三次創作・扉キズ   作:L UMA

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もっとイチャイチャしてくれ(届かぬ想い)


奈良センベイの小さい溜め息

「だから自分の身体を使うのはやめろと言ってるだろうが!」

 

「うぇ!? とっ扉間くんひゃあっ」

 

 背後から両腕をがっしりと捕まれ、思わず身体が跳び跳ねた。声も跳ねた。

 同じ感知タイプだからか、気配の隠し方という点について扉間くんには勝てなくなくなりつつある。何やら隠遁──チャクラ質ではない、忍の技能として──についての研究を進めていて、火影業をこなしながらではちょっと遅れを取っていた。

 

「ちゃんと実験はしたよ?」

 

「ラットで済ませただけとは言うなよ」

 

「…………、でもこの方が早いよ?」

 

「馬鹿者が!」

 

 とんでもない声量で部屋中の物が一瞬中に浮く。卓上の湯呑みにヒビが入り、落ちかけた書類を新人の側近ちゃんが回収し、ベテランの側近くんが退避していた部屋の隅っこまでぴゃーっと逃げた。影分身でもこの威力だ、本体が来ていたらきっと窓ガラスが外に吹き飛んでいる。

 扉間くんが大きく溜め息を吐くと、関係者の話だ、と言って彼らを下がらせる。相変わらず僕の肩は抱えたままだ。

 一縷の望みをかけて目線で訴えかけるが、側近くんからそうだそうだ、という意思を乗せて返ってきた。どうやら今回は僕の敵側に回るらしい。部下のくせに無情である。

 

 人の目も無くなったし、とむちむちの胸に後頭部を埋める。今ぽにゅんて鳴った。

 

「二人きり……だね」

 

「誤魔化すな!!」

 

 火影室の照明が明滅を始め、ついに湯呑みが決壊した。飲みきっていたのがせめてもの救いか。

 肩からずり落ちた羽織りを正し、論理的な説明による説得に入る。

 

 扉間くんに通じるのは泣き落としか合理的説得力だ。特に前者は今回は差し迫った理由があるわけでもなし、乱用するのも気が引ける。使った後は少し優しくしてくれるから好きだけど、問題は後。二度としないようにとキツく言い含められてしまうのは良くない。これはデスクワークの合間に出来る数少ない軽作業で、いくら扉間くんといえどそう簡単には奪わせられないのだ。

 

「あのね扉間くん」

 

「箇条書きで言ってみろ」

 

「ぐう」

 

 論点ずらしを封じられた。

 痛い。すごく痛い。もう説得はダメかもしれない。

 

 まず僕が火影業の合間に出来ることが少ないこと、自分で自分の身体に使えるかどうかを確かめられること、霊体に関係する忍術と医療忍術を両方使える人材は少ないこと、細心の注意は払っていること……

 

「たわけ、霊体に関わる忍術に細心の注意を払うのは当たり前だ。しかも生きている人間の霊体など……」

 

 マックス呆れた、という顔で額を抱えられた。まずい、この流れは全てに反論出来る準備のあるものだ。

 

「医療忍術と併用できる人材はこれから育てて行けば良い」

 

「それって結構難しいよ? 今だって医療忍者の数はほとんど居ないんだし……」

 

「だろうな。だが慎重を期すべきとは前に話し合った通りだ。更に自分で自分に使えるかなどその一、二段は先だ」

 

 いよいよ反論が無くなってきた。いや、扉間くんを相手に反論など考えた時点で詰みと言える。

 

「……次からはちゃんと扉間くんの居る前でやるよ?」

 

「当たり前だ!!!」

 

 挙げ句の果てには湯呑みの欠片が一粒残さず窓に叩きつけられた。尾獣の咆哮もかくや。木の葉大声コンテストで随一の優勝有力者と噂される男、マンドラゴラ扉間は伊達ではない。

 

 負けるもんか、扉間くんが動の声で来るなら、こっちは静の声だ。

 落ち着いた、神妙な声色で仕切り直す。

 

「扉間くん、真剣な話をするんだけど──」

 

 目を細めた扉間くんがむすりと口を閉じ、話を聞く体勢になった。

 

「これは本当に重要で……仕事と仕事の間にすることがないんだ」

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

 怒号に交じり、微かに物が割れる音が聞こえる。また湯呑みが割れてるな、と奈良センベイは密かに察した。

 

 問題は、火影室を爆心地とした音響兵器によって建物が僅かに震動し、その度に涙目になりながら武装して飛び出そうとする新人、猿飛マキノだった。

 数週間に一度あるかないかの頻度で発生する夫婦喧嘩。側近ならばいずれ慣れなければいけない通過儀礼ではあるが、マキノがここまで取り乱すことをセンベイは予期していなかった。

 

「わ"だしっ……わだし、二代目様を助けてきます……これはあ"んまり"にも……二代目様が殺されちゃいますう!」

 

「なわけあるか。落ち着け、平常運転だ」

 

「あの扉間様がこんな、こんな……! こんなのが平常運転なんておがじいですよ"う!!」

 

 そう言われてはセンベイも返す言葉はないが、事実として平常運転である。初代火影、柱間が務めていた頃は彼の持つ神がかった和ませ力がストッパーとして機能していたが、最早あの空間にそれはない。

 だが、合理的という言葉が人の形を取っているのがあの二人なのだ。数分もすれば喧嘩と並行しながら業務を再開するのだが、こればかりは経験しなければ分からない。

 しかし──普段から夫婦の時間も少なかろう彼らも、言い争いや仲睦まじいところは、いくら側近でも見られたくないだろうというセンベイの気遣いがある。故に今は、ここでマキノの足を止めさせることに徹していた。

 

 ぐしぐしと顔を拭ったマキノが一体の影分身を出す。間髪入れずにオリジナルごと影縛りの術で縛る。

 

「ぐすっ……解いてください、私行きます」

 

「まあ待て」

 

 ところで、センベイは天才を自負していた。僅かな時間でもマキノを足止めする方法は四百を越えて思い付く。

 

「あの二人は木の葉ベストカップルだぞ」

 

 その言葉に、すん、とマキノが表情を消した。

 

「知ってますよ、小さい頃だったので覚えてませんけど……何年経ってると思ってるんですか、それ」

 

「えっうん……そろそろ十年……いや、過ぎたか?」

 

「センベイ先輩も今年で結婚八年目ですよね。昨日も喧嘩したんでしょう?」

 

「そ、それは……」

 

 センベイは唇を噛んだ。切ない味だった。

 

飛雷神(いまだ)!!」

 

「ちょ、おい」

 

 一瞬の浮遊感、そして術にかかる負荷。影縛りの術と飛雷神の板挟みに耐えかねたのか、影分身が消える手応えがある。

 

 場所は火影室の扉の前。術の拘束が解けかけているのを認識しつつ、それでも動かないマキノの視線は、完全に部屋の中へ向いていた。先まで青白かった顔色はやや赤く染まり、目を両手で覆うも、指の隙間からがっつりと覗いている。

 

「扉間くん、絶対だよ? 絶対あの隠遁を教えてね。あれされた側は本当に怖いんだから」

 

「分かっている。僅かだが時間は取る」

 

 キズナは扉間の膝の上に座り、普段からは想像の出来ない、けれども見た目の年相応な甘え声を出しながら顔を見上げている。傍ら、その小さな手で夫の片手のひらをぎゅうと握り締めたり撫で回したりと忙しない。

 対する扉間も執務椅子に腰かけ、素っ気なく答えるが、言葉とは裏腹に労るような手付きで妻の頭を撫でていた。

 

「ゆーびきーりげんまん」

 

「時間は取ると言ってるだろう……オレが今までに嘘をついたことがあるか?」

 

「なぁい!」

 

 場所と──同室に居ながら、無言で仕事を片付けていく二人の影分身さえ無ければ、平和な光景だった。

 二代目夫妻で意見の対立が起こった時、それで仕事を滞らせるわけにもいかないとして生まれたいつも()だ。とはいえ、今回はかなり早い和解だった。キズナの悪癖が治るとなればセンベイも胸を撫で下ろすばかりである。

 

「と、扉間様があんな……しかも椅子で……破廉恥すぎませんか!?」

 

 そうだろうか。

 影分身の扉間がまだ待てと目で訴えかけるので、影首縛りの術の要領でマキノの視界を塞ぐ。

 

 木の葉の成立から裏方を回してきた二人だ、この時間で少しでも報われてくれれば良いと、センベイも天井を向いて時間を潰すことに決めた。

 帰ったら妻にどう謝ろうか、などと考えながら。

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