SPEC~内務省国家保安局 未詳事件特殊事件対応課事件簿~   作:やまかえる

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ざっくり登場人物紹介

ボブ・シンカー:SOBRの部隊長を務めていた黒人男性。大戦時に親が難民としてロシアに亡命してからこちらで生まれた。未詳に飛ばされる。階級は中佐。

アレクセイ・シモノフ:"未詳"の課長を務める老齢のロシア人。階級は大佐。かつては現場で活躍していた兵士のようだが、今では昼行燈と化している。

AK-12:"未詳"にいた戦術人形。軍が発注したものの、とある理由により正式代用されず内務省行きを経てここに配属された。階級は現時点では不明。


File 1-1:予言者と死の予言

SIDE:ボブ・シンカー

 

突然の来訪から数分後。

大佐は2名の訪問客を応接用のテーブルに座らせると、自ら対面の座席に座り訪問客の男女への対応を始めた。彼らをここまで連れてきたソーコムはとっくに帰った後だ。

 

「いやはや......それにしても超有名なスヴィナレンコ議員先生がこのようなカビ臭い"未詳"にようこそ。スヴィナレンコ先生のお姿は、いつもテレビで拝見しております。」

 

先ほどまでの緩い雰囲気はどこへやら。仕事モードに切り替わったのか、大佐はずいぶんとへりくだった──悪く言えば媚びるようにして話を切り出し始めた。

一方で当のスヴィナレンコは辺りを不満げな顔で見渡していた。彼本人としてはここに来るのは望んでいた来訪ではないようだ。時折ため息までついている。

そんな彼をちらりと一瞥した後、彼の隣に座っている女性は懐から名刺を取り出し大佐に向けて差し出した。

 

「......申し遅れました。私、秘書のヤーシナと申します。」

 

「ああ、それはどうも。」

 

大佐が受け取った名刺に目を向けると、そこにはこの議員の所属する事務所の名前と連絡先、そして彼女の名前が記されていた。第一秘書、と冠しているため相当有能なのだろう。

その後ろで俺は自分の座席のPCで、スヴィナレンコのWikipediaのページを検索し調べていた。が、その傍で様子を眺めていたAK-12は俺が長々とした説明文を読んでいる途中でマウスを奪い取ると、閉じていた目を開き恐ろしいスピードでページを下へ下へとスクロールし始めた。結果として俺の視界はモニタ前に割り込んできたAK-12の後頭部で埋め尽くされた。

 

「勝手に触るな......。」

 

だが俺の抗議の声には全く耳を貸さず、しばらくして彼女はページの最下端まで到達するとモニタ前から退いた。

一方で大佐の方も応接を続けている。

 

「それで......有名な議員先生が私共に何のご相談で?」

 

「【たらいまわしにされる度にいちいち説明しなきゃならないのか】」

 

大佐が相談内容について質問した瞬間、スヴィナレンコはうんざりとした顔を浮かべたかと思うと、秘書の方を向き早口の英語でボヤいた。大佐は何を言っているのか分からないといった表情を浮かべいるが、ボヤかれた秘書の方は内容が分かっているらしく気まずそうな顔をしている。

するとその様子をつまらなさそうに眺めていたAK-12が、いきなり英語で口を挟んできた。

 

「【まぁそれがビチグソ警察野郎共のクソッたれな掟だもの】。」

 

スヴィナレンコはまさか自分の言っていることが理解できる奴が、まして会話のできる人間がいるとは思っていなかったのだろう。開いた口が塞がらないといった様子でAK-12を見つめていた。

 

「......よろしくお願いしまーす。」

 

AK-12はそんなスヴィナレンコの様子を見ると、満足したようにニヤッと笑い最後にそう付け足した。

すっかり毒気を抜かれたスヴィナレンコはソファに深くもたれかかり、気まずそうに目線を落としてため息をついた。そんな彼の様子を見て、秘書のヤーシナが話を本題に戻す。

 

「先生、私から......実は、うちのスヴィナレンコ先生が懇意にしている"マリウス・キップ"という占い師が、嫌な予言をしまして......。」

 

「嫌な?」

 

「予言......!?」

 

俺はWipopediaで"マリウス・キップ"という名前を打ち込み検索をかける。ほどなくしてレモンを片手に持ち如何にも霊能力者、といった感じの服装の男の写真と情報がモニタに表示された。

一方のAK-12は"予言"というワードに反応すると、やや興奮した様子で彼らの傍へ駆けて行った。秘書の子はその食いつきに少し引いている。

 

「えっと......予言って言ったわよね?」

 

「あの、こちらの方は......?」

 

「ああ、トゥエルブ君。ご挨拶を......。」

 

大佐にそう言われ、AK-12は開いている座席に移動しながらメモ帳を片手に話し始めた。

 

「捜査官をやっているAK-12よ。どんな予言ー?」

 

「......。」

 

どんな予言ー?じゃねぇ。こいつが食いついているのは良く分かったが、秘書の子は完全に困惑しきっている。まず初対面の来訪者にタメ口を聞くな。気まずい沈黙が数秒続く。

しかしヤーシナも慣れているのか、一呼吸おいて大佐の方に向き直ると話を続けた。

 

「実は明日、スヴィナレンコグループの創立15周年を記念して、パーティを開くことになっているのですが。キップ先生によると......その時に......。」

 

「私が殺されるというんですよ。」

 

そう口を挟んだのはスヴィナレンコだ。おそらく本当にたらい回しにされる度に同じ説明をしてきたのだろう。相変わらず、退屈そうに地面を眺めている。

 

「「えっ」」

 

大佐とAK-12の驚く声がハモる。その様子を横目に、俺はWipopediaのキップのページに目を通す。......が、情報としては役に立たないものばかりだ。

マリウス・キップ。生誕:不明。職業:占い師。占いを生業とし、"キップの館"という占いの館のようなものを営んでいる。よく当たるらしい。企業のトップや政治家、軍人などの大物まで出入りしているらしい。ドレッドヘアーの黒人である。......こんなところだろうか。

その間にも彼らの話は続く。

 

「殺されたくなければ、3億ルーブル支払えと言っているんだ。」

 

「3億も......?!」

 

「そうすれば、"未来を変える方法を教える"とかなんとか......。」

 

「ずいぶんとインチキな占い師ですなぁ~?」

 

「──それが困ったことに、キップは本物なんだよ。これまで何度あいつの言うとおりにして助かったか......」

 

「ならパーティ延期したらどうですか」

 

うだうだと続く会話に嫌気がさし、俺はとうとう口を挟む。極論、その日にパーティさえしなければ死ななくて済むのならそれでいいだろう。

しかし、ヤーシナの返答は否定的であった。

 

「政財界の大物や、各界の著名人を大勢お招きしてしまった手前、占い師に言われたからと言って取りやめにするわけにも......」

 

「なんだそれ......」

 

俺は呆れてそう小さくつぶやく。しかしスヴィナレンコには聞こえていたようで、わなわなと震える手でこちらを指差すと、早口でまくし立てた。

 

「な......なんて言った?!」

 

「......。」

 

俺がそれを無視してそっぽを向いていると、大佐が宥めるように間に割って入ってきた。

 

「い、いやいや、分かります。分かりますとも。」

 

「......そこで、明日のパーティに、先生にボディーガードを付けていただきたいのです。」

 

「いささか大袈裟かと──」

 

「私が毎年、いくら税金を納めてると思ってるんだ。5億だよ5億‼」

 

「お気の毒w」

 

「なんだと!」

 

「トゥエルブ君......。」

 

完全に頭に血が上りヒステリーを起こしかけているスヴィナレンコと、その様子を見て笑いながらメモを取るAK-12。そしてそれを窘める大佐と、段々と状況がカオスじみてきた。早く元の部署に戻りたいものだ。

さすがのヤーシナも苛立ってきたのか、教師が生徒に言い聞かせるような口調になり始めた。

 

「まあご存じの通り、うちのスヴィナレンコは国会議員ですし、テロの可能性もあります。なのに、警備部へ行ったら、『予言や占いが絡むような事件は、"未詳"が扱う』というから来たのです。......秘書の私が言うのも何ですが──」

 

ヤーシナが机に手をつき身を乗り出す。

 

「──先生にもしものことがあったら、この国の損失ですよ‼......いっそ、内務大臣に直接お願いした方がいいですかね──?」

 

「いぃぃぃやあ!大丈夫。分かりました......。」

 

ヤーシナが内務大臣に言及したところで、大佐が割って入る。

 

(おとこ)アレクセイ、身を賭して善処いたします......。」

 

大佐が芝居がかった口調でそう宣言するのを見て、俺は思わず天井を見上げてしまう。......頭が痛くなってきた。

そんな大佐の宣言を見て、部屋の隅から声が聞こえてきた。

 

「大変なんだなぁ、公務員って。」

 

全員がその声のした方向を向くと、そこには先ほど出て行ったはずの料理屋の店主がドアから顔を出して覗いていた。そしてそれを見た大佐とAK-12は完璧にハモった状態で呟いた。

 

「「まだいたの?」」

 

 

SIDE:AK-12

 

数刻後。

私達は同じ内務省ビルにある公共秩序警備部の受付に来ていた。目的はスヴィナレンコ議員のパーティに護衛をつけてもらうことなのだが......。

 

「占い師に言われたからって、脅迫状も来てないのにいちいち護衛がつけられるわけないでしょ。」

 

結果は乏しかった。応対をしている坊主頭で制服の兵士は呆れたようにそう言うと、渡していたスヴィナレンコ議員に関連する資料をカウンターに投げ落とした。そしてその資料を手のひらで軽く叩くと、こちらを睨みつけながら付け足した。

 

「常識で考えてくださいよ。」

 

「──ッち」

 

その態度にイラついた私は思わず舌打ちをする。だがそれを見逃さなかった受付の兵士は私の方を睨みつけると、私に食いかかってきた。

 

「あ?今チっっつっただろお前ェ!お前どういう事だおいふざけんじゃねェ!おいコラ聞いてんのか!」

 

そしてそのままカウンターを乗り越えて私に掴みかかろうとしてきた。幸いにも大佐が割って入って宥めてくれたが。

 

「まぁまぁ落ち着いてください!ね、落ち着いて!落ち着いて──」

 

 

30分後。"未詳"のオフィスに戻ってきた私達は各々の席に座っていた。バカでかい瓶に入ったグミを一つ口の中に放り込んでから、大佐が切り出す。

 

「やはり、明日の警護は我々だけでやる他なさそうだねェ......。SOBR出身のシンカー君、何卒。よろしく頼むよ。」

 

大佐がそう言うも、彼は俯いて身動き一つせず返す。

 

「命令であれば、万全を期します。」

 

まるでどこかのゴリラみたいな奴ね。すると大佐は顔を顰め、席を立つと普段とは違う威厳のある声で話し始めた。

 

「シンカー中佐。」

 

大佐のその様子を見て、彼は姿勢を正して大佐に改めて向き直る。そして大佐が続きを話し始めたところで、私は発言の許可を求める学生のように手を上げて割って入った。

 

「明日の、ピョートル・スヴィナレンコのパーティに於ける──」

 

「はい。」

 

「......はい、トゥエルブ君。」

 

「手かその前に、事情聴取しといたほうが良くないかしら?」

 

「誰を?」

 

「未来を司る男、マリウス・キップよ。本当に未来が見えるのなら、どうやって殺されるのか事前に聞いておいた方が楽じゃないかしら?」

 

あんちょこ(・・・・・)だね!」

 

「第三次世界大戦前の言葉かしら?」

 

私がそう言うと、大佐は指をさしたポーズのまま固まってしまった。右後方からはボブの冷ややかな視線を感じる。やがてなんとも言えない空気が辺りを包んだ。

 

......何?ほんとに知らないのよ。悪い?

 

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