connect   作:苺のタルトですが

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只今酒場にてバイト中。

いくら宿代が浮いたからと言っても金銭面で稼がなければ貧乏海上生活を余儀なくされてしまう。

そんな贅沢とは程遠い財力を持つ三人の女達が乗る船は現在ハートの海賊団と連携をさせてロープでガッチガッチに固定されている。

理由は色々あるが一番はとっととログが貯まったら出航してしまうというのを止める為だと推測された。

色々今回も例に漏れず何かに巻き込まれ、それに対して何の防御策を持たぬリーシャの足止めや何か救済をする為に人質ならぬ船の人質であった。

それを二人の娘に言ってみると「考え過ぎだ」と一笑されてしまったが自分はとても外れているとは思えない。

ローの手中に入っている感じがとてつもなくした。

恐ろしい子だ、ローは。

間違えた、恐ろしい策士だ、ローは。

兎に角この町を出る時はローの許しがないと船を切り離す事もこっそり島を出て行く事も叶わない。

ローがクラゲに襲われていたのだからこちらの船に当分居ろと命令してきたので数日は大人しく従っておこうと思う。

従僕になっている間に隙を見て逃亡しようとも考えているのだが、まだ思考の中にしかない淡い計画に過ぎないので形にすらなっていない。

何故此処まで逃げ出したいのかというと、ローとの船の上の生活はいけないという感情のせいだ。

いくらそこそこの関係だったとしても自分は記者で相手は海賊。

距離があまりにも近過ぎる。

それを危惧しているので早急に離れねばと思っていだ。

今までもとても至近距離だろうと言われるかもしれないが、ローとの間には距離というか、一歩線を引いている状態だったのでバランスは良かった。

けれど、最近の諸々を考えるとあまりにも近過ぎてバランスがどうも可笑しくなってきているようにしか思えない。

マイとヨーコという存在が居るのも一因ではあるだろう。

取材をしようかと思うが、今更取材しても良いかなど聞くのも、何だか聞き難い。

マイとヨーコも一応見習いという(設定)立場なので要相談だ。

働いている此処はこの島で二番目に大きいと言われている店で、最初は一番の所にしようと思ったのだが個室タイプの店内に何をされても見えないという構造が嫌で二番目の此処にした。

それに、ここならハートの海賊団諸君も来ないだろう。

一番の店には結構な美人も居たし。

今回は客をおもてなしする側としてではなく、お客を入り口から席まで誘導する側として働かせてもらっている。

 

「いらっしゃいませー」

 

カランカランと音がなって前を向くと回れ右をして見なかった事にしたくなった。

 

「……何名様でしょう?」

 

「一人」

 

仕方なく前を向いて、無感情に努める。

目の前の男は幽霊なのだ、幽霊なのだ。

無感情だが笑顔は張り付けたままという荒行をしながらお一人様の席へ案内しようと動く。

 

「ねぇ、あの男……」

 

「嘘ー?」

 

「本物なの?」

 

客も接客嬢も好奇心の目をその客に向ける。

前方から焦った顔をしてオーナーがやってきた。

 

「これはこれはっ、当店へお越し下さり有り難う御座いますっ。案内は私が致しましょうっ!」

 

所々で噛みそうになっているオーナーは脂汗をかきつつも賢明に接客している。

今までのオーナーよりも精神が強いようだ。

今まではこちらに丸投げでこちら任せの頼り無い人ばかりだったから密かに関心した。

 

「して、何を飲まれますか?後ほど当店一押しの娘をご紹介致しますよ」

 

「この店で一番高いの。女は特に必要ない」

 

(だったら普通の酒場に行けばいいのに……)

 

この店で自分と同じ事を考えている人が何人いるのか。

殆どの人間がそう突っ込んでいるに違いない。

オーナーがお酒を持ってくるようにと目で指示してきたので一旦此処から離れる。

店の奥に行ってこの店で一番高いお酒をと言うと従業員が驚いた顔をしながらも取ってきてリーシャに渡してきた。

ローが案内されたのは恐らくVIPルーム。

そこを目指して歩いている間にもローの入店は店の中を騒がせていた。

そりゃあ大物ルーキーの一人だ。

摘みにするにも大物過ぎて顔色の悪い客も接客人も居る。

 

「失礼します」

 

中に入るとオーナーは居なくなっていた。

一人だけそこに座っていたのでテーブルへお酒をトンッと置く。

相手はそれに口を開いた。

 

「この店を探すのに少しかかったんだぞ」

 

「それは失礼致しました。トラファルガー様」

 

トラファルガー様もとい、トラファルガー・ローに形だけの謝罪をする。

ローはクッと喉を鳴らして笑う。

 

「トラファルガー様、ねェ?」

 

楽しそうに、いや、愉しそうに笑っていながらもこちらの無関心です関係ないですの空気を感じ取っているのだろう。

冗談でもなく、本当に関係ないと貫きたい所だが果たして彼はこちらの意図を汲み取り関係をないものとして扱ってくれるのだろうか。

それをビシビシローに目や態度で伝えているので今、機嫌が悪くなければこちらに合わせてくれるかもしれない。

 

「じゃあ次いでもらおうか、ウエイター」

 

「喜んで注がしていただきます」

 

「序(つい)でに“お話し″もしようぜ?なに、前金は弾ませる」

 

(ノリノリだこの人)

 

何を彼を少し暴走させているのか不明だが、此処は接客のウエイターとして少しだけ会話をしてあげようではないか。

ニッコリと笑って頷く。

 

「構いませんよ。何ならオツマミも如何でございますか?この店の一押しはラム酒のチョコレートですよ」

 

「へェ、なら貰おうか」

 

本当に今夜は機嫌が良いらしい。

少し足してみたらあっさりと言う。

近くに居たボーイに頼んでチョコを頼む。

顔をVIPルームに戻してローを見ると彼はとても良い笑みを浮かべていて足を組みこちらを見て誘ってきた。

 

「話しをしようか、此処に座って」

 

ローの隣を示されて座る。

 

「何を話せば宜しいでしょう」

 

「そーだな……この島にはオアシスという水場があるのを知ってるか?」

 

「いいえ、存じてません」

 

初耳だ。

 

「そこはとても澄んでいる湖で、近くに住んでる民間人も良く利用するらしい」

 

「そうですか」

 

「そこをお勧めする。星も綺麗に見えるらしくてな」

 

「明日、言ってみる事にします」

 

「朝か?夜か?」

 

「人目に付く時には入りたくないので夜でしょうね」

 

「くくく、別に見られても減らないだろ?」

 

「美人ならばそれはまかり通ったりしますけど、私には適用されませんねえ」

 

「おれはそうは思わねェけどな」

 

サラッと言われて赤面しそうになるが、此処は我慢というか耐久する。

必死に押し込めているとチョコが到着したのでローはそれを手に取り食べた。

 

「この量ならお前もいけるだろ?」

 

「比べた事も無いですし、私は遠慮します」

 

酒に弱いのは自覚しているし、此処で失敗するのは嫌だ。

 

「そう固い事言うな。一粒食べたらプラス五百ベリー払ってやるよ」

 

(いやいや、そんな事言われてもなあ)

 

嫌なものは嫌なのに。

 

「酔うのは嫌です。お客様の前で粗相はしたくありませんので」

 

「酔ったらちゃんと宿に送り届けてやる」

 

「あまりご無体な事はなさらないで下さいませ、トラファルガー様」

 

「無体?例えば?」

 

と言いつつローが太股を撫でつけてきた。

驚いて肩を揺らすと彼は掠れ声で「おれはそこら辺の奴よりも紳士だろ?」と言って耳をかじってくる。

紳士はこんな事しないと思う。

 

「そうですねえ、例えば女性の素肌に指一本触れないのが紳士ですね。無体な方は太股を撫でてきますかねえ」

 

笑顔で貫く。

ローは面白くないという表情をして片手をリーシャの顎に掛けてきた。

 

「少しくらいサービスしろよ」

 

ググッと近付いてくる顔に避ける事はしない。

スッと指を彼の唇の手前にやって笑みを見せる。

 

「キス一つ、島一つ分の代金を頂きます」

 

「……たっけェな」

 

「あら、そうですか?何せ相場を知らぬ新参者でして」

 

何だかリーシャも段々ノッてきた。

パプニングと予想外、そうして夜はふけていったのである。

 

 

 

朝になると扉を叩く音に寝ぼけた脳がほんの少し反応する。

 

「リーシャさん、朝食はどうしますか?」

 

マイの声らしく時間だから呼びに来てくれたのだろう。

それに返事を返す、けれどむにゃむにゃと呂律が上手く回らない。

 

「朝食はいらないんですね、分かりました。起こしてすみません、お休みなさい」

 

夜中まで働いている事を知っているマイは確かめてくるし、ちゃんと呂律の回らなかった言葉を解読してくれた。

何て良い子だろう。

ヨーコのおはようコールよりもマイルドだ。

 

「ふふっ、船長さんもまだ起きてないんですよ。まるで以心伝心ですね」

 

ちょっと聞き捨てならない言葉が聞こえた気がする。

この子は天使ではなく妄想乙女の属性を持っているようだ。

その呟きに反論したいが眠気が勝ったので訂正する事は出来なかった。

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