connect   作:苺のタルトですが

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トイレを済ませていざ席に戻ろうとすると舞台裏から一人と三人の女が出てくる。 

 

「やっぱり無理よ!」

 

「待ちなさいアリーナ!」

 

「貴女も待ってよ!」

 

三人の舞台女優と思われるものに遭遇して一時立ち止まってそれを見送っているとまたまた派手な衣装に身を包む男が女に模した化粧で分厚く言う。

 

「ちょっと!これから始まるのに逃げんじゃないわよー!てか給料の前借り置いていきやがれェ!」

 

オカマらしき女が男の声で叫ぶのを硬直した三人は見ていた。

息をぜーぜーと言わせたゴスロリ男は暫し意気消沈気味に彼女達が去っていった方向を見ているとクルリとこちらを向いてやっとリーシャ達に気付く。

 

(うご!)

 

叫ぶのを我慢した。

その眼孔で見られているのは肌で感じた。

二人も同じように固まって見られるのを我慢している様子だった。

ならば、自分も我慢だ。

我慢を重ねていると男がパアッと顔を輝かせて口紅が塗られた口を嬉しそうに開く。

 

「私ってラッキー!原石ちゃん達を見つけられるなんてっ」

 

こちらからすればもう地獄だった。

訳も分からぬ事を言われ、何か逃げられないものに捕まったような錯覚を覚える。

その五分後、三人は見る側なのに見られる側へとされていた。

何だかデジャビュだ。

 

「いやーん!本当に良かったわー!今日はビップな客が来てるから舞台が中止なんて何が何でも回避したかったのよ~」

 

クネッと腰を揺らすゴスロリさんにリーシャはげんなりした顔でそうですかと答える。

今は何故かコスプレに扮して頭に角を付けられている最中だ。

リーシャはいつの間にか何の心の準備もないまま魔王役へとさせられていた。

ビップな客とは誰だろう。

 

「どんなお客何ですか?」

 

マイは慣れたのかその人に臆する事なく聞く。

マイは姫役だ。

似合っているドレスに適役だと納得する。

対するヨーコは。

 

「というか!何であたし達が!?台詞も知らないのにさあ!?」

 

衛兵だ。

そこは勇者だろうと思うが、勇者役は男で既にスタンバイ済みらしい。

 

「何と!あの新人の王下七武海様よ!」

 

ヨーコの抗議はスルーされた。

 

(((七武海……)))

 

三人の心は二度目になるシンクロを起こす。

あの、つい勢いで席取りを頼んでおいたあの、ローだ。

席取りを頼んだ自分達はあの椅子に座る事もなく舞台に出ることになっている。

 

「七武海って、あの?」

 

リーシャは違う七武海であれと思うがそんな奇跡は起こらない。

 

「そう!あのイケメンなトラファルガー様よ~」

 

(オウマイガー)

 

そう言えばローは七武海だったと思い出してから泣きたくなった。

この人にその七武海に席取りを頼んだから演劇には出られないと言えたらどんなに良いか。

例え言えても信じてもらえる確率はないだろう。

そして、笑われて爆笑されて出番ですよと舞台に置き去りにされるに決まっている。

オカマは監督兼衣装係らしい。

因みに給料をくれるらしいのでもうやるしかない。

台詞はアドリブでというむちゃくちゃな要望にて放り出された。

 

「はー、何か『勇者殿堂記』のあらすじみたいです」

 

マイがお姫様のティアラを触って言う。

 

「さっき言ってたやつ?どんなの?」

 

ヨーコが衛兵の槍を弄びつつ聞くとマイはうろ覚え気味に言う。

 

「いきなり魔王を倒せと言われていきなり戦いに身を投じさせられる話し」

 

「うわ。同じ境遇」

 

リーシャは魔王の黒い衣装をぼんやりと見ながら溜息を着いた。

ブーという演劇が始まるという音を聞きながら物語りの語りをし始める司会。

お姫様役のマイがパッとスポッとライトに照らされる。

 

『姫は魔王に連れ去られても決して心を折られる事はなかった』

 

「嗚呼、私の王子様!いつ私を助けにきてくれるのですかっ」

 

アドリブにしてはかなり頑張ってるし、なかなか堂に入っている演技。

ヨーコはただただ王子のお供という役なので台詞も短く少ない。

それでも緊張しているのがリーシャにも理解出来た。

場面は素振りをしている王子へと舞台は切り替わる。

 

「王子!殿下、こ、ここひおられましゅたか!」

 

緊張して呂律が回っていない。

 

「ま、魔王の居場所、わ、分かりましたあ!」

 

言えても棒読みだ。

 

「何!?分かった!今すぐ向かおう!待っていろ私の愛しき姫!」

 

流石は演劇に慣れた王子役の男だ。

ブレない。

場面はまた切り替わり王子が困難な試練を潜り抜けてやっと魔王が居る城へと辿り着く。

 

(私、此処で参上)

 

バサッとマントを翻してお出迎え。

 

「よく来たな勇者。まあ茶でも飲んでいけふはははは」

 

リーシャはどこまでも平坦な声で言った。

流石に男の勇者の頬がひくつく。

 

「ちゃ、茶など飲むか!貴様は私の姫を浚い、この城へ幽閉した!」

 

「それがどうした貴様も王族という立場を利用して断れない立場の姫を許嫁にして婚姻届けにサインさせただけだろう?」

 

「止めろ!リアルを持ち出すなー!?」

 

王子役の人は心底アドリブを口にしていた。

恐らく意味はそのままだろう。

 

「どうした?言葉で勝てないからって暴力で解決しようとしている僻みか?くっくっく!だが、既成事実さえ作れば姫は私のもだー」

 

「止めろー!ほんと止めろ!子供も見てるんだからな!」

 

マジで泣きそうな顔をしている王子。

 

「ふははは。どうだ私の力は!」

 

「わ、分かった、こ、降参する……だ、だからもう何も言うなっ」

 

ガクッと膝を折る王子に幕が下ろされる。

 

『……こうして、魔王の支配により世界は平和になりました』

 

そうご都合主義な締めくくりをした司会を誰も責める事など出来ない。

 

「…………船長」

 

「何だ」

 

シャチは世にも奇妙な演劇について何かを言いたかった。

何を言いたいのかは自分でも分からないのに、だ。

 

「何事も普通が一番なんですよね」

 

「……だな」

 

ローは目をそっと閉じて何も考えないようにした。

 

「え?好評?」

 

演劇に出てから二日後、オカマ監督に呼び出された三人はまた演劇に出て欲しいと頼まれる事となる。

 

 

 

夏と言えば海、海と言えば遊泳、遊泳と言えば水着。

水着と言えば、そう、美女。

別にリーシャは自分の事をそう思っている訳ではない。

ただ、着いた島で行われるコンテストにマイとヨーコが出ると言うのでパンフレットや前例であるコンテストについて調べていたのである。

何故出ることになっているのかと言うと、コンテストに出ただけで参加費を貰えて、尚且つ上位に食い込むと懸賞金が貰えるらしい。

それで俄然やる気が出ている二人。

リーシャは得られるか分からない物に出る程心に余裕はないので不参加、傍観側だ。

応援していると観客が集まる所へ行こうとすると何故か二人に両腕をホールドされている。

どういう事だと言っている間にコンテスト出場者の集まる控え室に連れて行かれて首に参加者の参加資格となる物をぶら下げられて目をぱちくりとした。

名前が書いてあるのを見て悟る。

 

(勝手に登録されたのかあ)

 

あの二人ならしそうだし、恐らく気持ちを共有させる為だろう。

断ろうとか止めようとか考えたが、二人のワクワクしている顔を見て言葉は飲み込まれる。

水を差すには些かハードルが高い。

そこまで鬼になれないので諦めて名前を呼ばれるのを待つ。

 

『エントリーナンバー二十三番!』

 

一番最後に呼ばれるのを聞きながら足取り重くステージに立つ。

ワアア、と盛り上がっている観客側と違いこちらのテンションは普通より下、気分も良くはない。

平凡な性格のリーシャにとって盛り上がるステージと言うのは楽しくないものだ。

 

(と言うか、最後って何その貧乏くじ……確かに当日になって参加したから最後なんだろうけど、さ)

 

よりにもよって何故自分がと思わずにはいられない。

マイ達も、せめて最後は止めて欲しかった。

何故二番目か一番目に名前を登録してくれなかったのだと悔やむ。

そしたら二十一か二十二番になって最後は避けられた筈だ。

ゲソッと精神的な何かが削がれるのを感じながら立てばコメントを同じように求められた。

 

「特に、興味無いので何とも……」

 

コメント何て考えてもいなかったし、発言する事すら面倒だったのもあって答えた。

それ以外にも緊張していたので答えを結局まとめられなかったというのが一番の理由だ。

真夏のテンションに付いていけなかったせいである。

男達のテンションは下がらなかったので内心とてもホッとした。

 

「終わった……はあああっ」

 

脱力感が凄まじくて今すぐ船で寝たいがまだやる事は残っている。

 

「次、ジャンケンだっけ」

 

「勝ちましょうね!」

 

マイとヨーコが寄ってきて意気込む。

 

「帰りたい……」

 

「まあまあ」

 

マイが宥めてくるのを聞いて深く息を吐いた。

結果を言うとジャンケンで五番目という勝利に終わった。

 

(びっみょう……)

 

複雑だった。

残りは水着でアピールタイムというもので、最早着替えるだけで済むというのを差し引いても嫌になるだけである。

二人はピチピチだけれど、自分には特にこれといった武器も無く。

 

(何でこんな所で人に見せるだけなのに水着着てるんだったか)

 

目的を見失い始めていた。

 

「出番ですよー」

 

声をかけられて不幸な空気を漂わせながらラストステージへと洒落込んだ。

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