至天堂灯守が自らの個性――『インフィニットメイビー』の使い方を完全に理解したのは、彼が十一歳の頃だった。
『インフィニットメイビー』は可能性を分身体として具現化することができる。
分身が同時に別々の行動を起こすと、最も望ましい結果の一つを真実として確定させる。すると、真実と確定した至天堂灯守こそ結末となり、残る分身は可能性の一つに過ぎない想定として存在が抹消される。もちろん、消えた至天堂灯守の『行動』もこの世からなかったことになる。
これにより、彼は常に自分の人生に保険を掛けることが出来た。
例えば、登校中に不慮の事故で死んでしまうかもしれない。学校に不審者が侵入してきて殺されるかもしれない。一秒先、一分先の自分が生きているか確証が持てない。そんな日は、自宅に分身を一つ待機させておけばいい。
もしも外出中に命を落としても、自宅の可能性が死なない限り、至天堂灯守は不滅となる。
作り出された可能性の分身は、全てが本物であり全てが偽りだ。正解はなく、結果は常に後付けである。確立されているのは至天堂灯守の“意志”だけ。それを宿すのがどの至天堂灯守なのかは不明だが、とにかく、彼という存在の意志は一つだけだった。
──上手く運用すれば無敵も同然だ。
灯守は当初、そう考えていた。
事実、最強ではなかったが、無敵──というか不死同然だったのだ。
あとは自分がどう巧みに立ち回るかが問題だ。
彼はそう考え、研鑽を重ねたが──結果として『インフィニットメイビー』は“無敵”であり、“最強”でもある可能性を秘めていることが判明した。
どうやらその用法は分身を作ることだけにとどまらない。
大前提として、『インフィニットメイビー』は突然変異型の個性である。遺伝には由来しない。
しかし、“もしも父方の個性を遺伝していたのなら”──。
“もしも母方の個性を遺伝していたのなら”──。
振り返り、遡り、落ちて、上り、降って、更に遡る。
自分という人間が成立するよりも先、受精卵よりも以前の可能性。
そうして多望は
父方の“増強系”個性を継承していた場合の最強型である『ビーストナンバー』。
母方の“ワープ系”個性を継承していた場合の最強型である『シフトナンバー』。
これら二つの個性は『インフィニットメイビー』に内包してあるものであり、数年の訓練の末に、灯守は任意のタイミングで引き出すことが出来るようになった。
言うなれば、『インフィニットメイビー』は銃であり、『ビーストナンバー』と『シフトナンバー』は弾丸である。装填し発射できるのは一度に一つまで。
複合的個性の可能性も何件か存在していたが、そのどれもが“増強系”と“ワープ系”の強度を下げ、混ぜ合わせたかのような中途半端なものだった。灯守が『ビーストナンバー』と『シフトナンバー』をそれぞれ単体の手段として運用しようと考えたのは、そのためだ。
しかし、それらは単体の手段であって、用途は単一の目的に限定すべきではない。
二つの
胸の灯してから誰にも明かしたことのない、彼の夢を実現させるために。
◇◆◇
──季節は流れ、雄英受験当日。
筆記試験は恙なく終了し、灯守たちは実技試験に移っていた。
概略すると、実技試験の内容は別々の演習場で行われる仮想
「私の会場Bだ」
「僕はFだった。まぁ、会場は別でもクラスは一緒になれるといいな」
「いや気ぃ早いよ! 早い!」
緊張しているのか、表情が硬い拳藤の肩を軽く小突く。贔屓目で見ずとも、彼女は優秀な学生だ。自分の個性の使い道を正しく理解し、要所要所でどう活用できるかを適切に判断できる。
心配するまでもない。灯守は自分の合格を既に確信しているのと同じくらい、拳藤の合格も予感していた。
「楽に行け。君も合格だよ。僕と同じ」
「何を言ってるんだか。お前審査員じゃないじゃん」
「はは、それじゃ武運を祈るよ」
F会場は既に受験生たちの喧噪で溢れていた。
男も女も活気強く、猛々しい目をしている。ヒーロー科最高峰の雄英を受けるだけあって、既に競争の闘志を固めてきている者が多数だ。
そして、灯守も同じく一つの決意をしていた。
──アレを人前で使うのは、初めてだな。
流石に『インフィニットメイビー』だけで実技を突破できると思う程、驕ってはいなかった。弾倉が空の銃は武器として有用じゃない。
ここからの至天堂灯守は常に本気だ。No1ヒーローになる――その為に、もう一瞬たりとも遠回りできないのだから。
『ハイスタート―!』
唐突に告げられた試験開始の鐘。
他の受験生たちが面を喰らう中で、至天堂灯守は間髪入れずに
「『シフトナンバー』」
──一体、いつから?
別の意味で誰もが言葉を呑んだ。
既に試験が始まっているにも関わらず、その光景を前に制止しない者はいない。モニター越しに見ている審査員でさえ、
先程まで至天堂灯守がいた筈のそこに立っていたのは、月のような銀色の美貌の少女だったのだから。
「……オイ君、ぼくの顔に何かついてるか?」
「え、あ、いや、別に……」
「ならジロジロ見るな。他の奴らもだ。『スタート』って聞こえなかったのか!?」
少女は周囲を固めるように立ち竦む野郎(若干数名女子も)どもに、辟易するように怒鳴った。
実の所、『シフトナンバー』の使用を今の今まで避けてきたのは、こんな事態が想像に難くないからでもあった。
客観視しても、まぁ、この少女は可愛いのだろう。
しかし、中身は男だ。ちゃんと女子をある程度恋愛対象としてみる異性愛者の男だ。現在進行形で「僕っ娘だと!?」だとか「強気な物言いがタイプだ……!」とか言われてるが全く嬉しくない。というか何個か性的な目を感じて普通に吐き気がする。
至天堂灯守にはある意味悲劇である。
母方遺伝の個性の最強型が、まさか女性の肉体だなんて。
(まぁ、仕方ないか)
気を取り直して、至天堂灯守は近場で最も高いビルの屋上にワープした。
『シフトナンバー』の移動可能範囲は半径五百メートル以内である。範囲が広いのは当然だ。彼女が至天堂灯守と同一人物なら、間違いなく今まで血の滲む努力を重ねてきている。個性を極限まで鍛え、強度を上げていても自然だろう。そして、それを自分の手足のように使いこなしたとしても。
ビルの屋上から会場を見渡してみると──至る所に仮想
見渡す限りの景色を総合して判断すると、灯守はこの会場の仮想
「そこまで頑強そうなロボじゃない。余裕だ」
しかし、試験の説明で『アンチヒーロー行為はご法度』と念を押されている。意図して他受験生と進行方向を重ね、ポイントを横取りすることは妨害に該当するかもしれない。
「……
ワープして、倒す。
ワープして、倒す。
ワープして、倒す。
機械の関節部分を効果的に破壊し、行動不能にする。木っ端微塵のような破壊は不可能でも、“弱点”を突けば行動不能に追い込むことは容易い。仮想
結果、会場のポイントの二割近くを獲得し、その後は高所で高見の見物を決め込んでいた。
◇◆◇
「や~終わったね~」
「終わったな」
「そういや至天堂、聞いたか? どっかの会場に異次元の美少女がいたらしいぞ」
「へぇ」
「ほんと、この世の者とは思えないくらい美人だったらしくて──」
「──天地神明に誓って断言する。それは君のことだよ」
「…………ふぁっ!?」
一喜一憂する一佳と共に、結果発表を待つ日々を送る。
そして中学卒業間際といった頃に、灯守の実家にビデオレターが届いた。
閑散とした豪邸に、雄英教師となったオールマイトの快活な声が、場違いなくらい明るく響く。
『筆記の満点のみならず、実技なんてぶっちぎり! 完璧超人め! 文句なしの主席合格だよ、至天堂少年! いや、少女かな!? ぶっちゃけ君の性別がよく分からないけど……うん、とにかく来いよ! ここが君のヒーローアカデミアだ!!』
「……」
嬉しくない訳がないが、飛び跳ねて喜ぶような情熱もない。いつしか性根の冷め切った自分に苦笑しながら、灯守は焼香台に置かれた両親の遺影を見た。
「ようやく一歩だね。父さん、母さん」
暗然とした寂しい邸宅で、中学三年生にしては達観しすぎた少年の声が通る。応える者など誰もいない。ひたすらに冷たい空間に、焼香の匂いが残るだけ。
それでも、灯守の瞳には燃えるような決意が湛えられていた。
「必ず、僕が時代を作ってみせるよ」
◇◆◇
中学の卒業式を明日に控え、夜も更けてきた頃合いだった。
夕食も入浴も済ませ、寝床に着こうと寝間着に着替えている最中に、至天堂家の固定電話が鳴った。
非常識な時間帯の電話に顔を顰めながらも、無視することはできない。要件を聞くついでに注意の一つでもしてやろうと、渋々と受話器を取る。
「はい。至天堂です」
『あっ、こ、こんな時間にすみません! 私、至天ど……と、灯守くんのクラスメイトで拳藤一佳って言います! あの、灯守くん、まだ起きてますか?』
「……拳藤?」
どうやら通話相手はこちらを家主か何かだと勘違いしているらしい。
そういえば、至天堂家の両親が既に他界していることは、まだ拳藤一佳に話していなかった。
「僕だよ、その至天堂灯守だ。受話器越しの声はそんなに普段と違うかな」
『あぁ、お前だったんだ。ごめんな、こんな時間に』
「それは聞いたよ。どうして電話なんて?」
かねてより一佳に家の電話番号は教えていたが、実際に連絡が来るのはこれが初めてのことだった。わざわざ閑談するために固定電話を挟むのは忍びなかっただろうし、必要な連絡も学校で済ませばいい。実際、明日会うのだ。
きっと、今でないといけない話があるのだろう。
「大事な要件なんだろ?」
『いや、大したことじゃないんだけどさ。ともかく、今から会えるかな?』
即答するのは憚られたが、返事は決まっていた。
女子からの呼び出しなんて始めてだなんて思いながら、その要望に応じる。
「分かった。場所は何処にする?」
『じゃあ、学校裏の公園で』
「了解した」
学校はちょうど、灯守と一佳の実家の中間地点にある。直接落ち合うには結局、あの場所が丁度良いのだ。
灯守は電話を切ると、手早く外出の身支度を終える。
呼び出された立場とは言え、待ち合わせた女子を待たせるのは心苦しかった。
公園に一佳の姿はなかった。先に着いたようだ。
灯守はブランコで時間を潰すことにした。
こんな遊具で遊ぶなんて、保育園以来のことだ。座板の揺れに伴う重力の動きが、存外心地良い。雪解けの風は少しだけ冷たかったが、童心を思い出させてくれた。
「あはは」
自然と灯守は微笑んでいた。
(楽しい、コレ)
「何やってんの」
ざざっ。
両脚でブレーキをかけて待ち人と顔を合わせる。一佳は呆れ一色といった表情だった。
夜の公園で笑いながらブランコを漕ぐ十五歳。確かに少し珍妙だ。通報されるかされないか、線引きの難しいギリギリのラインである。恥ずかしいところを見られてしまった。
「暇だったんでな」
「……もしかして、待たせた?」
「十五分待ったが、気にするな」
ここで『いいや、今来たところだ』と言えていたのなら灯守の男も上がっていただろうが、彼にそんな器量は無かった。
「十五分は微妙に申し訳ないな……」
「本当に気にしなくていい」
「……うん、まぁ、一人でもお前は楽しそうだったしな」
「オイ、少しくらいは気にしろ」
「気にするなって言ったよな!?」
「君は本当に配慮が足りないな。寒い中待ち惚けを喰らった僕に、温かい飲み物の差し入れくらいあってもいいんじゃないか」
「なんで毒づいてんの?」
少女は遊具を囲う柵に腰を下ろした。
「雄英、受かった」
「知ってる。いや、知ってた。僕も受かったよ」
「いやぁ、良かった……本当に……」
堰を切ったような安堵の言葉だった。驕ることも謙遜することもなく、本気で受験前から合格を確信していた灯守と、この少女とは致命的に違う。
見えない将来が花開く気配を、一つ一つの小さな成功の積み重ねが醸し出している。
だからこその不安があり、感動がある。
それは至天堂灯守がとうに捨てた感情だった。
決まった未来だけを見据えて最短距離を走る彼にとって、拳藤一佳のような青春は、一度手放したからこそ羨ましく思える宝石だった。
「嬉しいか?」
「逆にお前は嬉しくないのかよ」
「そうじゃないけど、……あんなのは通過点だ」
「またそんなこと言う。どれだけ冷たい事言ってさ、リアリストぶっても、私はお前が誰より熱い奴だって知ってるんだ」
言ってから、少女はぼそりと付け加えるように、
「……私がここまで頑張れたのも、お前のお陰だし」
それを灯守は聞き逃さなかった。
「施した覚えもないのに感謝されるのは妙に感じるな」
「お前は居るだけで良かったんだよ。それだけでたくさんくれたんだよ」
かれこれもう一年近い付き合いになる。
だが、今のように甘酸っぱい雰囲気は前に一度経験したきりだ。
呼び出された主旨が、単なる合格祝いということはないだろう。そんなのはもう教室で済ませた。
「言っていることの意味が分からない」
灯守なりの予防線だったのか、期待を込めて踏み入ったのか、本人にも分からない。
「つまりさ」
ただ、拳藤一佳は既に心を決めていたんだろう。
少女の語気に淀みはなく、少年を見据える瞳に揺らぎはない。
「私が頑張れたのは、お前と一緒にいたかったからだ」
頬を撫でる風を目で追うように、灯守は一佳から顔を背けた。
「流石に意味、分かるだろ」
「……さぁ、分からないな」
「言わせるなよ、男子」
核心を突こうとしない婉曲的な会話は、灯守の影響だろうか。
困惑。動揺。焦燥。そして狼狽。
こんな日を予見出来ていた気もするし、全くの予想外を射られた感触もある。もし予見できていたのなら、至天堂灯守はそれを期待なんてしてないかったし、むしろ恐れていただろう。
ともすれば、こんな日の為に一歩周りから身を引いたような自分を作っていたのかもしれない。
自虐的になる程、相手の心理が分かってしまう。
相手の望む答えと、自分の望む答えは出ていた。
「君がいなかろうと、僕がいなかろうと、君も僕も同じ結果を残せたはずだ。君も僕も、受かってた」
「お前はそう思ってるのか」
「そう思う」
嘘だけは、ついていない。
至天堂灯守の夢も、拳藤一佳の夢も、他人に補強されなければ立てない程脆い筈がない。
相手が敬服する友人であるからこそ、そんな理解がある。
「楽しかったな」
「終わりみたいな言い方をするなら明日にしないか?」
「……うん」
風がたまに運んでくる緩やかな温もりから逃げるように、腰を上げる。今、この場で会話を続けるのはあまり良くない。
ブランコから離れ、公園の出口の歩を向けると、
「でも、私はこのままじゃヤだ」
彼女は逃がすまいと立ちはだかった。
「ん。握手。寒いから握って」
「……」
断る理由はないと、そう信じたかった自分が、一瞬だけいた。
でも、少女に差し出そうとした右手がどうしようもなく赤く染まってるように見えて、そんな期待も打ち砕かれる。
……断る理由が、そこにあった。
「拳藤。そういうのは辞めろ」
「え?」
「そういう熱い目で僕を見るな」
少女が息張る。
流石に残酷だろうか。
そんな風に感じながらも、少年は心のままに発言した。
「──さもないと友達、辞めなきゃいけなくなる」
──彼が、彼女に腹を割るなんてことはない。
それが許されない未来を導くと知っている。
少年は、それを拒絶できない自分を知っている。
だから願った。
やめてくれと頼み込んだ。
「何を、言い出すんだよ。怒ってる、のか……?」
少女には分からない。
「ごめんよ、至天堂。やっぱ、こんな時間に呼び出したのが悪かったのかな?」
「そんなの気にしてない」
「確かに、私はお前にたくさん迷惑かけたな。今、ここで全部謝るから、聞いてくれよ」
嫌だと、懇願するようなその目は物語っていた。
輝いて見えた優しい少年を、少女にとっての勇者を、彼女は求めてやまない。強欲な自分を決して諦めたくない。
拒絶されたくない。受け入れて欲しい。──お前が欲しい、と。
そんな胸中が透けて見える。だから、灯守の目は冷たいままだった。
「謝るな。怒ってないし、君と喧嘩もしたくない。ただ、そういう目で見ないでくれって言ってるんだよ」
「そ、そういう目って、どういう……?」
「分かるだろ」
的を射ない会話が少女の心臓を締め上げ、頬を朱に染める。一佳は俯き、灯守の顔を直視しないようにした。
そんな時、
「 あ の ゥ 」
闖入者がいた。
汚れた布を纏って総身を締め上げている。
公園の遊具なんて、半歩で横断するんじゃないかという程の巨人だった。異形型の個性か。
「道を、お尋ねしたい」
夜の公園で口論を繰り広げる灯守と一佳もそうだが、男はどう見ても不審だった。
「申し訳ない。今は取り込み中ですので他所を……」
「至天堂灯守、の、家を、探しています」
「は?」
一佳の声音が切り替わる。
確かめるように灯守を見ると、少年は首を振ってそれを否定した。彼の交友関係にあんな巨人は含まれていない。
「至天堂、灯守の家、を、探して、います」
一歩、男は歩み寄る。
地面に亀裂が入った。
「どうして僕らがそれを知ってると思ったのかは置いておいて、まず、貴方は至天堂灯守の何ですか? 彼の両親の関係者、とか?」
「知って、いるんですか。教えて、くれない、んですか」
「……」
気が立っていて自棄を起こしていたことを、灯守は否定できないだろう。
質問に答えようとしない男の対応に、どうにでもなれと感じてしまった。
「僕が至天堂灯守だが」
不審者との駆け引きなんて知ったことか。
自分に引け目はない。正体不明の誰かが自分を探していたとしても、誰かに恨まれ、狙われるような道理はこちらにないのだから。
灯守は今までの人生、常に自分の正義を確信しながら生きてきた。
「……オォ」
だから、どうして狼狽える必要がある。
どうして逃げる必要がある。
どうしてこっちが怯えなきゃいけないんだ。
こういう理不尽が許せなくて、灯守には今の夢がある。
「おおおおおオオオォォォォォ!!」
突然雄叫びを発した男に、灯守の心は欠片ほども揺らがない。
ただ、彼の後ろで後ずさりする少女の身の安全は、間違いなく確保しないといけないだろう。
「逃げろ拳藤」
「あぁ、どう見てもヤバい感じだ!」
そう言って、逃げ出そうとした少女は、数秒遅れて気が付いた。
灯守が“逃げよう”ではなく“逃げろ”と言った、その意味を。
「主よ、今しばらくお待ちを……!」
男の身体が肥大化していく。
最終的に変貌を遂げたのは、先程とは比べ物にならない、市街地を覆いつくさんばかりの巨体にだった。
映画でしか見たことのない圧倒的に巨大な暴力の塊。
「至天堂!!」
「僕に構うな」
灯守は駆け寄ってきた一佳を押し飛ばした。
その直後、公園の地面を全て抉るような衝撃が一帯を包み込む。
地獄から轟くような地鳴りによって、少女は姿勢を保つことすらできなかった。
「そん、な……何が……?」
震動が弱まった頃、拳藤一佳はその光景に驚愕した。
巨人も、少年も、どこにもいない。
代わりにあったのは、公園を飲み込んだ巨大な穴だった。
(この音、まるで地中を掘り進んでいるかのような……ゴジラかよ)
至天堂灯守は冷静だった。
巨人男の両手に包み込まれたと思いきや、突然地面の中に攫われたのだ。
どうやら向こうに少年を殺傷する意図はないらしい。
(よりにもよって拳藤の目の前でとはな。彼女に余計な心労かけやがって、怪獣めが)
この大男にヴィラン殺しが加減する理由はない。
彼が情けを向けるのは、容赦する余裕と同情に値する理由のある相手だけだ。
黙って誘拐されてやったのは、この巨人と二人きりの状況になりたかったからである。
「『ビーストナンバー』」
大地が、爆発した。
◇◆◇
月を覆う黄金。
色めく烈火の双眸は、標的の命を狙って離さない。
「森か」
人里離れた位置に移動できた。
おかげで、もう何の憂慮をする必要もない。
思えば、初めてではないだろうか。アストラルとして、周囲への配慮をすることなく全力で戦える状況は。
「ニガさないィ……!」
「逃げるだと? 勘違いするな」
小人は巨人に吠える。
ここに兎はいないと。
「何者かは知らないが、ボクはお前を決して許さない。両親の魂に誓って必ず殺そう。今、ここでな」
アストラルは嘘をつかない。
出来ないことをやるとは言わないし。
やると言ったらするだけだ。
だから、彼に殺せない人間などこの世に存在しない。
太陽だろうと神だろうと、ヴィラン殺しが処すと断言したならその命の終わりは確定する。
「お前が死ぬか! ボクが死ぬまで! アストラルはもう止まらない! ヴィラン殺しを舐めるなよ!!」
それが、至天堂灯守の決めたこの世のルールだ。
主人公の個性の使い方は以下の通り。
①分身を使うときor②③を解除するときの台詞→「『インフィニットメイビー』」(②③の解除時以外は外見に変化なし)
②増強系を使う時の台詞→「『ビーストナンバー』」(アストラルに変貌)
③ワープ系を使う時の台詞→「『シフトナンバー』」(銀髪の少女に変貌)
①と②、①と③は併用可能。というか②と③は①に内包されたもの。よって②と③は併用不可。