connect   作:苺のタルトですが

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キッドに絡まれた夜、例の酒場に仕事で来ていた。

昼間の雰囲気とは全く違う光景はどこの酒場であってもやはり違いは無い。

運良くキッド達も居なくて、今の内に厨房へ行って品を持っていく。

今回はドレスではなく動きやすい服で、ウェイターの役目を受けているので幾分か楽だ。

煌びやかなドレスを着た女達はそこかしこの席に着いていて客の相手をしていた。

不意に扉が鳴って厨房から横目に見た瞬間、あの仮面の男が入って来るのが見え、咄嗟に不味いと判断。

彼が居ると言うことはあの赤い海賊も居る可能性が高い。

そう予想したのは勿論当たり、あの赤いファーを揺らして入店してきた。

 

(昼間に飲んだのに夜も来るとか)

 

違う酒場も近場にあった筈なのだが、どうやら同じ場所を選んだ事に頭を抱えたくなる。

厨房にいる間に違うウェイターが彼等に注文を受けながら涙目でいる事実に気付いてしまう。

そりゃあ怖いだろう。

 

「出来上がったから持ってけ」

 

厨房から声がかかり、行きたくないと嫌々厨房から出て店のホールに出た。

彼等よりも少し離れた席の客の注文だったので、これならバレないかな、と思いお待たせ致しましたと言ってテーブルに置く。

キッド海賊団に背を向ける形で歩み出すと、突然横から手をガッと掴まれた。

 

「やっ」

 

「おい、ねーちゃん。酒次いでくれ」

 

声に相手を見ると、酔った様子でお酒臭い男達がこちらをニヤニヤした、背筋がゾワゾワするような生理的に受け付けられない顔で見ていた。

こんな戯れ言は、酒場ではよくある事だったので仕方がないとにこりと笑う。

 

「すみませんお客様ー。私は只今仕事中なので、そこに居ます方にお願い出来ますか?」

 

近くに居るドレスを着た女性を指で示して言う。

だが、彼は笑って更に腕を引いて「お前が俺の好みだ」と嬉しくない事を言われる。

好みと口にするその下心は、男の思考をありありと見透かし、リーシャは内心罵倒を口々に言いながら困りますー、と言う。

 

「おい」

 

押し問答していると声が横からかかり、その方向へ顔を移動させると昼間に財布を拾った男が立っていて、リーシャの手を掴む男の腕を掴み引き離させるように引っ張る感覚が伝わる。

助けてくれているのだと分かり、隙を作ってくれた行動にサッと腕を抜く。

呆気なく抜けた腕にホッとして、さすっていれば酒の入った男は激怒した顔でドレッドヘアーの胸倉を掴む。

助けてくれた人に何をするんだ、と止めようとすると更にその後ろから抜き出た威圧感を放つ声が聞こえた。

 

「悪ィな。先にその女に目を付けたのは俺だ。諦めろ」

 

キッド本人の肉声だった。

聞き捨てならない言葉はさて置き、キッドの顔を見た男は、その赤い顔を青白くさせて口から何とも間の抜けた悲鳴を上げる。

そりゃあ怖いだろう。

ふにゃふにゃと腰の抜けた男が力無く席に沈むのを見ているとドレッドヘアーの彼が手を引いて「ちょっと来てくれ」と、言われるのであろうと思っていた事を言い出すので、ここは助けられた恩と思って渋々付いていく。

キッドは隣に居た女性達を退かし、ローの行動と全く違わない順番でリーシャを隣に座らせようとしてくる。

 

「お客様、申し訳ございませんが、私が店で働かないとビールが運ばれて来ませんよ」

 

「あ?そりゃあ面倒だな」

 

「客足が緩くなったときでも構わないから酌を頼めるか?」

 

キッドの眉間に皺が寄るのと同時にその真横から第三者の声が聞こえてきて、顔を向けると仮面を被ったキラーだった。

こんな丁寧な言葉を酒場で聞くなんて、今まであっただろうか。

感動しながら、時間が出来たらと言い添える。

 

(昼の時も思ったけど、なんて紳士的な人なんだろ)

 

リーシャの理想のタイプだ。

傍若無人な赤い男と年中隈の絶えない男とは大違いだと内心ドキドキと胸を高鳴らせながら席を後にした。

 

 

 

深夜を行く頃には客足が少なくなってきたので休める時間の余裕が出来た。

そういえばキラーに時間が空いたら来て欲しいと頼まれていた事を思い出して、気紛れに休憩室から出る。

普段の自分はこんな風に出たり等しないのだが、キラーに頼まれた時の声音を脳内で再生させていれば自ずと足が動く。

ちらりとホールの様子を窺えば、全員が残って居る訳でもなく、キッドとキラーと、後は寝ている男等が居るだけの少人数に減っていた。

扉を開けてソロソロとゆっくり近付けば正面に居るキラーがこちらを向く。

軽く頭を下げてみれば、相手は首を緩く傾げて困惑しているようだった。

 

(うわ、可愛い……どうしたら良いのか困ってる……ふふふ)

 

恐らく女に、こんなにも丁寧に対応された事が無いからだろうと想像してみる。

楽しい、可愛い、癒しだ。

海賊でもああいう常識のある人は好きだ。

キッドは論外。

隣に座っても構わないかと聞くと、キッドがすかさず隣を叩いて所望してくる。

なぜそこに座らねばいけないんだ。

リーシャはキラーの隣に座りたい。

何気なくキラーの隣に座るとキッドの不機嫌な視線が肩に刺さる。

無視だ無視。

こんな事で苛々するなんてまるで子供だ。

そこで、キッドの年齢を聞いていない事に気付くと深く悩む。

幾つなのだろうか。

見た目は二十代後半が良いとこだ。

若く見て、前半等辺か。

考えた結果、聞いてみようと向き直る。

 

「んだよ。つーか酌--」

 

「お歳を聞いても良いですか?」

 

「あ?歳ィ?……二一だ」

 

「……!……!……な、な、んだって……」

 

リーシャよりも年下だ。

年下、と聞いて何だか納得いかない。

沸々と湧く気持ちに整理が出来ないままコップを差し出され、それに注ぐ。

年下に声を掛けられたし、助けられたし、勇ましい年下だ。

なのに、賞金首だとは。

でも、それならモンキー・D・ルフィの方が歳は若い。

青年だ。

しかもキッドよりも世間を騒がす海賊である。

そう思うと何となく納得出来るような気がした。

いや、それにしても貫禄が凄い。

自分は戦闘力や気配といったものに疎いが、彼から発せられる威圧感をひしひしと感じた。

ローからは全く感じない。

慣れたからかもしれない。

そろそろ眠たくなる時間も近付いてきたのでお暇(いとま)させてもらおうかな、と声を掛ける。

これはついでだが、キッドから意味有り気な視線をしかと感じ取っているのは気付いていた。

ローからも似たような視線を寄越された事があるので気付いたのだ。

女として認識されている事に苦笑が浮かぶ。

ルーキーと名高く、今は賞金額が低くてもいずれは大物になるだろう男にそういう目で見られるのは大層居たたまれない。

思われるにしても自分では役不足だ。

こんな能力も何もないのに、と目線を上げる。

殆ど逃げるように酒場を後にしたリーシャはその日を終えた。

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