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ブロウタス様『ガイア連合武器密輸課職員の日常』の最新話と設定の齟齬が出てきたので、ジョーズマン関連の小ネタを修正。
◇ ◇ ◇
【聖都天草】を陥落して、おおよそ一週間が過ぎ、通称無惨ニキこと奇仏寺無漸が管理する研究所にもようやく普段通りの日常が戻ってきた。その上で、変化といえば四姉妹が加わったためにアイテム作成の幅が広がった事などもある、か。ともあれ今日も研究所、通称『ダ・ヴィンチラボ』は平常運転、割と平和である。
「これは……中々根気がいる作業よね」
と集中して魔法陣に魔力を送り続けているブレイクだが、なかなか安定して集中できず、難儀しているようだ。時折、出力の調整が乱れる度にピクピクと頭上の猫耳が震えるのが可愛らしい。まあアレは少しばかり安定に欠けていても最終的には問題ない類の代物だから問題なし。
作業台の上に広げられているブレイクの魔法陣は大型のフラスコに繋がっており、フラスコの中には無数のBB弾が詰め込まれ、霊薬に浸されている。市販のエアソフトガンでも発射できるBB弾に破魔属性を付与する作業の真っ最中な訳だ。
銃刀法がある日本社会の中では、たとえ異能者とはいえ銃火器を持ち出すのは難しい。だから銃刀法を無視できるエアソフトガンに対応した銃弾を製造し、売りに出す。
無論それだけというだけでなく、エアソフトガンにも利点がある。具体的には弾数が圧倒的に多いという事。一番小型であるハンドガン型のものでも装弾数30~40などは割とよくある話で、サブマシンガン型であれば200や300、あるいはそれ以上に及ぶことも珍しくはない。そういうわけで、ダンジョンアタックによる連戦が要求される異界攻略には通常火器よりも向いている、と考える事もできる。まあ、敵に通用する火力があるという前提ではあるのだが、その辺は弾丸の性能や銃に施された術式などのオカルト要素で補う必要がある、か。
隣でその呟きを拾い上げ、小さく溜息を吐いたのはひたすらパソコンに向かい合って帳簿を照らし合わせていたワイスだ。研究所付きの式神として経理やスケジュール管理などの業務を任されている彼女は、忙しなくキーボードを叩く手を止めて肩をすくめる。
「事務仕事ほどじゃありません。この事務所、収入と支出のバランスがまるで取れていませんもの。というか円と魔貨なんて通貨体系が二つも併存している事自体が問題なのですわ! 換金レートも日々変動していますし、せめて一つに統一してくれないと、計算がややこしくてたまりませんわ」
「とはいえ、ワイスが来てくれて助かってるよ。経理関係とかスケジュール管理とか、メディアに丸投げしてて本当に大変だったからね」
などと言いながら、荷物で塞がっている両手の代わりに肘でレバー型のドアノブを押し下げ、肩でドアを押して部屋に入ってきたダ・ヴィンチはワイスに声を掛ける。両手に抱えているケースの中身は、シキガミ技術を応用して製造された新型の霊装だ。
透き通った銀色のロッドが三本、煙のような霊体のリングに纏められて接続されたヌンチャク型。魔獣ケルベロス一体分の霊基を彼女達の主のペルソナの能力で三体の妖獣ガルムに解体し、それぞれを特定の属性に特化させてスライムコアを製作する、などという訳の分からない方法でオーダーメイドされた際の面倒な各種注文をクリアした逸品であるが、残念ながらそちらに注目するような面子はおらず、さらっと流された事にダ・ヴィンチは少しだけ寂しそうな表情を見せた。
「いえ……普通の事を普通にやっているだけの事ですから。わざわざ褒められるような事では……」
「いいじゃないの、褒め言葉くらい素直に受け取っておきなさいよ。それとも自信ない?」
「なっ、そんな事はありませんわ!」
恐縮するワイスに向かって、隅のキッチンスペースで鍋を掻き混ぜていたヤンが言葉を投げる。彼女の担当は調理その他家事全般、今やっているのは今日の昼食、ガイアカレーをアレンジしたカレーチャーハンである。最近はカレーだけじゃなくてそれ以外の色々なレシピも増えてきたので、それに伴って食事のバリエーションも増えてきたが、やはり基本はカレーだ。
「こっちの仕事は料理と家事。結構楽しいから、ワイスもやってみる?」
「どう考えても無理でしょう。私にそっち系のスキルは組み込まれてませんもの」
などと話していると、ガラガラと音を立ててカートを押してきたルビーが部屋に入ってくる。カートの上にはダ・ヴィンチが抱えているものと比べても数倍以上のサイズを持った大型のポッドが乗っており、その中に詰まった濃緑色の培養液を透かして、ヒトガタの輪郭を持つ、しかし人とは決定的に異なる異形の姿が見て取れる。その凶悪な姿に、ブレイクは思わず顔を引き攣らせた。
「ダ・ヴィンチちゃん、これはどっちに持ってけばいいの?」
「ああ、第一低温保管庫にお願い。倒したりしないように、慎重にね」
と言われたルビーは、そのままカートを押して別の扉から部屋を出ていく。その背中を、正確にはルビーが押していたカートに乗っていた謎のナマモノを視線で追ったブレイクは、その視線の向きをダ・ヴィンチに戻した。
「……ねえ、あれ、何? 新手の神話生物?」
「ああ、新型の式神……のメインフレームだよ。ちょっと前から開発部のモルモットニキっていう人……ブレイクはまだあった事なかったよね、とにかくその人の研究室と共同研究を続けていてね。そこで製作中のシキガミボディ……の試作型さ」
割とブッ飛んだ真似をする連中が多い開発部の中でも、自身の脳髄をシキガミとリンクさせて意識を共有する、などと殊更にクレイジーな真似をしでかしているのが件の研究者モルモットニキだ。
彼の技術を応用して、もっと多数のシキガミをリンクする事で精神をクラウド化させる事ができれば、人類がもう少し愉快な事になりそうな気がするが……。
「プロトアイギス系列の技術を使った認知異界対応型の特殊仕様式神なんだけど、向こうの研究室で製作中の正式版は次の研究発表が残り二週間切ってるのに調整が難航してて、まだ認知異界内部での動作具合が60%を切っててさ。機能低下は最低でも10%以下に抑えたいところなんだよね」
プロトアイギスや同系統の式神での機能低下は5%以下に抑えられるくらいに研究が進んでいるだけに、一層もどかしい、とダ・ヴィンチは言う。
シキガミの基礎フレームを認知異界対応型にするのと、戦闘機能を強化するのと、どちらも両立させるのは想像以上にハードルが高く、特に非戦闘型のペルソナ使いの護衛用として設計中のこのジョーズマン型では戦闘能力をおろそかにできないため、余計に難易度が高い、との事。
「まあ、その辺はマスター君の仕事なんだけどさ、やっぱりまだ開発途上で不安定な技術だから色々と難しいみたいでね。それこそペルソナ搭載型のシキガミ技術が完成するまで待った方が確実じゃないか、とまで言ってたよ」
それでも改良の糸口自体は見えているから大丈夫、とダ・ヴィンチは言って肩をすくめる。
「そういえばそのマスターですけど、今日はどちらに?」
「ああ、マスター君ならメディアと一緒に山梨支部────本部だね。色々と事後報告する事があるんだってさ」
◆ ◆ ◆
星霊神社、本殿から少し離れた茶室にて、メディアを傍に置いた僕はショタオジと会見していた。分厚い竹垣を周囲に巡らせた和風庭園に余人の姿はなく、茶室にいるのは僕とメディアを除けばショタオジだけ。そんな静まり返った空間に鋭く鹿威しの音が響き、その後を追い掛けるようにショタオジが持ち込んだ携帯コンロの上でグツグツと鍋が煮える音がする。
「今日のはガイアカレーのバリエーション、ガイアグリーンカレーだよ。技術部食品課が作った新作って話でね。本当なら茶室に持ち込むものじゃないと思うけど、御飯時だからね。仕方ないね」
その辺はショタオジにとって勝手知ったる我が家であるから、であり、そして限られた身内だけの集まりだからこその気安さという部分もあるのだろうが、狭い茶室でカレーなど作ったら臭いが籠りそうだ。換気用の窓も開けてあるが、密談用の茶室という用途の限定された建物の構造上、窓も小さく作られており、魔法の補助まで使って換気している。
「直接来てほしいと注文したのはこっちだけど、予定が立て込んでたからね、随分と遅くなってしまった事には謝罪するよ」
「いいよいいよ、仕方ない。ショタオジが忙しいのはみんな知ってます」
そんな僕達の様子を見守りながらカレーの鍋を掻き混ぜていたメディアが、薄っすらと笑みを浮かべた。彼女の目からは、今の僕達はどのように見えているのだろうか。全知ならぬ僕にそんな事は分からないが、ともあれ。
「で、色々と報告や相談したい事があるって聞いたけど」
「ああ。あの【聖都天草】で回収した色々。まずはライトなところから一つ一つ並べていきますが」
まず最初に、一番ライトなところから。アガシオンやイヌガミ、クダといったガイア連合特産の高級使い魔ラインナップに、新しい種類を増やせそうだ、という話。間違いなく、今回報告できる中で数少ない、リスクも危険度も最小限な“いい話”だ。そう報告すると、ショタオジは怪訝そうに首を傾げる。
「【聖都天草】だよね……メシアでクトゥルーな末路の。そんな場所で、そんな使えそうなのが回収できたって? いやいや……」
「そう言われると僕も現実的に考えて疑問を抱かざるを得ないけど、まあ割と簡単に使い物にできそうなんで」
問題の悪魔は『妖魔ビヤーキー』。クトゥルフ神話に登場する旧支配者ハスターに仕える奉仕種族であり、クトゥルフ神話においては対立する旧支配者クトゥルーの眷属に対抗するための戦力として魔術を用いて度々召喚される存在だ。
大雑把にトカゲの頭とコウモリの翼を持つスズメバチのような体形の、人間大の飛行生物、といった外見を持つ。
「元々の神話からして旧支配者の眷属と戦うために魔術を使って召喚する、って存在ですから、アガシオン程じゃないけど扱いやすいし、対悪魔戦にはうってつけだ。何より例外なく空が飛べて騎乗できる、この利点は大きい。ショゴスみたいに暴走して文明一つ潰した逸話もないし」
無論、難点もあるのだが。曲がりなりにも神話生物であるため、その時点で何もしなくとも周囲に狂気を振り撒く精神汚染の性質を持つ、というのが正にそれだから、何かしらクトゥルフ系の狂気耐性を用意しておく必要があるだろう。まあその辺、邪神クラスと直接対面するような状況でもない限りは精神耐性装備が一つあれば割と十分なのだが。
などと話し合いながら、そろそろ腹が減ったかな、と僕は茶室の壁に掛かっていた時計に視線を向ける。もう少しで正午、隣ではメディアが掻き混ぜているカレーの鍋が美味しそうな匂いを上げており、そろそろ食べ頃かもしれない。
「ああ、その辺は大丈夫、というかその内に大丈夫にする予定だよ。ガイア連合所属の専用式神に関してなら、近々アップデートでマスターに対する巨大概念悪魔からの概念侵食をブロックする機能を標準搭載する予定でね。それが完成したら、それこそ精神系攻撃スキルの直撃でも喰らわない限りは邪神クラスの狂気でも遮断できるはずさ」
と、ショタオジは自分の湯呑を傾けながら何てことなさそうに言う。どうやら対策済みであったようで、まあ流石、と言うしかないだろう。邪神クラスなどと言うからには、それこそこの間のヨグ=ソトース級の狂気まで遮断するレベルのプロテクトになるのだろうから大したものだ。
「ちなみに君のところの式神の内、RWBYの四人に関しては試験的に搭載してある。彼女達で動作確認してバグ取りやって、で、それから本格的に全国配布って形になるかな」
「なるほど。じゃ、その内その成果がメディアやダ・ヴィンチに回ってくるわけだ」
「そういう事」
そこまで話すと、ショタオジは急須を取って自分の湯呑に緑茶を注ぎ足した。急須特有のくぐもった水音に合わせて、湯呑の中に湯気を上げる緑茶が小さく渦を巻きながら溜まっていく。これも割と高級な茶葉であるらしいが、僕もショタオジもその辺はあまり意識しておらず、その様子をぼんやりと眺めながら、僕は研究所から持ってきたアタッシュケースから小さな箱を取り出して卓袱台に置き、ショタオジに見えるようにそれを開封する。箱の中に入っているのは、小さなホイッスルが五本。
「で、これが件の商品サンプルですね。封印具となるホイッスルとセットにして、ホイッスルの中に格納している間のMAG消費はゼロな安心設計。召喚儀式も含めて製作は割と簡単な方だけど、それはそれとして他にも作るものとか色々あるから、製造ペースは三日に一本って感じかな」
竹素材に骨で飾り付けられており、さらに表面には金文字で呪術的な紋章が描かれている。クトゥルフ神話において邪神クトゥルーと対立する風神ハスターを表す“黄の印”だが、これはビヤーキーがハスターの眷属であるためだ。
「まあ、そのくらいが適正だろうね。今、狂気汚染を気にせず安全に神話生物を取り扱える術者って、君以外にはあんまりいないしね。クトゥルフ系の神話呪文が使えるカルトマジック使いなんて本当に珍しいからねえ……」
そもそも十九世紀のホラー小説群に端を発する魔術体系など、どこの霊能組織にも伝承されているはずもなく、魔導書などの入手はそれこそクトゥルフ系の異界に突撃して何かしらの高位悪魔から交渉か戦闘で入手するくらいしか手段がない。何より正気を蝕む性質を考えれば、簡単に習得を進めるわけにはいかないというのが現状だ。
「ちなみに、取り扱いはビヤーキー以上に難しくなるけど、一応それ以外にも『外道ファイアヴァンプ』や『外道スターヴァンプ』、それに『外道ショゴス』なんかも取り扱ってます。まあ特にショゴスはお勧めできないけどね。強いけど原典の神話からして暴走の逸話付きで制御が難しいから」
「ま、その辺は覚悟しておくべきだろうね。使わせる相手は慎重に吟味する必要がありそうだ」
と、いう話になった。あるいは、ペルソナ使いやデビルシフター、ガーディアンなんかでクトゥルフ系邪神の力を使える異能者がいたら、そういうのに使わせてみてもいいかもしれん。多分、そういった連中ならショゴスでも暴走させずに安定して使役できるはずだ。神話的にもショゴスは邪神クトゥルーの眷属に使役されていたりもするし、さすがに邪神相手なら言う事を聞く、はず。
で、次の報告だが。
「【聖都天草】で拾ったこの鏡なんだけど、これ。多分、ニトクリスの鏡だよ。危険だけど、どこかしらで使い道がありそうなアーティファクトだし、保管しておくべきじゃないかと思って」
「……クトゥルフ神話の有名なアーティファクトだよね。これが本物、と」
本物、といえるかどうかはそれこそ哲学的な問題になってくるわけだが、少なくとも機能的に本物である事は間違いない。テーブルの上に置かれた鏡、直径一メートル程度の円盤型のそれは分厚い袱紗で包まれて機能停止状態になっている。
鏡面を包んでいた袱紗をショタオジが広げると、異形の怪物が絡み合う悪趣味な青銅の額の中に配置された、黒く霞んだ鏡面がショタオジの顔を映し出した。
ニトクリスの鏡────クトゥルフ神話において語られるアーティファクト。伝説、というか原典となるホラー小説では古代エジプトの女王ニトクリスが所有していたとかいうその黒い鏡は、適切な形で保管されない限り勝手に起動して外道ショゴスを生成、その上できっちり制御がされなければ、ほぼ確実に発生する最悪の場合、問答無用で所有者を殺害する、とかいう面倒臭い機能を持っているようだ。また、周囲に悪夢を撒き散らすとか、それ以外にも現世とは異なる異界の光景を垣間見る事ができるとかそういう性質もあるが、その辺はまあ、大した役には立たんだろ。
狂気を振り撒く性質は基本的に無差別だが、今やっていた通りに鏡に布でも掛けるとかして鏡面を塞いでおけばアーティファクトとしての機能はプラス効果、マイナス効果と問わず全部停止するようで、その辺を考えるとSCP基準での危険度はSAFE、クトゥルフ系アーティファクトとしては比較的取り扱いが容易い部類に属するわけだが。
多分、【聖都天草】がクトゥルフ系の異界になった事で、異界にオブジェクトみたいな感じで置かれてた何かしらの鏡が“コレ”になったのだろうが。
「FGOだと宝具にもなってたよな。まあ、コレであの宝具が再現できるとは思わないけど」
「試してみたら?」
「いや、さすがにマズいだろ」
異界の幻を垣間見る、という機能が、クトゥルフ神話の世界が異界と魔界にしか存在しないこの世界においてどんな風に機能するかは分からんが、実現したらしたで、変な方向から大惨事になりかねない。それに、認知異界対応型式神以外にも、研究すべき課題は色々とあるしね。だからまあ、ショタオジに預かって欲しいんだが。
「…………なるほど。いいよ、ソイツは僕が預かっておこう。で、それだけじゃないんだろう、次の報告は?」
「南島原市の教会に配置されていた猛将ヴラドの召喚方法。メシア式英雄合体とでもいうべき技術だね。ネクロマした猛将ヴラドを尋問して分かった事だけど、詳細は書面に纏めておいたから、詳しい事は後で確認しておいてほしい」
まあ、正直これを英雄合体などと呼んでいいものか、割と微妙だったりするのだが。無垢にして純然たる人造の肉の器ドリーカドモンを、生きた人間で代用するとかいう本末転倒の技術。しかもそれでいて技術レベルが追いついておらず、精度がゴミ。つまり純粋に成功率が低く、仮に合体成功しても英雄・猛将の本来の性能からかなりダウングレードしたものが出来上がる可能性が高い。僕達が戦ったあの猛将ヴラドは、割と上澄みの部類だったようだ。
「メシア教会の立場から見れば一番の問題は、成功率が低い割に、ガチャ券として生きた人間、それも可能な限り純潔で無垢な器────つまり子供を使用するっていう点ですね。メシア教会の主な勢力圏であるアメリカ・ヨーロッパは基本的に文明社会ですから、そうホイホイと子供は手に入らない。いくら信徒を洗脳しようが、子供殺しの事実は表社会の警察に察知されますからね。最近はFBIだのCIAだのに睨まれてるって話もあるみたいですし、穏健派の目もありますから」
これが中国だのアフリカだの東南アジアだのいった、人間の値段が安上がりで、かつ戸籍関係がしっかりしていない世界だったら話は別なんだろうけれど、その辺はメシア関係ない他神話の占有だし。
「当たるまで引けば実質配布と変わらない、とか言い張っても、ガチャ券が手に入らんならどうしようもないしね。だから国内のスラムや中米の不法移民から子供をチマチマ拉致って改造、って感じでアメリカの国境近くに工場置いてるみたいだけど、それでも供給が足りてるとは言い難い状況みたいだね」
それをどうにかするためにクローン技術の開発とか本末転倒な方向に話が飛んでる気がするけれど、メシア教会のやる事だから仕方ないのかもな。人間の代用品を人間で代用するとか、主客転倒もいいところだ。
「制約も面倒も多い技術だし、放っておいても大した脅威にはならないかもしれないけど、何かの間違いで連中が大当たりを引き当てる可能性もあるし、工場自体にも限りがある事を考えると、目障りなら誰かを派遣して潰しておく事も考えられるよね。どうする?」
「うーん……その辺は幹部の皆と相談かな。少なくとも今この場で決める事じゃないね」
「ですよねー。重要度を考えると直接的な抗争の引き金になる可能性は低そうですけど、だからといって気軽に決めていい事じゃない」
と、いうわけでこの辺の問題は僕の手を離れた。
「ああ、そのヴラド関連の諸問題に関して、あの事件に関わった英傑キンツバジヘイですが」
「合体技術とか関係なく野良で湧いた英傑なんだっけ。結局どうなったの、アレ」
「根願寺の御成さんと契約して仲魔になったそうですよ」
と、いうわけである。まあ、これに関しては、ガイア連合にとっては大した問題じゃない。まあメシア教会と深い関係を持つ根願寺の僧侶が、メシア教会絡みの悪事を潰すのに加担した一神教の聖人の加護を受ける、とかいう滅茶苦茶絡み合った状況に陥った事が、どこでどういう事態の玉突き衝突事故を起こすのかは知らんけど。
少なくとも戦力的にどうにかならん事態にまで発展するとは思えないので、その辺は問題なし。戦力的な話をするなら、国内でウチに追随できる集団はいないだろうし。
で、ここからが重大な問題になってくるわけだが。
「それじゃ、一番大事な問題に行きますか。【聖都天草】でダ・ヴィンチが回収してくれたワークステーションと各種資料、それを突っつき合わせて大雑把に解析した結果、データの破損は大きかったものの、これがおおまかに悪魔召喚プログラム“っぽいもの”である事が判明した」
「……ぽい、もの?」
「ええ。ぶっちゃけデータの分量と破損が大き過ぎて、ここの設備じゃそこまで詳細な解析は無理だね。その辺の作業ができるのがダ・ヴィンチ一人しかいないって事もあるけど」
プログラミングとか、はっきり言って専門外にも程があるので。僕の専門はあくまでもカルトマジック。純粋な文系人間なのだ。
まあ、やるとしたらガイア連合の研究部に専属の部署を作ってじっくり解析するか、もしくは飛電インテリジェンスか幻夢コーポレーション辺りに話を持っていくか……世界最新・最高峰の設備と研究者を兼ね備えた最強研究チームでも組んでどうにかするべし、って事。結局は全部ガイア連合の身内であるわけだが。
「……それでもまあ、現状のレベルじゃ解析は無理、だと思うよ。これは勘だけどね」
「なるほどな…………ま、何でもかんでも思い通りにはならないか」
この辺、研究が進めばガイア連合内部で悪魔召喚プログラムを完成させて、誰でもデビルサマナーができるようになるかもしれんのだが。その辺はアレ、それはそれで危険性が非常にデンジャーだから状況を色々と考えてやらなあかん訳ではあるが。
「一番の問題は、メシアが悪魔召喚プログラムらしきものを持ち出した、って事なんだけどな。その辺、穏健派から何か情報とかないの?」
「あいにくとさっぱりだよ。向こうでも最重要機密になっているのか、それとも一部派閥が独占して開発を進めているか。どちらにせよ日本までは情報が流れてくる様子はないね」
何もかも分からん分からんばかりの分からん仕舞いだが、それも仕方ない。ダ・ヴィンチの確保してきた資料すら半壊状態だったのだから仕方ない。
で、最後。
「個人的には一番の問題なんですが……………………これ、どうしよっか?」
と僕が取り出したのは、一本の封魔管。窓から差し込む陽光を反射して鈍い赤色に光る金属製の封魔管は一見したところ僕が使っている通常のものと大差ないように見えるが、その実はショタオジ自身が製作した特別製、緋々色金を素材にした神話級の逸品だ。
その中には【聖都天草】で最後に回収してきた霊基が格納されているのだが。それを一目見た途端に、ショタオジの表情に剣呑なものが走る。
「回収してきたのか……正気か?」
「とりあえず使い道を思いついたから回収してきた。でも使う目途は立っていない。……どうにかならんかね、コレ」
軽く一瞥しただけに見えるが、その実ショタオジがやっているのは超高位のアナライズだ。あるいは千里眼や透視の権能まで併用している可能性もある。だからこの封魔管に何が封印されているのかも、完全にお見通しではあるのだろう。
「いやいや、本気で使う気かい? さすがにどうかと思うぜ」
「そりゃそうだ。どう考えても危険度は特上の超々高位悪魔、レベルもコイツの方が上。実力も明らかに足りてない。だから本気で使いたかったら何かしら枷を嵌める必要があるけど、その枷の作り方も分からんと来てる」
とか言うと、ショタオジは深々と溜息を吐いた。それに合わせて、中庭の鹿威しがカッコン、と間抜けな音を立て、それに合わせて緊張が一気に緩んだ。
「…………………………あーあ、ま、そこまで理解できてるなら良しとしよう。で、嵌める枷のイメージはできてるのかい?」
「最初にメシアがやっていたからね。だから似たような物を作ればいい。作るべきは神を封じるための“神という殻”だ。何を作ればいいかもイメージはできてる。問題は、作り方だ。どう考えても、触媒になり得る聖遺物が足りない」
「神、ねえ…………殻にどの神様を使うのかも決まってる?」
「ああ、それなら問題ない」
溜息を吐いたショタオジに、僕は一柱の神の名を口にする。旅や下半身に通じる足腰の神、月と太陽と大地を司る自然神、生命を生み出す女陰の神、五行思想を取り込んだ蛇竜の神、外敵を払う塞ノ神、武力に直結する製鉄の神。多種多様な神性を持ち、時には瀬織津姫や大威徳明王、大己貴命などとも習合されるその神の名は────。
「────ああ、なるほどね。それなら一つ、心当たりがあるよ。その神にまつわる特級の聖遺物を“作る”事ができる、特級の技能の持ち主に。まあ、ウチでも彼の事はちょっとした機密なんだけど、まあこの際だから仕方ない」
その異能者────土師さん、という名前らしい。何でも、埴輪と土偶のプロフェッショナルであり、彼が作った埴輪は“本当に動く”のだとか。なるほど神話や伝説においても、似たような事例は少なくない。屏風の中の虎が咆哮を上げ、絵に描いた龍が画布から飛び出て空を舞い、彫像の美女が立ち上がって愛を囁きその子宮に新たな生命を宿す────なんて時折程度には聞く話だ。
だが、それを簡単に実現できるかはまた別問題だ。実現できるのであれば、彼の腕前はそれこそ神話レベルにまで到達していることになる。あるいはそれは何かしらの加護や権能によるものかもしれないが、どちらにせよそれが神話に語られる領域に一歩踏み込んでいることは間違いない。
「そういうわけだから、軽いペナルティって事でこのニトクリスの鏡は君が預かってくれ。君が管理するのが、色々な意味で一番安全で、一番利益になるからね」
「あー…………仕方ないか」
「代わりに、壊れた飛行三鈷杵は強化してあげるから、当面はそれで我慢しなさい」
そういう話になった。ニトクリスの鏡を手放せなかったのは残念だが、これはこれで使い道あるので、まあ仕方ない。
◆ ◆ ◆
ところで。
帰りがけにショタオジが少し妙な事を言っていた。
「────これ、国内のメシア教会穏健派から来た情報なんだけどね。国外から危険人物が来日しているらしいんだ」
「確か、今のメシア教会にとって国外が最前線なんですよね。そんなところで戦っていた人間が、わざわざこの国に?」
最前線で戦っていた人間という事は、一線級の精兵という事でもある。歴戦のベテランか、それとも単純に才能があるか、そのどちらか、あるいは両方。今の日本にそんな人員を必要とするような戦場もない、とメシア教会も考えているらしい中、わざわざメシア教会にやってきた理由も今一つ分からない、が。
「まあ、君の所に来る可能性は低いみたいだからそこまで心配する必要はないと思うけど、一応報告だけはしておくよ、って感じかな。まあ占術でも妙な卦が出ていた事もある。警戒だけはしておいてくれ」
本当に危険なら“妙な”ではなく純粋に危険性がある事をはっきりと警告してくれるショタオジがそういう言い方をするのであれば、まあそこまで直接的な危険はなさそうだが、しかしショタオジが“妙”と言い表すだけあって、いささか気になる。……これは気を付けておいた方がいいかもしれない。
前回の小ネタが皆本編より食いつき良くて爆笑中。
~割とどうでもいい設定集~
・妖魔ビヤーキー
クトゥルフ神話のハスターの眷属だが、魔術でも割と簡単に召喚される。コイツの召喚は探索者の嗜み。
今回の件で異能者向け高級使い魔のラインナップに加えられた。
基本能力として空が飛べて騎乗可能なのが最大のセールスポイント。使い魔としてはイヌガミやクダとは異なり、魔術で使役されるので契約が成立した時点で基本的に絶対服従。
風神の眷属なので、だいたい衝撃系や疾風系の魔法に適性があるが、個体差有りなので例外もあり。物理攻撃や精神・神経系なんかも。メガテン的にはたまにハスターがアクアリータイド使う事もあり、海神と敵対しているはずなのに水撃系使う可能性も。
ホイッスル型の封印具に関しては召喚時のコストを削減する働きもあり、単純に封魔管に格納するよりも楽。黄金の蜂蜜酒を飲んでるともっと楽だが、生産コストというか生産者がいないとか色々の問題もあり。
欠点としては、クトゥルフ系神話生物恒例の精神汚染。といってもそもそも低位の奉仕種族なので、召喚中でも精神耐性付きの耐性装備が一つあれば無効化できるし、何ならガイア連合所属の転生者の場合、少し後の時期ならシキガミに標準搭載されている精神防御術式だけで余裕で無効化できる。
なお、他に外道ファイアヴァンプ、外道スターヴァンプ、外道ショゴス辺りがラインナップに加えられているが、こちらはそこまで使い勝手が良くないので、あまり一般的な販売枠には入っていない。
というかショゴスは制御が危うくて普通に危険なので、よほど特殊な事例の異能者でもない限り売ってくれない。