プルフォウ・ストーリー0092 失われたエメラルド   作:ガチャM

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宇宙世紀0092年。アクシズ親衛隊の生き残りプルフォウは地球にいた。アフリカ戦線でエースパイロットになっていた彼女は、あるとき特殊任務を命じられた。それは地球で身を隠している要人を宇宙に脱出させるというものだった―。

■デザイン協力 
アマニア twitter @amania_orz
おにまる twitter @onimal7802
かにばさみ twitter @kanibasami_ta
ねむのと twitter @noto999
田舎太郎 twitter @jegotaro
いなり Twitter @inrtbg7
ヒスイ @m_hisui

■設定資料
ティプレ・アン(デザイン:おにまる)
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ジェシカ(デザイン:ねむのと)
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エミリー・バルド軍曹(デザイン:アマニア)
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オスカー・ウィルフォード大尉(デザイン:田舎太郎)
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※Pixivにも投稿しています。


第14話「ウェイブライダーズ」

     13

 

 

 

 地球連邦軍パイロット、コールサイン"プレサイス"少佐は、スポーツエレカを運転してミーミスブルン学園から飛行場まで移動した。

 アナハイム・オートモービルズ製のスポーツエレカはかなりの加速性能だったが、ホイールスピンさせながら学園を飛び出してきたので、少々目立ってしまったかもしれない。だが、この学園の教頭とのやりとりは不愉快でたまらず、そうでもしないと気は晴れなかった。

 高速道路を飛ばすと15分ほどで中規模の民間飛行場に到着した。エレカを駐車場に停めて軍のカードで決済すると、隔離された駐機スペースに向かった。目の前には彼女の愛機であるグレーの航空機が羽根を休めていて、彼女はその優美な姿に見惚れた。隣には同じ部隊の同型機の姿もあったが、やはり自分の機体は格別に美しい。

 

 逆三角形をしたその航空機は、実はモビルスーツが複雑に変形したもので、"波に乗る者"《ウェイブライダー》と呼ばれている。もともとは大気圏再突入用に設計された航空機をそう呼ぶのだが、語感が良いので航空機形態に変形するマシーンの通称となっているのだ。大気の波に乗り、空中を自由に駆けめぐるというわけである。そして、このウェイブライダーに変形可能なモビルスーツMSZ-006D《ゼータプラス》は、優秀なエリートパイロットだけが搭乗できる高性能機だった。

 

 機体の周りには、数人の地球連邦軍兵士がアサルトライフルを抱えて立っていて、機体保全のための警備を行っていた。プレサイスが《ゼータプラス》に向けて歩いてゆくと、彼女の到着に気が付いたひとりのパイロットが飛行場の待機室から出てきて出迎えた。

 

「ご苦労さん。どうだったジオン野郎は?」

「オコンネル中佐、先にスードリⅡに帰っていたかと思ったわ」

「当ててみようか? いつものように『魂どころか肉体も地球の重力に引かれて、轢かれたカエルみたいに潰れた男』だっていうんだろ? その意味は良く分からないがね」

 

 地球連邦空軍第24航空団第1大隊、通称《ウェイブライダーズ》の隊長ロバート・オコンネル中佐は、チェックリストとドリンクパックを副隊長に渡しながら言った。

 

「当たりよ。まあ分かりやすくいうと醜いクズってこと。性格も部屋のセンスもどうしようもない男。俗物よ、あれは」

 

 プレサイスはサングラスを外してノーマルスーツのポケットにしまうと肩をすくめた。

 彼女のオレンジ色の瞳は知的さを感じさせ、上品な薄紫の豊かな髪とあいまって、パイロットというよりはどこかの名門の令嬢を思い起こさせた。とはいえ少し言葉使いが汚いのが玉にきずだった。

 

「君のお眼鏡にかなう男はそうはいないだろう。まして裏切り者の、保身だけを考えているクソ野郎ではな?」

 

 オコンネルは笑いながら言った。

 

「まあ、うちの軍にもそんな奴はたくさんいるでしょうけど。組織には一定の割合でクズが混入するようね。選別して捨てないと」

「うちの部隊は大丈夫だ。ウェイブライダーズ隊には、その理論は適用されないな」

「当然でしょ? センスのない下手くそは、ガルダへの空中着艦時に激突して死んでしまうでしょうから。つまり機体が選別装置ってわけね」

「このチューンアップしたゼータプラスは、普通のパイロットには乗りこなせないよ。我々だけが手足のように操縦できるんだ」

「確かにね。でも中佐、過信は自分の足をすくうわよ? この前わたしが戦ったジオン残党軍のモビルスーツ。あのパイロットはただものじゃない。ネオ・ジオンの強化人間に違いないわ」

「強化人間……。仮にそうだとしても君にはかなわないだろ? それにこちらには連携攻撃がある。奴らは単独行動が多い」

「戦場ではあまり味方を当てにしないで。気合い負けするわ。奴らの強みはそこにあるのだから」

 

 プレサイスは年上の上官を叱責して気合いをいれた。

 

「スードリⅡに帰投します」

 

 プレサイス少佐は、機体の周囲をぐるっと一周して異常がないかチェックした後、ノーマルスーツのバックパックに引っかけていたヘルメットを被り、機首のコクピット脇に備え付けられたラダーを登った。そして機体外板に設けられた小さなパネル内のボタンを押してハッチを開くと、フレームをまたいでリニアシートに座って、バックパックをシートの窪みに固定した。

 そして慣れてはいても、いつも気持ちを高揚させる起動手順を始めた。

 

 コンソールに配置されたメインスイッチを押して核融合ジェットエンジンをスタートさせると、甲高いタービン音が響いて機体が軽く振動し始める。

 すぐにコンソールパネルを操作してコマンドを入力、人工知能によるシステムの自己診断を開始。次々とシステムがオンになっていくと、ほどなくして全天周モニターに周囲の映像が投影された。

 しばらく待ち、核融合ジェットエンジンの回転が安定したことを確認すると、翼の動作確認を行う。感圧式コントロール・スティックを優しく触れるように繊細に動かして、主翼のエルロンとスタビレーターが間違いなく動作することを確かめる。同時にモビルスーツ形態では足首のカバーとなるエアブレーキが動作することもチェックする。

 

 こうした命に直結する機構のチェックは、どうしても自己診断プログラムには任せられないのだ。

 プレサイス少佐は黙々とチェックリストを消化していった。彼女はこの手順が好きだった。何事も正確さを好み、機体を完璧な状態に保つことを心がけているのだ。

 

 それにしてもゼータプラスは美しい機体だ。ほれぼれとする。性能はもちろん、美しい航空機に変形できるところが気に入っていた。その意味では、同じ地球連邦軍製の可変モビルアーマーNRX-044《アッシマー》などは、自分の美的センスに照らし合わせてみれば落第点だった。

 言わせてもらえばハンバーガーみたいな形をしている《アッシマー》は、《ゼータプラス》と比較すればまるで話にならず、冗談みたいな機体なのだ。そんなセンスのない機体に乗ると想像しただけで寒気がする。

 

 美しい機体だからこそ、先の戦闘で脚に傷がついてしまったことが不快だった。敵モビルスーツのメガ粒子砲によって、エンジンポッドの一部を傷つけられてしまったのだ。動作に支障は無いが見栄えが良くない。交換パーツが届いたらすぐに修理するつもりだった。名誉の損傷ともいえるが、美しい機体に傷が付くことは耐えがたく許せない。

 

「かならずリベンジしてあげるわ。待っていなさいネオ・ジオンの強化人間!」

 

 その勇壮な目標にプレサイスの気持ちは高揚した。感覚が鋭敏に研ぎ澄まされてゆく。

 

「準備完了、発進する」

 

 プレサイスはオコンネル中佐より先に離陸することを宣言した。

 

「こちらEFAF(地球連邦軍空軍)ウェイブライダー02、バーゼル・コントロールタワー離陸許可を求む」

「バーゼル・コントロールタワーよりウェイブライダー02へ。離陸を許可する」

「了解」

「お前たち、民間の旅客機を脅かさないように気を付けてくれよ」

「何をくだらないことを、当たり前でしょ」

 

 暇に任せて、わざと民間機を驚かせる連邦軍パイロットがいるらしい。レベルの低い奴……。そのようなモラルの低さだから、地球連邦軍は職業安定所などと揶揄されてしまうのだ。軍人として意識を高く持つ必要がある。……悔しいが、あのジオン残党軍のパイロットのほうが、そうしたクズより意識は高いだろう。もちろん彼らと相容れることはないが。

 

 それにしても、あの濃紺色をしたジオンの重モビルスーツとの戦いは久々に胸躍るものだった。持てる技量を全て発揮した、死力を尽くすプロフェッショナル同士の戦い。それこそ崇高なものだ。素人同士は地べたで無様に踊っていればいい。あのパイロットこそ、自分が望んでいたライバルなのだ。

 プレサイスは高揚感に浸っていた。

 

 フットペダルを踏み込むと、上昇用のリフトスラスターから機体下面に向けてジェット噴流が吐き出されて、機体を地面から浮き上がらせた。そのまま二十メートルほど垂直上昇させた後、垂直離着陸モードから通常飛行モードに切り替えてメインスラスターを全開にした。機体後部からジェット排気が勢いよく吹き出して強烈な振動が機体を支配すると、とたんに爆発的な加速が開始された。

 

「この加速!」

 

 Gによってリニアシートにギュッと押さえつけられる刺激がたまらない。ぞくぞくとする。この瞬間のために、わたしはパイロットをやっているのだ。

 プレサイス少佐は恍惚となった。周囲の全ての物が意識から消え去り、自分と愛機だけの世界となる。機体を感じることで操縦する一体感が高まるのだ。

 それがまずかった。

 突然、空を覆っていた厚い雲の隙間から、民間旅客機が降下してきたのだ。

 

「なんだというの!?」

 

 加速に酔いしれていたプレサイスは、周囲を感じる感覚が鈍っていたので旅客機の接近を感知できなかった。このままでは、わずか数秒後には二機は激突し、ひとつの光球と化すだろう。素早くビームガンで撃破すれば自分だけは助かるかもしれない。無差別大量殺人者になることを受け入れるならば。

 

「冗談じゃないわっ!」

 

 プレサイス少佐は鍛え抜かれた反射神経で即座に反応すると、スロットルを戻して操縦桿を左手前いっぱいに引き、鋭いバレルロールで旅客機の周囲をぐるりと廻るように飛行して間一髪で避けた。コクピットのスクリーン越しに操縦士の目をむいて驚いた表情が見えた。動揺を隠しきれない様子だ。何をわざとらしく驚いている? 自分のミスが分からないのか!

 激怒したプレサイス少佐はコントロールタワーへの回線を開いた。

 

「管制官、どういう指示をしている!? 危うく死ぬところだ! あのバカをなんで降ろした!」

「俺のせいじゃない! あの旅客機が勘違いしたのか勝手に降りてきたんだ!」

「素人みたいな言い訳はやめなさい! あなたの責任よ。だったら、そのパイロットの飛行士資格をはく奪しなさい! 馬鹿と一緒に死ぬのはごめんだ!」

「無理を言わないでくれ。航空会社に苦情は申したてるが、世界的にパイロット不足なんだよ!」

「センスのない奴が飛んでも空が汚れるだけだ! 汚らわしい!」

 

 プレサイスは憤懣やるかたない感じで叫んだ。

 

「まあ、いいわ。わたしだったことを感謝することね。他のパイロットなら突っ込んでいたところよ!」

 

 プレサイスは怒りを抑えられなかった。素人どもが……!

 

 彼女の理想の空は遠かった。

 プレサイスは今度こそゼータプラスを思い切り加速させると、そのまま雲を突き抜けて遙か雲の上まで上昇した。そこには濃い青空が広がっていた。不快な気分を忘れさせてくれる汚れ一つない綺麗な空だ。癒やされる。その光景を人生の指標とするべく、忘れないように目に焼き付けた。

 

 しばらく巡航速度で飛んでいると、後方からオコンネル中佐の機体が追いかけてきた。

 

「大丈夫か少佐? 危なかったな。下からみてもギリギリだったぞ」

「アクロバット飛行はいつものことだけど、危うく民間機を撃墜するところよ。ジオンじゃあるまいし」

「秘密任務なのに大事になるところだったな」

「ガーウィン少将から大目玉ね。ウェイブライダーズも解散になってわたしたちもクビかしら?」

「間違いない。そうなったら君はどうする?」

「まあわたしは若いから。起業するとかモデルになるとか、そういうチャレンジも面白いわね」

「たいした自信だな、少佐」

 

 プレサイスはこの澄んだ青空を飛ぶように、自分の人生を美しく駆け抜けたいと考えていた。だから、そのためにネオ・ジオンのライバルを倒す必要があった。それこそがわたしの産まれた理由なのだから。運命を超えるためには、産まれた理由を消し去る必要があるのだ。

 

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