ファッション無惨様のごちゃサマライフ   作:頓西南北

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ついでにアスナもいなかった。



別転生者メインです。無惨様(顔)出てきません。


番外編~キリトさんに転生したけどSAOなかった~

   ◆   ◆   ◆

 

 

 

 叩きつけるような全力で一歩を踏み込む。地面を蹴って加速した身体だが体幹にブレはなく、短い呼吸と共に振り出され一直線に弧を描いた右手の木刀は大した抵抗もなく敵を両断していた。同時に振るわれた左手の金属バットもまた、その隣にいたもう一体の敵の脳天を砕き、一撃で仕留めている。

 そして同時に頭上に浮かぶペルソナ『剣・ミヤモトムサシ』も同時に左右に構えた二刀を振るい、近付く悪魔を斬り倒していた。

 

 調子は好調。左右の手に構えた武器の状態も良好、十分以上に手に馴染んでいる。これで異界の踏破も半分程度。この調子なら残り数時間もあれば完全踏破もできるだろう、とは思うのだが。

 

「まだ行ける、は、もう危ない、か。そうだな、今日だけでレベルも二つ上がったし、もう帰った方がいいか」

 

 事実、息も上がっている。戦闘ばかり繰り返していたのだから、当然か。フルコンディションならここに出てくる悪魔は武器の一振りで片付けられる程度の相手でしかないが、それなりに数が多いし、隙を突かれれば危ないのはこの世界のペルソナ使いにとって当たり前の話であるし。

 

「……帰るか」

 

 両手の武器を一旦仕舞う。落とさないように背中に固定した小型軽量のキャディバッグは筒形のラックの側面にいくつかのポケットを付けたシンプルな形で、ラックに収めた武器をいつでも引き抜く事ができ、不意打ちにも対応しやすい。

 羽織っている霊装のジャケットの下は、脇腹のホルスターにはサブウェポンである拳銃型のエアソフトガンが収められており、属性効果を付与されたBB弾をフルオートでバラ撒ける。腰のポーチにはいざという時の為のストーンや傷薬、ついでに予備のアタックナイフを完備。ガイア連合では割とオーソドックスな異界攻略用のスタイルだ。

 

 これでも俺は、ガイア連合に所属する転生者なので。今回、この異界に来たのもガイア連合で依頼を受けたからだし。

 

「この異界から出てくる悪魔は屍鬼ゾンビ、悪霊ゴースト、幽鬼ガキ、外道モウリョウ……悪霊系が多いな」

 

 普通なら忌避されるタイプの異界だ。即死攻撃のムドを使ってくるタイプの悪魔が多く、また高確率で『なかまをよぶ』スキルを所持している幽鬼ガキも出没する。今のガイア連合でバリバリ実戦に出ているメンバーからも嫌がられるタイプだが、武器の相性がいいので俺にとっては割と好都合だ。

 経営不振でテナントが入らなくなった廃ビルがそのまま異界に転じたタイプだから見た目はそのまま廃ビルそのものといった風情で、打ちっぱなしのコンクリートが露出した壁や床は表面に無数の罅が入っており、内装の類は残さず撤去された殺風景な内部は見ているだけで寒気がする。

 

 本来のビルは全五階のはずだが、ここは六階。階層を上がるごとに敵の強さも上がっていっているはずだが、ぶっちゃけ誤差範囲だ。とはいえ地元の霊能力者からすると絶望的な差があるらしい。具体的には────。

 

 一階「まだどうにか」

 二階「数人行って帰ってくるのは半数程度」

 三階「一人帰ってこれれば御の字」

 四階「誰も帰ってこない」

 五階「脅威度未知数」

 六階以降「そんなのあるわけない」

 

 とかいう話だ。先んじて占術で調べたショタオジの判定では異界の階層数は全十二階+地下一階と見積もられており、ほぼ正しいだろうその判定が正しければ、今の俺は大体半ばに差し掛かっているってところだろうか。初日でこのペースなら、焦る必要はないだろう。

 

「うーん……六階のマッピングも終わったし、ひとまず帰るか」

 

 そんな風に決めると同時、肩の上に止まっていたガイア連合製量産型簡易式神「鎹鴉」が鋭い鳴き声を立てる。敵性の悪魔の存在を感知したのだ。高い感知能力を持つ鎹鴉は、直接的な戦力としては勘定に入れづらいが、それでも俺のようなペルソナ使いにとって一番警戒すべき不意打ちを防いでくれる立派なパートナー、集中力を使うべき局面を教えてくれる本当にありがたい存在だ。

 その内、俺も簡易じゃない立派なオーダーメイド式神を……などと思ってはいるものの、今は鎹鴉で間に合っているし、何より自分に合った式神というイメージが思い浮かばないので、その辺は先送りになってしまっている。

 

「しょうがないか。じゃ、少し離れていてくれ」

 

 そう告げて、鎹鴉がその翼を羽ばたかせて肩から離れるのに合わせ、ゴルフバッグから左右の武器を抜き放つ。右の木刀『阿修羅』、左の金属バット『聖剣サトシカリバー』、どちらもガイア連合で作られた霊装だ。特に右の木刀『阿修羅』は破魔・水撃属性を併せ持つショタオジ謹製の強力な代物であり、ショタオジ監修の短期集中修行ハードコースをクリアした祝いとして贈られた逸品だ。

 

「……行くぞ」

 

 曲がり角の向こうから顔を出すのは屍鬼ゾンビと悪霊ゴーストが二体ずつ。四体までなら、一体残らず通常攻撃でカタが着く。ペルソナ使いの戦闘速度は最低でも亜音速に迫り、物理戦闘型異能者を兼ねたハイブリットである俺ならそのスピードは音速の数倍に迫る。このレベルの相手なら、悪魔だろうが反応さえ許さず片付けられる。

 炎を纏った『聖剣サトシカリバー』でゾンビの頭を横薙ぎに吹き飛ばしてまず一体。右の『阿修羅』を袈裟懸けに振るってゴーストを両断。さらに頭上のペルソナ『ミヤモトムサシ』が双剣を手に周囲を飛び回ってゾンビとゴーストを一撃ずつ。

 

 俺のペルソナであるミヤモトムサシのパッシブ型固有スキル『二天一流』は、手にした刀剣類の攻撃力・効果をそれぞれ加算する。つまりどういう事かといえば、装備した刀剣類全て、つまり阿修羅とサトシカリバー、そしてペルソナが持つ二刀、合わせて四本の刀それぞれの攻撃力が、四本を加算した値になるという事。また属性や特殊効果も複合されるので、現在の俺の近接攻撃は阿修羅の持つ破魔・水撃属性と、サトシカリバーに付与された火炎属性、ついでにペルソナの二刀が持つ剣撃属性をそれぞれに併せ持つ事になる。

 そして『二天一流』のもう一つの効果として、刀剣類を使って物理スキルを発動させた際、装備した刀全てにスキルの効果が乗る。具体的には────。

 

「────ヒートウェイブ!」

 

 鎹鴉が鋭い警告の声を上げると同時、唐突に天井が崩れ、開いた孔から溢れてくる悪霊ゴースト10体以上。そこに向かって範囲攻撃スキルを叩き込んだ。破魔・水撃・火炎・剣撃の四属性複合、全てに耐性がなければそのまま貫通して素通しのダメージを受ける事になるし、破魔弱点のゴーストであればそのまま弱点ダメージでカタが着く。

 それが同時四連撃。両手の二刀、ペルソナの二刀、合わせて四刀流、その全てにヒートウェイブの効果が乗って、敵全体に刀四本分を合計したダメージ四発ずつをプレゼントだ。

 

「どう考えてもオーバーキルだけど、まあ仕方ないな」

 

 節約してもあまり意味がない消費だし、その辺はね。鎹鴉と並んで周囲を見渡して敵の全滅を確認した俺は、左右の武器を再びキャディバッグに戻してその場から踵を返す。階層の数以外は廃ビルの構造がほぼそのままになったこの異界は、上り下りの階段が非常に近い場所にあり、階層間を移動するだけならそれほど難しくないし、移動も比較的楽だ。

 階段を降りて、一段、二段。意地の悪い事にこの階段、時折十三段目でムド効果が発動したりするので、普通に上り下りするなら階段の段数はしっかり数えないと危ない。

 

「ま、全部飛び越えていけば問題ないんだけどな」

 

 十三段飛ばしでジャンプしていけば階段なんぞ踏む必要もなし。異能者にしかできないこの上なくエクストリームな罠回避法である。そんな感じで一っ飛び、階段を一つ、二つ、三つ、四つと順番に飛び越えて降りていった俺は、その場でふと足を止めた。

 

「……今、人の気配がしたような気がする」

 

 俺と同じ事に気が付いたのか、肩の鎹鴉も小さく唸るような低音の鳴き声を立てている。その背中を撫でて鎹鴉を静かにさせると、キャディバッグから阿修羅を引き抜いて片手持ちで構え、不測の事態に対応するためもう片方は開けておく。いざとなればサトシカリバーを抜いて鉄板の二刀流にシフトしてもいいし、脇腹のホルスターから銃を抜いてもいいし、腰のポーチからアイテムや予備のアタックナイフの投擲という手もある。

 そうやって片手一刀流の構えで慎重に歩きながら索敵する。鎹鴉も羽ばたいて頭上に浮かび、周囲に気を配ってくれているから敵を見逃す心配もないだろう。静かに足音を殺して前に進んでいくと、向こうから激しい戦闘音が聞こえてくる。刃物を振り回す金属音、あるいは魔法によるものだろう、空気を焼いて弾ける高圧電流の音。

 

 ────そして、女の子の悲鳴。

 

「っ……!」

 

 頭上を飛ぶ鎹鴉が鋭い鳴き声を上げる。その響きに背中を押されるようにして、俺は二刀を構えて走り出した。右手に木刀『阿修羅』、左手に金属バット『聖剣サトシカリバー』。頭上にはペルソナ『剣・ミヤモトムサシ』。合わせて四刀流の刃の輝きを尾と引いて、廊下の先へと駆け込んだ。

 廃ビルの構造がそのまま反映されたこの異界の性質上、平面としての広さは大した事がなく、したがって廊下も大して長いものじゃない。ましてや音速を越えるペルソナ使いの脚力、到達時間は一瞬だ。見れば、そこにいるのは天使エンジェル。ズボンと下着を脱ぎ捨てて局部を露出した言い訳のしようもない格好で、悪霊の群れに集られて剥き出しになったコンクリートの壁に押さえつけられ身動きできない女の子の顔に、剥き出しのポークピッツを突き付けている。

 

 なるほど、メシア教会から前科10件越えの過激派の天使がこの異界に来ている、とかいう事前情報があったが、アレがそうか。

 

「光栄に思うのです、ヒトの娘よ。貴方は唯一なる主の為に新たなるマリア候補となるのです! ですがその躰を神に捧げる前に、忠実で敬虔な天使であるこの私の手で、前もってその体の具合を確かめておかねばなりません! ですからこれは姦淫ではありません! 姦淫ではありません!」

「どこからどう見ても姦淫だ馬鹿が!」

 

 足元にアギを撃ち込んで反動で加速した踏み込みと共に、右の木刀を投擲。神木の刀身が唸りを上げて射出されると同時、同時に左の金属バットのグリップを捻り、内蔵されていた芯を排出。罅割れたコンクリートの上で跳ねるバットの芯を置き去りに、埃臭い空気を甲高い音を立てて引き裂き加速した木刀の刀身が、鈍い音を立てて天使の胸板を貫通した。同時にキャディバッグのサイドポケットから引き抜いた新たな芯をバットに装填、換装により属性が変化した金属バットが呪殺属性の黒い瘴気に包まれる。

 

「馬鹿な、これは……卑劣な異教徒の、陰ぼ……ッ!」

「うるさい、死ねぇ! 火炎斬!」

 

 天使の胸板から突き出した木刀の柄をがっしりと掴み、呪殺属性、四連撃。狙いは喉と両翼、そして股間だ。どういうわけか悪霊を使役しているくせに呪殺には弱かったらしい天使が、四連の斬撃を食らって悲鳴を上げる。全弾命中、四ヶ所から噴き出した鮮血が空中でマグネタイトの塵に分解して消滅していく中、絶叫する天使を巻き込むようにしてさらに追撃の火炎斬、炎を噴き上げる刀身を突き込んで体内から爆殺。

 それに巻き込まれた天使が成す術もなく消滅していく中、後は十を越える数の悪霊ゴーストに集られた少女から悪霊共を引き離すように、俺は四本の刃を振るってヒートウェイブで大雑把に敵を薙ぎ払う。残りは討ち漏らした敵を一体一体片付けるだけだ。

 

 そうして。

 

 残った少女と目が合った。後頭部でまとめた金色のロングヘア、綺麗に透き通った宝石のような新緑色の瞳。おそらくはこの辺の退魔関係者なのだろう、紅白の巫女服に身を包んだ、全体的に穏やかな春の陽光を思わせる色合いの少女は、悪霊に押し倒された姿勢のまま呆然とこちらを見上げていた。

 

「…………お兄ちゃん?」

「えっ?」

 

 どこかで見たような気がする。俺自身でもよく分からない親しみを感じるその少女が、俺を見て反射的に漏らした呟きに、思わず聞き返してしまう。

 

「えっと、君は……?」

「えっ!? あ、いえ、すみません。知ってる人に似てたから……。あの、私は『リーファ』って言います!」

 

 

 それが、俺と彼女の最初の出会いだった────いや、それが最初なんだと、俺が勝手に思っていただけだったんだ。

 

 

 

   ◆   ◆   ◆

 

 

 

 転生して、十五年になる。中学を卒業して、まだいくらも経っていない、そんな時期。前世も含めると都合二度目の、花の高校生である。生まれ変わって『桐ケ谷和人』などという名前になった時点で、自分が主人公なのではないかと期待した。

 いや、実際そうだと思ったんだ。知っている作品の主人公の名前と一緒だったから。桐ケ谷和人、略して『キリト』。アニメ化もされた超有名ラノベ作品『ソードアートオンライン』の主人公と同じ名前である。

 

 だからその作品と同様に、その内にこの世界でもVR技術が一般化して、MMORPGが開発され、やがて俺はMMO『ソードアートオンライン』と巡り合い、ログアウト不能のデスゲームに巻き込まれる……と、思っていた。だが、よくよく考えると今は90年代、VR技術なんてものは存在している訳もなく、したがって俺がソードアートオンラインと出会う事もなかった。

 そして、ネットを周回している内に俺以外にも前世の記憶を持つ転生者が他にも数多くいる事を知り、自分が特別なんだという意識はいつの間にか揮発して消えていた。少なくとも、自分は主人公なんかじゃない。そりゃ普通の現地人と比べれば多少は特別かもしれないが、それでも自分と同じ立場の人間なんていくらでもいる。だから事件を解決したり、巨悪に立ち向かったりする必要もない。

 

 ……まあそんな安穏とした思い込みは、数日で吹っ飛んだのだが。大体、この世界がメガテンって何だよ!? メシア教会が実在してるとか、もう訳分らんね。女神転生シリーズは前世で読んだやる夫スレくらいの知識しかなかったのだが、それでもメシア教会が主の教えとかいう御題目をこれ見よがしに振りかざし、非人道的な虐殺や実験に手を染め、世界の崩壊を企む本物の邪悪だという事は知っている。しかも一見平和に見えるこの世界にも崩壊の兆しが迫っているとか、本当に洒落にならない。

 それでも希望はあった。異能者として覚醒し、レベルを上げれば文明が崩壊した終末の世界であっても生き残る事ができるかもしれない。家族を守るために戦う事だってできるだろう。

 

 そう思って参加したショタオジ主催、星霊神社の覚醒修行だが、覚醒自体は割とあっさり済んだ。最初にやった座禅体験……だいたい1時間くらいの予定だったのだが。そこで座禅をしていた俺の隣に某鬼滅の刃でラスボスになってそうな顔の転生者がいて、開始3分で居眠りを始めたソイツがショタオジの警策で殴り飛ばされて十メートルくらい吹っ飛んで中庭の池に突っ込んだんだが、その時に俺も巻き添えになって吹っ飛んで天井に逆犬神家する羽目になったりして。

 まあ件の無惨様顔の転生者がデビルシフターの能力に目覚めたとか言い出した時には本気で殺意を覚えたが、それはそれとして俺もその時のショックでペルソナに覚醒したから、まあ良かったといえば良かったのだが。

 

 そんな感じで割と簡単に覚醒を済ませて、調子に乗っていたのだろう。正直、今はその事を何よりも後悔している。自分は一体何を考えてアレを受けてしまったのだろう…………そう、ショタオジ監修の短期集中レベリングハードモードを。

 

 具体的には。

 

 

『ワシが今回、教官の仕事を引き受けた幻魔クラマテングだ。一週間という短期間ゆえ詰め込みになるので、少しばかり厳しくやっていく事にするからな。覚悟しておくように』

『多少の心得はあるか。ならばワシの前でその技、軽く振るってみよ────なるほど、貴様が身に着けている剣術は道場向けではない、本来なら戦場で振るう類の古武術だな。なら一から身に着けていく必要はあるまい。ひとまず、その技を実戦で鍛え上げていく事にするぞ』

『まずは簡単なところからやっていく。れべりんぐ、とやらも兼ねてコッパテングを三百ばかり召喚したから、まあどうにかせよ。何、死んだらリカームしてやるから、すぐ続きに戻れるぞ────馬鹿者、腕や足が千切れた程度で泣き叫ぶでない! 即座に反撃するか、さもなくばせっかくディアが使えるのだからその場で拾って繋ぎ直せい!』

『ほう、アギが使えるようになった? なるほど、ならば今日は足元に魔法を撃ち込んで空中戦の足場にする歩法を仕込んでやろう。高く跳んだり、速く動いたりする時にも応用が利くから、戦いの幅を広げられるぞ────遅い! 貴様には翼がないのだから、地上を歩いたり走ったりするのと同じ感覚で歩法を使えるようにせよ!』

『敵の耐性には気を付けるように心がけよ。特に反射など特定の技や属性一辺倒の術者には命取りになるからな。幸い貴様は剣撃以外にも他の属性も扱えるから詰まったりはせぬが、惰性で戦っていれば同じ事になるから注意せよ。今日は火炎反射の妖魔カラステングと、剣反射の妖獣チェフェイ(三尾)を五十体ずつ召喚しておいたから、注意して戦うように』

『馬鹿者! 背後への注意を怠って後ろから刺されるなど何たる間抜け! ……何、代わりにリカームを覚えた? ふむ、ならばその場合、心臓を止められても意識が途切れる前に自力でリカームを掛ければ問題なく戦線復帰も叶う。ちなみに頸を断たれた場合には、さらにリカームに加えてディアで繋げる必要があるから、注意するように。と、いうわけでノルマ追加じゃ。今日中にこの闘鬼モムノフ五十体を倒しておくように』

『今日は最終日じゃな。一週間という短い期間とはいえ、よくぞここまで鍛え抜いた。ならば褒美として、これまでで最大の相手と戦わせてくれようぞ。出ませい、鬼神オオヤマツミ!!』

 

 

 と、いった感じで、まさしく地獄……うん、ヤバい。というか最終日に出てきた全長20メートルのオオヤマツミとか普通に死ねるから。というか死ぬ以前の問題として無理だから。アレ、どう見てもレベル50越えてるヤツだから……! というか普通に死んだから!!

 まああのクラマテング先生、さすがはショタオジに召喚された仲魔というだけあって戦士としても師匠としても相当のものだったのは間違いないし、俺の実力も修行の前とは比べ物にならない程に跳ね上がっているから、まあ良しとするとしても。

 

 ともあれ、そんな具合で地元に戻った俺は、まあ適当に地元の異界を探して軽いレベリングに勤しみつつ、軽い頻度でショタオジから依頼を受けて、その日もやはり依頼で、割と地元に近いところにある廃ビルの異界の攻略に出たのだが。そんな時だ、リーファに出会ったのは。

 

 

 

   ◆   ◆   ◆

 

 

 

 自分の事をリーファと名乗った女の子を駅まで送っていきがてら、一通り話を聞いて、そこで駅に着いたので彼女とはそこで別れ、俺自身も家に帰った。俺の家は県を跨げば誰も名前を知らない程度の割とマイナーな地方都市の一角にある住宅街の、割とどこにでもありそうな一戸建てだ。

 

「ただいまー……」

 

 返事はない。まあ、いつもの事だ。両親は基本的に共働きで家におらず、だから放課後にちょっくらガイア連合の依頼をこなして、なんて暇もできてくるわけで。加えて今日はついでに、妹もまだ帰っておらず、俺一人の家は自分でも信じられない程冷たく静まり返っていた。ホラー映画なら幽霊の一つでも出てきそうなシチュエーションだが、既に悪霊の一匹や二匹なら素手で始末できる身の上だから、ただ寂しいだけの話。

 電気を点けて玄関に上がり、荷物を下ろして、簡単な食事。メニューは依頼ついでに支給されたガイアカレーのレトルト版と、その辺の自販機で買ってきたペットボトルのお茶。その後は風呂を入れるのも面倒なのでシャワーで済ませ、リビングのソファに腰を下ろして週刊誌に目を通す。

 

「鬼滅の刃の実写版、映画化されるんだ……って、禰豆子役やるのコレ、星川リリィかよ!?」

 

 まさかの同類とは驚いた。なるほど異能者ならスタントもお手の物だし、アクション映画で主演を張るのも納得ができる。だが同じ転生者が週刊誌トップを飾っていた上に、有名映画に出演までしている事実に、驚きを隠せない。……ガイア連合もここまで来たんだなぁ……そうかー……“俺ら”すげえな、色んな意味で。

 

「ふぅ……」

 

 それ以外にも色々と記事を漁り、そして溜息を一つ。

 

「……現地人霊能者、か。それも地元の」

 

 転生者御用達の掲示板の上でも、何度か話題に上がったのを読んだ記憶がある。他の転生者と話した時にも、いくらか話を聞いたくらいの知識はある。逆にいえば、その程度の知識だが。

 

「確か、遭遇するとモテ期到来の代わりにものすごい勢いでハニートラップが来た挙句、最終的にはハーレム永久就職する羽目になるとか何とか……」

 

 何か、明らかに信憑性が薄いというか、何というか。さすがにそこまではやらんだろ、としか思えないのだが、知り合いの銀髪天パが四国に遠征に行ったきり、そこに支部建てて永久就職してしまった辺り、簡単に笑い飛ばす事も出来ない話。

 

「リーファちゃん、か。……まあ、可愛かったけど」

 

 そういえば、連絡先も交換してなかったな、と思い出した。そんな彼女とまあ、そういう事をする感じの妄想が一瞬脳裏に浮かび掛けて、頭を振って意識を逸らす。そういう風に妄想の具に供していいほど、簡単な事情じゃない。

 何でも……同輩の異能者があの異界の二階に潜ったきり帰ってこなくなったんだとか。それ以降、あの異界への対処は俺達ガイア連合に移管されたものの、友人を諦め切れず、単身であの場を探索していたらしい。

 

「二階くらいまでなら普通に帰ってこれるだけの実力者って話だったから、多分あの天使にやられたんだろうけど……」

 

 あの天使、確かマリア候補だとか、神に捧げるとか、そんな事を言っていた。それなら、失踪した異能者に何かしら利用価値を見出しているとするなら、まだ殺されていない可能性も十分にある、か。

 その場合は女の子ならあの天使のやり方からして、既に貞操を奪われた後だろうから、それはそれで辛いだろうけど……そういえば、男か女か聞いていなかったな。

 

「男でも、もし仮に攫われた中に恋人がいたなら、辛いだろうな。……女の子同様に掘られている可能性……さすがに、それはないか。メシア教は一神教の系統だし、同性愛は抹殺確定、のはずだ。いや、詳しくは知らないけど」

 

 待てよ? 天使は両性具有だからして、掘られても異性愛扱いになる可能性……いや、やめよう。頭がおかしくなってくる。

 

 

 ……考えを戻そう。

 

 

 一旦頭をリセットして、まず考えるべきは誘拐された人間の行方だ。殺されていない、と希望的に仮定するとして。

 

「でも、それならそれで、誘拐した人間をどこに隠しているのかって問題があるか。悪魔と違って人間は、一般人の目に映るからな。そこまで簡単に連れ出せるものじゃないと思うけど……なら、あの子の友達はまだあの異界の中にいる……?」

 

 どうも気になる。

 

 あの天使は確かにリーファよりは強かったが、しかしあの異界を攻略できる程の実力を持ってもいなかった。その上で、そもそもあの天使は異界の主でも何でもないし、むしろそれとは敵対する立場の存在だ。だとしたら、あの天使の拠点は────。

 

 と、そこまで考えたところで、玄関から人の気配を感じた。それに数瞬遅れて、玄関の鍵が外れる音がして、誰かが家に入ってくる────いや、この気配は妹のものか。物音ではなく“気配を感じる”という漫画じみた真似ができるようになったのも、覚醒して、さらにレベリング修行を受けてからの話だが。

 

「ただいま……」

 

 帰ってきた彼女は、俺の顔を見ると安心したかのようにほっと笑みを浮かべた。綺麗な黒髪を肩の辺りで切り揃えた可愛らしい少女────妹の直葉だ。何か悩みでもあるのか、いつもより疲れているように見えるその顔に、安堵したような笑みが浮かんだ。

 その姿に、なぜかさっき会ったばかりのリーファの印象が被って、はっとして頭を振った。どうにも疲れているらしい。ここは一つ、明日一日ゆっくり休む……それもあまりいい気分はしない、か。休むのは、あの異界を攻略してからでいいだろう。

 

「……お兄ちゃん」

「おかえり直葉。夕食はもう食べたか? 俺はもう食べたけど、簡単なものなら作ってもいいぞ。どうする?」

「ううん、いい。今はそんな気分じゃない、けど……うん、ありがと」

 

 一瞬、直葉が足をもつれさせてそのまま転びそうになる。反射的に手を出して支えようとして、そのまま一緒に床に倒れ込んでしまう。ふわり、とコロンの匂いが鼻をくすぐった。密着した部分から女の子特有の柔らかい感触が伝わってきて、ああ直葉も女の子なんだ、と意味もなく納得してしまう。

 そんな感想を抱いている時点で色々と失格。加えてここで転んでしまったからには、まだまだ重心のコントロールが甘い、という意味では剣士失格。だが、それはそれとして直葉も疲れているのか。

 

「……どうする? このままベッドまで運ぼうか」

「えっと…………うん。でもその前に、今は少しだけこのままでいさせて欲しい」

「分かった」

 

 無駄に発達した異能者特有の感覚の鋭さが、胸に顔を埋めてくる直葉の心臓の鼓動を伝えてくる。想像以上に成長していた彼女の感触から意識を逸らし、体勢を安定させるだけ、と自分の頭に言い聞かせるようにして、密着した体勢でぎゅっと抱き着いてくる直葉の背中に腕を回した。

 

「お兄ちゃん、カレー食べたでしょ」

「ああ。レトルトだけどな」

 

 よほど疲れているのだろう、こうして甘えてくるのは珍しいが、今日くらいは別にいいだろう。そんな風に思いながら、どうでもいい事を話して笑い合い、俺は直葉が身体を離すまで、抱き合った体勢のまま彼女の頭をそっと撫でていた。

 

 




次回も違うキャラメインの話を投稿する予定。


~割とどうでもいい設定集~

・桐ケ谷和人/キリト
 元ネタは『ソードアート・オンライン』。
 ガイア連合に所属する転生者。異界探索・攻略などをメインに活動しているバリバリの戦闘職異能者。転生者中の強さとしてはだいたい中の上から上の下くらい。
 戦闘慣れしているのと、武器とスキル『二天一流』が強いのとがあって同レベル帯なら相当強いのだが、学生生活もあってまだまだレベルが足りない。ついでに言えば、バケモノ級の連中とやり合えるほどには強くなっていない。
 専属シキガミはまだいないので、簡易シキガミ”鎹鴉”がパートナー。

 双剣を使う物理型異能者とペルソナ使いのハイブリッド。他にアギ、ディア、リカームなどと魔法も使える器用なタイプ。割と多彩な能力を持つが、本体とペルソナの二刀を合わせ四刀流、アギを応用した高速移動・空中ダッシュや、ディアを使った高速再生など、どれも中々のレベルで使いこなしており器用貧乏には陥っていない。
 使用ペルソナは『剣・ミヤモトムサシ』。小アルカナという珍しい存在で、SAOの二刀流スキルそのままのパッシブ型レアスキル『二天一流』がやたらと強い。

 元々は自分をSAOの主人公に転生したものだと勘違いしていたが、そもそも年代的にVRMMOなんて技術的に実現不可能な事に気付き、その上ネットで他の転生者がぞろぞろいる事を知り、自分が主人公なんかではない事を悟り、早期に厨二病を卒業した。
 なお、中二病期間の最中にキリトさんの原作再現とか思って二刀を使う古流剣術を習得していたが、普通に才能があり、またやってる内に楽しくなってきたのもあり、そこそこのレベルにまで達していた。流派には鋼糸だとか色々と危険な奥義があるらしいが、その辺は秘伝なので習っていない。

・木刀『阿修羅』
 元ネタは『魔界都市』シリーズ。
 キリトのメインウェポン。破魔・水撃複合属性という珍しい武器。ショタオジ謹製の霊装であり、半終末後も一線で振り回していられるくらいの優良武器。
 木刀なので銃刀法違反にも触れずに堂々と持ち運べるという利点があるが、異常な程の強度を持ち、異能者が振り回せば清水をまとい、木刀の癖に鉄板くらいならバター同然に切り裂ける。
 ショタオジ監修レベリング修行ハードコースを卒業した際にもらった記念品。元は星命神社の裏庭にうっかり生えてしまった神樹タネ・マフタから剥ぎ取った枝を素材に使用したもの。タネ・マフタは素材剥ぎ用として生かされており、その後も同じものがいくらか生産されている。

・量産型簡易シキガミ”鎹鴉”
 元ネタは『鬼滅の刃』。
 偵察・警戒能力に秀でた量産型簡易シキガミ。
 簡易型なので基本的にはレベル0だが、契約者が覚醒するとリミッターが外れ、普通にレベルが上がり、また簡易シキガミにデフォで搭載されたリカームドラ以外のスキルを習得するようになるため、覚醒者になっても末永く使っていける便利な子。

・レベリング修行ハードコース
 文字通り。
 覚醒したはいいがレベル1のまま地方に帰るのが不安な者、単純にレベルを上げたい者などが参加する催し。
 ショタオジ監修というだけあって覚醒修行ハードコースと同じくトラウマ量産装置。ショタオジが直接監督するわけではないのでいくらかマシだが、ぶっちゃけ五十歩百歩。
 ただし割と確実に強くなれる。異能者用の武術や魔法戦闘のイロハも実地で叩き込んでくれるし、暴力・殺人への躊躇や負傷に対する恐怖、キツい連戦への心理的な負担などといった諸々の要素にも耐性が着くので、これをクリアできれば割とあっさり30レベルにまで行けたりする。
 担当は幻魔クラマテングだが、一週間の詰め込み作業なのでヨシツネよろしく八艘飛びを習得できる可能性はきわめて低い。

・リーファ
 現地人異能者。習得スキルはジオンガ、ドルミナー、ディアラマといった感じの魔法型だが、本人が剣術も習得しており近接も行ける、と割と万能。
 いったい何葉さんなんだ。

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