プルフォウ・ストーリー0092 失われたエメラルド   作:ガチャM

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宇宙世紀0092年。アクシズ親衛隊の生き残りプルフォウは地球にいた。アフリカ戦線でエースパイロットになっていた彼女は、あるとき特殊任務を命じられた。それは地球で身を隠している要人を宇宙に脱出させるというものだった―。

■デザイン協力 
アマニア twitter @amania_orz
おにまる twitter @onimal7802
かにばさみ twitter @kanibasami_ta
ねむのと twitter @noto999
田舎太郎 twitter @jegotaro

■設定資料
ティプレ・アン(デザイン:おにまる)
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ジェシカ(デザイン:ねむのと)
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エミリー・バルド軍曹(デザイン:アマニア)
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オスカー・ウィルフォード大尉(デザイン:田舎太郎)
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※Pixivにも投稿しています。


第5話「クラスメイト」

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 ミーミスブルン学園

 

 旧ヨーロッパのアルザス地方にあるミーミスブルン学園は、九十年ほどの歴史を持つ伝統ある学校だ。山脈とゆるやかな草原に囲まれた片田舎に建設された校舎は、けっして大きいとは言えなかったが、施設の質は高く充実していた。

 

 ちょうど西暦から宇宙世紀に変わったころに設立されたこの学園は、宇宙開拓時代にふさわしい人材を育てることを目標に掲げて、全寮制で厳格なカリキュラムに沿った教育が行われていた。宇宙に新たな大地が産まれた時代、人類の新たな可能性を切り開くエリートを育てようと考えたのだ。それは後のジオン・ダイクンの思想にも繋がるもので、事実この地域からサイド3に移民した人々は多かった。

 だが、ここには新たな戦争を産みだす火種が存在していた。

 

「ここからでも、連邦軍のモビルスーツが使ったビームの光が見えたんだって」

「見間違いじゃないの? 訓練中の事故とかさ」

 

 二週間前、学園近郊のヴォージュ山脈でモビルスーツの戦闘があり、連邦軍が所属不明機を撃破したというのが、最近学園の生徒たちの間で噂になっている話だった。

 

「過激派のテロだろ? ジオンを騙ったテロリストの。迷惑なんだよな、そういう連中は。ジオンは共和制になったんだから。民主主義を認めない偏狭な人間だよ」

「そんな単純な……。あなたの頭で理解できるわけないわね。もう少し社会情勢を考慮しなさい」

「なんだよ、それ?」

「最近になって軍事関連企業の株価が上がっているし、エネルギー価格も高騰してる。これは戦争の兆候よ。シャア・アズナブル大佐の『見えない、忍び寄る脅威』と表現してもいいでしょうね」

「シャア大佐が!?」

 

 学園の副生徒会長であるティプレ・アンが口にした一年戦争の英雄の名前に、教室内がざわめいた。

 シャア・アズナブル。キシリア・ザビ少将配下のジオン公国突撃機動軍大佐であり、赤い彗星と呼ばれたエースパイロット。その名前はいまや伝説となっていたが、その正体がジオンの創設者ジオン・ダイクンの息子だということは子供でも知っている話だ。

 

 一年戦争の後、最終決戦ア・バオア・クーの戦いを生き延びたシャア・アズナブルは、火星付近のアステロイドベルトに位置していた小惑星アクシズに逃れた。そして、その後どういう経緯と意図があったかは不明だが、反地球連邦組織エゥーゴの幹部として活動したのだ。

 だがスペースノイド排斥主義者の集団であるティターンズ、ザビ家復興を掲げる古巣のアクシズとの三つどもえの抗争後、シャアはふたたび行方不明となったのである。

 そして雌伏四年、そのシャア大佐が再び起つとの噂が広まっていた。動揺が広がることを恐れた教師たちは戦闘があった事実そのものを隠ぺいし、誤魔化そうとしていたが、生徒たちはそうした大人の事情には敏感なのだ。

 

「そう、シャア大佐は生きてるのよ」

 

 薄紫の髪を派手にかき上げながら、アンはクラスメイトを煽る。

 

「でも、シャア大佐はジオンを裏切って地球連邦軍に入ったんでしょう?」

「クワトロ・バジーナ大尉の演説を知らないのかよ? 副生徒会長はさ」

 

 他の生徒たちが一斉に否定するなか、アンは余裕の表情で応える。

 

「反論するなら、まず人の知性を考慮なさい。もちろんダカール演説は、わたしも何回も聞いたわ。でもね、あの演説は地球連邦軍を油断させるための演技なの。敵を騙すには、まず味方からっていうでしょう? あなたたちは演説に含まれたキーワードが分からないのかしら?」

「キーワードってなんだよ?」

「ふふ、お馬鹿さんね……」

 

 アンは、再び豊かな髪をかき上げながら、ふんと鼻を鳴らした。

 

「説明してあげる。彼はこう言ったわ。『誰もがこの美しい地球を残したいと考えている。自分の欲求を果たす為だけに、地球に寄生虫のようにへばりついていて良い訳がない』。つまり、全人類は地球を出てゆけってことよ。シャア大佐が生きていれば、その要求を必ず地球連邦政府に突きつけてくるでしょうね」

 

 アンの恐ろしい分析に教室は静まりかえる。

 

「怖いわね……」

「それが本当なら狂ってんな」

 

 噂というものは尾ひれをつけて広まるものだ。想像上の『戦争』が、先日の戦闘騒ぎに装飾を付け足して、いっそう恐ろしげな話に思わせていた。

 

「ティプレさんって頭いいよね! あなたの予想って良く当たるし。でも嫌だよ戦争は。シャア大佐だって、きっとそう思ってるよ!」

 

 ジェシカはいつものように、深刻になりすぎたクラスの雰囲気をやわらげようと努力する。

 

「どうも? お礼を言わせてもらうわジェシカさん。演繹法による予測、推論ね。もちろんわたしも戦争は嫌よ」

「だよね。みんな、そうだよ。シャア大佐だって、まず話し合いで解決しようとするよ」

「それは甘いわね……。そうだ、マリーベルさん。あなたはどう思うのかしら?」

「えっ、わたし?」

 

 急に話を振られたオレンジ色の髪をした女生徒は、驚いた様子で眺めていたコンピューター・パッドから頭を上げた。

 

「あなたはサイド3から地球に降りてきたんでしょ? 確かお父様のお仕事の都合だとか?」

「ええ。父は穀物や工業製品を扱う、商社の仕事をしていて……」

「いまスペースコロニーでは反地球連邦デモが起こっているそうね? 最近になって連邦議会でジオン共和国の自治権返還が採択されたっていうじゃないの。ジオンという名前が失われる。それに呼応した反政府デモは、ただのスペースノイドの不満レベルじゃないはずよ」

「政治は難しくてよく分からないけど、サイド3ではデモは禁止されてるから……。反地球連邦政府運動なんてしたら、すぐに逮捕されてしまうわ」

「弾圧されてるってことかしら?」

「うん……」

「まあ、過激なデモの取り締まりはどのコロニーでもあるでしょうけどね。地球連邦政府へのテロ活動を未然に防ぐためにね? 最近は《エグム》という反政府組織も生まれたらしいと聞くけど、あなたは知らない?」

「聞いたこともないわ」

「エグムって元々はエゥーゴから分裂した過激派らしいですわね。わたしは行方不明のシャア大佐がリーダーだと思うわね。そうは思わないかしら?」

「わたし本当にわからなくて。ごめんなさい」

「わからないですって!?」

 

 転校生マリーベル・リプルの煮え切らない答えに、持論を得意げに語り、自分の頭の良さを自慢する学園の副生徒会長ティプレ・アンは不満そうだった。

 彼女はもっと過激な、平凡な日常とは異なる刺激を求めているようだった。退屈極まりない日常から飛躍して、激動する世界の真実を知りたいと望むかのように。

 

「世間知らずな風を装うのはお止めなさい! あなたはそんな馬鹿ではないはずよ。ふん、知り合いなんでしょう、シャア大佐と? あなたもモビルスーツを操縦してるんじゃない?」

 

 アンは突然話を飛躍させた。それは議論を加熱させるための常套手段だ。

 

「まだ、わたしがネオ・ジオンのパイロットだって疑ってるの? いいかげんにして!」

「あなたの疑いが晴れたわけではないの」

 

 アンはマリーベルが転校してきたときから、彼女がネオ・ジオンのスパイだと疑っているのだ。昨日もアンはマリーベルを容疑者のごとく追求し、教師が入ってきて授業が始まるまで尋問は続いたのである。

 マリーベルは、もううんざりだった。

 

「わたしは悪い事なんて何もしてない」

「あなた、サイド3から密航してきたのでしょ? そう、例えば民間貨物船の荷物コンテナの中に隠れるなどして」

「まさか! そんなことしたら酸欠になるわ! それに大気圏突入時のショックで怪我するわよ」

「じゃあ耐熱フィルムを身に着けて降りてきたとでもいうの?」

「た、耐熱フィルム?」

「そう。薄い透明ビニールみたいな素材で、高熱にも耐えられるらしいの。雑誌で読んだことがあるわ」

「生身だったら、すぐに溶けて燃えてしまうわ!」

「地球連邦軍のモビルスーツが使ってるのよ」

「しらないわよ。とにかく、プライベートシャトルで地球に来たんだから」

「どうしても認めないようね……」

 

 アンは、本当に困った子供だとでもいうように溜息をついた。

 

「……わかったわ。受け入れ難いけど、あなたの言うことを信じてあげないこともない」

「よかった」

 

 マリーベルは安心して息をついた。

 

「はい、じゃあ募金をお願いします」

 

 アンは、さっと自分の机の下から募金箱を出してくると、マリーベルの目の前に差し出した。

 箱には『水の星に愛をこめて』と手書きで書かれている。

 

「えっ、ぼ、募金!? どういうこと?」

「出資者なら無理難題をおっしゃってもよろしくてよ。『水の星募金』一口千クレジットからです」

 

 アンはにっこりと笑っていった。

 つまり言いがかりを止めて欲しければお金を払えということだ。はっきり言えばたかりである。

 その図々しさにマリーベル・リプルは絶句した。

 

「またティプレさんの募金が始まった~。もう、雰囲気悪くなるからやめてよ~」

 

 クラスメイトたちから抗議の声があがる。

 

「何言ってるの! シャア大佐は確かに正しいわ! 地球は疲れきっているのよ! 人は長い間、この地球というゆりかごの中で戯れてきたの。早く対策をしなければ、地球は水の惑星ではなくなってしまう。そのための募金なのよ! さあ、マリーベルさん早く募金しなさい!」

「そ、そんな。急に言われても……」

 

 ちょうどそのとき。タイミングよく始業のチャイムが鳴って、数学教師のヘルムートが教室に入ってきた。

 

「授業を始める! 私語は慎むように。今日は最後にテストをするからそのつもりで」

「えぇ~っ、そんなの聞いてないよ~」

 

 助かった……。何しろ財布の中には五百クレジットしかなかったのだ。

 どう言い逃れしたら良いか考えあぐねていたマリーベル・リプル―その正体はジオンアフリカ方面軍所属のプルフォウ大尉―は、心の底からほっとした。

 冗談じゃない。こんな目に遭うのもあの忌々しい少佐のせいだ!

 着慣れない服、パイロットスーツとは何も共通点がない服、リボンが着いたブレザーとひらひらしたスカートといった制服に身を包み、自分は女生徒の真似事をしている―。この状況は到底承服できない。だが、軍人として上官の命令は絶対なのだ。

 

 この秘密作戦、コードネーム《ロストエメラルド》を立案したのはネオ・ジオン残党軍諜報部付きの専任少佐で、プルフォウをミーミスブルン学園に生徒として潜入させると決めたのも彼だった。

 プルフォウは、自分はパイロットでスパイではないと強硬に反対したのだが、少佐は彼女が適任だと決めて譲らなかったのだ―。

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