柔らかな椅子に座り、モモンガはスライドさせるように掲げた手を動かす。
目の前には宙に浮かんだ鏡。
もっともそれは鏡などではないようで、何もない緑色の草原を映していた。
その草原も風に揺れて波のように小さくさざめき、時の流れを示している。
(しかしこれ、相当時間かかってるな...)
モモンガは永遠に続くように思われるこの仕事に悪態をつき、再び鏡に意識を向ける。
目の前の楕円の鏡───
これを使えるようになれば安全に遠くの場所を探索することができ、それにより転移門の可動範囲が広がることにつながる。
───同時に攻勢防壁の作動や、
作業量を差し引いても、このアイテムを使えるようにすることは、とても益のあることだと思えた。
8時間前までは。
モモンガの心には、この仕事を選んだ後悔が侵食していた。
なお、タブラたち二人は、この場にはいない。
三人で楽しく会話をしながらならば、この長い作業も有意義に過ごせたものを。
(はあ...)
それもこれも、モモンガの後ろに控える一人の執事の存在に起因する。
名をセバス・チャン。
創造主のたっち・みーのごとく大迫力の説教をされ、現在タブラはアルベド、デミウルゴスとともに各しもべの役割について話し合い、ホシコは新たに手に入れた自分の体についてアウラとともに調べているようだ。
最も、あれから8時間も過ぎているため、2人の仕事はおそらく終わっているのだろうが。
それにしても───。
(...苦手だ)
背後で直立するセバスは、態度には見せないものの、何かつぶやけば丁寧に反応してくる。
若干の棘とともに。
お供を連れずに外に出ることの危険性を必死に説かれ、とりあえず、ということで各プレイヤーに一人のNPCをつけることを許した。
そんなことを許してしまったばっかりに、三人は一緒にしゃべりながらだらだらと過ごすなどという、支配者としての評価を地の底に落としそうなこともできず、バラバラに仕事を進めている。
結果として、こっちのほうが効率もいいし、急を要する現在としては最適解ともいえるのだが、いかんせん部屋の空気が冷たい。
(まあ、確かにろくな前衛も索敵も連れずに外に出ようとしたのは迂闊だったけど?)
と、心の中では思うことはあれど、万が一死ぬようなことがあれば復活できるかわからない現状で、後先考えない行動は控えるように心に決めた。
モモンガたちを思って叱ってくれたセバスにも申し訳が立たない。
(人化も、時と場所は考える必要があるだろうな───おっと、集中集中)
昨夜の出来事にトリップしかけ、この時間を一刻も早く終わらせたいモモンガは、自分を叱咤して緑の水面を見つめる。
だが、終わりそうにないその作業に、何度も昨日の事態に思いをはせていた。
「人化のトリガーが、スキルと同じように存在する、と」
またしても起きた突然の事態。
外で話すことではないだろう、と
はっきりわかるほどに怒れる表情で三人を待っていたセバスの説教が終わり、いつの間にか元の姿に戻っていたタブラに事の仔細を聞いた。
「魔法とは、違う感覚ね...」
妖精の姿のホシコは、目を瞑ってその感覚を探す。
モモンガも同じようにして、意識の深みに潜った。
(これか...?)
スキルなどが思い浮かぶ中、見知らぬ存在がモモンガの中にあることに気づく。
それを魔法を行使するときと同じように、意識の表に引っ張り出す。
「お、おお...」
唐突に視界が低くなり、体の感覚が鈍くなったことを感じた。
肌に触れる静謐な冷たさや、遠くから漂う食事の臭いなど様々な感覚がモモンガに襲いかかる。
それと同時に、体の重さと疲労感が一気にのしかかってきた。
「うげええ...。すごい嫌な感じです...」
「ああ、...骸骨の体だと感覚が制限されてるからかな。その点、ホシコさんは問題なさそうだけど」
「あ、うん。あたしは問題なさそう」
ホシコのほうを見れば、一気に背丈が高くなった彼女が、ぶんぶんと両腕を振り回している。
とはいえ、モモンガやタブラに比べれば、背丈は低いほうだ。
性格や話し方から想像出来るような勝気な顔は、リアルでオフ会をしたときと同じく街中で十人中八人以上が振り向く美人。
気丈な美人系と言えばわかりやすいだろうか。
そんなリアルの姿とほとんど変わらないものになっていた。
それに気づいてタブラも見れば、リアルであった時より老けてはいるが、おおむねそれと変わらない気がする。
いや、そんなことは無かった。
真っ白な髪と髭がふさふさと彼の顔を覆っている。
眼鏡をつければ、ダ○ブルドアかもしれない。
「...あ、というかホシコさん、右手ついてますね!ああ、いや失礼───」
「いいよ。でもよかった。なかったらなかったで精霊の姿でいればいいだけだけど、愛しの右腕を数年ぶりに見られたのはほんとにうれしい」
気遣いのない発言だったかと謝るモモンガに、ホシコは茶化す。
未だ振り回される彼女の右手は、まさに第六階層の景色を描いたり、NPCを作り上げた神器そのものだ。
「───うん。二人とも、リアルでの姿とほとんど変わらないようだね」
「そういうタブラさんは、言っちゃなんですが、だいぶ老けましたね」
「ド直球すぎるよ」
ふぉっふぉっふぉと笑うタブラにつられ、モモンガたちも笑う。
骸骨姿の時とは違い、強制的な精神沈下も来ないらしい。
制限なく笑えることに、モモンガは一人歓喜した。
「あ、でも言っておくとこれは調整できるみたいだよ」
「え、そうなんですか?」
「ええ。もともとの姿はこっちだし」
長い白髭をなでるタブラは、一瞬にして柔和な笑みを浮かべる四十過ぎの男性へと変化する。
真っ白な髪は暗く変色し、ひげは淡くはじけて空中に消えた。
「...年齢、いじれるってことですか?」
「ほ、ホシコさん?目がガチなんですが...」
「ま、その辺は詳しく調べないとわからないけど、多少なら見た目を変えられるってことだよ」
今度はぱちりと指を鳴らし、それと同時にタブラの髪が赤く染まる。
ユグドラシルにもあったスキルや魔法としての人化よりも、かなり融通が利くようだ。
「...あたし、あとで調べてみる」
「じゃあ、人化のことはホシコさんに任せようか」
「そうですね。俺はしばらく
「うん。そのほうがいいよ」
実際、モモンガは吐き気と酩酊のような感覚にひどく顔をしかめている。
いずれ必要になるだろうし、彼とて人の姿は様々な意味で手放したくないものだが、今は触れないでおこうと決めた。
いつの間にか、円卓の間に到着していた。
タブラが
デミウルゴスが知恵者として設定してあることや、アルベドがタブラのNPCであるため、書き込まれた情報がどこまで現れているのか、調べるつもりらしい。
モモンガも、外界を下調べできるよう、ユグドラシルでははずれアイテムだったうちのひとつ、
捨てられない症が、ここにきて功を奏したものだ。
「じゃあ、私はここで」
「あたしは第六階層にいるから」
「俺は応接間でセバスとともにいます」
お互いにこれから取り掛かる役割を確認し、意気込む。
(ああ、ギルドのみんなで役割決めてナザリックを作ったこと思い出すなあ)
何が起きたのか、検証不可能。これから起こりえること、予測不可能。外の世界で待ち受けるもの、推測不可能。
ないないずくめの、手探り状態だ。
そんななかでの冒険ほど、好奇心をくすぐるものはない。
ようし、と発奮して、モモンガはセバスのもとに向かう。
「
ナザリック地下大墳墓の第一階層の霊廟の中で、タブラはメモ帳に鉛筆で線を引く。
メモは、その大部分を文字を塗りつぶすようにひかれた横線が占めている。
その中で、消されていないモンスターの名前が三つ。
「タブラ・スマラグディナ様、御身の言葉に失礼を承知で申し上げます。この数では、いささか物足りないと...」
奥まで続く通路までも占めるように並ぶ異形種たちがひざまずく中、タブラのそばでひざまずく
それもそのはず。
今タブラが読んだ種族の名前は、ナザリックの外に出して周辺地理の捜索に出させるものたち。
そして、それらはこの集団の一部でしかなかった。
(本当に、本当に予想外だ...)
タブラは、人の姿で頭を搔く。
目の前で跪く悪魔に気づかれぬようため息を着く。
知者として想像された2人の守護者。
おそらく仲間のために体を張ってタブラたちを引っ張っていくだろうモモンガには、その忙しさゆえ手に余る部下となるはず。
タブラとて神話などの知識においては引けを取らない自負はあるが、頭の回転や創造的な発想において優秀と評価されるものたちには劣る自覚もある。
しかし、もしかしたら自分がモモンガたちを厄介事に巻き込んでしまったのではないかという意識が───モモンガの仮定に則って、彼の執念がタブラを生かしてくれたという解釈をしても───タブラこそ一番に荷を負うべきだと追い立てる。
そうでなくともモモンガはこれまでずっとこの場所を守ってきたのだ。
未知の状況に、誰が言わずとも率先して動くギルドリーダーにこれ以上負担をかけるべきではない。
そう思い、まっさきに知恵者2人とコンタクトをとったのだが、予想以上に体力と精神を削られた。
(まさか、王座の間で倒れたことがここまで影響するとはね...)
モモンガたちと別れ、アルベドたちが跪いて待つ円卓の席に着いた途端。
アルベドが猛威を奮った。
曰く、外界への進軍部隊は既に整っている。
曰く、ニグレドより、ここから10kmの位置に人間の住む村があるので、まずはそれから滅ぼす。
曰く、またその村の属する国には先駆けて
曰く、ナザリック地下大墳墓を陸の孤城とするため、タブラに力を貸してほしい。
曰く、空への迎撃システムの構想は完成したため、至高の方々の承認をがあればすぐに展開できる。
曰く、これで外にまちうける“りある”の脅威の一端を一掃できる。
10秒ほど固まってしまうほどには、過激すぎた。
なんなら、馬鹿じゃないの、と言わずにこらえたタブラを賞賛して欲しいところだ。
どうやら、モモンガたちの預かり知らないところで外界一掃計画が進行していたらしい。
モモンガとは、NPCたちはしばらくは裏切らないよう様子を見てこまめに仕事を振る感じで、ということになっていたが、これは本格的に監督が必要かもしれない。
タブラは、白髪の入った眉をつまむ。
これは、落ち着くまでモモンガに任せられない案件だ。
デミウルゴスの思いに同調するようにハッスルするしもべたちを見れば、モモンガのない胃に穴が開く。
「一つ、言っておこうか」
「は、タブラ・スマラグディナ様。なんなりと」
先ほどの場面では、勢いにあらがえずアルベドにナザリックの運営予算の再確認やカットの見積もりを頼んでいる。
なるほど、子供の気持ちになってみれば親を害したものなどまさに敵といえる、と少しだけ納得してしまったこともある。
しかし、こういった強引な手段を持っての調査ほど危険なことはない。
ぷにっと萌えも、情報戦はしていることすら悟られないのが良い、偽の情報をつかませるのはなお良い、とまで言っている。
破壊的な侵略活動は、この世界にいるだろうプレイヤーを呼び起こす。
ただでさえ悪名高いこのギルドに、攻め入るだけの理由が出来てしまう。
そんなことは、断じて許されない。
親が“りある”という未知の存在に傷つけられ、憤る気持ちが起こってしまったことはタブラの責任だ。
おそらくその怒りが最も強いだろうアルベドの説得は今の段階では困難だろう。
まずは、彼から誤解を解き、情報収集における隠密性の重要さを説くべきだ。
「この世界に誰が、何がいようと、暴力を持って取り掛かりはしない。絶対にだ」
「タブラ・スマラグディナ様、それは...」
「むろん、ナザリックに敵対する者がいたなら真っ先にモモンガさんが指揮を執るだろうし、私もみんなの安全を守るために力を振るう」
「そのような...」
「だが、この世界には何がいるのかわからない。私たちが警戒するような相手はいないかもしれないし、あるいは万を超えるレベルのモンスターばかりかもしれない」
「たとえそうであろうと、我々は至高の御方々のために命を賭します」
「───ただ、そうだな。私があれだけ傷ついたリアルというものはほぼ間違いなくこの世界にはないだろうし、理不尽があるのなら尚更気づかれないように情報を集める必要がある」
「───」
「攻撃は、知識を得てからだね。やまいこさんと意見はたがえちゃうけど、無用な争いはモモンガさんもホシコさんも望むところじゃない」
どこまで通じたかな?とタブラは部下の顔をうかがった。
叱られていると思ってしまったのか、顔をうつ向かせたデミウルゴスの顔は見えない。
あまり言いすぎてもあれだ、とタブラは話を切り上げる。
「今は、情報を得るフェイズだ。相手や第三者に悟られず、迅速に行動することが必要だよ」
なおも顔を俯いたままでいるデミウルゴスの様子に、少し言いすぎたかなと反省。
おほん、とひとつ仕切り直してタブラは言葉を紡いだ。
「ともあれ、悪かったね。心配かけて」
「た、タブラ・スマラグディナ様が謝ることなど...!!」
その言葉で悪魔の顔が上がる。
天啓を得た、とでも言わんばかりに輝くその表情に、タブラの脳裏に若干の不安がよぎる。
「───やはり、タブラ様は私より一手も十手も先を行かれます。モモンガ様、ホシコ様同様、タブラ様。御方にも何一つ欠けることなく捧げられるよう、誠心誠意尽くします!」
「...先を見据えてるってことかな?まあ、モモンガさんたちもむやみな敵対は望んでないさ。ひとまず...二、三週間ってところか。それまでにナザリック地下大墳墓の起こす行動の指針を決められるように、情報が欲しいところなんだよ」
「承りました。このデミウルゴス、外部勢力に悟られないまま任務を完璧に遂行して見せましょう」
再び頭を深く下げるデミウルゴスに、タブラは一抹の心配を覚える。
(思えば、ウルベルトさんも、張り切ってた時ほど失敗しやすい人だったよな...)
懐古するものとは多少違う気もするが、おそらくしもべだけの判断を許してしまえば何かとんでもないことをしでかしそうに思える。
モモンガも、ギルド繁栄期には口を酸っぱくして報連相を徹底させていた。
部下のやることにいちいち口を出す、ねちねち系上司にはなりたくないが、これもこの未知なる状況を一刻も早く理解するため。
───そして、ホシコのために、リアルへの戻り方を見つけるため。
戻れない不安もあるだろう彼女の前ではそのことは話せていない。
そのため、話を聞けていないモモンガも、もしかしたら元の世界に戻りたいと願っているかもしれない。
向こうの世界に戻れないことが確定しているのはタブラだけであり、いつまでこの世界にいられるかわからない以上、タブラがモモンガの代わりになることを考えなくてはならないだろう。
そのためには、この世界を知り、そしてNPCたちを知ることが必要だ。
「何か発見したり、判断を仰ぐときは、迷わず私に伝えてくれよ?」
黒い影がひしめく霊廟を眺め、顔の見えないデミウルゴスに念押す。
見渡す限り、おぞましい異形の影が首を垂れている。
伝わってくるのは恐ろしいほどに冷たい空気なのに、彼らの心の内がやる気に燃えていることがなぜだかわかった。
「かしこまりました」
「...うん」
むろん、まだ不安の種は尽きない。
近いうち、モモンガたちを連れてNPCたちを訪れるのがいいかもしれない。
だが、それをするにはあまりに状況は急すぎる。
夜空をみたモモンガとホシコの、外の世界への関心が急速に高まっているのを知っている。
デミウルゴスやアルベドは、言わずもがな監視対象だ。
マーレにはナザリック隠蔽作業が与えられているし、アウラとセバスはモモンガたちの付き人を担っているが、高い探知スキルや人間種と姿が変わらないことから、いずれ外に出す任務が下ることは確定している。
唯一、第六階層に集まった中でシャルティアとコキュートスだけはナザリックにとどまったままでいるが、どのみち状況次第で仕事も増えるだろう。
すべては、情報を得てからだ。
「じゃあ、さっき言った種族たちを霊廟に駐屯させて───」
タブラの言葉とともに、デミウルゴス率いる諜報部隊が動き出す。
「モモンガさん。様子はどう?」
対探査の攻勢防壁が相手から飛んでこないようにとモモンガがこもっている部屋に、緑色の精霊が入ってきた。
別れた時は、失っていたはずの片腕が復活したと喜んでいたホシコは、さらにうれしそうな顔をしながら部屋に入ってきた。
背後のセバスは、すぐさま膝をついて忠義を示す。
(今まであんまり笑わない人だと思ってたけど、結構にこにこしてるんだなあ)
同じくらいの背丈のアウラとともに入ってくる彼女は、楽しそうに友人のNPCと会話する。
ホシコさんは女性メンバーということでぶくぶく茶釜さんとも仲良かったよなあ、とモモンガはふと思い出す。
よく女性メンバーで楽しそうに女子会を開いているところを見たこともあるが、あの時もにこにこしていたのかもしれない。
口調と何一つ動かないアバターの表情では、あまり読み取れなかったことだ。
「いい感じですよ。森も見えてきましたし、しばらくすれば人の街も見つかるかもしれません」
「見たことない動物とかいた?」
モモンガは椅子を横にずらした。
「いえ、
「じゃあ、ここはちゃんと異世界だってことは判明したわけね...」
セバスとともにナザリック地下大墳墓の外に出て、その付近の調査を行ったホシコによると、ウサギやリスといった小動物しかおらず、以前拠点の外に広がっていた毒の沼もツヴェークも見当たらなかったらしい。
ナザリック地下大墳墓はどんな世界のどこに飛ばされたのかが不鮮明な今は、とにかく慎重に動こうということになった。
41人の中でも下から片手の指で数えられるほどの強さだったホシコを一人で外に送ることも、タブラとの間で控えることに決めている。
「じゃあ、最初はこの森をアウラちゃんと影の悪魔たちで調べるってことになるね」
「ええ。人の村を見つけた時は、ひとまず温厚に。民間人でもレベル100なんて世界もあり得ますからね」
「あははっ。ドラゴンがペットにでもなってそうな世界ね」
ほかにも、タブラがアルベドたちと話し合って決めたことや、ホシコが自分の精神魔法を試していた結果を聞きながら、何か見えないかと手を動かす。
「ふむ。ユグドラシルの時と魔法の効果は変わらず、ホシコさんの精神魔法は、八十レベルにも通用するんですね」
「超位魔法はまだ使ってないけど、ひとまず
そういって、「ごめんね~」とホシコはアウラの頭をなで繰り回す。
アウラは至高の御身のためですから、となでられるがままだ。
「超位魔法の『ロキのヤドリギ』が果たしてゲーム通りに使えるかですよね。ゲームの仕様通りに発動するなら、ほかの魔法もほとんど同じように使えるって判断できそうです」
欲を言えば、超位魔法も今のうちにしらべておきたいのだが、三人が習得しているどの超位魔法も対集団用のもので、しかも超位魔法のクールタイムは相当長い。
時間経過で回復するような魔法は、もうしばらくは温存するかたちになりそうだ。
「あれ?モモンガさん、今何か見えませんでした?」
隣のホシコが鏡を指さす。
よく見れば、確かに森とは違った茶色い点がいくつか集まっている。
近づいてみると、それは集落のようで、朝早くから多くの人が入り乱れていた。
二人は一瞬それがなんだか理解できなかった。
「...これは?」
「お祭りですかね?」
「いえ、これは違います」
二人の答えに、セバスは鋭い目で鏡を見つめたまま答える。
よく見てみれば、走り回る人々には
家の中に入り、血濡れた得物を引っ提げて出てくる鎧も、町の中心に貧相な見た目の者たちを追いやっている者もいた。
後ろで逃げる家族を守るため、やせた男は銀色の
駆け付けた鎧の仲間によってあっという間に引きはがされ、男は袈裟懸けに切り落とされる。
血しぶきが舞った。
これは、間違いなく殺戮だ。
おそらくどこかの戦闘部隊が、武器を持たない村人を襲っている状況。
初めて見つけた人里のありさまに、モモンガは落胆する。
「どうしますか?」
正直に言えば、まともに情報を得られそうにないこの村は捨ておいてしまいたい。
しかし、モモンガとは違いその心の内が表情にありありと浮かぶホシコが隣にいる手前、安易に見過ごす選択は選べなかった。
何より弱い立場の者を圧倒的暴力をもって押さえつけることが、モモンガの心を不快感で満たしているのは事実なのだ。
「助けよう。こんな一方的な非道は見過ごせないもん」
「ええ。わかりました」
鏡には、森へと逃げる二人の少女と、それを悠々と追いかける二人の騎士が映し出されている。
ホシコは「卑劣な...」とつぶやき、セバスも顔をわずかにしかめる。
これ以上ホシコに悲惨な景色を見させるわけにもいかず、モモンガは
相手はアルベドで、どこか焦ったような様子の彼女に完全武装で来るように伝えた。
「これから我々二人が外へ出る。セバス、お前はここに向かってくるアルベドと交代し、タブラさんに事の仔細を伝えたのちナザリック地下大墳墓の守護へと───」
「えっ」
まだ慣れていない支配者ロールをする途中、突然ホシコが声を上げる。
振り返ると、彼女は鏡を見たままとまっていた。
(───間に合わなかったか?)
幼い少女二人が無惨にも殺されてしまうところを見てしまったのかもしれない。
彼女はこの美しい世界の残酷な部分は見ないほうがいい。
焦ったモモンガは、鏡を見ながらゲートを開こうとして───。
「...たっちさん?」
崩れ落ちた少女たちの前に立ちふさがる、既視感のする真っ白な男を見た。
言っておくと、至高の41人の登場するペースはそこまで早くしないつもりです。
三十話ほどで構成されるだろう一章では、白い人のほかにもう一人だけ来ます。
<捏造設定>
人化の詳細設定。
下級の闇精霊。
精神系魔法の超位魔法。
守護者の話が薄いと思われる方、十話あたりで書くのでしばしお待ちを。
次回は、少しだけリアルの話を書きます。