プルフォウ・ストーリー0092 失われたエメラルド   作:ガチャM

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宇宙世紀0092年。アクシズ親衛隊の生き残りプルフォウは地球にいた。アフリカ戦線でエースパイロットになっていた彼女は、あるとき特殊任務を命じられた。それは地球で身を隠している要人を宇宙に脱出させるというものだった―。

■デザイン協力 
アマニア twitter @amania_orz
おにまる twitter @onimal7802
かにばさみ twitter @kanibasami_ta
ねむのと twitter @noto999
田舎太郎 twitter @jegotaro

■設定資料
ティプレ・アン(デザイン:おにまる)
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ジェシカ(デザイン:ねむのと)
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エミリー・バルド軍曹(デザイン:アマニア)
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オスカー・ウィルフォード大尉(デザイン:田舎太郎)
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※Pixivにも投稿しています。


第7話「潜入任務」

     6

 

 

 

「姫様が地球にいらっしゃる!? それは確かな情報なのですか!?」

 

 プルフォウは、上官であるゲオルク少佐から衝撃的な情報を聞いて、思わず声をあげてしまった。

 なにしろ、この数年間行方不明とされていたジオン公国の姫君ミネバ・ラオ・ザビ殿下が、ここ地球に滞在しているというのだ。それが本当の話だとすれば、重要機密扱いで、噂話でも話してはいけないレベルの情報である。

 だが、少佐から渡されたコンピューター・パッドには、確かに事実だと裏付ける命令書が表示されていた。しかも命令書にはあのシャア・アズナブル大佐の署名すら書かれていたのである。

 

「こ、これは……」

 

 今から五年前の宇宙世紀〇〇八七年、地球と火星との間にあるアステロイドベルトに位置する資源衛星アクシズは、ジオン復興を掲げて万難を排して地球圏に帰還した。そして摂政である女傑ハマーン・カーンは、一年戦争の英雄ドズル・ザビ中将の娘、ジオンの忘れ形見ミネバ・ラオ・ザビを姫として擁していた。

 

 そのミネバ殿下が本物であるという保証もなかったが、間違いなくアクシズ内で敬意が払われていたことは事実だった。彼女はジオンの希望であり象徴だったのだ。

 しかしプルフォウが訓練を終えて親衛隊としての任務に就いたとき、すでにミネバは影武者にすり替わっていた。地球連邦軍との戦争や内乱によって組織は混乱し、彼女の立場も危うくなっていたのである。それ以来、本物のミネバ・ラオ・ザビ殿下の行方を知るものはおらず、一部では死亡したという噂も流れたほどだった。

 

「姫様が、第二次ジオン独立戦争時に行方不明になったのは知っています。私は姫様の影武者と友人でしたから。彼女が話していたのです、ミネバ殿下は安全な場所に逃がされたのだと」

「聞いたことがあるよ」

「その姫様が、なぜ地球に?」

「さあ、わたしも詳しくは知らない。この数年間行方が知れなかったからな。だが、ここにきてダイクン派から情報がもたらされたのだ」

「ダイクン派? つまりシャア・アズナブル大佐が、生きているということですか?」

「そのとおりだ。シャア大佐は月の軌道外で独自の艦隊を編成し、近々地球連邦軍に対して大規模な反攻作戦を計画中らしい。だから安全のために殿下を地球から宇宙へ脱出させろということなんだ。指揮系統上は我々に命令なんか出せないんだがね……」

 

 ゲオルク少佐は少々不満そうな態度をとる。ジオンで大きな影響力を持つシャア大佐が組織したとはいえ『新参者』の組織に命令されるのが気に入らないようだった。いまや勢力が弱まった地球のジオン残党軍ではあるが、古参の生粋のジオン軍なのだ。

 

「姫様に危険が及ぶので、地球から逃がそうと? まさか再度コロニー落としを?」

「まあ、あり得る話だろう。……そのときには、前もって俺たちにも情報が欲しいところだな」

 

 少佐は肩をすくめて言った。

 

《コロニー落とし》とは、宇宙に浮かぶ人工都市スペースコロニーを地球に降下させ、そのまま質量爆弾として用いるという、非道かつ乱暴な攻撃手段だ。一年戦争の開戦時に奇襲で地球にコロニー落とし作戦をしかけたジオン公国は、文字通り悪魔のような国家として永遠に人類史に記憶されたのだ。

 

 だがコロニー落としという攻撃手段は、実はあまり効率の良いものとはいえなかった。占領対象である地球の都市ひとつを消滅させ、さらにスペースノイドが宇宙に住む台地、基盤をまるごと失わせてしまうのだ。長期的に考えれば結局は攻撃者自らの首を絞める行為なのである。

 

 またスペースコロニーは、重力を発生させる自転エネルギーをなるべく少なくし、加えて建造コストも抑えるために、大きさの割にかなり軽量に作られていることも問題だった。それゆえコロニー落としの最終段階では大気圏突入の際の衝撃に耐えられず、ほとんど崩壊寸前の状態で地表に落ちてゆくのである。

 派手な作戦の割には質量爆弾としての威力は低く、戦略的には相手を脅して恐怖させて、交渉を有利に進める意味合いが大きい。もし本当に効果的な質量爆弾攻撃を仕掛けたければ、コロニーより中身が詰まった巨大な隕石を用いるべきだろう。

 

 ともかく、そんな政治交渉目的の過激なパフォーマンスのために、味方に頭から潰されたらたまらないというゲオルクの意見には、プルフォウも賛成だった。

 

「今回の作戦のために、ザビ派のわれわれも、さらなる支援や補給が受けられるのでしょうか?」

「それはあるだろう。ジオン独立を理念とするのは共通だからな。本家や分家みたいなものだろうが、潰れそうな家で身内で争っても仕方がない」

 

 ジオン公国、ネオ・ジオン、そのどちらもが身内の派閥争いで自滅したことを、プルフォウは思い出していた。

 とはいえ支援という意味では、地球のジオン残党軍に対する宇宙からの補給は増えつつあるのだ。

 

 彼女の愛機であるAMX-021X《ベルグソン》も新生ネオ・ジオン経由で宇宙から降ろされたもので、さらにAMX-009《ドライセン》やAMX-011《ザクⅢ》といった、比較的新しい部類に入るモビルスーツも搬入されている。

 しかしながら、捨てるよりは厄介払いで送りつけた方がましというような機体もあった。特務仕様と聞こえは良いが、どうみても冗談で設計したとしか思えないモビルスーツが補給機体の中に混じっていたのだ。

 象のような長い排気ダクトを有し、両腕に大砲をそのまま取り付けた鈍重そうなモビルスーツMSM-04G《ジュアッグ》は特に酷いものだった。実に旧ジオン公国時代の十三年前の機体である。

 

 プルフォウはいったいどうすればあのような酷い兵器が開発できるのか、疑問に思うと同時に腹を立てた。おおかた現場を知らない、頭でっかちの技術者が思いつきで作ったのだろう。そして負け戦で混乱した軍部は、こんなポンコツでも祖国を救う超兵器に見えたに違いない。パイロットとして、動く棺桶には乗りたくないものだ。

 

「それで、わたしの任務は何なのでしょうか?」

「うむ。大尉には、姫様が滞在しているという寄宿制の学園《ミーミスブルン学園》から彼女を連れ出して、宇宙に脱出させてもらいたいのだ」

「潜入任務なのですね」

「そうだ。ただし、きみには生徒として学園に潜入してもらう」

「……えっ?」

 

 その指令を聞いたとき、プルフォウは数秒間ゲオルク少佐が何を言っているのか理解できなかった。普段より冷静さを常とする彼女が混乱するというのは珍しかったが、文字通り頭の中が真っ白になってしまったのだ。

 姫様を連れ出すというのは分かる。だが『生徒として』とはどういうことなのか?

 ゲオルク少佐が冷めたコーヒーを飲むのを、プルフォウはじっと見つめた。

 

「……少佐の仰ってる意味が良く分かりません」

 

 疑念の言葉が口から吐き出された。

 

「優秀な君らしくもないな。話したそのままだよ。学園の生徒に偽装してしばらく滞在し、適切なタイミングで姫様を宇宙に上げるということさ」

 

 呆然と佇むプルフォウに対して、ゲオルク少佐は大した任務でもないだろうといった様子だった。彼女の年齢は十四歳だから、モビルスーツを操縦するよりは生徒のふりをする方が遙かに自然で簡単なことだと少佐は考えているに違いなかった。

 こんな馬鹿な任務を承服できるわけがない。

 

「お言葉ですが、まともではありません少佐! わざわざ生徒として潜入しなくても、誰かが学園の職員を装えばいいのでは? まったくまわりくどい作戦です。自分は子供の真似などできません!」

 

 プルフォウはパイロットである自分に女生徒のふりをしろという、あまりに理不尽な命令に猛然と抗議した。

 

「大尉、ただ乗り込んで行ってミネバ・ザビ殿下を連れ出せばいいわけじゃないんだ。内部の状況はよく分からないのだからな。しかも任務の性格上、周囲に悟られないように連れ出さなくてはならないのだ。調査をしつつ脱出プランを考える必要がある。アドリブと柔軟な対応が必要な、非常に困難な任務だよこれは。頭脳明晰な君には適任だろう? それに気を悪くしないで欲しいんだが、大尉の見た目は紛れもなく少女なのでね」

「……」

「不満はあるだろうが、生徒として自然に振る舞えるように、専門家から七日ほどレクチャーを受けてもらいたい。まあ文化や習慣なんかだな。君はすぐに士官学校に入学したから、普通の学校に通ったことはないのだろ?」

「姉妹と一緒に、施設で教育を受けたことはあります」

「それは有能な軍人になるための英才教育だな。大尉は親衛隊だったと聞いている、普通の子供とは少々異なった環境だ」

「それが任務でしたから」

「だからこそだよ。努力して十四歳らしい女の子になってくれ」

「しかし……」

「大尉、これは命令だ。文句をいわずに実行しろ。命令違反は独房で過ごすことになる。それよりは学園で気楽にすごす方がいいんじゃないか?」

 

 プルフォウはゲオルク少佐の、脅しともとれる命令に腹が立った。部下に命令を承諾させるテクニックなのだろうが、こういう性格が、部下にいまいち信頼されない理由なのだとは口にできなかった。

 

「了解しました。プルフォウ大尉、これより任務の準備に取りかかります。自分も、あんな使ってもいない独房で過ごすのは御免被ります」

「いちおう掃除はしているよ」

「少佐。あの部屋、隙間からサソリが入ってくるという噂ですよ?」

 

 プルフォウは少佐に敬礼してから部屋を出た。そして渡された指令書に従って、女生徒を促成栽培するための訓練部屋(グリーンハウス)へと向かった。

 

 そこは本来は、新米パイロットの訓練や、能力に劣るパイロットが再教育される施設だ。

 なんという屈辱。

 普段は自信に満ちあふれて颯爽と歩く彼女の足取りは、今は足枷でも付けているかのように重かった。

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