から接近した。時計でいえば二時方向である。

 牽制でペレット弾を撃ちながら、左手にシミュレーション上の仮想ビームサーベルを構えて肉薄した。

 

「やるな!」

 

 そのオスカー大尉の戦術をみて、プルフォウは頭の中で二機の相対スピードおよび角度を正確に計算した。《ベルグソン》は未だジャンプ中で機動に制限がある。つまりオスカー大尉は《ドライセン》の高速性能を発揮して、こちらが迂闊に動けない状況を作り出したわけだ。慌てて後方に逃げれば、それこそ思うつぼだ。

 

 《ドライセン》の腕があがり、ペレットガンから再びペイント弾が発射された。もしペイント弾がヒットすれば、その部位は仮想的に機能が制限されて作動不能となってしまう。手脚を『破壊』して動きを止め、ビームサーベルで止めをさすのがオスカーの戦術だろう。

 プルフォウはバインダーでペレット弾を防御しながら、急速接近する《ドライセン》を見据えた。

 

「もらった!」

 

 オスカー大尉の気合いとともに《ドライセン》の腕が素早く振り下ろされた。

 現実では《ドライセン》は棒切れを持っているだけだが、モニター上では激しく発光した仮想のビームサーベルが光の軌跡を描き出していた。その軌跡が《ベルグソン》に重なり、胴体が仮想的に切断された―はずだったが、CGによる派手な演出効果は発生しなかった。

 舞い上がった土煙がモニター全体を覆っていた。

 

「どこにいった!?」

 

 オスカー大尉は《ドライセン》の目であるモノアイを忙しく上下左右に振って、いきなり視界から消え失せた《ベルグソン》を探した。

 そして次の瞬間、けたたましい音とともに、モニターいっぱいに『撃墜』の表示が点滅した。

 

「なにっ!?」

「オスカー大尉。貴公は撃墜された」

 

 プルフォウが、オスカーの背後から静かに宣言した。

 

「くそっ、負けか」

「そのとおり」

「いったいどうやったんだ? いきなり背後に移動するなんて。まるで見えなかったぞ」

「ちょっとしたアクロバットさ」

「アクロバット? 見世物にやられたってわけか」

「悪いね。トリックみたいな真似をして」

 

 プルフォウは、《ベルグソン》をアイドリング状態から一気にバーニア全開にすると、目にも留まらぬ速さで跳躍させたのだ。

 急激に飛び上がると機体の制御は難しくなる。だがプルフォウは、四肢の動きと姿勢制御バーニアを併用することで、まるで体操選手のような捻りこみ回転ジャンプをやってみせたのである。

 素早いジャンプなのでセンサーも追いきれず、加えて巻き上げた砂の欺瞞効果もあった。そうして死角に入るや否や、《ドライセン》の真上でビームサーベルを振って真っ二つにしてしまったのだ。シミュレーション上では、《ドライセン》は真ん中から左右に分かれてしまっていた。

 

「これじゃあ俺も真っ二つになってるな。流石だよプルフォウ大尉」

「でもギリギリだったよ。ドライセンの機動性は確かに一流だ」

 

 二人は機体を停止させると、戦闘のデブリーフィングを始めた。

 

「……ただ重いから、加速と旋回能力が悪いのが弱点か」

「確かにな。そこは気をつける必要がある。でも実戦ではビームキャノンも使えるし、ジャイアント・バズーカも装備するつもりだ。機体コンセプトとスペックから判断すると、攻撃力で一気に制圧する機体特性だろうからな」

「うん、わたしも同意見だ。ドライセンは重装甲と攻撃力に優れた、典型的な突撃型モビルスーツだろう」

 

 つまり味方より先に敵部隊に突入し、機先を制して敵機を撃破するタイプだということ。

 

「機体マニュアルによると、白兵専用にビーム・ランサーやビーム・トマホークも用意されていたらしい。でも備品になくてな」

「ビーム兵器は消耗品だからな。もう生産されてないし入手は難しそうだね」

「仕方がないからドムのヒート・サーベルを背中に装備する」

「ああ、あのすぐに切れなくなる棒ね……」

「溶けた金属が付くと切れ味が悪くなるからな。でも切れなくなったら先端で突けばいいさ」

 

 ヒート・サーベルは長い棒状の形をしていて、全体が加熱することで敵機の装甲を溶断する高熱切断兵器だ。コストも安くエネルギー使用量も少なくてすむが、一度敵モビルスーツに使用するとオイルと溶けた装甲が付着して、急激に切れ味が鈍ってしまう。そうなったら最後は突き刺すしかない。基本的には使い捨ての武器である。

 

「それに接近戦用の特殊装備もあるんだ。トライブレードって奴がな」

「トライブレード? 三ツ刃?」

「ああ、背中のラッチに三つ。バズーカを装備する場合は二つだが、回転しながら飛んでゆくカッターなんだ」

「フライング・カッターか。随分とアナクロな古臭い武器だな? 放ったら元に戻ってくるのか?」

「いや、それっきりだ」

「ふーん。不意打ちには良さそうだが……。外れたら戦闘後に拾えばいいのか」

「子供が遊ぶみたいに? 開発者は子供の頃に遊んだオモチャから思いついたんだろうな。ニンジャが使うシュリケンとかな」

「ニンジャね……。旧世紀に存在していた東洋のスパイ、暗殺者だったな。エミリー軍曹が出演してた映画で見たことがあるよ」

「スパイ映画? 軍曹がニンジャ役なのか?」

「まさか! 軍曹は主人公の親友の娘役さ。父親を殺されてしまう悲劇の娘役なんだ。ストーリーはあまり面白くないけどね。でもエミリーがシャワーシーンで裸になってたのは驚いた」

「ほうっ! かえったら観てみるか。タイトルは何なんだ?」

「おいおいオスカー……帰る前にもう三戦はするぞ?」

「わかってる、わかってる。だからタイトルを教えてくれ」

「……シャワーシーンを見るつもりなんだな?」

「あ、いや……」

「図星だな。ニュータイプ能力を使わなくたって分かるよ」

 

 プルフォウはモニター越しにオスカー大尉を睨みつけた。

 たしかにエミリー軍曹は美人でスタイルもよく大人の魅力に溢れている。女性として嫉妬せざるを得ないほどに。

 

「……仕方がないな。『コロニー・スパイ 殺人ガンタンクを追え!』だよ」

「感謝するよ」

 

プルフォウは、通信モニター越しにオスカー大尉がメモするのを見た。

 

「呆れるよ、ほんと」

「実際、彼女は美人だよ」

「ふん、どうせ子供のわたしには関係ないことだよ」

「悪かった。あまり、怒らんでくれよ。機嫌を直してくれ」

「とにかく模擬戦を再開する。集中しろよ? オスカー」

「当たり前だよ。オレが言いだしたんだからな」

「よし! 始めるぞ!」

 

 だが、けっきょく残る二戦もプルフォウが圧勝してしまった。オスカー大尉もやる気を失ったのか、もう訓練を切り上げようと提案したので、少し早いが基地に帰還することにした。

 オスカーは最後はあきらかに集中力を欠いた様子で、プルフォウは余計なことを言ってしまったと反省した。

 

「いや、完敗だよ。プルフォウ大尉。さすがだ」

「どうだか。最後はエミリー軍曹の裸でも想像していたんじゃないか?」

「ははは……」

「まあ、いいさ。《ドライセン》の戦闘データは集まったからな。あとは基地で分析すれば……」

 

 そのとき、プルフォウは身体の震えに気付いた。戦闘後はいつもこうなのだ。

 

「どうしたプルフォウ大尉? 気分が悪いのか?」

「いや、なんでもない。……帰還しよう」

 

 いまのところ影響はないが、パイロットとして身体的なコンディションはベストに保っておかなければならない。

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