プルフォウ・ストーリー0092 失われたエメラルド 作:ガチャM
■デザイン協力
アマニア X @amania_orz
おにまる X @onimal7802
かにばさみ X @kanibasami_ta
ねむのと X @noto999
田舎太郎 X @jegotaro
いなり X @inrtbg7
ヒスイ X @m_hisui
■設定資料
ティプレ・アン(デザイン:おにまる)
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ジェシカ(デザイン:ねむのと)
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エミリー・バルド軍曹(デザイン:アマニア)
【挿絵表示】
オスカー・ウィルフォード大尉(デザイン:田舎太郎)
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※Pixivにも投稿しています。
15
ナツメ・スワンソン―正体はジオン公国を統べていたザビ家の末裔ミネバ・ラオ・ザビ―は、寄宿舎の部屋に戻るとすぐに侍女クラーラに金属プレートを調べさせた。彼女はその類いの調査、分析に長けているのだ。
爆発物が含まれている可能性を考慮して、クラーラは念のためマイクロアナライザーやガスクロマトグラフィーによる検査も行った。検査の結果、火薬が付着していることがわかったが、それこそが、この金属プレートの由来を証明するものだった。
はたしてプレートの正体はネオ・ジオンの兵士認識票だった。表面には個人の生年月日や識別ナンバーが刻印されているが、内蔵された電子チップにも個人情報や身体的なデータが記憶されていて、接触してきた女生徒がネオ・ジオン兵士であることを証明していた。兵士認識票を他人に預けるということは、ジオン兵士にとっては身柄を預けることにも等しいのだ。命を捧げるという覚悟であり、忠義の証なのである。
ミネバはプルフォウの認識票を手に取ると、その重さを感じとった。明らかになったプロフィールから、彼女の背景にある人生を想像した。
認識番号ZSF-0965004プルフォウ。《プル》という名前には聞き覚えがある。ミネバは、自分と同じくらいの年端もいかない少女たちが集められて、ニュータイプ部隊と称する特殊部隊が編制されていたのを思い出していた。
ニュータイプとは認識能力、予測能力が異常に優れた人間のことだ。一説にはテレパシーのような能力も有すると言われていたが、ニュータイプのような人知を超えた能力は未発達の子供こそ発現しやすいというのが、彼女たちが集められた根拠だった。とりわけ女性が集められた理由は、ジオンで最も成功したニュータイプがララァ・スンという少女だったことに他ならない。
そして《プル》とはジオンが研究、開発していた、人間をベースとした類人兵器、強化人間のコードネームだった。
ミネバは研究とか試作という言葉に、生理的な嫌悪感を覚えた。人間を実験動物のように扱うなどと。彼女たちは自分より年上だが、それでも当時は十~十一歳くらいだったはずだ。そんな少女を科学者たちが身体的にも精神的にもいじくりまわし、プライバシーも尊厳も切り刻んで類人兵器として改造したのだ。
強化人間だけではない。コロニー落としや無色無臭の毒ガスG3、核兵器など、非人道的な戦争犯罪を数多く行ってきた軍事国家の姫だという事実は、ミネバの心をずっと苦しめていた。
だから、それは演技だったかもしれないが、プルフォウの表情が明るい感じだったのは救いだった。強化人間といえば、もっと恐ろしい顔つきをしていると思っていたのだ。見た感じは普通の女学生にみえる。
「クラーラ、プルフォウ大尉を探してわたしの部屋に呼んで欲しい。彼女は、おそらくこの数週間以内に転校してきた女生徒だ。探すのは容易だろう」
「わかりました」
プルフォウがジオン残党軍からの使いで、その指令が宇宙からもたらされたものだとすると、事態は急を要する。
「彼らの意図を確かめる必要がある」
***
その日の夜、プルフォウはミネバの寄宿舎にやってきた。クラーラがプルフォウをすぐに探し出して連絡をとってきたのだ。クラーラも姫の侍女だから優秀なエージェントなのだろう。
だが寄宿舎といってもVIP待遇のミネバは建物が違うので、立ち入り許可を得るのに少し時間がかかってしまった。厳重なチェックを抜けて六階までエレベーターで上がったプルフォウは、少し緊張してミネバの部屋へと入室した。
ミネバの部屋は、あまり装飾品や飾りがなくシンプルではあるが、置いてある家具からは品の良さを感じさせた。かなり高価な一品に違いない。
「姫様、プルフォウ大尉ただいま参りました」
「ご苦労大尉。夜分遅くにすまぬな……」
この亡国の姫君の隠れ家において、二人はもう上級生と下級生の間柄ではなく、姫と家臣の間柄だった。
プルフォウは時間を無駄にはせず、ただちに自らの任務を簡潔に説明し始めた。
ミネバはしばらく黙って聞いていたが、納得できない気持ちを隠すことは無理なようだった。
「やはり、わたしにこの学園を出ろというのだな? しかし、ずいぶんと急な話だ。理由を聞かせてもらえるのだろうな」
ミネバの言葉には威厳があり、有無を言わせぬ力があった。
「はい、姫様」
プルフォウはミネバ・ザビに敬意を示すために片膝をつくと、知っていることを包み隠さず話し始めた。
「この数年間行方不明だったシャア・アズナブル大佐が、宇宙で新生ネオ・ジオンを組織しつつあるのです。シャア大佐の新生ネオ・ジオンは、アクシズとは成り立ちを異とするダイクン派の組織で、月の軌道外で艦隊を建造して地球圏に戻り、いまは旧式のコロニーを拠点としております。そして姫様を保護しろとの命令は、他でもないシャア大佐の指示なのです」
ミネバ・ザビのエメラルド色の瞳が驚きで丸くなる。シャア・アズナブル大佐は彼女がよく知る人物だ。
「シャアがな……信じられぬ話だ。シャアはハマーンを説得して、わたしを戦争に巻き込まないために地球に逃がしてくれたのだ。その彼が再びわたしを宇宙に呼び戻そうというのか? どういうことなのだ?」
「申し訳ありません姫様。情報漏えいを防ぐためにわたしにも詳細な情報は知らされておりません」
「そういうやり方は知っている。区画化された情報というものだな。秘密組織めいたやり方だ。だがなプルフォウ大尉、これは地球連邦軍の罠ではないのか? わたしを捕えるためのな」
ミネバの境遇は、常に疑うという癖を彼女に植え付けた。小惑星アクシズを離れて地球へ向かうことになったとき、あらゆる人間が彼女に接触してきたのである。そしてもちろん、彼ら、彼女たちは、ミネバの境遇を哀れんで助けようとしたわけではなかった。
協力するふりをしつつ、ザビ家の遺児を地球連邦軍との取引の材料に使おうとしたり、ジオン残党と取引をするための便宜をはかってもらおうとするなど、ミネバを上手く利用しようと画策したのである。
そんなことが続くと、常に自らの状況や生まれた感情を客観的に分析するようになってしまう。
「確かに可能性はゼロではありませんが、それはないでしょう。我々は三種類のルートからダイクン派の暗号化された通信を受け取りましたが、その全ての通信がデータ的に一致することを確認したのです。つまりジオンの正規の通信だということです」
「シャアと話はしたのか?」
「いえ、シャア・アズナブル大佐から直接に連絡はありませんでした。ですがその通信では、近々ダイクン派は決起し、地球連邦に対して攻撃をしかけるとの警告が含まれておりました」
「警告? 味方に警告とはどういうことなのだ? ……まさかコロニー落としを?」
「暗号名『フィンブルの冬』としか伝えられていませんが、わたしもコロニー落としの可能性は高いと思います。姫様を地球から脱出させようと命令されたことが、その何よりの証拠でしょう」
「あれほど地球の汚染を憂いていたシャアがコロニー落としとはな……信じられぬ」
「シャア大佐とは親しかったのですか?」
「ああ、短い間だったが良くわたしの話を聞いてくれた。赤い彗星として恐れられてはいたが、優しい男だった」
「だとすれば大佐には何か別の目的があるのでしょう」
プルフォウは顔をあげて自らが仕える姫を見た。彼女は十二歳とは思えぬ口ぶりで、さすがにジオンの姫としての威厳がある。だが、いまはかつての側近であった英雄シャア・アズナブル大佐を思い出し、彼を懐かしみ心配している。プルフォウはミネバの感情の乱れを感じた。
優しかった父親のような男が変貌してしまう。それは耐えられないことだろう。シャアだけは違うという期待もあったのかもしれない。なにしろ彼女の周りの大人たちは、争いの原因ばかりを作ってきたのだ。
「そうだな、分かった。詳細は宇宙に出てから直接シャアに聞くとしよう……」
ミネバのシャアへの想いは複雑なのだということが、プルフォウにも分かった。
「姫様、それでは?」
「プルフォウ大尉、宇宙へ戻る理由は理解した。だが問題は地球を脱出する方法だ。貴公の計画を聞かせてもらいたい」
「わかりました。これもまたわたしの担当範囲内で恐縮なのですが、ダイクン派が手配するシャトルが用意された段階で連絡がきます。わたしがモビルスーツを用意しておりますから、これに姫様に同乗して頂きます。打ち上げ場所まで、このわたしがお送り致します」
プルフォウはかしこまりながら話したが、姫に報告するにはかなりずさんな内容だということは自分でも分かっていた。
「それだけなのか?」
「はい、その通りです」
しばし部屋に沈黙が訪れた。
「困ったものだな大尉。通常、軍事作戦とはもっと綿密なものではないのか? お前の話すプランは、とうてい作戦とは言えないものだ。まず失敗するだろう」
臣下が提示した脱出計画を落第点だと断ずる。これがジオンの姫としての威厳なのだ。プルフォウは思わず恐縮してかしこまってしまった。
「姫様、不肖なわたしをお許しください。ですが情報漏れを防ぐために、あえて綿密な計画を立てていないのです。連邦の目を盗んで宇宙に上がらなければいけないので、搭乗するシャトルも直前まで決定出来ませんが、臨機応変に対応致します」
「それは理解できるがな……」
「どうかご安心ください姫様。そのためにわたしが選ばれたのです」
「だが不確定要素が多すぎる」
「姫様、まだ脱出までには期間に余裕があります。その間にも情報収集し、作戦を完全なものにアップデート致します。完璧な計画を立ててみせます」
「おまえはそういう能力を備えているということだな? 精鋭というわけだ」
「この身にかえても、必ず姫様を宇宙に脱出させる所存です」
プルフォウは深々と頭を下げて自らの決心を示した。最初は嫌々ながらやって来たとはいえ、自分は任務に忠実なネオ・ジオン軍人だ。それをこれまでの作戦でも証明してきた。今回も自らの能力とプライドをかけて作戦を成功させるつもりだ。しかも今回の作戦は、最重要人物であるジオンの姫君を護衛し、脱出させるのだ。これこそ元ネオ・ジオン親衛隊の自分にふさわしい任務なのだと、プルフォウは姫を目の前にして改めて感じた。
「貴公は忠義に厚い、信頼できる兵士のようだ。そのようなものが側にいるのは心強いものだ」
姫の賞賛に、プルフォウは自分でも驚くほどに感激し、敬意をもってミネバの手をとった。ミネバ・ザビ殿下に信頼されたということがとても誇らしい。それはジオンの軍人なら全ての人間が望むことだ。幸せに感じるとともに、姫様の期待に応えるべく身を引き締める。
そのときプルフォウはミネバの手が僅かに震えていることに気がついた。
姫様、不安がっていらっしゃる……?
強がってはいるが、姫様は十二歳の少女。自らの運命が大きく変わろうとしているとき、すがるものが欲しいのだと理解した。それが、このわたしなのだ。
プルフォウは気丈に振る舞うミネバの気持ちを慮り、自分の身を捧げても良いと思った。
「ご安心ください姫様。このプルフォウが命をかけてお守り致します」
プルフォウの力強い言葉に、ミネバは納得したように頷いた。
***
ミネバは寂しかった。
いったいいつまでこの学園にいれば良いのだろうか。当初はすぐに迎えが来ると思っていたが、すぐに一年が過ぎた。そして風の便りで、後見人であるハマーンが戦死し、さらにはアクシズが壊滅したことを知ったとき、彼女は絶望して打ちのめされた。もう自分には帰るところがなくなってしまった。
いつかはこの学園を出て行かなければならない。だが、いったいどこに行けばいいのだ? 何の能力も才覚もない。あるのはちっぽけなプライドだけだ。好きなバイオリンを練習してバイオリン奏者になったらどうだろうか……? それには技術も覚悟も足りないし、もっと才能のある人間には全くかなわない。とうていかなわぬ非現実的な夢にすぎない。
ならば地道に大衆に混じって働くか? もし市井の人間として働ければ、いずれザビ家の生き残りという自分の正体がばれて、それを知った恨みを持つ人間に袋叩きにあい殺されてしまうのではないだろうか。あるいはもっと酷いことも。
そう思うとミネバは自分の運命に背筋が寒くなった。
業が深い家系に産まれてしまった運命を呪うには、彼女はまだ純粋すぎた。呪い方すら分からなかったのだから。
***
「マリーベル様!」
プルフォウが部屋を出ると、クラーラ少尉が後を追いかけてきた。
ミネバの侍女であり警護を担当しているクラーラは十六歳で、学年的にはプルフォウの二つ上になる。だがネオ・ジオンでの階級はプルフォウの方が上だ。
クラーラの二人だけで話したいという雰囲気を感じて、プルフォウは寄宿舎近くの人気の無い場所に移動した。
「クラーラ少尉。まだ何か?」
「あ、いえ。名高い方にお会いできて光栄です。アフリカ方面でのご活躍もお聞きしています」
「そうか、ありがとう」
「姫様を警護する人間として、あなたのような英雄のお力添えがあれば安心できます」
「少尉、それは買いかぶりすぎだよ」
「えっ」
「褒めてもらえるのは嬉しいが、わたしは英雄なんかじゃないよ。昔所属していたニュータイプ部隊も全滅さ。ずいぶんコストをかけた割には役立たずだったね」
「そんな……」
「まあ、ニュータイプや強化人間が過剰評価されていたんだよ。子供だけで部隊を編成するなんて無理があったのさ。能力があっても経験がなきゃ駄目だということが身に染みたよ。しかもだよ、状況も良く分からないまま内輪の争いの尻拭いをさせられたんだ。結局、戦っていた相手は自軍のエースパイロットだったんだから。戦死した姉や妹はやりきれずに死んでいったのかなと思ってしまうんだ……」
「言葉もありません」
「いや、愚痴を言ってすまなかった。その意味では、姫様を警護できるのは本当に誇らしい任務さ。貴公はいつから姫様の警護を?」
「四年前からです。ハマーン閣下の命を受けて、ミネバ様が地球に降りることになって以来、この任務を継続中です」
「貴公の忠義は称賛に値するよ。アクシズが連邦軍に落とされてからは不安だったろうね。本国からの援助はあったのか?」
「はい。アクシズが落ち、ハマーン閣下が亡くなられたときは正直どうすればよいのかと……本当に困惑しました。ですが、幸いサイド3本国からの支援の申し出があったのです」
「ジオン共和国に、ジオン公国復活を目指す勢力がいるのは知っている。だが、それを目的として姫様を上手く利用するつもりなのかもしれない。お互い苦労するな」
ジオン共和国とは、一年戦争後にサイド3に樹立された新政府で、地球連邦政府とは和平協定を結んでいる。一定の独立権も有し、武闘派ともいえるネオ・ジオンとは一定の距離を置いている穏健派だ。少なくとも見かけ上はそうだ。
「はい。ですが、わたしはミネバ様をお守りできることが何より嬉しいのです。ミネバ様はジオンの希望なのですから。利発な方です。必ずスペースノイドを良い方向に導いて下さると信じています」
「そうだ。わたしも希望を見つけることが出来るよ。後ろ向きの任務よりよほどいいさ」
「そのお気持ち、良く分かります」
ジオン公国敗北から十二年余、地球圏の趨勢は定まりつつあったが、二人はお互いネオ・ジオンに属する軍人として、時代に翻弄されながらもスペースノイドの理想を求める姿に共感を覚えた。
「もう遅いから姫様のところへ戻った方がいいんじゃないか?」
「はい、そうします」
だが、クラーラは少し 言い辛そうに話を続けた。
「ですが、もうひとつだけ。先程の脱出プランの話ですが、差支えなければご意見させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「ああ、かまわないよ」
「あえて詳細な作戦プランは設定せずに柔軟に対応するとのことですが」
「そうだ。姫様にも申し上げたが、脱出用シャトルの発射スケジュールが不明でね。地球の周回軌道に乗るには打上げウィンドウの制限があるからな。どこから宇宙にあがるのか分からない以上、詳細なプランは立てにくい」
打ち上げウインドウとは、ロケットやシャトルが打ち上げられなければならない時間帯のこと。宇宙ステーションや他のシャトルと正確にランデブーするためには、軌道計算によって求められた時間に発射させる必要がある。
「それは理解できますが、失礼ながら少し甘い計画ではないでしょうか? ミネバ様を連れてお逃げになるのです。移動速度や移動距離は、大尉お一人の場合と比較してかなり低下すると考えられます。周囲の状況に対応できる余裕がありません」
「確かにな。貴公には考えがあるようだな?」
「はい。こういう状況の場合、作戦の起点を中心に円を描き、その範囲内に中継ポイントやベースキャンプをいくつか設定すれば、作戦成功の確率は飛躍的に高まります」
「なるほど、それはわたしも考えていた。考慮するべきことだな。もちろんこれから脱出ルートを検討するし、基地からの追加支援も頼むつもりさ。支援や脱出に使用する機材とかな」
「基地との通信手段があるのですか?」
「隠しているモビルスーツに備え付けの秘話通信装置があってね。必要な物資は偽装して運び込んでもらう予定なんだ。それに脱出プランの作成には貴公にも手伝ってもらいたいと考えている。脱出の際には、同行してもらうかもしれないからな。わたしよりも詳しいんだから」
「はい。わたしの知りうる限りの情報と知識を提供させて頂きます」
「期待してるよ」
「了解しました。……でも」
「なにか他にも問題点が?」
「いえ。あくまで個人的な疑問なのですが、ミネバ様が宇宙に上がられた後、彼女のお立場はどうなるのでしょう? それが本当に心配で……」
「何を心配する?」
「はい。シャア・アズナブル大佐が新しい軍を編成しているとのことですが、ザビ家はシャア大佐の仇ではないのですか? 彼はザビ家の遺児ミネバ・ラオ・ザビを大切にするのでしょうか?」
クラーラは胸に手をあてて、心から心配そうな表情でプルフォウを見つめた。ミネバの運命が気になって仕方が無いといった様子だ。
「そういうことか……。シャア大佐がアクシズから姫様を保護したとは言われているが、大佐の正体が、ザビ家に暗殺されたジオン・ダイクンの長男キャスバル・レム・ダイクンだということは有名な話だ」
「では大佐が宇宙にミネバ様を呼び戻す意図というのは……」
「いや、シャア大佐はそんな小さな男じゃないよ。実際アクシズでは王室警護官を担当されていたし、姫様をとても可愛がられていたから。まさかスペースノイド独立闘争の人身御供にしようとは考えていないだろう」
「そうでしょうか? 自分はそれほどシャア・アズナブルという人間を信用できません。一時的にでも地球連邦軍に属するなどと。噂ですが、一年戦争ではガルマ閣下やキシリア閣下を謀殺したとか。裏切りが多すぎます。ミネバ様を言葉巧みに宇宙に誘い込み、個人的な復讐を遂げようと考えているかもしれないんです。酷い仕打ちをするつもりなんです」
「おいおい、それは考えすぎだろう」
「あのような男は信用できないんです。ミネバ様はもう十二歳。身体的にも子供から少女に成長なされてます。……シャア大佐は少女趣味という噂もあります。汚らわしい! 信用なりますか、そんな男が!」
その剣幕にプルフォウは気圧されたが、男という単語に妙なアクセントがあって、それに違和感を覚えた。彼女は個人的な思い、恨みなどから、男を信用していないんじゃないかと感じたのだ。言うべきか迷ったが、作戦に影響があるようなら問題なのだ。
「クラーラ、言い辛いなら応えなくていいんだが……男性が嫌いなのか?」
「えっ」
「いや、そう感じただけだ」
「嫌いだとか好きだとか、くだらないです……。男は信用できない、ただそれだけなのです。もちろん作戦に感情は持ち込みませんから心配ご無用です」
「そうだな。でも、それだと学園生活でも大変だろう。男子生徒も多いからな」
「無視すればいいんですよ、あんな馬鹿どもは! くだらない連中ですから。それにわたしはミネバ様さえいらっしゃればそれで良いのです」
「そうか。だったらなおのこと、わたしと貴公とで間違いなく姫様をお守りしなくてはな」
「そうですよ!」
「では、これでわたしは失礼するよ。また連絡する」
「分かりました」
人目に付かないよう足早に歩き去るプルフォウを、クラーラはじっと見つめて見送った。