夕方のターフを2人のウマ娘が駆ける。
今年の最強クラシック三冠ウマ娘トウカイテイオーと同レース全三着のウマ娘名脇役ナイスネイチャ。
だがその2人の走りは今までのレースとは全く異なっていた。
あのナイスネイチャがトウカイテイオーと並んでいるのだ。
下校途中のウマ娘たちは皆その異様な光景に足を止める。
それは例えG1を制したことのあるウマ娘でも同じだった。
スペシャルウィーク「スズカさん!どういうことなんですか?ネイチャさんがテイオーさんと並んでるなんて、、」
サイレンススズカ「多分だけど、トウカイテイオーは全力を出し切れてないんじゃないかしら。」
そんな2人の間に突然誰かが割って入る。
「それだけじゃない。ナイスネイチャがいつのまにか滅茶苦茶強くなってやがる。」
「完全にテイオーのしたい走りをさせてない。やるじゃねぇか。」
「ちょっと!いきなりなんですか!ってあなたは......。」
「嘘でしょ、いつのまにか日本に帰って来てたなんて。」
突然現れたカリスマに周囲から歓声が湧く。
ウマ娘たちの興味はレースではなくこの1人のウマ娘に向いてしまった。
それに対してそのウマ娘は呆れ果てた様子でその場に腰を下ろす。
「おいおい、私じゃなくてレースを見ろよ。ほらもう終盤だぞ。」
「このレースは見なきゃ損だ。」
2人は全く同じ速さで走り続けたまま、レースは終盤に差し掛かっていた。
ナイスネイチャが最後のスパートをかける、すでにトウカイテイオーは抜かした。あとはこのまま勝つだけだ。
負けたくない、負けたくない、負けたくない。
今日私はテイオーに勝つんだ!
脚が重い、呼吸が思うようにできない。ぶつかってくる風が身体を軋ませる。
今までのどのレースよりも苦しく重い。
目の前に大きな壁が立ち塞がっている。これ以上は無理だと警告のサインが頭に響く。
それでも諦めない。
今まで一度も超えられなかった。でもそれも今日で終わり。
未来を掴むためこんな壁ぶっ壊してでもその先へ。
きっとその先へ!!
トウカイテイオーの全身からは汗が吹き出している。
完全に満身創痍状態だった。スパートがかけられない。
もう加速できないどころか速度がだんだん下がってきている。
うめき声に似た息が何度も漏れている。
これまで一度も自分のペースで走れなかった。こんなことは初めてだった。
すでに2馬身差をつけられている。練習試合とはいえ無敗のテイオーにとって初めての敗北がすぐそこまで迫っている。
だが今トウカイテイオーは勝てないと分かっていてもせめて最後まで戦いぬこうなんて似つかわしくないことは全く考えていない。
それは何故なのか。何故まだ勝つ気でいれるのか。
それは彼女がトウカイテイオーだからだ。
その脳内に諦めるという文字は存在しない。
テイオーは無敵だからこそ帝王なのだ。
今この瞬間ナイスネイチャに対する考えを改めた。このウマ娘には全力でも勝てないと。
だったらより強くなれば良い。100%で勝てないなら120%出せばいい。
普通はありえないことだが、トウカイテイオーに於いてはありえないことではない。
彼女はこの土壇場で、さらなる成長を遂げようとしていた。
いつもとは違う2人でのレース、初めて見るネイチャの新戦術。
それによって封じられた筈の力がその才能によって再び甦る。
どこからそんな力が湧いてくるのか、残り100メートルであの状態からスパートをかけきった。
今トウカイテイオーは弱点を克服した。
皮肉なことにナイスネイチャが彼女をさらなるステージへと押し上げたのだ。
「絶対に負けるもんかぁぁぁ、ボクは無敗のウマ娘だぁぁぁぁあ!!」
後ろから最後の力を振り絞った声が聞こえる。
ここでナイスネイチャの唯一の誤算が露呈する。それは自分が後ろから詰められることに慣れていなかったことに対する認識不足だった。
逆転のためのピースが揃ってしまった。
じりじりと2人の距離が縮んでいく。
残り30メートルでもう一度トウカイテイオーとナイスネイチャが並んだ。
観客のボルテージも最高潮に達している。
少し抜いてはまた抜かれ、抜いては抜かれを繰り返す。
2人ともお互いの意地をぶつけあいながら前だけを見て走る。
決着は一瞬でついた。
勝者は、、、トウカイテイオーだ。