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「全員、整列」
白い部屋にて、病衣に似た服を着た子どもたちが合図と同時に姿勢を正す。
いつものように。ひとりの男子が倒れる。息は荒く、顔色は青に近い。おそらく、ストレスなどによる過労だろう。この施設の厳しい教育に身体と心が付いて行けなかった。だが、俺はそんな奴には見向きもしなければ、心配も同情もしない。
なぜなら、そいつはもう敗者だから。このフィールドにおいて、脱落は敗北を意味する。前を向く。次の指示を仰ぐために、そして唯一の勝者になるために。
―――俺はまた、いつものように―――
◇◇◇
俺がこのE組、いや、暗殺教室に来てから数日が経過していた。案外、俺の危惧していた友人関係の構築はうまくできていた。
まず隣の赤羽だが、最初に話し掛けてくれたこともあり、かなり距離も縮まった…よな?
俺が自意識過剰の勘違い野郎じゃなかったら、の話なんだが…。
あとは、学級委員の磯貝や片岡が積極的に話を振ってくれている。第一関門はなんとか越えることができた感じだ。ふぅ…良かった。
さて、近況報告はこのぐらいにして次は体育の授業だ。着替えて外に出ないと。
「ねぇ、零斗くんはなんでE組に来たの?別に答えたくなかったら良いんだけど…」
そう言って俺に近づいてきたのは、俺よりかなり背が低い男子だった。こいつはたしか…
「えーと、潮田…だよな?別に隠すようなことじゃないしいいさ。転入試験でちょっとやばい点数を取って、それで理事長直々にお前はE組行きだって言われてな…」
「そっか、理事長に…。あの人ちょっと怖いよね…」
「あぁ、怖いなんてものじゃなかったぞ…。あのラスボスの風格と言い、もう会いたくないんだがな…」
「あはは…。あっ、もう授業始まるよ。急がないと」
グラウンドに皆が並んでいる。
「あぁ、早く行こう」
◇◇◇
「いっち、にぃ、さーん、し、ご〜、ろく…」
俺たちは今、準備体操をしている。対先生用ナイフを携えて、だが。
体育の授業は烏間が受け持っているのだそうだ。なんでも、殺せんせーにやらせるとマッハで反復横飛びをしてあやとりまでしだすらしい。
まぁ、基本性能が違うし体育は人間にやってもらわないとな…。
「よし、ナイフの素振りはそこまで!次は俺と模擬戦をやってもらう。零斗くんはまだ慣れていないだろうから、暫く見学していてくれ。君の能力も知りたいので最後には戦ってもらう」
いや、まじかよ…。いきなり実践か…。しかも、よりにもよって最後とか…。
「…はい、わかりました」
…どうしたものか。正直なところ、俺が本気を出さなくとも烏間には確実に勝てる。ホワイトルームでは、戦闘の訓練もしていたためだ。だが、ここで烏間を倒してしまったら、絶対に目立つ。
俺は目立つつもりは毛頭ないんだ。いい感じに善戦したように見せて負けるか。
お、模擬戦始まったな。
まずは、磯貝&前原のイケメンコンビだ。……イケメンってなんでもできるのな。
あの二人相当な運動神経だ。軍人の烏間をけっこう追い詰めてるぞ。
「だが、まだまだだな」
そんな言葉と同時に烏間は磯貝と前原の腕を掴んで一回転させる。
「うわぁ!」 「うぉっと!」
「以前よりもナイフの太刀筋は良くなっている。あとはナイフを振るスピードだな」
「くっそ、やっぱ強ぇな…。烏間先生」
「あぁ、俺たち二人がかりですら、一回も当たらないなんてな…。こんなんじゃ、殺せんせーを暗殺するなんて到底無理だぞ…」
その後も個人でやる奴もいれば、コンビを組んで烏間に挑む者もいたがナイフは一度たりとも当たることはなかった。
「さぁ、零斗くん。次は君の番だが動けるか?」
はぁ…遂に来てしまったか、俺の番が。まぁしょうがない、程々にやるか。
「大丈夫です。準備はできてますから」
そう言って俺は構える。最後ということもあってかクラスメイトが見てくる。てか殺せんせーまでいるんだけど…。
「では、皆と同じようにこの対先生用ナイフを俺に当てたら君の勝ちだ。先手は君に譲ろう」
「じゃあ、いきます」
ナイフを逆手に持ち、烏間の顔面目掛けて右から斬りかかる。それを避けられるのはわかっているので今度は上段回し蹴りで畳み掛けてみた。
「ふむ…、悪くない」
が、烏間は右手を器用に使って俺の足を防いでいた。…流石だな。ここの体育教師をしているだけのことはある。
「よっ…と」
お次は、左ストレート(威力抑えめver)。これを本命と見せかけての…、右手のナイフを下から上と勢いよく持ち上げる。
しかし、俺の右腕は烏間に掴まれてそのままぐるりと視界が180度…なのかはわからんが回った。…背負い投げか。そうして俺の身体は…
「いって…」
地面へと倒れていた。よし、シナリオ通りじゃないか?
「すまない、怪我はないか、零斗くん?」
烏間が俺に手を差し伸べる。
「えぇ、無事です。ありがとうございます」
俺はその手を支えに立ち上がる。
「中々良い動きだった。これからの訓練次第で格段に伸びるだろう」
「…まぁ、当分は打倒烏間先生目指してがんばりますよ」
「…良い心掛けだ。では、今日の授業はここまで!」
「「「ありがとうございました〜」」」
「ねぇねぇ、さっきの零斗くんの蹴りすごくなかった?」
「うん、かっこよかったなぁ〜。私もあんな風に動けたら烏間先生褒めてくれるかな〜?」
さて、校舎に戻るか…。
「やるじゃん、零斗くん。烏間先生にあそこまで言わすなんてさ」
「赤羽か…。俺にしてみれば、お前の方が動けていたと思うんだがな…」
「それにしたってすごいよ。僕にはあんな真似できないかな…」
潮田が言う。
「まぁ、どちらにせよ殺せんせーを殺すのはまだ無理そうだな…」
◇◇◇
「真宮零斗…か」
授業を終えた俺は、今日の模擬戦を振り返っていた。特に真宮零斗との試合を。
俺に言わせれば、あれはやや強い程度。だが、彼の腕を掴んだ際に俺はある違和感を覚えた。
服の上からだったが、とても中学生とは思えない筋肉の付き方をしていた。
それこそ、軍で長い間訓練をしていたかのようだった。加えて、その違和感は彼に背負い投げを決めたときにも感じた。手応えがなかった。まるで彼の掌で踊らされているかのような。
あの様子ならば、おそらく受け身も取っていたのだろう。
「君は…、いったい何者なんだ?」
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