ターフの上で両手を広げ寝転がる。
完全に負けた、私はまたしても負けてしまった。
やっぱり私なんかが本気になっても敵わないんだ。
そりゃそうだ。いつも気怠げで一度だけ本気を出した人よりいつも本気な人のほうが健気でかっこいいに決まっている。
いつだって本気だった私は3年前にテイオーを見た瞬間にいなくなってしまった。
本物の才能と本気でぶつかり合って私のほうが劣ってるって理解するのが怖かった。
私はそんな状態で走っていれるほど強くなかった。
それでもこの3年間本気でぶつかっていたら結果は変わっていたのかも。
なんて考えるだけ無駄だけど。
もうこれで私の思いが伝わることも叶わない。
こんな状態でテイオーに恋の宣戦布告なんてできっこない。
すぐ隣でテイオーも寝転がっている。
汗ぐらいはかかせられたかな。
テイオーの整った横顔を見ていると、それに気づいたのかその顔がこちらへ向く。
「ひどいよネイチャ。今までずっとボクを騙してたの?」
その言葉が脳に直接伝えられたかのように頭に浸透する。
いつもとは違った熱で赤く頬をそめ虚な目をしたテイオーの状態とそこから息も切れ切れにして発せられた私の欺瞞を問い詰めるような言葉のギャップに私は言いようのない背徳感を覚えてしまった。
答えを返すことは出来ない。
何も言い訳の言葉が思いつかないし、身体がそれを許さないほど酸素を欲していた。
「でも良かったよ。有馬記念の前に本気が見れてさ。」
「本番の前にマークの対象を会長からネイチャに変えられたから。」
「え.....?」
「誇っていいよ、ネイチャはボクの第一ライバルに昇格でーす!」
嘘でしょ?私がテイオーのライバル?
ずっと後ろから追いかけることしか出来なかった。けど今はすぐ隣にいられる。
それが認められたことで私のこれまでの全てが認められた気がした。きっとこれが凡人に与えられる最高の評価だろう。
その言葉は私の闇を照らし私の全てを包み込んだ。
「覚悟しててよね!次も絶対勝つからさ。」
そういってテイオーは無邪気に笑う。
その様子に私もつられて笑ってしまった。
笑いながら思う。この底抜けの明るさはどんな闇でも照らしてしまうだろうな。
ああ、もうテイオーにならいいや。
トレーナーは諦めよう。大好きな2人が一緒になれる。
私はまたその行先を後ろから、いやすぐ隣で見守っていければそれでいいや。
それが私の幸せになるんだ......よね?
これでいいんだよね?
これ以上何を望むの?何を望めば良いの?
分かってる。本当は分かっているけど。
届かないものに手を伸ばし続けることがどれだけ辛いか。
それを望んで全てを失うのは耐えられない。
それも分かっているから。
「ねぇ、テイオー。」
「どうしたの?」
振り向いた顔が夕日を受けてパッと輝く。ほら太陽も応援してるよ。
「応援してるから。きっと幸せになってね。」
「うん、絶対に成功させてみせる!」
「ありがとう、ありがとう、本当にありがとう。」
どれだけ感謝してもし足りない。
この地獄を終わらせてくれてありがとう。
「じゃあ戻ろっか。」
いつのまにか立ち上がっていたテイオーに手を差し出される。
私は躊躇うことなくその手を力強く握り返した。
そうして起き上がったちょうどその時後ろから別の声が聞こえてくる。
「おーい!ネイチャ、テイオー!こんなところにいたのか。」
トレーナー?
遠くに走りながら近づいてくる人影が見える。
横のテイオーの顔がさっき夕日に照らされたときよりも輝いている。
探しにきてくれたことがよっぽど嬉しいんだろうなぁ。
神様私からもお願いします。テイオーの好きがトレーナーに伝わりますように。
「トレーナー!ボクはこっちだ...........
大きく振っていた手がいきなり止まった。一体どうしたんだろう。
少しずつ近づいてくるトレーナーがハッキリと見えてくる。
あれ?よく見たら横に誰かいる?
その姿がすぐ近くまで来てトレーナーの横にいるのがウマ娘だと分かる。
思わずあっと声が漏れた。2人の手はしっかりと握られていた。
恋人繋ぎだった。