プルフォウ・ストーリー0092 失われたエメラルド 作:ガチャM
■デザイン協力
アマニア X @amania_orz
おにまる X @onimal7802
かにばさみ X @kanibasami_ta
ねむのと X @noto999
田舎太郎 X @jegotaro
いなり X @inrtbg7
ヒスイ X @m_hisui
■設定資料
ティプレ・アン(デザイン:おにまる)
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ジェシカ(デザイン:ねむのと)
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エミリー・バルド軍曹(デザイン:アマニア)
【挿絵表示】
オスカー・ウィルフォード大尉(デザイン:田舎太郎)
【挿絵表示】
※Pixivにも投稿しています。
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「こ、この計画は!?」
ヌアクショット基地のコンピューター・ルームに籠もって、ルーティンワークである地球連邦軍に関する情報収集をしていたエミリー・バルド軍曹は、モニターに表示された情報をみて声を上げた。
彼女は地球連邦軍の軍事データベースを盗み見ていたのだが、機密ファイルを開いていたとき、ジオンアフリカ方面軍の存亡に関わる情報を見付けてしまったのだ。
「ジオン残党軍のアフリカ方面における活動活発化について……南アフリカのシエラレオネにおける前線基地建設計画……」
エミリーは、安全にデータベースに侵入できるタイムリミットが迫るなか、急いで関連ファイルをダウンロードしていった。
地球連邦軍のネットワークシステムは最高度のセキュリティを誇っていて、通常であればほとんど侵入は不可能である。だがデータセンターが設置されている地域において、風向きや軍事作戦の影響でミノフスキー粒子の濃度が高くなったときに付け入る隙があるのだ。
ミノフスキー粒子が散布されると、周辺のコンピューター・ネットワークは不安定になる。それはミノフスキー粒子が強力な電波障害を引き起こすからで、無線ネットワークはもちろん、電磁シールドが不十分なケーブルネットワークのデータもノイズだらけになってしまうのだ。
結果、末端のローカルサーバーはデータ不整合を回避するために、クラウドネットワークから切り離されてしまうのである。
クラウドサーバーの計算能力の恩恵を受けられなければシステムは脆弱になるので、そこを強引に突破するのがセオリーなのだ。
今回エミリー軍曹はベルファスト基地のローカルサーバーに侵入して、偶然計画を知った。いま彼女は[[rb:情報収集プログラム > クローラー]]でサーバーから情報をかき集めていた。もちろん証跡は残さないように、高度なステルス型プログラムを使用することを忘れなかった
「何てことなの。よりにもよってプルフォウ大尉がいないときに」
できる限りのファイルを集めたあと、エミリー軍曹はすぐにゲオルグ少佐に詳細を報告した。
***
「南アフリカに地球連邦軍の前線基地とはな……」
上級士官が集められたブリーフィングルームでゲオルグ少佐は唸った。エミリー軍曹が収集した情報は、まさに緊急の対応が求められる類のもので、文字通りジオン・アフリカ方面軍にとっては危急存亡の秋といえた。
「この計画がいつから始まっているんだ?」
「少なくとも一年前には計画が提出されていたようです。『アフリカ大陸におけるジオン残党軍の活発化について』というレポートが、上層部に同時期に提出されています」
「一年前か」
「レポートは『アフリカ大陸におけるジオン残党軍は、最近になって高性能モビルスーツを配備し、それらは精鋭パイロットによって運用されている。この事実は、宇宙のジオン残党軍やジオンを支援するスポンサーからの資金、兵器、物資の援助があることを示している。我が軍の被害は拡大しつつあり、早急な対策が必要である』という文章から始まっています。それでシエラレオネに前線基地を建設することになったのでしょう」
「資金や兵器の援助といっても、それは雀の涙みたいなものです。ずいぶん過剰な評価を受けたものですな」
静かに話を聞いていたオスカー・ウィルフォード大尉が唸るように言った。
「プルフォウ大尉が理由だよ」
「どういうことです?」
「やりすぎたんだよ。大尉はあまりに多くの連邦軍モビルスーツを撃破してしまった。それが地球連邦軍の関心を引くことになったのだ」
「いちパイロットが戦局を左右するなど……。まさか、それが理由でプルフォウ大尉を秘密任務に追いやった、ということはないでしょうな?」
「それはないが、懸念事項であったことは確かだ。我々は一斉蜂起の時までは、目立たぬように活動する必要があるからな」
ジオンの独立、スペースノイドの解放という志を遂げるには、将来的には地球連邦軍を駆逐しなければならない。だが、いまや弱小となったジオンが生き延びるためには、目立つ戦闘行為で大規模な反撃を受けることは避けたい。それは表裏一体の、もどかしさの伴う矛盾だった。
「でも前線基地が建設されたら、我々にとっては首をしめられるようなものでしょう。早急に叩く必要があるのではないでしょうか?」
オスカー大尉の部下であるセレン・ディリーナ中尉が進言した。
「しかし目立った攻撃を行えば、さらに増援を招くことになってしまう」
「じゃあ、このまま放っておけというのですか? あんなところに基地が完成したら、もう身動きは取れなくなりますよ。このアフリカ大陸を出て、南極にでも逃亡しないといけなくなるわ。ペンギンと暮らすのもいいかもね」
「このクソ暑い土地を離れて極寒の土地かよ。魚をシロクマやペンギンと奪い合うわけか」
同じくオスカー大尉配下のマリウス中尉が軽口を言った。
それを聞いたゲオルグ少佐は少々不愉快そうな顔になったが「南極では、ここのモビルスーツは動かんよ」と真面目くさって応えた。「我々にとっては死活問題だということはわかっている。攻撃しなければならないこともな。オスカー大尉、君を任務部隊のリーダーに任命する。三日以内に作戦を立案して実行しろ。いいな?」
「はっ! 了解しました」
オスカー大尉は、いまのジオンアフリカ方面軍の戦力では厳しい作戦になりそうだと予感した。ただでさえ基地を攻略するのは難しいのだ。
「動かせる戦力は、いかほどですか?」
「基地の直掩部隊を残し、あとは任務部隊として使っていい。必要なら基地司令の名前で、他の基地に支援を頼んでもかまわない」
「承知しました」
「ちょっと、よろしいでしょうか」
部屋の隅に座っていたエルマン中尉が手をあげた。プルフォウ大尉が任務で不在なので、替わりに部隊の指揮をとっていて、会議にも参加していたのである。
「なんだね中尉? 君の部隊は、この基地の守備にまわってもらいたい」
「了解しております。ですが、他の基地の戦力といっても、三日以内に合流するとなれば、あてにできるのはザンビアのカサマ基地くらいではないでしょうか?」
他の基地からの支援とはいっても、現在のジオン軍の戦力は限られている。どの基地も台所事情は苦しいのだ。まともに稼働するモビルスーツがあるだけでもましで、その意味ではヌアクショット基地は、かなり恵れているのだ。
「各基地との調整はオスカー大尉に一任する」
「ですが」
「エルマン中尉、ゲオルク少佐は戦力が少ないのは承知の上さ。それでも、やらなければいけないんだよ。プルフォウ大尉も、そう言うに違いないさ」
オスカー大尉がエルマン中尉をなだめるように言った。
「中尉、あの子がいなくて寂しいの? 泣きが入ってるわよ」
「馬鹿な! そんなわけないだろ!」
「やっぱりね。あの子が帰ったら、ちゃんと言っておいてあげるわね」
「違う!」
「プルフォウ大尉が帰還する基地が無くならないように頑張ってくれ。作戦に失敗すれば、この基地を放棄する可能性だってあるんだからな。エミリー軍曹は引き続き情報収集だ。人員やモビルスーツ、補給物資、金の流れを追うんだ。では解散」
ゲオルク少佐が部下たちの無駄話を制すると、時間を無駄にするなというように会議を終わらせた。
ヌアクショット基地はにわかに忙しくなった。モビルスーツは動作確認後に武装が施され、支援車両にも弾薬や食料、水が積み込まれていった。
作戦準備が急いで行われるなか、攻撃部隊を指揮するオスカー大尉は作戦室に篭って作戦を立案していた。
「どうするのオスカー? 基地を攻略だなんて、モビルスーツ一個大隊、三十機は必要じゃない?」
オスカー大尉の作業を手伝うセレン少尉が、少しばかり投げやりな声で言った。エミリー軍曹の情報では、連邦軍の前線基地には、まだ大規模な部隊は配備されていないようだったが、それでも現在の戦力では難しい作戦に思えた。
「基地の攻略なんて何年振りだろうな。ジオンの戦術教本を引っ張り出さなきゃな」
「そんな錆び付いた知識で大丈夫なの? 不安になってくるわね」
「いつの時代も基本的な戦術は同じだよ。俺は基地攻略作戦の成功例から学ぶつもりだ」
「基本というなら、戦いは数なんでしょ? モビルスーツが足りない私たちは決定的に不利に思えるけど」
「だから数に頼らない作戦を参考にするのさ」
「つまり奇襲するってこと?」
「そのとおり。他の基地との混成部隊では連携するのが難しいが、それしかないだろうな。敵が反撃したくても出来ない状況をつくりだすんだ」
オスカー大尉はディスプレイに地図を表示させた。鉱山跡なので、思ったより高低差がある地形だった。
「そのためにはスピードが必要なんだが、ベースジャバーを使えないのは痛いな。移動するだけでも一苦労だ」
「鉱山跡は防御するには有利な地形ね。攻撃側は三倍くらいの戦力がいる。それに、あの子がいないのも痛いわ」
「確かにプルフォウ大尉のベルグソンが参加できないのは、かなりの戦力ダウンだ。彼女はまさに一騎当千だからな」
「まあ仕方がないわね。彼女、秘密任務なんでしょう?」
「噂ではミネバ殿下の救出任務らしいな」
「だからって、あの子に女生徒をさせなくてもいいでしょうに。少佐の趣味なんじゃないかしら?」
「プルフォウ大尉が美人なのは確かさ」
「年下が好みだったの? ふん、さぞかし学園じゃ人気者でしょうね」
「どうだろうな。あのきつい性格では男子生徒は寄り付かないんじゃないか? まあ、それはともかくだ。砲撃で先制攻撃を仕掛けるというのはどうだろう?」
オスカーは、基地周辺にタブレットペンで部隊記号を書き加えた。
「同時に君のゲルググで狙撃すれば、敵の戦力をかなり減らせるはずだ。最初はミノフスキー粒子を散布せずにワッパを先行させて、目標データを送信してもらうんだ」
奇襲時にはミノフスキー粒子を散布しないというのは基本だ。ミノフスキー・センサーで部隊の接近がばれてしまうから、奇襲直後に散布するのがセオリーなのである。それに奇襲を受ければ防御側もすぐにミノフスキー粒子を散布するに違いなく、無駄にエネルギーを消費することもない。
[newpage]
「砲撃はザクキャノン二機に担当させる。時間差で複数同時着弾攻撃をするんだ。まずセオリー通り司令室を潰して指揮系統を混乱させて、混乱しているうちに援護射撃を受けながら二方向から基地に突入し、敵戦力を各個撃破する」
「もし航空戦力があったら?」
「飛び立つ前に優先的に破壊する。君が狙撃するんだ」
「了解。あとは任務部隊に何機投入できるかが問題ね」
「他の基地に頼みこむ必要があるな。プルフォウ大尉が、かなり他の基地に貸しを作ってるから、要請には応えてくれるだろう」
プルフォウ大尉は、他の基地からの支援要請を受けて出撃し、これまで多くの部隊の危機を救っていた。
「どの基地にとっても危機でしょうからね。さっそく連絡してみるわ。あの子に直接頼んでほしいところね。人気があるし」
「確かにな」
「でも、今頃はなんとか学園で、男の子とデートでもしてるんじゃない? あ~あ、わたしが替わりに行きたかった」
「君が?」
「なにか文句でもある?」
「いや、デートはいいが、教師と生徒の付き合いはまずいだろう。何を教えるのかしらんが」
「生徒として潜入するのよ! まだ十代で通用するわよ。大人びた女生徒として男子生徒の憧れになるでしょうね」
「通用するかどうか、今から大尉と交代してみたほうがいいかもな」
「あとで少佐に提案してみるわ。じゃあ、早く奇襲作戦の立案を終わらせてしまいましょう」
オスカーとセレンは戦術プログラムを起動すると、パラメータを変更しながら何度もシミュレーションを繰り返していった。