プルフォウ・ストーリー0092 失われたエメラルド 作:ガチャM
■デザイン協力
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おにまる twitter @onimal7802
かにばさみ twitter @kanibasami_ta
ねむのと twitter @noto999
田舎太郎 twitter @jegotaro
いなり Twitter @inrtbg7
ヒスイ @m_hisui
■設定資料
ティプレ・アン(デザイン:おにまる)
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ジェシカ(デザイン:ねむのと)
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エミリー・バルド軍曹(デザイン:アマニア)
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オスカー・ウィルフォード大尉(デザイン:田舎太郎)
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プルフォウはヌアクショット基地に接近すると、長距離レーダーによる探知を避けるために《ベルグソン》を低空飛行させて基地への帰還コースにのせた。
「グリーン・コントロールタワー。ガーネット1着艦許可を求む」
『コントロールタワー了解。クリアー・トゥ・ランディング。二番滑走路を使え』
「ガーネット1了解」
プルフォウは、操縦桿に取り付けられたスイッチを操作して《ベルグソン》のバインダーを展開し、揚力を最大に発生させてゆっくりと着陸体勢に入った。そしてほとんど速度がゼロの状態まで減速させた後、一気に機体を着陸させた。
脚部が滑走路を掴み、高強度コンクリートを叩く音がすると、サスペンションが作動して衝撃を吸収した。
プルフォウは機体が完全に停止したことを確認すると、《ベルグソン》をハンガーまで歩行モードで移動させた。
『プルフォウ大尉のベルグソンが帰還! 整備班はハンガーに固定後、冷却ダクトを接続しろ』
プルフォウはヘルメットを外すと、戦技データをメモリーにダウンロードしてから、コクピットハッチを開けて外に出た。だがタラップを降りたとき、かなりの疲労感を感じていることに気が付いた。そう、理由はあのエミリー軍曹の集中講義だ。講義を受けた後、すぐに模擬戦闘を行ったのがいけなかったのだろう。
プルフォウは自室で休みたいと思ったが、その前に医務室に向かわなくてはならなかった。疲れて歩いて行くのは面倒だ。どこかにエレカが―。
そう考えたとき、プルフォウは目の前にエルマン中尉が立っていることに気が付いた。彼はいつものようにエレカを運転している。
「お疲れさまですプルフォウ大尉!」
「エルマン中尉か。どうした? また少佐から呼び出しか?」
「いえ。あと二十分で補給の輸送機が到着する予定なんです。だから大尉にお知らせしようと思って」
「ああ、そうだったね。知らせてくれて感謝する。注文してた部品もあるんだ」
「自分もザクⅢのオプション装備を発注してるんです。でも、なかなか入手できないみたいで」
「まあ気長に待つしかないだろう。ザクⅢは、あまり生産されなかったみたいだからな」
「改良型のバックパックやリアスカートが欲しいんです。もっと機動性が欲しい」
「そうだな。そうすればベルグソンとの連携もとりやすくなる。わたしたちも搬入作業を手伝わないとな? そのまえにシャワーを浴びて着替えたいんだ」
「エレカで兵舎までお送りします」
「いつも悪いな。ちょっと待ってくれるか?」
プルフォウはヘルメットを脱いで髪留めを外すと、まとめていた髪を下して身体に冷却スプレーを吹いた。
ひんやりとした冷たさが気持ちがよい。
プルフォウは、胸と肩につけていた強化プラスチック製のプロテクターを外してエレカ後部の荷台に置いた。そうしてからノーマルスーツの前を開くと、アンダーウェアの上から冷却スプレーを吹きかけた。
汗とスプレーの飛沫がパッと飛び散って、かすかな虹を作りだした。ちょっとスプレーがもったいないのだが、疲れた身体に心地よいからやめられないのだ。
少しばかり夢中になっていたプルフォウは、エルマンがじっと見ていることに気がついた。
「あ、すまない。早くしてくれというんだろ?」
プルフォウは顔を赤らめながら言った。
「……」
「中尉?」
「と、とんでもありません! 自分は全く構いませんから」
「じゃあ遠慮なく」
冷却スプレーをかけたあと、タオルでしっかり汗をふくと、シャワーを浴びるまでは我慢できそうだとプルフォウは思った。
「待たせたな中尉、兵舎までやってくれるか?」
「分かりました。模擬戦の成果はありましたか?」
「う~ん、まあまあだね。ドライセンは性能が良い機体だということは分かったが、わたしが圧勝してしまった」
「当然でしょうね」
エルマン中尉がじっと自分の身体を見ていることに気が付いて、プルフォウは不機嫌になった。オスカー大尉が、スタイルの良いエミリーの裸を見たがっていたことを思い出したのだ。
「何を見てるんだ? どうせ子供みたいだと思っているんだろ? 失礼じゃないか?」
「そ、そんなことは! い、いきます」
だが、そのとたんエレカは燃料タンクに激突してしまって、プルフォウは衝撃でエルマンの太ももの間に倒れこんだ。
「おい、ちゃんと運転してくれ! 首を違えるところだ!」
プルフォウが抗議しようとエルマンの膝をつかんで起き上がったとき、彼と目が合った。
触れられるほどにお互いの顔が近くにあったのだ。実際、プルフォウの髪は彼の頬に触れていた。
「……なんだ?」
「プル……」
エルマンが何かを言いかけたようだったが、プルフォウはそれを無視して椅子の背もたれに手をかけて起き上がると、ノーマルスーツのファスナーを引き上げてシートに座りなおした。
「もう、気をつけてくれよ」
「……失礼しました」
「急ごう。輸送機が着いてしまう」
エルマン中尉の手足は震えて、なんとかエレカをコントロールしている状態だった。だから、いつもより時間がかかってしまったのだが、その間二人は無言だったので、さらに倍の時間がかかったように感じてしまった。
エルマン中尉と別れて部屋でシャワーを浴びたあと、プルフォウは医務室へ向かった。医務室は居住施設のなかでもモビルスーツデッキに近い部屋にある。怪我人や重傷者をすぐに運び込むためだ。
「失礼します。先生います?」
プルフォウはドアをノックして言った。
「ああ、はいりたまえ」
プルフォウが医務室に入室すると軍医のフィッツパトリックがいた。フィッツパトリックは一年戦争時代からのジオン軍の軍医で、サイド3から降りてきてから、そのままずっと地球で軍医を続けているベテランだった。
「プルフォウ大尉。どうしたのかな?」
「たいしたことはないんです」
「大尉も成長期だからな」
「勝手に話を進めないでくれません?」
プルフォウはちょっと口を尖らせて抗議した。
「悪かった悪かった。身体の調子はどうなのかな?」
「問題ありません。ただ、前に言った身体の震えが」
「診察しよう。服を脱いで、胸をはだけて」
プルフォウはその通りにした。
体の震えがアドレナリン中毒によるものなのか、あるいは肉体が強化されたことによる心臓への負担なのか。強化人間は、筋肉や神経を強化するために薬物の投与などが施されているから、それがまだ幼い肉体にかなりの負担をかけることは間違いなかった。
だから、不調がないか定期的に検査を受けることは重要なのである。面倒だとは思うが、いつ不調に陥るのか分からないのだから。
だが噂では、地球連邦軍の強化人間はネオ・ジオンほど技術が進んでいないから、肉体と精神に負荷がかかりすぎて、精神崩壊を起こしてしまうらしいのだ。
それに比べれば、とは思う。
「あとは血液検査だな。ベッドに横になって」
プルフォウは言われるがままに血を抜かれ、MRA検査で血管の様子を調べられ、一通りの面倒な検査を受けさせられた。
検査を終えて休んでいると、小一時間ほどで検査の結果がでた。
「検査結果を見たが。いまのところ問題はないな」
「そうですか……。安心しました」
「肉体は正常そのものだ。普段から身体を鍛えてるのも良いことだよ」
「パイロットとして当然のことです」
「体の震えがひどいのは、どういうときに?」
「最近は、戦闘後はいつも。でも、そんなに酷くはないんです」
「精神的な原因もあるのかもしれない。大尉は頑張りすぎだな。少し休暇を取った方がいい」
「休んでなんかいられますか」
「医者の忠告は聞いておいた方がいい。きみを見ているといつも哀しく思うよ。わが軍が、こんな女の子に戦いをさせているという状況をね」
「先生。お言葉ですが、わたしはただの女の子ではないですよ? いまの時代、わたしのような人間が戦うことはめずらしくもないんです」
「そりゃきみの精神は大人だろうけどね。肉体的には間違いなく子供だ。胸は大きいがね」
「怒りますよ。説教かと思えばセクハラですか」
「言いにくいことを言うのが医者の役目だよ。とにかくモビルスーツに乗るのは控えた方がいい。分かったね?」
「……考えておきます」
「まだ上官には進言しないよ」
「進言しても、あの少佐が聞くかどうか。ありがとうございました先生。失礼します」
「なにかあれば、すぐに来るようにな」
プルフォウは、軍服に着替えて部屋を出た。
モビルスーツに乗らない方がいい、か。それはパイロットにとっては引退を宣告されたようなものだ。物心ついてから、ずっとモビルスーツを操縦しているのだ。それを、いまさら止めるなどとは。だがその意味では、秘密任務に就くことになれば、しばらくモビルスーツに乗ることはないのである。なんとも皮肉な話だなとプルフォウは思った。
緩慢な動きから、最大積載量いっぱいに荷物を腹に抱えているとわかる貨物機が、砂塵吹きすさぶ地面を掠めるように飛行していた。
その機動は地形を利用してレーダーを回避する策ではあるのだが、限られた範囲を窮屈に飛ばなくてはならないストレスの上、狭い滑走路への短距離着陸がパイロットにとっては大きな負担となってしまう。
だがそれだけの価値はあった。いま着陸しようとしているこのヌアクショット基地にとっては、積んでいる貨物が重要な生命線なのだ。
「相変わらず砂しかないなここは。地球上の砂が全部集まってくるんじゃないのかね」
「砂が細かくて、どこにでも入り込んできますからね。やっかいな砂ですよ本当に!こんなところには住みたくないですねわたしは」
輸送機『デュゴン』のオーナー、ドミニク・ロジスティクスのCEO―とはいっても社員は三人だけなのだが―ドミニク・プライスは、いつも変わり映えのしない景色にうんざりしていた。
この土地は何世紀も前から、まるで人間を排除するかのように細かな砂が猛威を振るっている。テクノロジーが発達した宇宙世紀になっても相変わらず砂だらけで、その量はますます増える一方だ。実際この地域は、やはり人間には地球の自然はコントロールできないのだという、手痛い教訓と反省の象徴として語られることも多いのだ。
だが、そんな過酷な土地ではあっても、ドミニクはこの基地を訪問できることが嬉しかった。彼の家族がここにいるからだ。
ドミニクはヨーロッパとアフリカ大陸で活動する武器商人で、主にジオン残党軍や反地球連邦組織と取引をしていた。あまりまっとうな商売とはいえないかもしれない。不正な取引で安く買い叩いたり、倉庫からくすねたりした兵器をたくさん売りつけるのはいつものことだ。彼は大企業に勤めていたこともあるのだが、一年戦争で家族を失ってから世捨て人になり、こうした商売を始めたのである。
「グライドパス確認。着陸します」
滑走路を震わせる衝撃の後、ゴムタイヤの甲高い音が鳴って、直後にスラストリバーサーの噴射が大柄な機体に制動をかけた。この貨物機はSTOL(短距離離着陸)性能に優れていて、短い滑走路にも着陸できるから、このような隠れた貨物輸送や密輸には最適なのだ。《ミデア》輸送機や《ファット・アンクル》輸送機のようなVTOL(垂直離着陸)機であれば、より小さなスペースでも着陸できるが、音が大きく、積載量が少ないのが問題なのだ。
ドミニク・プライスは滑走路にタキシングした輸送機の後部タラップから降りると、そこに知った顔を見つけて顔をほころばせた。タラップが降りるなり、下で待っていた少女は満面の笑みで初老の運び屋に手を振った。
「ひさしぶり!」
「プルフォウ! お前に会えるなら、すぐにでも飛んでくるさ。いい子にしてたか?」
「いいかげん『いい子』はやめてよ。あたしは大尉なんだよ?」
「大尉になっても良い子には違いないだろう。そうじゃないかね?」
「あはは……」
ドミニクは四年前、天涯孤独になってしまったプルフォウの身元引受人となった。
混迷を深めたアクシズでの最終戦闘で、プルフォウは量産型キュベレイで出撃して撃墜されてしまった。辛うじて脱出ポッドで脱出できたのだが、数日漂流していたところを、ちょうど通りかかったドミニクの輸送船に発見されたのだ。
ドミニクはプルフォウを保護したあと、一年ほど彼女に商売の手伝いをさせた。それは兵士としての経験しかなかった彼女にとって新鮮な体験だったようで、最初は少し苦労していたものの、生来の感の良さですぐに仕事を覚えてしまった。そのまま一緒に仕事を続けられれば良かったのだが―。
ドミニクは久しぶりにプルフォウを抱きしめた。
「ちょっと、部下に見られるよ! 恥ずかしいからやめてよ。馬鹿にされるから!」
「本当はお前をここから連れ出したいんだがな。女の子が戦争なんてするもんじゃないんだ。司令官からどうしてもと請われたから許したが……」
ドミニクは後悔の表情を浮かべながら、絞り出すように声を出した。
「何言ってるの? わたしはもともと軍人でネオ・ジオンのパイロットなんだから。原隊復帰は当然なんだよ」
「どうなんだ?最近の状況は」
「うん、まあ……」
「良くないのか?」
「ここは人も戦力も物資も、何もかも足りないからね。なんとか戦線を維持しているってところかな」
「そうだろうな。基地の補給だって、私みたいな小さな業者に頼っているくらいだから想像はつくが……。私はお前が心配なんだ」
「パイロットは常に危険と隣り合わせだよ」
「でも勝ち戦と負け戦とでは全然違うだろう。……言いにくいんだが、地球のジオン軍は、このままでは負ける運命じゃないかね? ここの上の連中はどう考えているのか知らんが、起死回生の策があるとは思えんよ」
「そんな頭が切れる戦略家はいないんだよ。シャア大佐みたいな英雄がいれば別だけどね。人材不足なんだ」
「そりゃそうだろう。お前が大尉なんだぞ? 他に誰もいないってことじゃないか。一番有能なのがお前なんだぞ」
「ちょっと馬鹿にされてる気もするんだけど?」
ドミニクの物言いに、プルフォウは不機嫌そうに頬を膨らませた。
「そんなことはない。わたしはいろんな軍をみてきたからな。人を見れば組織が分かる。……そろそろ逃げ出す潮時じゃないのか? このままだといずれ全滅するぞ」
その言葉にプルフォウは打たれたように身体が固まった。
「全滅……」
「取り返しがつかなくなる前に消えた方がいい」
「だとしても、ひとり逃げ出すわけにはいかないよ。大尉としての責任もあるし」
「それが手なのさ。そうやって真面目な人間に責任を負わせて、逃げられないようにするのが連中のやり方なんだよ。お前をさらってでも、ここから連れ出すべきかもしれんな」
「そんなこと言ったって無理なものは無理なんだよ! 勝手なことばかり言って、あまり困らせないで!」
プルフォウはこらえ切れずに思わず怒鳴ってしまった。論理的に考えれば当然の帰結だということはわかっていた。だが軍人である限り逃亡、脱走は許されない。そんな当たり前のことを、ドミニクがわざと無視しているから腹を立てているのだ。
「しかしな、プルフォウ……」
「安全な場所から見てるだけじゃ分からないんだよ! ジオンを守るためには、誰かがやらなくちゃいけないってことくらいわかるでしょ!」
「宇宙にいる連中、ジオンのお偉いさんはお前達を捨て駒のように考えてるんじゃないのか?」
「捨て駒?」
「人間を消耗品のように考えているんだ。お前のようなパイロット、強化人間はマシーンと同じに扱っているんだよ」
「そんな言い方……」
プルフォウの眼にうっすらと涙が浮かび、普段は気丈な彼女の意外な仕草に、ドミニクも議論するのを止めた。彼女が涙を見せるのは身内の前だけなのだ。
「……すまん、悪かった」
ドミニクがプルフォウの肩を抱きかかえると、彼女はしばらく身体を預けた。
「強化人間は戦うために造られたんだから。産まれたときから義務と責任があるんだよ」
「この宇宙世紀に、基本的人権もない人間がいて良いはずはない。お前も自由に生きる権利があるだろう」
「それが出来るときもくるかもしれない。でも、それはジオンが勝つか負けるときだよ。今は考えるときじゃないから」
「儂はお前が心配なだけなんだ。責任感の強い子というのは分かってはいるんだが。無理だけはするなよ」
「……うん、わかった」
他の人間に見られるのもかまわず、親子はただ無言で抱き合っていた。
「そのパレットには精密機器が入っているんだ! 丁寧に扱ってくれ! 壊れてもしらんぞ!」
「わかったよ、じいさん!」
「まったく乱暴な連中だ!」
輸送機からパレットに載せられた貨物が次々と降ろされてゆく。モビルスーツの部品や弾薬に混じって、食料や生活必需品などもごった煮で詰め込まれている。輸送機が連邦軍に見付かる危険があり、駐機していられる時間も限られているので、ヌアクショット基地総出で搬入作業が行われていた。
「あ、そういえば頼んでたものは見つかった?」
荷物の整理を手伝っていたプルフォウが、思い出したようにドミニクに尋ねた。
「ん? 流行りの服だったか? そうだろう、おしゃれをしたいお年頃だろうからな」
「違うって! 弾だよ弾。頼んでおいたでしょ」
「まったく、お前は服より玩具の方が好きなんだな。良くないぞ」
「おしゃれとか、そういうのわたしには必要ないから」
「仕方がないな。心配しなくても手に入れてきたさ。『フレシェット弾』だったかね?」
「それそれ。地球連邦軍がハイザック用に開発した、試作120mm弾頭」
ドミニクが兵士に指示してパレットひとつを持ってこさせると、その中身を彼女に見せた。
「ありがとう」
「手に入れるのは苦労したね。ハイザックも古いモビルスーツだし、今じゃマシンガンなんてあまり使われないからな。それでも、なんとかあちこち探しまわって五百発集めたんだ」
「五百発……。ちょっと少ないんじゃない?」
「無茶いわんでくれよ。儂は貧乏武器商人にすぎんから、おこぼれを拾うように這い回らなきゃならん。老人にそんな惨めな思いをさせて、褒美に何をくれるのかね……?」
「ゲオルク少佐がちゃんと報酬を支払ってくれるよ」
「あんな嘘つきのつまらない男の顔など見たくもない!」
「まあまあ。少佐が誤魔化してたらあたしに言ってよ。怒鳴り込んでやるからさ」
「ありがとうな。でも儂はただいつもの褒美が欲しいんだ」
「え~、また? 嫌だよ恥ずかしい……絶対嫌だ」
「プルがそんなに冷たいとはな……老い先短いのに、もう生きてる意味もない……」
「もう大袈裟なんだから。わかったよ」
プルフォウは、辺りを見回して誰もいないことを確認すると、恥ずかしそうにドミニクの頬にキスをした。
「こんな弾を手に入れたからって、あまり危険なことはするなよ。老人を悲しませないでくれ」
「わたしは強化人間だからね。心配いらないよ。ドミニクこそ連邦軍に撃ち落とされないように気を付けて?」
「せいぜい気を付けるさ。モビルスーツを腹に抱えて一緒に死ぬのは御免だからな」
そのとき大きな音を立てて、輸送機の奥からシートに包まれた大物がパレットの中から引き出されてきた。そのシルエットはプルフォウの目を引いた。
「なんだろう、あの大きいの。モビルスーツ? ずいぶんコンパクトだけど、分解されてるのかな?」
「これも手に入れるのに苦労したさ。フランク軍曹が欲しがっていた機体なんだ」
「フランク軍曹が……?」
ちょうどそこへ件のフランク・マクレガー軍曹が姿を現した。彼も輸送機の到着を待ちわびていたのだ。
「プルフォウ大尉! あれはかなり珍しい物ですぜ。ドミニクさんに長いこと探し回ってもらってたんで」
「へえ、随分もったいぶるじゃないか」
「一年戦争時のモビルスーツなんですがね……ケンプファーです」
「ケンプファー! そんなレアな機体、良く見付かったな。何機も生産されてないんじゃないか?」
MS-18E《ケンプファー》は一年戦争末期にジオン公国で開発されたモビルスーツで、大推力のバーニアスラスターを装備した機動性に優れた機体だ。
爆発的な加速によって、素早く敵機に肉薄して撃破する、いわゆる強襲用モビルスーツなのだが、簡易に組み立てと解体が可能な構造で、特殊部隊向けの機体として運用された実績もある。
「ちょうど連邦軍に接収された機体があってな。倉庫で眠っていたんだが、偶然儂が見付けたのさ。ほとんど装甲がない状態だったがね……。で、書類を誤魔化して持ち出してきたってわけだ」
パレットに固定された機体は、内部構造がほとんどむき出しになっていた。装甲がないので、新規に作り起こさなくてはならないだろう。
「これを完成状態に持って行くのは大変じゃないか?」
「そんなことはありませんよ。ケンプファーは、これでほとんど完成してるんで」
「ん? どういうことだ?」
「大尉、ケンプファーの特徴はなんだと思います?」
「特徴か? まあ軽量さと大出力スラスターによる高機動性だろうなあ。ホバー機動もできたらしいね。装甲は紙みたいだが……あ、そういうことか」
「そう、ケンプファーにとっては装甲なんかおまけなんですよ。なくても良いくらいで。まあ、それは言い過ぎですが、一緒に設計図を入手しましたからね。ついでに機体を強化するつもりです。ガルスのジェネレーターを搭載してバーニアも追加する。装甲も余ってるザクやグフの装甲を加工すれば」
「でも実戦ではどうだろうな。装甲が薄いって、ちょっと怖いんじゃないか? わたしは装甲はなるべく厚い方がいいな」
「どんな攻撃も、当たらなければどうということはないんですよ」
「ははは、それは当たり前じゃないかっ!」
プルフォウは、軍曹のジョークにこらえ切れず吹き出してしまった。
「でも難しいね。強化人間のわたしでも、全ての攻撃を避けるなんて無理だよ」
「まあ見ててくださいよ。こいつを完成させて連邦軍をけちらしてやりますよ。ケンプファーはガンダムタイプも撃破したといわれてますからね」
「……そうだったか?」
「リボーコロニーでの戦闘で、ニュータイプ用の新型ガンダムも含めて、単機で連邦軍一個MS中隊を壊滅させたんですよ」
「ふーん、ちょっと眉唾だが……まあ自信があるのは良いことだ。戦果を期待してるよ」
プルフォウはフランク軍曹の肩をポンと叩いて鼓舞した。
「それじゃドミニク、わたしは作戦の準備があるから、そろそろ部屋に戻るよ」
「そうか、気をつけてな。またすぐに来るからな」
「わかった」
プルフォウはこのあとすぐ、極秘任務であるプリンセス救出作戦を開始した。