プルフォウ・ストーリー0092 失われたエメラルド   作:ガチャM

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宇宙世紀0092年。アクシズ親衛隊の生き残りプルフォウは地球にいた。アフリカ戦線でエースパイロットになっていた彼女は、あるとき特殊任務を命じられた。それは地球で身を隠している要人を宇宙に脱出させるというものだった―。

■デザイン協力 
アマニア X @amania_orz
おにまる X @onimal7802
かにばさみ X @kanibasami_ta
ねむのと X @noto999
田舎太郎 X @jegotaro
いなり X @inrtbg7
ヒスイ X @m_hisui

■設定資料
ティプレ・アン(デザイン:おにまる)
【挿絵表示】

ジェシカ(デザイン:ねむのと)
【挿絵表示】

エミリー・バルド軍曹(デザイン:アマニア)
【挿絵表示】

オスカー・ウィルフォード大尉(デザイン:田舎太郎)
【挿絵表示】


※Pixivにも投稿しています。


第22話「定期連絡する生徒」

    21

 

 

 

 次の日、プルフォウはヌアクショット基地へ定期連絡をするために、愛機ベルグソンのコクピットに座っていた。

 地球連邦軍に傍受されずに密かに基地と連絡するためには、当然ながら学園から電話をするわけにはいかず、モビルスーツの高性能秘話通信装置を使用するほかはない。だからベルグソンを隠したポイントまで長い時間をかけて歩いてきたのだ。

 

 シュバルツシルトと呼ばれる深い森の奥深く、ベルグソンを隠した洞窟までたどり着くには、かなりの苦労をともなった。だが、街からお菓子を食べながら簡単に歩いて行ける距離では意味がない。モビルスーツは、ただでさえ巨大で目立ってしまうから、プルフォウは森の最も奥深い場所、ハイキングやキャンプをする人間が滅多に登ってこれないような場所に機体を隠したのである。

 

 崩れそうな断崖を通り抜けて、枝を払い、腐って落ちた橋をジャンプして渡ると、ようやく崖に空いた洞窟に到着する。このほとんど登山のような冒険には、さすがの強化人間プルフォウも疲れてしまった。

 洞窟の入り口は、岩と木に覆われた容易には発見されない場所にあったが、プルフォウはさらにモーションセンサーとカメラを設置しておいた。こうしておけば、万が一誰かに浸入されてもわかるのだ。

 

 プルフォウはベルグソンの核融合炉をスタートさせると、洞窟の入り口まで歩かせた。そうしてから、リニアシートのコンソールを操作し、備え付けの暗号化秘話通信システムを起動させた。

 

 機体の装甲表面に配置されたマルチグリッド・アダプティブアレイが指向性電波を発信し、それは地球連邦軍の無人中継基地のパラボラアンテナに密かにタダ乗りした後、最終的にヌアクショット基地まで到達した。ミノフスキー粒子濃度が低ければ十分に長距離通信は可能なのだ。

 

 しばらくすると雑音がクリアーになり、軍用の秘話回線が確立した。

 

「秘話回線の受信を確認。コードを言え」

「グリーン・クイーン0965004」

「……認証した。ご苦労プルフォウ大尉。久しぶりだな。任務の進行具合は順調か?」

「はいゲオルク少佐。ミネバ・ザビ殿下に接触してわたしの正体を明かし、任務の概要を説明しました。納得されているようです。すぐにでも学園を脱出可能です」

「大変結構だ。それでは脱出手段の調整がつきしだい、こちらから連絡する」

「えっ……? まだシャトルの準備はできていないのですか? すでに三週間が立ちます。打ち上げウインドウの問題はもう……」

「脱出手段を確保するのは難しい。宇宙へ上がるシャトルの都合はすぐにはつかんよ。地球連邦軍の監視もなかなか厳しいからな」

「それは理解しております。しかし作戦が長引けばわたしの正体が露呈する危険が高まり……」

「そんな危険はないだろう。みたところ大尉はすっかり女学生じゃないか」

 

 少佐はプルフォウのブレザー姿を見て言った。このひらひらした服で森の中を踏破するのは大変だったのだ。

 

「見かけはそうです。しかしメンタリティが違いすぎるのです」

「相手は子供なんだ、なんとでもなるよ。そのあたりはエミリー軍曹に相談するといい」

「少佐、そういう問題では!」

 

 まったくいいかげんな男だ! 脱出用シャトルの予定が未定だなんて姫様に報告できるか!

 プルフォウは頭の中で上官を罵りつつ、ミネバ姫の反応を想像して頭を抱えた。

 

「そういう問題なのだよ。シエラレオネの連邦軍基地への攻撃作戦が近づいている。今はこちらに余裕がないのだ」

「シエラレオネ……? わたしは聞いていませんが」

「そうだったな。つい先日分かったことだ。連邦軍がシエラレオネに前線基地を建設中との情報が入ったのだ」

「それならばわたしも参加します。ベルグソンを遊ばせておくわけにはいきません」

「いや、それには及ばない。十分な戦力があるから問題はない」

「攻撃部隊の指揮は誰がとるのですか?」

「オスカー大尉だ。他の基地からも部隊が参加する。大尉のドライセンを中心とした総勢十二機の攻撃部隊だ」

「そうですか……。確かにオスカー大尉なら問題はないでしょう」

「大尉は作戦を続行してくれ。ゲオルク少佐アウト」

 

 ヌアクショット基地の仲間が連邦軍と戦おうとしているときに、学生のふりをして学園で遊んでいることに罪悪感を覚えつつ、プルフォウはエミリー軍曹に通信を切り替えた。モニター前面に女優のような風貌の女性士官の顔が写った。

 

【挿絵表示】

 

「おひさしぶりですプルフォウ大尉」

「エミリー軍曹、かわりないようだな? でも軍曹、連邦軍への攻撃作戦だなんて、連絡してくれないと困るな」

「攻撃作戦は、本当に急遽決まったことなんです。でも、大尉がご心配される必要はありません。他の基地とも連携をとっていますから」

「オスカー大尉が攻撃部隊を指揮するなら、まず心配はいらないだろうが……」

「こちらから大尉にお伝えすることがあります。例の可変機ですが、詳細情報が得られました」

「よし、聞こう」

 それはプルフォウがずっと気になっていたことだった。なにしろ自分を苦戦させた相手なのだ。傲慢になるわけではないが、強化人間のエースパイロットと対等に戦えるパイロットとなれば、基地にとって脅威となる。

 

「所属部隊はウェイブライダーズ。新規に編成された部隊で、エースばかりを集めた精鋭部隊です。母艦はガルダ級スードリⅡ。使用機体は可変モビルスーツMSZ-006Dゼータプラス。空戦能力が強化されたタイプです。飛行隊長のロバート・オコンネル中佐は一年戦争以来のベテランで、グリプス戦争、第二次ジオン独立戦争での功績によって隊長に任命されています。トータルスコアはモビルスーツ四十二機、艦船五隻」

「聞いたことがある。歴戦のパイロットだ。彼が隊長とはな。でも私たちを攻撃したのは彼ではないだろう、もっと若いパイロットさ」

「副隊長はプレサイス少佐。まだキャリアが数年のパイロットで、去年宇宙から降りてきたようです。地球連邦軍の戦技競技会では優秀な成績を収めています。狙撃能力が高いようですね」

「そいつだな……。間違いない。経歴ファイルにわたしとの戦闘データを追加しておいてくれ。あとでレポートを送るよ。狙撃もすごいが、近接戦闘もかなりのものだ」

「それほどの戦闘パイロット、これまで我々のデータベースに存在しなかったのが不思議ですね?」

「強化人間さ。わたしみたいなね。能力が高いから年齢や経験は関係ない。いきなり実績をあげる奴だ」

「ですが、地球連邦軍のニュータイプ研究所は閉鎖されたと聞いています」

 

 ニュータイプ研究所は、世間的には人類が獲得した新たな能力”ニュータイプ”を調査するための研究機関として認識されていたが、その実態はティターンズ主導のもと、サイバネティックスや心理操作で人工的にニュータイプを生み出そうとした、倫理的には許されないことを平然と行っていた組織なのだ。

 その非合法な活動内容から、ティターンズが壊滅したあと、地球連邦政府の現政権によって強制的に閉鎖されたと言われていた。

 

「表向きはね。裏で研究を継続していると聞いたことがある。もちろん、既に生み出された強化人間か、自然発生したニュータイプの可能性もあるだろう」

「自然発生したニュータイプ兵士は、地球連邦軍にもほとんど存在しないのでは? 有名なアムロ・レイ大尉ぐらいではないかと」

 

 アムロ・レイ大尉は、第一次ジオン独立戦争でジオン軍に大打撃を与えた地球連邦軍のスーパーエースで、偶然に試作モビルスーツに搭乗し、そのまま正規パイロットとして徴用された経歴を持っている。

 

「もしアムロ・レイみたいなニュータイプなら、わたしでも敵わないよ。戦力を集中させて潰すしかないね。あのシャア大佐ですら、アムロ・レイには全く歯が立たなかったらしい。乗っていたモビルスーツRX-78ガンダムも高性能だったけどね」

「彼はいきなりモビルスーツの操縦ができたらしいですね。なんでもコクピットに座っただけで全ての回路を把握して、操縦方法を理解できたとか」

「私の経験から言えば、そのエピソードは眉唾だけどね。しかし、やっかいだな。これほどのエース部隊はまともに相手をしない方がいい」

「戦いを避けろということですか?」

「そうだ。ヨーロッパ所属部隊でも、ガルダならどこにでも飛んでいける。少なくとも、わたしがいない間は戦闘は避けるべきだ。遭遇したら、すぐ逃げた方がいいよ。そうゲオルク少佐とオスカー大尉に伝えておいてくれないか?」

「了解しました」

 

 報告を聞いて、プルフォウは少し気が重くなった。そんな精鋭部隊がうろついているとすれば、今回の作戦にも影響する。この学園を脱出する際に大きな障害となることは必至なのだ。

 

「それにしても、シャトルの準備は全然進展がないじゃないか。少佐は何を考えているんだ? わたしは姫様になんて報告すればいいんだ? 姫様は可愛い顔をして厳しいんだ」

「そうなんですか? 意外ですね、ミネバ姫が厳しいだなんて。あんなに可愛らしいのに。あ、でもザビ家の血を受け継いでいるなら……」

「曖昧でいいかげんな報告はできないよ」

「シャトルですが、宇宙のダイクン派との調整に手間取っているんです。あちらの受け入れ体勢が確立していないようで……」

「どういうことだ?」

「姫様は最高度のVIPだから、いろいろと問題があるんじゃないですか?」

「呆れるね。お決まりの内部の主導権争いというやつか」

「とにかく、もう少し待ってください。決まればすぐにお知らせしますから」

「わかったよ。了解だ」

 

 プルフォウは不承不承受け入れると、リニアシートに体を預けた。

 

「では話題を変えて。大尉、学園生活はいかがですか?」

 

 自らが演技指導をしたこともあって、エミリー軍曹は興味津々といった感じで尋ねてくる。あるいは自身の学生生活を懐かしがって、学園の話を聞きたいのかもしれない。

 

「学生のふりをするのはどうにも慣れないね。演技するのは本当に疲れる。やはり役者には慣れそうもないな」

「疲れているのは正しく演技できてる証拠ですよ。そうそう、お友達はできましたか?」

「お友達?」

「新しい環境に慣れるには、まず人間関係の構築が重要なんです。学園で友達を作っておくのは悪くないですよ」

「なるほど、人的資源による諜報活動(ヒューミント)だな? 友達という定義に該当するかは分からないが、よく話すクラスメイトはいるよ。けっこう親切でね」

「大尉のお友達、どんな女の子か気になりますね。……あ、それとも男の子じゃないですか? 彼氏とかつくっちゃったり」

「馬鹿なこというんじゃないよ!」

「何かあったんですね、大尉?」

「ふざけるな軍曹。何事もないが、子供は図々しいから嫌いなんだ。……登下校中や休み時間にいちいち話しかけてきて煩いんだよ」

「なるほど。つまり男子生徒からアプローチされてるわけですね?」

「いや、そんなことは全くない」

「ふふふ……」

「ないんだったら!」

「恋愛相談も受付けます。経験豊富なわたしからのアドバイスは役に立ちますよ?」

「……こんなところか。そろそろ通信を切るからな」

「あっ、待ってください大尉! 出来れば定期的に写真を送って頂けませんか? 学園のレイアウトや配置が分かる写真を。こちらで作戦立案の参考にします。それと大尉御自身が写っているものも。あなたのコンディションと環境を詳細に分析したいんです。わたしには大尉の健康状態や環境を管理して、適切なアドバイスをする責任がありますので」

「水泳とかスポーツもしてるし、健康には気をつけてるよ」

「ぜひ! そうした写真も送ってください。水着や下着姿なら健康状態も分かりやすいです」

「必要なのか? ウェアラブル端末の身体測定データはさっき送信したじゃないか」

「大尉もデータだけよりは実際に目で見て確かめたいでしょう? やっぱりデータだけでは分からないところは多いんです」

「了解だ。学園のレイアウトは歩き回っていろいろ写真を撮っているし、わたしの写真はクラスメイトに頼んでみるよ。……もちろん女性のクラスメイトにな。ダイエットをしてるとか何とかいえば納得してくれるだろう」

 

 そう返事したとき、プルフォウはエミリー軍曹が小さく拳を振り上げているのに気が付いた。その意味が分からず、彼女はちょっと困惑した。おかしな奴だ。

 

「それはいい理由ですよ! 大尉も学生生活に慣れてきましたね」

「あまり慣れたくはないけどな……。あ、そうだ。軍曹、一つ頼まれてくれるか?」

「なんでしょう?」

「ミーミスブルン学園の学園長について調べて欲しい。彼女のプロフィールと経歴についてだ」

「分かりました。何か彼女に気になることがあるのですか?」

「いや、実は学園長と少し話す機会があったんだが、妙な感覚を覚えたんだ。なんというか、過去に会ったことがあるような……」

「本当ですか? 大尉が過去に会ったことがあるとすれば、それはアクシズでということになりますが」

「だろうな。おそらくはアクシズの関係者なんだろう」

「すぐに調べます。何か分かったらすぐにお知らせします」

「頼んだぞ。それじゃ、また連絡する」

 

 プルフォウは秘話回線を切るとふうっと溜息をついた。

 まだしばらくは、この学園にいなくてはいけないのか……。まあ転校してきて、またすぐ転校するのも変だから、カモフラージュとしてはちょうどよいかもしれないな。

 

 そう自分を納得させる理由をひねり出すと、プルフォウはまた女学生に戻るべく学園へ向かって森の中を歩いて帰った。

 

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