後ろを向くとメイド様が居た(皮肉)。
メイドはこちらを見るとその切れ目の瞳をこれでもかと開き悲痛に叫ぶ。
「な、なんて事!衛兵!此処へ団長と執事長を!」
叫びたいのはこっちだこのヒステリックめと口悪く内心罵る。
罵らなければやっていられない。
「姫様に何か!」
「何かではありません。貴方はこの女性が本当に姫様だとお思いで!?」
(お、この人はちゃんと分かってくれたのかな)
期待に胸が膨らむ。
問題はその後だろう。
「何を仰いますかメイド頭殿。このお方が姫様以外におられますか?」
この人騎士団の団長なのに、貫禄も台無しな発言をする。
溜め息を吐いてからメイド頭を見るとこちらをキツく見ていた。
やはり考えていた事の一部が現実となりそうだ。
このメイド頭年増さんはどうやら何かを疑っているらしいがとんだお話しであった。
此処へ連れてきたのはそっちだし、こっちには何の罪もない。
「私は貴方方の言う姫ではありません。姫が何方かは知りませんが、私は只の市民です。ですので失礼な思考は止めていただきたい」
「なんですと!姫、ではない?」
「当然です。確かに姫様にお顔立ちは似ていますけれど、姫様の方がお若いです」
(このババ……落ち着け私)
巻き込まれて「この女歳が上だ」と言われて思わず最大限の悪態を付こうとしたが、こんな所で苛立っていてもどうにもならない。
相手に早く此処から出してくれと言うと騎士の男は慌てて出て行く。
王様やら誰かに報告をしに言ったのだろう。
「何とお詫びして良いのやら」
「そういうのいいです。私はもう帰るのでお気遣い無く」
何かに巻き込まれそうな空気をビンビン感じ、予期したのでフラグを避ける為に口数を少なく努める。
「姫様は脱走なさっているままなのですね」
「あの、そういうお話は良いです。あまり関わり合いたくないんで」
スパッと相手の空気を両断する。
何かを言われたりされたりするのは真っ平御免被るのだ。
「……………………」
(ふう、黙ってくれた)
いくら不幸体質だからと言っても王族となると話しは別だ。
政治の場や政と言うのは黒いというのが常識。
人形にされるのもパンダになるのもお断りなのである。
王家も王族も貴族も世界は腹黒いというのは最早十八番だ。
「で、もう行ってもいいですよね」
疑問系でなく決定事項を押す。
出口を尋ねるとメイド頭とやらはこちらですのとキビキビ歩いて先を先導してくれる。
それに付いて行くとどこかの扉の前に着いてそこが開かれた。
「あの、此処はどこですか?出口へ行きたいんですけど」
開かれたそこには厳つい表情をした人達が居てこちらを見ていた。
入る道理も無く足を止めて扉の前で止まっていると相手が入るように足す。
「あの、帰りたいんで急いでるんです」
「お入りなさいませ」
「だからですねえ」
文句を言おうとすると兵らしき男がこちらを押す。
「ちょっと!何するんですか!?」
トトっと足が動いて扉が閉められる。
ムカついたまま前を見据えると値踏みされるような視線に晒され眉がひきつった。
何かされるのだと顔を強ばらせていると相手の男達が神妙な顔や驚いた顔、上機嫌に不機嫌。
様々な顔をさせているのを見て早く帰せと喉まで出掛かる。
「君に是非お詫びとしてパーティーに参加して欲しい」
「……先を急いでいるので慎んでお断りさせていただきます」
「こちらの謝罪を受けてくださらないと?」
(はあ?こいつら何言ってんの?)
間違えたのにお詫びを受け入れさせようとする強かさに内心呆れ果てる。
貴族というのはそうだ、自分が悪いとは塵にも感じない。
如何にもな傲慢な発言に辟易としながら返す。
「受ける受けないのお話ではないです。私は帰りたいと願い出ました。それを直ちに叶えるのが過ちを犯したそちらの義務という道理ではありませんか?」
正論をぶつけると相手方はぽかんとした顔で何かを話し合う。
激しく帰りたい。
「話し合いのところ、失礼致します」
途中、騎士団団長と言っていた男が入ってきた。
姫様が見つかり拘束したという話しが耳に聞こえてくる。
見つかったのならこちらはもう解放されるべきだと思って居住まいを正した。
「姫様に狼藉を行った下郎がおりまして。それを助けた方々を城に招きたいと仰っております」
大臣だと判明したこの男達に訊ねる騎士団団長はキリッとした顔で報告。
彼等はふむ、と面持ちを浮かべると許可を出す。
「帰りたいので出口までお願いします」
一応話しが終わるのを待っていたのだ。
「その前に食事会を行いたい」
「は?」
「出席願おう」
「嫌です」
「メイド頭。この方をお部屋へ」
「は?何勝手な真似を?帰りたいと言っているのに何故無視するんです?」
流される訳にはいかない。
「大臣方、先のお客人をお連れしました」
歯をギシリと噛みしめていると兵士の声が聞こえた。
扉が間もなく開くとそこにはモコモコの帽子を被る鋭い雰囲気を纏った男と男達がぞろぞろとやってくる。
「さっきぶりだな、リィア姫」
キャスケット帽を被ったシャチが聞いてくる。
その集団は間違う事はないハートの海賊団だ。
リィア姫と呼ばれて目が点になる。
「私は生まれてこの方リィア姫とやらにはなった覚えはないです。私はがっかりしました。シャチさんが私を他人と間違えるなんて」
「………………へ?」
シャチは目をかっ開くとしばたかせて口を馬鹿っぽく開ける。
「もしかしてリーシャなの?」
ベポが聞いてくるのでこっちは不満に思ってますという顔を全面に押し出して頷く。
ローの顔も驚愕に染まっており珍しいと思った。
「お前、本物か……」
「別に見抜けなかったとしても良いんですよ?ただお付き合いを見直させていただくだけですから」
拗ねたように振る舞うのはこの城に居る数分間でストレスが溜まりまくったせいだろう。
ローは何かを察した様子でこちらを見てから大臣達(爆発しろ)が見ている所へ真っ直ぐ見据えるとふむ、と顎を凭れる格好に何をやってんだ、と思わなかった思ったり。
「で、褒美が貰えると聞いたが」
何かを貰えると聞いてきたからこんな海賊に縁もなさそうな所へ居るのかと理解した。
何故姫様とやらと自分を間違えたのかはまだ納得していない。
かなりの年月とは言わないが、それなりに関わりのある知人達に姿も知らぬリィア姫と思われたのなら、それ相応に似ているのだろう。
「はい。貴方方を今夜行われる婚約披露パーティーにお招きしたいのです」
大臣のお付きをしている人が淡々と述べた。
全く感謝が籠もっていない声音に焦臭さを感じた。
海賊を招くなんて何かを企んでいるのか単に馬鹿なのかのどちらかだ。
「あの!私帰りたいのでパーティーには出席しません!」
ハッキリ否と答えるとお付きは焦った様に引き留めてくる。
なんだと言うのだろうこの強引さは。
「では。そこの兵士さん。出口までお願いします」
「は、はい」
兵士の癖にオロオロし過ぎだ。
マイとヨーコを心配させたままではこちらも心配だし、何より丁寧とは言い難い扱いを受けたのでムカついている。
「いいえ、そのお客人には此処へ居てもらいます」
「は?だから私は帰ると言いましたが……」
「まだ貴方様は姫様と偽ったという罪が晴れておりません」
「そっちが勝手に私を連れてきたんでしょう!それにさっきまでお詫びと言って非を認めていましたよね!?」
もうムカついて丁寧な言葉さえ言えない。
このままでは免罪だ。
下手に権力を持った人間が言うと完全なる暴力に変わる。
「兎に角貴方にはこの城へ居てもらいます」
「この腐った王族達め……」
「おい」
怒りが爆発しかけた所へローが介入してきたので何だろうと苛立ちを露わに見る。
「そいつはおれの知り合いだ。変な勘ぐりは止めろ」
(!……まさか庇ってくれるとは)
ローはリーシャにとっていつも迷惑をかけていて、それでも根気強くこちらを守ってくれるので庇われても可笑しくないが、王族に対しても何の恐縮もせずに言ってくれるとは思ってなかった。
そこにローが居ても必ず助けて貰える何て甘えは持っていないので、助けてという視線もしなかったので驚く。
驚いている間にいつの間にか話しを終えたのかローに手を引かれ出す所でハッと意識を戻す。
「おーい、平気か?」
目の前でシャチが手をフリフリしている。
「辛うじて」
何とか声を出すと周りが安堵した。
「しかし、何度見てもお前って分かってても……そっくり過ぎる」
「噂のリィア姫?」
「嗚呼。っと、あそこに肖像画発見ー。あれだぜ」
船員の一人が指した所を見ると一人の女性が佇み両親らしき人物達が書かれていた。
鏡というものは日々見ているが、人から言われなければ案外そっくりかどうかなんて分からない。
普通にまあ似てるかも、くらいしか感じないので首を傾げる。
「世の中には似ている人間が三人居るって言うけどその一人がお前とリィア姫だよなァ」
そんなにしみじみと言われても。
そのせいでこういう嫌な目に合っているので余計に似ている事が不快に感じた。
「私、普通の血筋だしっ」
ぶつくさと小声で言うとローの楽しそうな視線が頬を突(つつ)く。
「そうだな。お前は不幸体質が取り柄過ぎる記者だな」
「余計ですローさん。それにしても」
ロー達はどうやってリィア姫と出会ったのか気になる。
「リィア姫って王族なのにどうやって付け込んだんです?……シャチさん」
「おれかよ!付け込んでも誑かしてもねェしっ。大体お前そっくりなのにナンパだってないない」
「どういう意味ですかアンポンタン!禿げて下さいっ」
シャチでないなら誰がどうしてそうなったのだろう。
「おれだ。きっかけはいつもの些細なもんだ」
ローはリーシャが騎士達にリィア姫と間違われて連れて行かれている頃に話しを戻して語り出した。
***
ハートの海賊団 side
リーシャ達と同じ航路を進んでいるロー達もまたこの島に降り立ち物資を得る為に買い物をしている最中であった。
観光も兼ねているのでそれぞれか買い物をしたりしてブラリとしていると前方から騒がしいものが迫っている事に一早く気付いた先頭に居たロー。
(なんだ)
怪訝に、警戒心を上げて前を見ていると人だかりを押しのけて何かがやってくる。
人が押しのけられて見えたのは一人の女。
その姿はローブで顔が見えかけているような状態で走っていた。
どう見ても走り慣れていないし、大分疲れている顔色でやってきた女の顔が動く度にチラチラと見える。
その後ろには騎士風の姿をした男達。
「……つーか、あれ、リーシャっぽくない?」
船員の一人が記者である女の一人だと指摘するのをローは複雑な顔で聞いていた。
ローも全く同じ事を考えていて、更に他の船員達もそう唱えるので認めざるおえない。
また厄介事に巻き込まれていると存外に知らされて頭が痛くなる。
(あの馬鹿)
悪態を付くと同時に愛刀の鬼哭を握る。
彼女はこちらへ来る事はなく右に曲がり細い路地へ入り込む。
そんな所に入っては危ないと叫びたくなるのを我慢してローは仲間達に連絡すると伝えると走り出す。
「チッ」
捕まえたら宿屋に連れ込んでたっぷり苛めてやると鬱憤晴らす為に決める。
(どこに行った)
左右を見回すと耳に何かの声が聞こえて言い争うものだと気付きそこへ向かう。
騒動がある所にリーシャあり、とは船員達の中でもローの中でも周知の事実だ。
騒動が聞こえる所に行くとその騒ぎがどんどん大きくなり、何が起こっているのかが解っていく。
「この女、髪サラサラー」
「売ったらマジ遊んで暮らせる」
「っ」
怯えた顔で息を呑むのはリーシャだ。
少しの違和感がローの中で芽生えるのは直ぐだ。
「?」
リーシャならばこんな事になったら取り敢えず怯えるよりは面倒だという顔をするであろう。
そして、必死に策を巡らさせている。
「怖くて声出ねーとかポイント高いな」
怯える女に喜ぶ男達なんてどんなテンプレだ。
ローは見ているのも飽きてきて即座に行動した。
この程度ならば能力を使うまでもないと判断して回し蹴りで相手を沈める。
「ギャア!」
「キャ!」
「なん--ぐはっ!」
二人目も倒すとその疑惑が更に高まった。
(なんつー悲鳴だ。演技か?デレてんのか?)
そんな馬鹿なと思いつつ彼女の方を向くと容姿はリーシャと同じであるのに、小さな違いがある。
(胸がデカくなってやがる……髪も長ェ)
あの悪党達が言っていたように髪がサラサラだ。
海の塩に晒されている彼女は髪がごわついている筈。
よく見ると着ている服も上品で女らしく、普段の男装かと突っ込みたくなる動く事を前提とした服装でない。
おまけに少し焼けていたと記憶にある肌の色が病的に白い。
全く外に出ていない人間の肌色だ。
そして、極めつけは。
「あの、助けて下さいまして、有り難う御座います」
「…………お前、誰だ」
「え?私はリィアと申します」
ローの混乱している最中での問い掛けに答えるリーシャそっくりの女、リィア。
名前が違うとなればこれはつまり。
「他人の空似……」
ここまで似ていて、全く違う存在。
これではただの慈善事業、ヒーローじみた行いをしたようなものだ。
ローは助け損かと内心苛ついた。
これがリーシャ本人ならば今頃キスをして壁に押し付けて宿に連れて行って、という手順でロー的に何もかも有利に進むそれが、人違いのせいで奇しくも無くなってしまった。
ローは海軍でなく海賊。
見返りのない行いをしたとなれば舌打ちもしたくなる。
不機嫌を醸し出しかけているローにリィアは嬉しそうに言う。
「救世主様。どうか我が城へ来て下さい。是非今回のお礼をしたいですわ」
リィア姫は自らをこの国の姫だと述べて、こちらをヒーローを見る目で言うのでヤケクソ気味に行くと言った。
電話をして船員達と合流すると事のあらましとリィア姫とリーシャは全くの別人である事を伝える。
「に、似てるな」
ひくひくと頬を動かして言う一人、それに同意する複数。
「でも、あいつより胸は……ある、な」
「嗚呼」
(あいつが聞いたら白い目で見られるな)
ローも思ったが言うような失態はしない。
「あの?皆様?」
「「「上品!」」」
何かを言うだけでも王族のそれは滲み出るらしい。
仕草が貴族のものだ。
「リーシャってこんなに綺麗だったか?」
(……殴られるなこいつ)
ローはそのリーシャに。
城へ行くと何故かリィア姫だと思っていた女のリーシャが居たり、よく分からない罪を被せられていたり。
兎に角ヤバそうな雰囲気だったので苛ついていた所の良い安定剤だった。
彼女を連れ出して手を掴むとリィア姫を見ていた時とは違い安心感に似た満足感が胸に染みた。
ローはやはりリーシャでないといけないらしい。
助けたのを理由にローの為に働いてもらおうと要求する予定を脳裏に描いた。
***
部屋を宛てがわれたので、そこへ行こうとするとローに「馬鹿か」と頭を叩かれて一緒の部屋に連れて行かれた。
「また面倒なもんに巻き込まれて身動きとれなくなるだろうが」
「あ……」
ハタッと思考を回すとそんな事は当たり前だった。
確かに一人で居たらまた何かごり押しされそうで有り得る。
疲れていたせいで判断力が鈍っていたらしい。
「でも、マイとヨーコの所に帰らないと」
「あいつらにはもう連絡しといた。それよりこっちに集中しろ」
と唇に噛みつかれた。
ガブッとだ、可愛らしい効果音はどこにあるのか、落としたのか。
「!」
「まさか、何の見返りもなくてめーを助けたとでも思ってねェよな」
前までは何の見返りも要求してこなかったのに味をしめたのか。
「ん」
「先に湯浴みするか」
と容赦なく浴室へ引き込まれた。