もしもテニプリに女子テニス部があったなら〜交流編〜 作:ハネ太郎
バレンタインデーの当日、学校で恋人の竜崎桜乃からチョコレートを貰うつもりだった越前リョーマは、友人の小坂田朋香と共に待ち合わせ場所に向かい、そこで倒れている彼女を発見した!
現場は、外の通り道と交差している、一階の渡り廊下。慌てて朋香と二人で保健室に運ぶ。
「う・・・う〜ん、ここは?」
程なく、桜乃は目を覚ました。顔や手には絆創膏が貼られている。
「保健室だよ。何があったんだ? えらくホコリまみれだったけど・・・」
事情を尋ねんとするリョーマ。桜乃の体中、外由来の砂ぼこりと、大勢に踏まれたと思しき靴跡、傷跡だらけだったのだ。
「待ち合わせ場所に向かっていたら、突然『大河原く〜ん!』『キャ~、ヨシツネさま〜♡』という女子たちの歓声が聞こえてきて、その後走ってきた集団に・・・」
「巻き込まれてボロ雑巾にされたってわけか・・・」
「その大河原ってのは、多分サッカー部のエースの大河原義経先輩ですな。常に女子の親衛隊を引き連れているイケメンモテモテボーイで、校内のみならず校外にもファンクラブが設立されてるとの噂ですよ。・・・つまり、彼にチョコを渡さんとする女子たちの
朋香が冷静に分析する。
「どこの部でも、そういうのがいるってわけね。しかし桜乃、よく生きてたよな・・・。薄々気づいてたけど、お前、運は悪いかも知れんが悪運が強いんだな」
リョーマは呆れつつも、見た目以上に頑丈なこのパートナーに感心する。
「・・・はっ、そうだ! わ、私の・・・チョコケーキ・・・」
「・・・これのことか」
「いやあー!」
桜乃の傍に落ちていた、綺麗にラッピングされた(であろう)箱(とかろうじてわかる物)。それは今日、この時のために、彼女が一週間がかりで用意した、手作りチョコケーキだった。女子たちに踏みまくられて見るも無惨なその物体を、取り出す少年、悲鳴を上げる少女。
「これを、俺の、ために・・・?」
グシャグシャな箱を見つめつつ、リョーマはつぶやく。
「うん・・・。でも、これじゃ、もう、食べれないね・・・」
ベッドに横たわったまま、虚ろな目で彼氏の手にある物体を見つめる桜乃。
リョーマはラッピングを無造作に引っ剥がし、中身を確認する。やっぱり箱同様にグシャグシャなケーキ、辛うじて元は丸い形状(ボール?)だったことがうかがえる。表面には何か文字・・・メッセージが書かれていたようだが、もはやそれも判読不能だ。
・・・と、ここで、リョーマは思わぬ行動に出た! なんとそれを手づかみで食べ始めたのだ!
「い、いいよ、リョーマくん! そんなの食べなくても!」
慌てて止めんとする桜乃だったが、
「いや食べる! せっかく作ってくれたのを、無駄にするわけにはいかないだろ」
「お腹壊しちゃうよ・・・」
「そんなヤワじゃねーよ」
少年は少女の心のこもった贈り物を、一心不乱に食べ続ける。
「・・・美味いじゃないか」
「え?」
「ほら、お前らも食べろ」
リョーマはチョコケーキの破片を、桜乃と朋香にも食べさせる。
「・・・どうだ、美味いだろ?」
「うん・・・おいしい」
「おいしいよね・・・ううっ」
リョーマはチョコケーキを完食した。
「・・・ごちそう様でした。期待してなかったけど、けっこうやるじゃん。・・・なに泣いてるんだよ」
桜乃は、ベッドの上でさめざめと泣いていた。
「・・・だって・・・せっかくのバレンタインなのに、ずっと前から準備してきたのに、こんなことになっちゃって・・・ごめんなさい、リョーマくん。・・・それから朋香も、手伝ってもらったのに・・・」
恋人たちにとっての大イベントでこの失態。悔し涙を流さずにはいられなかった。
「桜乃、泣かないで! リョーマさまは食べてくれたんだから、いいじゃない! あたしの事はいいのよ! 楽しかったから!」
慌てて慰めにかかる朋香。
「・・・納得いかねーんなら! また作ってこいよ、何度でも!」
「え!?」
不意にリョーマが大声をあげる。驚き、固まる二人。
「てめーが納得するまで、何度でも、何十回でもだ」
ベッドの彼女に顔を近づける。
「・・・お前があきらめない限り・・・その気持ちが、本物である限り・・・!」
真っ直ぐ向き合い、目を合わせ、叱咤激励したのち、
「俺は、とことん付き合わせてもらうからな」
優しく微笑む少年。
「・・・わかった・・・! また、作ってくるから・・・! その時は、また、食べてね・・・!」
「リョーマさまぁ・・・あんたぁ、ほんとに、男の中の男ですわぁ・・・!」
自分たちが愛した『王子様』の中に『漢』を見た桜乃と朋香。二人はしばらく涙が止まらなかった。
ところ変わって、ここは三年生の教室。
「クニッチュ〜♡ 私の愛を受け取って〜♡」
変なテンションで手塚に迫る吉乃。
「な、なんだお前、バレンタインはこないだのパーティーで済ませたんじゃなかったのか?」
戸惑う彼。当然だろう。それでなくても、こんなふうに真正面から自分にアプローチをかける女子というのを、手塚はこの年まで見たことがなかったのだ。ついでに、親しい人にあだ名で呼ばれるというのも初体験だ。
「あれはあくまで義理チョコ。本命はちゃ〜んと、別に用意してあるのよ♡」
「・・・すまん、ありがとう。・・・お返しは、期待するなよ」
「うん♡」
彼女に感謝の意を伝える手塚。目をそらし、心なしか頬が少し赤い?
「不二先輩・・・これ、よかったら、どうぞ・・・」
「ありがとう」
不二周助に本目チョコを渡すは、女子テニス部の二年生、宮坂瑠璃奈。別名「心眼テニスのるりひー」。交流試合で彼と対戦、途中まで互角の勝負をするも、体調トラブルで倒れる。その際に彼に介抱してもらって以来、懐いている。不二も、この不思議系地獄耳パートナーを気に入っているようだ。
「乾先輩! 独自の調合で作った、薬膳チョコです! ぜひ食べてください!」
「ふふふ、それは楽しみだ」
乾貞治に怪しげな代物を食べさせんとするのは、彼に弟子入りを希望していた小笠原美姫。対戦を期に念願叶い、よく二人でスポーツのための薬膳料理を研究している。彼女がチョコに忍ばせるは、惚れ薬かはたまた精力剤か?
「おう、マムシ! チョコ貰えたか? アタシのもやるよ、受け取れい!」
「お、おう、すまねえ、ヤマネコ!」
こちらは二年生の教室。マムシこと海堂薫とヤマネコこと山根和味。彼らもまた、交流試合で対決した仲だ。サバサバ系ボーイッシュ少女の元陸上部員のヤマネコちゃんは、とある事情から海堂を敵視していたのだが、今ではさっぱりした友情を結んでいる。
ふたたびリョーマと女子二人。保健室から女子テニス部の部室に移動した三人は、持ち帰り用の箱に納められた、リョーマがもらったチョコを物色していた。
「欲しいのがあったら、分けてやるよ。っていうか、少しでも減らしてくれ・・・」
「了解でーす」
「や〜ん、幸せ太りしちゃいそう〜♡」
全校女子たちからの彼への貢ぎ物は、ひと抱えもある段ボール箱に満杯であった。サクトモは興味津々で調べる。
どこの誰が入れたのか、記名はない。しかし、ある程度送り主の性格は分かろうというもの。既製品をそのまま入れただけの人、袋や包装紙など、ラッピングを一応施した人。大袋商品の中身を取り出し、数種類を別の入れ物にまとめて独自アソートを作った人。拙いながらも溶かして型で成形など手作りした人。変化球でせんべいやキャンディーを入れた人、エトセトラ。
「ムッ・・・こ、これは!」
朋香が不意に反応する。それは上品な装飾が施された、手のひらサイズの小箱だった。いわゆるひとくちサイズ(これまた凝った成形がなされている)で一個一個味が違うのが、キレイに並べられたアソートチョコだ。
「えー、値段のことを言うのは野暮なんですが・・・。例えば、こちらのチョコは250円します」
朋香は別の小箱を手に取り解説。
「そしてこちらは500円します」
「違いがよくわかんねぇ・・・」
この時期は、バレンタインデーと翌月のホワイトデーのために、普段は見ることのない高級ブランドのチョコレートが一般の店頭に並ぶのだ。そんなもの、リョーマにとっては未知の領域、異次元の世界だった。
「そして問題のこのチョコ」
最初に彼女が反応したその品物は、
「なんと1000円します!」
「たっか! 金箔でも入ってんのか!?」
これにはさしもの王子様も口をあんぐり。
「・・・え〜と、検索したら、火輪プリンセスホテルと兜塚シェフの共同開発だって・・・」
桜乃がスマホ片手に解説する。
「ブランド力こえー・・・(汗)」
世の中には自分の知らない世界と、そこで通用する価値観がある。少年はひとつ大人になった。
「この分だと、1500円とか2000円クラスの品物もありそうですねぇ・・・」
「よ、よせ! もういい、やめろ!?」
さらなる探索を続けんとする朋香を、血相変えて止めるリョーマ。見ず知らずの人間からそんな高価な物を貰っては、流石の彼も正気ではいられないのだ。
・・・後にサクトモが調べたところ、最高価格は2500円だったそうな。当然、送り主は不明・・・。
「んじゃ、ま、1000円の重みを噛み締めながらいただきますか」
件の高級チョコを三人で食べることにした。箱を開けたら案の定、異なる味とデザインの一粒チョコが6個。とりあえず適当にひとつずつ。
「「「いただきまーす」」」
パクッ
・・・・・・
「う〜ん、口の中でとろける〜♡」
「この上品な甘さ♡」
流石は高級品とサクトモが浸ってるその横で、当のリョーマはというと、
「・・・やっぱよくわかんねーや」
「「だよねー」」
「えー、別な意味で気合いが入ってるのが、これ」
気を取り直し、リョーマが机の上に置いた物は、
「うわでかっ! 人の頭ぐらいあるよこれ!」
ハート型の巨大チョコレートだった。
「何気に手作りだよね、これ。板チョコ何枚使ったんだろ・・・」
湯せんで溶かして型で成形する、お馴染みの手法だと思われる。はめ込まれたままの型はアルミホイル製。形は少々いびつだが、それもまた味。
「越前〜! 俺たちにもチョコ分けてくれ〜!」
と、ここで突然部屋に飛び込んできたのは、堀尾・カチロー・カツオの一年生トリオだ!
「なんだお前ら、チョコ貰えなかったのか」
「情けないわね・・・」
「恥を忍んで頼む! お恵みを〜!」
「好きなだけ持ってけ・・・」
「恩に着るぜ〜!」
と、ここでリョーマは突然立ち上がり、件のハートチョコを手に取り・・・
「ついでに、これもシェアするか」
バカン!!
なんといきなりチョコを叩き割ってしまった!
「ちょ、リョーマさま! ハートをそんな無造作に、あ〜あ〜!」
「あん?」
事の重大さが理解できてないリョーマ。慌てふためく朋香だが後の祭り。先程まで『巨大ハートチョコ』だった物体は、『ハートの破片チョコの山』と化してしまった。
「まさにハートブレイク・・・」
「あはは・・・。誰だか知らないけど、ゴメンね・・・。リョーマくんは、こういう子だったのよ・・・」
自分たちだけが知る、王子様の実態。桜乃は、顔も名前も知らぬ送り主に思いを馳せ、空を仰いで精いっぱいの謝罪をしたのち、ハートの欠片を一口。それはほんのり甘く、どこかほろ苦いビターテイストだった。
つづく
ある冬の日、リョーマと桜乃は喧嘩した。お互い口も聞きたくないほど心が離れてしまった。戸惑う仲間たち。そこに、桜乃に近づく男の影! 次回「破局の危機・・・!? 前編」お楽しみに!